約束を果たしましょう。
これより2話連続で投稿します。
あなたの心が折れぬことを願って。
では、どうぞ。
僕は、見ていた。
尾白くんたちが僕を探している姿も、
思い出さない方がいい記憶を、必死に呼び起こそうとしているところも――
僕は、見ていた。
ミッドナイトが僕の日記を開くところも、
そこに刻まれた言葉を、指でなぞる仕草も――
助けようとしてくれていることも、全部。
ただ、観ているだけだった。
声も、手も、何ひとつ届かない場所から。
――これから先は、もう決まっている。
定まった未来が、何の容赦もなく訪れるだけ。
僕が生まれたことで生まれた「正史ではない物語」は、
僕を含めてすべて、舞台から降ろされている。
だから――
♦︎♦︎♦︎
尾白くんは研究室で意識を失った後、警官が突入し無事救助された。
僕のことを忘れていたけど……
それでいい、辛い記憶は持っていないほうがいいと僕は思う。
だから立派なヒーローになってほしい。
葉隠さんは僕のことを忘れられていなかった。
だから、苦しんでいるのを見ている事しかできないのが辛かった。
ごめん、葉隠さん……僕と仲良くなったから……ごめんね。
僕の声は誰にも届かず密かに消えた。
ミッドナイトは僕の日記を持って部屋を出た後、
カイに会うことができなかった。
そう、カイの意識はいつまでも戻らなかった。
彼女は日記や僕のことを気にしつつも時は進んだ。
置換隷という人間が居なかったかのように世界は進む。
……いや、気にしている人はいた。
だけどみんな自分のことだけで精一杯で3ヶ月も経つと僕を探そうという人はいなくなっていた。
僕はそれでいいと思っていた。
人一人の価値など大したものではなく、世界の流れを変えるには小さすぎる。
――ただ一つを除いて。
僕は今まで無くしていた記憶の全てを取り戻していた。
原作の知識、何処でいつ、何があったのか、
そう言った記憶を取り戻していた。
だけど僕は観ていることだけしかできなかった。
この影の世界からみんながいる世界をただ観測する。
触れることも声を聞くことも、何も出来ずに観ている事しかできなかった。
彼女が死ぬ日付も、場所も分かっている。
なのに僕は助けることは疎かその場にいる事すらできない。
誰かに伝えることも、何もできない。
どれほど絶望しただろう、
この黒い闇の中でどれだけ泣き叫び、喚き、嗚咽をこぼしたのだろう。
それでも、この世界から目を逸らす事すら許されなかった。
目を閉じれば脳に情報が押し寄せた。
……影がぼくの目だった。
影あるところは全て僕の認識が及ぶ。
だから、ぼくは――
♦︎♦︎♦︎
三月 下旬。
あの日がやってきた。
全面戦争。
全国のヒーロー、インターン生が集まり超常開放戦線の一斉掃討が行われる日――
数多のヒーローがこの世を去り、
そして新たな絶望が産声を上げる日。
――それが始まっていた。
エンデヴァー率いる部隊が病院にいる殼木の確保。
インターン生たちとヒーローによる住民避難。
そして残りのヒーローたちによる超常開放戦線の掃討。
だけど、殼木は確保できずに喋る脳無であるハイエンドが解き放たれる。
それにより死柄木の覚醒を止めることができず、死柄木は死の淵より蘇る。
触れたものを崩壊させる個性。
その個性は進化していた、接触したものを伝播して崩壊が連鎖する凶悪な悪意あるものに――
さらに、僕にとっての絶望。
マキアの覚醒。
彼女の死のカウントダウンが始まった。
マキアは強大だった。
身体も、硬度も、膂力も、全てが強大で。
ヒーローがいくら束になっても勝てる片鱗すら見えなかった。
彼女が、マキアを眠らせようと飛び出した。
しかしそれもヴィラン連合に邪魔され失敗に終わる。
高所から落下した彼女はボロボロだった。
地面に這い蹲り、あの美しい顔は怪我と血で見る影もない。
『ホント……不甲斐ない……』
それでも彼女はヒーローとしての責務を果たそうとする。
容姿は汚れていたけどそれでも在り方は誇り高かった。
嫌だ、観たくない。
僕はそうして目を閉じる。
それでも見たくない場所にも影はあり、影がある限り僕は目を背けられない。
脳に直接その情報が叩きつけられる。
――その時が、訪れた……訪れてしまった。
『……聞こえるかしら、クリエイティ!!』
やめて、逃げて。
『……状況は……分かってるね?』
ミッドナイト、そこにいたら……
『……力押しでは誰も止められない。眠らせたい』
……死んじゃう。
『……法律違反になっちゃうけど……事態が事態よ』
日記で死ぬって、分かってたじゃないですか……
『……麻酔で眠らせるの』
逃げてください、逃げて、逃げて……
『……ヒーローに麻酔を渡して……!
その場を、離れなさい……!
難しければ……すぐ……避難を……!!』
彼女の背後にヴィランが……
『――あなたの判断に……委ねます』
彼女が、ヴィランに襲われ――
まず腕が折られた。
僕を抱きしめて、撫でてくれたあの優しい腕が乾いた音とともに、無様に折れ曲がった
次に足も折られた。
あのすらりと長く美しかったあの足が歪な方向を向いている。
そこから彼女は数多のヴィランに囲まれた。
髪を掴まれ、殴られ、蹴られ、斬られ、焼かれ、潰される。
……ヴィランが飽きるまで繰り返された。
まるで日頃の鬱憤を晴らすように。
それでも彼女は叫ばなかった。
ヴィランに屈しなかった。
彼女が何か呟いた気がした。
『ごめ……ね……お、きかえ……くん』
それを最後に彼女は動かなくて……
そう言った彼女の手には僕のあげたシルクのヘアゴムが握られていて……
その言葉を認識した瞬間、胸の奥で何かが音を立てて崩れた。
ぼくは――堕ちた。
――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああアアアアァァァァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!
頭が酷く透き通っている。
あぁ、なんで人なんて助けようと思ったんだろう。
……人?人なんていなかったろう?
あそこには……あそこにいるのは――蟲だ。
自問自答、答えのあるようで決まりきった事。
あれは人に害を及ぼす蟲。
なんで生きているんだろう、あんなのが。
――気持ち悪いなぁ。
誰にも触れられぬ感情もできない影の中で僕は……そんなことを考えていた。
一度目を閉じて開くと……目の前に、奴らがいた。
いつの間にか森の中にいた。
彼女が倒れるそこに、ヴィランに囲まれたそこに――
彼女を観ると……顔が、なかった。
あの美しかった髪、優しかった目、すらっとした鼻、
ぷっくりとした柔らかな唇。
――そこには何も残っていなかった。
「……あ?んだこれ」
「なんで、脳無がここに……」
ざわざわと蟲が鳴いている。
「――あぁ、不快だよ……鳴かないでくれる?」
個性を発動させる。
辺りに転がっていた小石と蟲たちの腕を置き換える。
「あ……え……?」
「ギャァァァァァァ!!!!」
「おれ、おれの腕が、腕がぁぁぁぁ!!!!」
「蟲風情が人間の言葉を話すなよ」
特に喚いていた蟲の上空の空気と巨大な岩を置き換える。
「殺虫しなきゃ……」
ズシンとあたりに重たい音が響く。
岩を落としたところに赤い液体が広がる。
「あぁ、そう……蟲も血は赤いんだ」
どうでも良いことを口にする。
蟲が揃って逃げようとした。
「……ダメだよ、害虫駆除だ」
その言葉と共に逃げようとする蟲を僕の手元に置換する。
「一匹も逃さない」
「――やめっ」
蟲が何かを喚いていたが気にせずその頭部を潰した。
恐怖が伝播するのを感じる。
誰も逃がさず抵抗すら許さない。
「……あれ、ぼくこんなに力強かったっけ……」
あぁでも人間が蟲を潰せるのは当たり前のことか。
蟲を潰して潰して潰した、
何度も生きていても死んでいても構わず潰した。
心が晴れない、怒りと悲しみが心で鬩ぎ合う。
「全然……すっきりしない」
蟲がまだ残ってないかを見渡した。
でもいない、その形を残している蟲は何処にも……ただの一匹もいなかった。
それはそうか。
一匹たりとも残さず、すり潰したんだから――
蟲の体液が辺りを汚している。
なのに――不自然に潰された蟲の体液がついていない場所を見つけた。
そこだけが避けられたかのように2メートル程の空白かあった。
そこに吸い寄せられるように足が動く。
見たくないはずなのに、嫌なはずなのに、それでも足は動いた。
「――」
彼女がそこにいた。
顔もない、美しかった髪も、綺麗な身体も全てが斬られ焼け爛れている。
それでも、彼女は美しく気高く綺麗だった。
僕は膝を折る。
彼女に触れようと手を伸ば――
手は蟲の体液で汚れていた。
こんな手で彼女に触れるわけにはいかない。
どうしようかな……
とりあえず、汚いし捨てるか。
そう思い腕を千切り落とす。
腕が地面に落ちると同時に新たな腕が再生した。
不思議な事に血液すら出なかった。
「みて、綺麗になった。
これなら触ってもいいよね」
彼女に触れる。
その体にはまだ熱があった。
その頬はまだ柔らかかった。
何かが欠けていて、それは命と呼べるものだったと察してしまった。
彼女の身体からはそれが消えていた。
「いや、だ。いやだいやだ……」
心で謝罪しながら彼女の胸に手を置く。
どくん、どくん――
そう動いているはずの心臓は動いていなかった。
呼吸もしていない。
だんだんと彼女の身体から熱が抜けていく。
足元をみた。
僕が見た空白だったそこは朱に染まっていた。
彼女の命だったもので満たされていた。
授業で彼女が言っていた言葉が脳裏をよぎった。
『人は血がなくなると死んじゃうの。だから止血が重要よ?』
『ミッナイせんせー、どのくらいなくなるとヤベェの?』
『そうねぇ、体重の1/3もなくなればアウトね。
もし体重50キロの人がいたなら1.6Lが致死量になるわ』
『それを超えたなら、諦めなさい』
『――救える人を救うの』
どう見てもここに広がっている血はそれを超えている。
「血、血だよね、僕のあげる。あげるから――」
腕を千切る。
ただ再生するだけで血液は出なかった。
「……なん、で――」
「どうして――!」
ここには僕と彼女以外蟲しかいない。
血を足せる手段が存在しなかった。
そこに彼女は居なくて、彼女だったものが転がっていた。
「ぁぁ……ぁァァァ……」
視界が滲んでいる気がする。
僕にその機能も資格はない。
彼女が死ぬのを知っていたのに、ただ観ていることしかできなかった僕にはその資格は存在しない。
だからこれは涙じゃなかった。
「ねぇ……睡、さん……ぼく強くなったよ」
返事はない。
「みて、こんなにいっぱいの蟲倒せるようになったんだ」
返事はない。
声が、聞きたいよ、睡さん――
「睡さん、睡さん……」
返事はない。
「ぼく、頑張ったんだ。
褒めてよ――」
返事は、ない。
……死のう。
こんな世界に生きる意味はない。
彼女の居ない世界に価値なんてない。
僕は、死んで終わろう。
この力があるなら自害も容易い。
自分の腕を全力で振り胸に突き刺そうとした。
「なん、で……どうして」
手が進まない、どれだけ力を入れても。
カイの言葉がふと蘇った。
『さぁ、隷くん。
これは契約だ。俺はこのまま"これ"を元に戻す。
だから君はこの先"何があろうとも、自害することはできない"』
それでも少しずつなら動いた。
だから徐々に徐々に少しずつ僕の胸をその手が抉り中を破損させていく。
痛みもない、出血もしない。
自分を傷つける事に躊躇すらない。
でも、死ねない。
腕は背中まで貫通した……なのに、それでも血は出ない。
腕を引き抜けば死ねると思ったから、腕を引き抜く。
それでも身体は勝手に直っていく。
時間が逆行するように欠けた穴が塞がった。
胸がダメなら頭は――と今度は頭に向けてその腕を向けた。
『さぁ、隷くん。
これは契約だ。俺はこのまま"これ"を元に戻す。
だから君はこの先"何があろうとも、自害することはできない"』
今度は、動きすらしなかった。
死ねない、僕は"自殺ができない"
それを察してしまった。
『置換くん……』
声が、聞こえた。
「――睡さん!!」
彼女の身体は何も変わっていなかった。
でも声が聞こえた。
生きてる。生きてるよ。ならまだ助かる。
『置換くん、私の事は後でいいの……全然余裕なんだから。
今は蟲をもっと消しましょう……?』
今の僕に同調するように彼女が言った。
彼女が言うならそっちのほうがいいんだろう。
「うん、じゃあもっと潰すね」
でも、ミッドナイトをこんなところに置いていけなかった。
だから僕は彼女を背負った。
縄はなかったから落ちないようにしっかりと木のツルで縛った。
「いっしょに行こうね、睡さん」
僕は通る道にいる蟲を全て潰した。
僕にはそれができた。
一つは僕の置き換える個性、
一つは超速再生の個性、
一つは影を操る個性、
一つは観測する個性、
一つは鬼のような膂力を得る個性。
それらがあってミッドナイトがついているなら僕に負ける理由はなかった。
人ですらない蟲如きに。
「――さい、止まりなさい!」
声が聞こえた。
何処か聞き覚えのある声だ。
そう思い振り返った。
「八百万……さん……?」
「――っ、なぜ脳無が……私の名前を……?」
何を言っているんだろうか。
クラスメイトじゃないか。
「早く背負っている人をお離しなさい」
『ダメよ、置換くん。
もっと蟲を潰すところを見せてちょうだい』
「ごめん。睡さん……が、いやだって――」
「何をおっしゃって――」
僕は無視して先に進もうと足を動かした。
「――っ、ギガントマキアが――!!」
「……いま……なんて……?」
――ギガントマキア?そう言ったのか?
あれだよね、彼女が――きっかけになった蟲。
蟲、のくせにずいぶんな名前ついてるじゃないか……。
ミッドナイトの、仇……
「ま、まちなさ――!」
僕は飛んだ。
憎き蟲の元へ。
それは巨大故にすぐに見つかった。
「あ、るじぃぃぃ!!!」
「うる、さい……おま、えさえ、いなければ――」
いなければ――?
ミッドナイトはし――傷つかなかったのに。
まずは鬱陶しいその動きを止める。
アレの右足と目の前の空間を置き換えた。
「――!あ、るじィィィ!!!」
片足を失って尚、アレは前に進もうとする。
ふざけるな、主人?蟲如きにそんなものないだろうが。
なら、もう片足も無くなればいい――
空間をもう左足と置き換えた。
足を失って尚先に進もうとする。
そして面倒な事に巨大蟲に寄生している、蟲もこちらを認識し出した。
火が、圧縮された物質が僕を襲う。
でも無駄だ、それらが存在する空間と蟲の背後の空間を置き換える。
自分たちの力で焼かれて潰れてしまえ。
マキアの目がこちらを向いた。
硬い?痛みを感じない?エネルギー効率がいい?
それになんの意味がある。
お前たち蟲は手足を引きちぎられて無様に這いつくばるのがお似合いだろう。
目の前の空間とやつの左腕を置き換える。
残るは頭部、胴体と右腕のみだ。
巨体に似合わず速い、が。
それも無駄だ。
お前は巨大だ、ならその分影も大きく力を増す。
自身の巨大さを恨みながら潰れろ。
影から数多の触手が伸び巨大な蟲を包む。
暴れようとしているが無駄だ。
影はお前自身でそれがお前を拘束する。
本体が強いと言う事はその影も強い事に他ならない。
最後の腕を置き換えた。
これで両手両足はない、もはや達磨同然だ。
影に拘束された蟲の前に僕は歩き出す。
「なぁ……」
「も、う……無理だ。
怒りが溢れてやまない。哀しみが、絶望が溢れて消えない」
「――死ね」
それの頭部を置き換えた。
蟲は最後に何か叫んでいた気がした。
少し気が緩んだ僕の身体を八百万さんの捕縛布襲う。
耳郎さんのイヤホンジャックが睡さんを攫った。
……まぁ、いいか。
あの子達なら悪いようにはしないだろう……
「――っ、なんて、酷い」
「救命を……!!」
「……死んでる……?」
何を言っている。その言葉だけは聞きのない。
彼女は死んでない。死んでいるはずがない。
「――死んでない!!!」
「死んでなんか居ない、さっきだって僕に声をかけてくれた。蟲を消して、潰せって」
「あぁ、そうだ……でも蟲がまだいる。
ぶんぶん、ぶんぶんと近くで煩わしいな……」
個性が使えるなら、出られるんだから。
「――なんっ」
僕自身と空の空間を置き換える。
「ごめんね、八百万さん――」
仲の良かったはずの……聞き覚えのある声がした。
「その個性……置換、くん――?」
「あぁ……葉隠さんも居たんだ」
視線を動かすと確かに手袋が浮いていた。
「……まぁ、無事だよ……
ミッドナイトをよろしくね」
「待っ――」
僕は全てを置き去りにしてさらに先へ。
僕だってわかっている。これは逃避で意味のない事。
何もをやっても彼女は帰ってこない。
でも死ねない、なら壊すしかないじゃないか。
人は殺せない、だから蟲を潰すんだ。
この世に蔓延る蟲を害虫を駆除する。
その先で死ねたなら僕は――
『行きましょう、置換くん』
「あぁ……睡さんはまだ居てくれたんだね」
『もちろんよ、あなたを置いていくわけないじゃない』
空想だとわかっていた。
でもそれに縋らななければ僕は立なかった。
蟲だけじゃなくて世界を壊そうとしてしまう。
それはダメだ、いくらこの世界が汚くてもゴミで肥溜めであっても彼女が守ろうとした物、それを汚すわけにはいかなったからだ。
「いこう、ね――睡さん」
『えぇ――』
死柄木弔、AFO、あいつらを潰せればあとは他の人がやってくれる。
まともな人が世界を回した方がいいんだ。
僕みたいな狂って壊れたやつよりもまともな人が、みんなみたいな人たちがこの先を背負って進むべきだ。
♦︎♦︎♦︎
死柄木弔を発見した。
――あぁ、このタイミングに辿り着くんだ。
リーキュウの手に包まれ、緑谷くんに縛られた死柄木。
その手からは一発の弾丸が放たれていて、射線はどう見ても相澤先生を向いている。
その弾丸の名は個性消失弾。
撃たれたものの個性を奪う弾丸。
だから――それを彼に当てるわけにはいかなかった。
この状況において彼だけは失ってはいけなかった。
壊れかけの自分でもそれだけはわかっていた。
実のところ空間の置換は難しかった。
観る視点が違うのだ。
モノとモノを入れ替えるのではなく。
世界を上から見た上でその座標だけを入れ替える。
故に、高速で動く小さなモノは補足できなかった。
そして、今の死柄木が発射した弾丸は通常の銃の弾速を超えている。
故に僕にも視認は出来ず置換できない。
ならやることは単純で、僕は個性を発動させた。
その場にいた人間は皆驚きを浮かべた。
相澤先生のいた場所に僕が突然現れたからだ。
僕の弾丸はそれに貫かれた――
自身の何かが消えていく気がしている。
だけど、今の一瞬相澤先生の個性は死柄木に適応されていない。
だから、これだ。
僕は影の個性を発動して死柄木を隔離した。
影で包み込み、あらゆるモノと干渉できないように。
影は存在するようでしない、だから触れられない――
――ごめんね、睡さん……助けられなくて……
だけど……やっと終われる。
貴女のいない世界は、無理だよ……
最後の視界に映ったのは影の球体を突き破り、世界の終わりを告げるかのように伸びた腕だった――
――また、どこかで聴いた音が脳裏に響いた。
ごめんなさい、置換くん。
あなた教えてくれていたのに、こんな事になって。
でも、後悔はないの……きっとあの子達ならやってくれる。
私はヒーローだから。
でもね……キミを見つけてあげたかった。
生きているにしても死んでいるにしても、私を助けようとしてくれたキミ。
見つけてあげたかったなぁ……
いろいろ楽しかったの、ホントよ。
こんな年齢だけど学生みたいな感情向けられて嬉しかったの、ヘアゴムも、全部全部、ありがとうね。
私の人生、そう捨てたものじゃなかったよ――