推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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こちら、本日投稿の2話目です。
間違ってないですよ、始まりをお楽しみください。

あと…もうしわけない。
ガッツリかいてストックなくなったので次回更新は24になります………


76話 運命の日

 

 死んだはずの僕はまた影の中に戻ってきていた。

 

 ……なんで、ここに、

 僕は死んだはずじゃ――

 

 ミッドナイトが生きていた。

 生きて動いて、言葉を発している。

 

 嫌な予感がした。

 今、確かにマキアが覚醒したのを感じた。

 

  ――やめろ、やめろやめろやめろ、ふざけるな。

 こんなものを見せられるってわかってて出れないのか?

 

 ……いや、出れるはずだ。

 この前の世界で僕は彼女が◼️んだ後あの世界に戻った。

 なら、出れるはずだ。

 どうすればいい、どうしたら――

 そう思考する間にもあっちの時は進んでいる。

 

 マキアは強大だった。

 身体も、硬度も、膂力も、全てが強大で。

 ヒーローがいくら束になっても勝てる片鱗すら見えなかった。

 

――だけど、どれだけ足掻いても。

 

 また彼女が、マキアを眠らせようと飛び出した。

 しかしそれもヴィラン連合に邪魔され失敗に終わる。

 

――ぼくは、この世界から出られない。

 

 高所から落下した彼女はボロボロだった。

 地面に這い蹲り、あの美しい顔は怪我と血で見る影もない。

 

――ぁあぁ……

 

『ホント……不甲斐ない……』

 

 それでも彼女はヒーローとしての責務を果たそうとする。

 容姿は汚れていたけどそれでも在り方は誇り高かった。

 

 嫌だ、観たくない。

 僕はそうしてまた目を閉じた。

 それでも見たくない場所にも影はあり、影がある限り僕は目を背けられない。

 脳に直接その情報が叩きつけられる。

 

 ――その時が、訪れた……訪れてしまった。

 

『……聞こえるかしら、クリエイティ!!』

 

 いやだ、許して、やめて、逃げて。

 

『……状況は……分かってるね?』

 

 睡さん、そこにいたら……

 

『……力押しでは誰も止められない。眠らせたい』

 

 ……逃げて!!!!!!!

 

『……法律違反になっちゃうけど……事態が事態よ』

 

 助けたい、助けたいのに……

 

『……麻酔で眠らせるの』

 

 ここで、見ているしかできないなんて――

 

『……ヒーローに麻酔を渡して……!

 その場を、離れなさい……!

 難しければ……すぐ……避難を……!!』

 

 なんて、地獄――

 

『――あなたの判断に……委ねます』

 

 彼女が、ヴィランに襲われ――

 

 

 彼女が何か呟いた気がした。

 

 『ごめ……ね……お、きかえ……くん』

 

 それを最後に彼女は動かなくて……

 そう言った彼女の手には僕のあげたシルクのヘアゴムが握られていて……

 その言葉を認識した瞬間、胸の奥で何かが音を立てて崩れた。

 ぼくは――堕ちた。

 

  ――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああアアアアァァァァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!

 

 

 一度目を閉じて開くと……目の前に、奴らがいた。

 

 ――あぁ、見たことあるな、これ……

 前は、どうしたんだっけ、あぁ、この蟲達を潰したんだった。

 なら、こんな蟲に構わず睡さんを連れて逃げたらどうだろう……

 そしたら、まだ助けられるんじゃないのか?

 

 ――そうだ、まだ希望はある。

 ……終わってない。

 

 いつの間にか森の中にいた。

 彼女が倒れるそこに、ヴィランに囲まれたそこに――

 彼女を観ると……顔が、なかった。

 あの美しかった髪、優しかった目、すらっとした鼻、

 ぷっくりとした柔らかな唇。

 ――そこには何も残っていなかった。

 

 それでも、まだ生きている。

 わずかに胸が動き呼吸をしているのを感じた。

 

「……あ?んだこれ」

「なんで、脳無がここに……」

 

「うるさい――どけッ!!」

 

 こんな蟲どもに関わらずに彼女を抱える。

 

 ――まだ暖かい……

 

 たしか、この後八百万さんと遭遇したはずだ。

 

 だからその先へ向かえば……と、

 僕は蟲を無視して先へ。

 

 だけど、あの時会えた場所に彼女達はいなかった。

 どれだけ探しても声を上げても彼女達は見つからない。

 腕の中の重みが増した気がした。

 嫌な予感があったけど視線は抱えている睡さんに向いてしまう……彼女は――息をしていなかった。

 

 なんで、どうして、睡さんが何をしたっていうんだ。

 

「……ぁぁぁぁ」

 

 僕は崩れ落ちる。

 後ろから刺されたり、焼かれたりしているけど……もう、どうでもいい。

 助けられなかった……

 

 地面を走る崩壊それが僕を呑み込むのをただただ眺めていただけだった。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 気づけば僕は、また戻っていた。

 絶望の日に――

 

 何度繰り返したのだろう、十回、十五回?二十回?それ以上……?

 思考を巡らせようにもそれは許されない。

 マキアが覚醒し彼女の死のカウントダウンが始まっている……

 でもどこか僕はぼんやりとしていて、まるでここが現実じゃない気すらしていて――

 

 ――やめろ、やめろやめろやめろ、ふざけるな。

 こんなことを、こんなものをなん度もくり返すのか……?

 

 諦観を抱きながら今度こそは……と希望を胸に燃やした。

 さっきは出れなかったけど……それでも出れるはずだ。

 この前の世界で僕は彼女が――後あの世界に戻った。

 なら、方法はあるはず……

 どうすればいい、どうしたら――いいんだろう……

 今この瞬間にもあっちの時は進んでいる。

 

 マキアは強大だった。

 身体も、硬度も、膂力も、全てが強大で。

 ヒーローがいくら束になっても勝てる片鱗すら見えなかった。

 

――だけど、どれだけ足掻いても。

 

 また彼女が、マキアを眠らせようと飛び出した。

 しかしそれもヴィラン連合に邪魔され失敗に終わる。

 

――ぼくは、やはりこの世界から出られない。

 

 高所から落下した彼女はボロボロだった。

 地面に這い蹲り、あの美しい顔は怪我と血で見る影もない。

 

――ぁあぁ……やめてくれ……

 

『ホント……不甲斐ない……』

 

 それでも彼女はヒーローとしての責務を果たそうとする。

 容姿は汚れていたけどそれでも在り方は誇り高かった。

 

 嫌だ、観たくない。

 僕はそうしてまた目を閉じた。

 それでも見たくない場所にも影はあり、影がある限り僕は目を背けられない。

 脳に直接その情報が叩きつけられる。

 

 ――その時が、訪れた……訪れてしまった。

 

『……聞こえるかしら、クリエイティ!!』

 

 いやだ、許して、やめて、逃げて。

 

『……状況は……分かってるね?』

 

 睡さん、そこにいたら……

 

『……力押しでは誰も止められない。眠らせたい』

 

 ……ごめんなさい。

 

『……法律違反になっちゃうけど……事態が事態よ』

 

 助けたい、助けたいのに……

 

『……麻酔で眠らせるの』

 

 ぼくには、何もできない……

 

『……ヒーローに麻酔を渡して……!

 その場を、離れなさい……!

 難しければ……すぐ……避難を……!!』

 

 これが生き地獄なのかな……

 

『――あなたの判断に……委ねます』

 

 彼女が、ヴィランに襲われる。

 

 

 ぽつりと彼女が何か呟いた気がした。

 

 『ごめ……ね……お、きかえ……くん』

 

 それを最後に彼女は動かなくて……

 そう言った彼女の手には僕のあげたシルクのヘアゴムが握られていて……

 その言葉を認識した瞬間、胸の奥で何かが音を立てて崩れた。

 ぼくは――また堕ちた。

 

  ――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああアアアアァァァァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!

 

 

 一度目を閉じて開くと……目の前に、奴らがいた。

 

 ――あぁ、見たことあるな、これ……

 

 いつの間にか森の中にいた。

 彼女が倒れるそこに、ヴィランに囲まれたそこに――

 彼女を観ると……顔が、なかった。

 あの美しかった髪、優しかった目、すらっとした鼻、

 ぷっくりとした柔らかな唇。

 ――そこには何も残っていなかった。

 

「……あ?んだこれ」

「なんで、脳無がここに……」

 

 僕は何も言わなかった。

 ただ何も言わずその蟲に視線を向け、まず足を奪った。

 

「――ァァァァァ!!!」

「――」

 

 ただひたすら無言で、足を奪い、目を奪い、腕を奪い、この塵達を地面にひれ伏せさせた。

 

「……みえない、俺の目を――」

「足、足どこだよ、おれの――」

「なぁ、ちょっとお前そこにいるんだろ?俺の腕、さがしてくれよ――」

 

 そして、潰した。

 何度も何度も何度も巨大な岩を上空に置換させては落とし、繰り返し落とし続けた。

 

 彼女は死んでいた。

 僕は動かなかった。

 彼女を抱きしめここに崩壊の余波が来るのをただただ待ち続けた。

 

 そして、崩壊がやってきた。

 ――睡さんと共に消えられるなら後悔はない。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 いったい何度繰り返しただろう。

 すでに感情は麻痺して、彼女の死を直視しても心の奥で何かが壊れるだけだ。

 むしろ、死ねば彼女に会える……という思いすらあった。

 

 

 時折思い出したかのように行動を変えても結末は変わらなかった。

 同じ場面、同じ暴行、同じ最後、

 声を上げても、手を伸ばしても、彼女はいつも死んでいった。

……ヘアゴムを握り、同じ言葉を呟いたまま――

 

 自殺もできず、ただ惰性で繰り返して……

 だから何回目からか僕は塵掃除をした後彼女を抱きしめ世界の終わりを待ち続けるようになった。

 それが唯一の幸福だった。

 消えゆく彼女の体温を感じながら世界と彼女と共に消える。

 それが唯一の――

 

 

『やっと、みつけた』

 

 ――え?

 

 声が聞こえた。

 今までと違うことが起きた。

 

『んなとこに居たのかよ、隷』

 

 ――おに、ひと……?

 

『ひっどぉ、隷くん。俺がきたのに無視はどうなの……?』

 

 ――カイ……?

 

 なんで二人が……

 

『このガキがよ……「隷くんが、苦しんでる」とか言うもんだから仕方なく手伝ってやったんだっての』

『はぁ?

 別に手伝ってとか言ってないんだけど、うっざ』

 

 は、はは……なんか、なつかしいね。

 もう。ここまで僕は壊れちゃったんだ……

 

『大変だったよね、隷くん。こんなところに閉じ込められて――』

『流石にこりゃ悪趣味が過ぎるな……ただ見せ続けられるのは……きちぃな』

 

『俺は馬鹿だからわかんねぇんだけどよ、このガキが話あんだとよ……ちと聴いてやってくれや隷』

 

 居ないはずの人の声が聞こえる。

 ……あぁでも睡さんの声はずっと聞こえてたしな――

 

 ――うん、鬼人。

 

『はぁー、やだやだ、男同士でなんて非生産的だよ?こんなんとイチャイチャするなら俺としよーよ……いてっ』

『はやくしろ……ガキ』

『やだやだ、こんな粗暴なやつは。早く俺の身体から出ていってほしいね……隷くんも友達選びな……?』

 

 ……いがいと、いいやつなんだよ、そいつ……

 

『ま、ね……俺さ、ずっと探してたんだ。

 隷くんが急に見えなくなるから……探し探してやっと見つけたんだ』

 

 ……え、あ……うん……

 

『おい、引かれてんぞお前……』

『は、はぁ?引かれてませんけど?むしろお前超えて相思相愛ですけどぉ……?』

 

 ……あはは……

 

『でね、隷くん。

 多分キミは……この先の話を知ってるんだよね?』

『……?何言ってんだ……?』

『頭筋肉は黙ってろ――』

 

 鬼人はこめかみをピクピクとさせている。

 

 ……そう、だね。

 何回も繰り返した。何回も何回も、何十、何百、それ以上かもしれない……でも何も変わらないんだ。

 

『だと思った。あっちの隷くんだって諦められなかったんだから、そうだよね……』

 

 ……

 

『俺は……キミを、ここから出してあげられる』

 

 ――。

 あぁ……そうだといいね。

 

 僕が諦めと共にその言葉を口にすると頰に衝撃を感じた。

 

『――おい隷。てめぇ、いつまでうじうじしてやがる』

『おい、脳筋てめぇ、なしてやが――』

『――ガキは黙ってろ――』

 

 ……痛……い?……

 何で、幻覚じゃ――

 

 鬼人が、目の前に立っていた。

 その後ろにはカイが……バツが悪そうに立っている。

 

『なぁ、お前。惚れた女を救うんじゃなかったのか?

 ……違うのか?俺はこの程度で心が折れるやつに殺されたのか……?』

 

『――ふざけるなよ』

 

『俺の親友はそんなに弱くねぇ、この程度の絶望で諦めるほど弱いはずがねぇんだ』

 

 ……鬼人に、死んじゃった鬼人に……何がわかるんだよ!!!

 

『しらねぇよ。

 テメェの苦しみも痛みも絶望も何も知らねぇ』

 

 ――なら!!

 

『それでも、テメェがどれだけあの人を好きだったか知ってる。どれだけ一途に救おうとしてたかそれだけは……知ってる』

 

 …………

 

『なぁ、隷。

 喧嘩――しようぜ』

 

 僕は鬼人に向かって殴りかかっていた。

 

 あぁぁぁぁぁ――!!!!

 

『はっ――いいじゃねぇか!!

 それでいんだよ!!』

 

 キミは!!僕がどれほど……

 何度助けようとして失敗したかなんて――

 知らないだろ!!!!

 

『しらねぇなぁ!!』

 

 どれほど辛くて、どれだけあの人を目の前で失ってきたか知らないだろ!!!

 

『――あぁ、しらねぇ!!』

 

 鬼人の拳は重かった。

 現実で戦ったどの時よりも重かった。

 

『お前、弱くなったな。

 あん時のお前はこんなに軽い拳じゃなかった』

 

 ――弱くなんてない!!

 僕は強くなったんだ。強く、強く、強くなった!!

 鬼人だって簡単にころせるくらいに――!!

 

『だったらやってみろよ』

 

 ――!!!

 嗚呼ああああああぁぁぁ!!!!!

 

 置換の個性、超速再生の個性、影を操る個性、観測する個性、鬼のような膂力を得る個性。

 僕は持っている全てを駆使して鬼人にぶつけた。

 

 鬼人はボロボロだった。

 影の世界なのに身体を血だらけにして肉を裂けさせてそれでも笑っていた。

 

『あぁ……効かねぇ――なぁ!!!』

 

 僕が十回の攻撃を与える間に鬼人は一撃しか与えられない。

 間違いなく僕が優勢で、なのになんでか僕は敗北感を覚えている。

 鬼人の一撃は確かに僕に響いて僕から何かを拭い去っていた。

 

 ――辛いんだよ!!痛いんだよ!!!!苦しいんだよ!!!もう見たくないんだ。

 

『ただ……あぁ――楽しいなぁ、隷!!!』

 

 …………楽しいわけない……!!

 

『よく漫画とかであるじゃねぇか――!

 俺は本音でぶつかりたかった!いつも、どんな時でもだ!!!』

 

 ――闘いなんて嫌いだ、痛いのは嫌いだ!

 

『知ってんだよ!んな事は!!

 なら、なんでてめぇは嫌な思いしてでも救おうとしてんだよ!!!』

 

 ――そんなの、助けたかった、から……

 そう、助けたかった、から……

 

 ――たすけたかったんだよ、あの人を。

 別の世界の住人だとしても……死んでほしくなかったんだ。

 生きていて欲しかった。笑っていて欲しかった。

 最後の大円団に彼女の笑顔があって欲しかったんだ……

 

『何言ってるかわかんねぇけどよ。

 なら――助けようぜ』

 

 鬼人が崩れ落ちた僕に手を差し出した。

 

『だから立て。

 ――俺らはお前のためにここに来たんだからよ』

 

 ……鬼人……

 

『本音で語れ、強がんなくていいんだよ』

 

 ごめん、僕だけじゃ助けられなかった。

 何度やっても何度変えても、人も信用できなくて、助けられなかったんだ……!

 一人じゃもう立てないんだ。

 ……頑張れない……彼女が死ぬのを何度も、何度も何度も何度も目の前で見せられて……

 

 もう……一人じゃ、無理だよ……助けて……

 

 そう言って僕は鬼人の手を取った。

 

『当たり前だ――』

『もちろん!!

 隷くん、俺はキミの為にここにいるんだから――』

 

 

 ♦︎

 

『このガキお前助けるって言ってた割には空気だったな――』

『は?空気読んだだけですけど?

 わざとですけど!?……ね!隷くん!!?』

 

 ……ノーコメントで。

 

 ――っ、こんな時間はない。

 ミッドナイトを助けないと!!

 

『それなら、心配はいらないみたいだよ。

 さっきからあの映像ずっと止まってる』

 

 ――え?

 

『じゃないと頭筋肉とあんなに殴り合えなかったろうしね』

 

 ――あぁ……、なら彼女は死んでない、んだ。

 

『うん……まだ、ね。

 ……それにしても、まさか影の中にいるとは思わなかった。

 完全に認識の外だ、観測できるわけない。

 でも、そうだね。

 あの傷で普通で、あの医者がやったことが普通なわけがないい……か』

 

 そうだ……!松戸さんはどうなったの……?!

 

『あの医者は――

 死んだよ、女を救えないと見てあのクソ女を銃で撃ち抜いて隷くんを直したあと自殺したよ』

 

 ……そう、なんだね。

 

『ま、あんな奴のこと気にしなくていいよ。

 今は隷くんのことだ』

 

 僕は二人に話した。

 この影の中で僕が経験したこと、繰り返したこと、何度も殺して死んだこと、そしてヴィランがもう蟲にしか見えないことを――

 

 ♦︎

 

『そうか……』

『辛かったよね、いいんだよ隷くんは間違ってない』

『俺は……悪いがわからねぇ……けど否定はしねぇ。

 お前が感じたのはお前だけのものだ』

 

 ……うん、二人ともありがとう。

 

『んー、ここならあいつの視線も届かない、かな?』

 

 ――?なにを……

 

『今度は俺の番だ。黙ってろよ?頭筋肉』

『……あいよ』

 

『多分今ならあの時の言葉をちゃんと思い出せるはずだ。隷くん、病院での話だよ』

 

 病院、カイが言っているのは僕の個性について……

 あれだ――

 

『……あー、そうだ。

 確かこう言ってた……はず。

『僕の個性は置換である。

 モノとモノを置き換えること。

 確かにそうだけど、置き換えられるのは物質だけじゃないんだ。

 この世界のものだけを入れ替えるだけではなくて

 僕だけが持っている視界、この世界が◼️◼️であると言う事実。

 それはページをめくれば先にも前にも戻れるということで――』

 

 

 僕だけが持っている視界、この世界が◼️◼️であると言う事実。

 それはページをめくれば先にも前にも戻れるということで――

 

 僕だけの視界……、この世界が漫画であるという事実――?

 あ、れ。

 なんであの時分からなかった言葉が――

 

『あぁ、やっぱりいけた。

 多分、カミの目が届いてないんだ』

 

 カミ、カミ……サマ?

 

『そうだね、隷くんはそう呼んでた。あれに様付けなんてしなくていいと思うけど……』

 

 なら、僕の個性を使えば――

 

『そう、ここから出られる。

 無意識ではなく意識的にコマを置き換えればいい』

 

 コマを、置き換える……

 どうすれば……

 

『それはわかんないや、自分の中に潜ってみれば答えはあるかもしれない――』

 

 やってみよう、僕の視線を内に向ける、心の中へ――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 僕は落ちる、心の中へ落ちていく。

 何故か聞き覚えるある声が頭に響いた。

 

 

『キミはバタフライエフェクトって言葉を知ってるかな。

 非常に小さな出来事が、最終的に予想もしていなかったような大きな出来事につながるってそんな意味の言葉』

 

『日本には風が吹けば桶屋が儲かるなんて言葉もあるよね。

 小さな変化が積み重なり大きな変化へと変容する。

 じゃあさ、この僕のヒーローアカデミアって作品があるだろう?

 ここに本来は存在しなかった。置換隷という人物が誕生した』

 

『それによりカイという存在が物語に登場することになり、他にも出てきたよね。社長だって沖合くんだって、そう、影人、梢、それに――鬼人だってそうだ』

 

『一つの変化が数多の変化を生み出す。

 そんな話があるとするなら、今の結果はなんなんだろう。

 明確に彼女を救う、という意思を持ってここにいる僕/キミ』

 

 なのに、なんてざま。

 時間は帰らない、時は戻らない、

 失ったものは……帰ってこな――――本当に?

 

『本当にそうかな?』

 

 もう一人の僕の声を聞き心臓が大きく音を立てる。

 

 

 

『僕/キミはどこからきた?』

 ――この作品があった世界からだ。

 

『カミサマはなんて言っていた?』

 ――そう、キミが救いたいのは物語の住人だ。

 普通じゃ無理だ。キミの人生は無価値に無意味に消費されて終わる。

 だけど、ボクの目に留まった。

 なら、チャンスをあげよう。

 

『んー、近いけど、これじゃないね』

 ――存在圧、ボクらとキミらは異なる次元にいる。

 次元が違えば存在の圧力も違う、ただあるだけで下の次元を食い潰してしまうんだ。

 

『これも違うね』

 ――キミたちだって紙に書かれた漫画の中に入ろうとして紙に乗っても破けちゃうでしょ?

 ボクたちは入れるんだ。もしやっちゃったら、

 その入った世界滅びるからやらないんだけど。

 

『違うまだ先だ』

 ――それを応用するとね、キミたちみたいな下位世界の住人をさらに異なる次元に送れたりするんだよね。

 

『つまり、アレは僕/キミにとっての四次元に存在していた。そして三次元たる僕に干渉をした。

 アレから見れば僕/キミは創作なんだ。

 漫画であり小説でありゲーム、だから好きなところから始められるし好きなところでやめられる』

 

 僕は、なんだ――?

『三次元から二次元に落ちたもの。

 つまり、僕/キミはこの世界が漫画だと知っている読者だ』

 

 僕の個性は……置換。置き換えること。

『この世界は漫画だ。

 なら、僕/キミは、読者である僕は今の僕を漫画の好きな巻数、コマに……位置に置き換えられるはずだ』

 

 

『僕/キミは知っているはずだ。

 世界は繰り返されている。

 僕/キミは何度も死んでいる。

 そして、今までだって何度も無意識に個性を行使してきた――だろう?』

 

 起こすんだ、バタフライエフェクトを。

 僕/キミが、彼女を救えるその時まで繰り返して繰り返して何度も何度も何度も何度も何度だって、願ったその先へ。

 

 推しの為に死に続ける。

 今まで僕/キミが見てきたみんなの決断を、意思を無為にするとしても、僕/キミは繰り返すんだ。

 

 さぁ、手を開いて。音を響かせろ』

 

 ――彼女は、まだ……終わってなんていないんだから――!!!

 

 

 

 ――――――――――パン――――――――――――

 

 

 




あとがき

 そう、それだよ。ぼく達はそれが見たかったんだ。
 創造主の想定を超えたキャラの動きを、重さを――

 だけど、君みたいなただのモブが世界に決められたルールを覆せるのかな?
 あれは確定事象だ。
 世界が救われるにはあそこで死ななくてはいけない。
 そうすることで……身近な存在が死ぬことで、
 君たちA組の皆はより一層最終バトルに真剣に挑むことになるからね。
 だけど、A組の人間は死んではいけない。
 それだと、世界を救うパーツが足りなくなる。
 だから、彼女が死んだ。

 何かを得るには何かを失わなきゃいけない。
 1+1=2であり、1-1=0、それが世界のルールなんだから。

 それに、一つ勘違いがある。
 ぼくたちはちゃんと観ていたよ。 
 もう干渉する必要がなくなっただけだ。
 大丈夫、君が諦めるまでぼくは、ぼくたちはいつまでも観ていてあげる。
 君が心折れ、消え去るその時まで――
 あぁ、もし本当に救えたなら――ルール違反にはなるんだけど、君の願いを叶えたっていい。

 さぁ、それじゃあこれからが始まりだ。
 長いプロローグだったね。
 推しの為に死に続ける話。
 これより開幕だ――――――

 ……その画面の向こうからちゃんと観ていてね。
 一緒に最後まで楽しもうじゃないか。
 ──ねぇ?"みんな"
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