推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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お待たせしました。
先々週はすいませんでした!
まさか連投してネタ切れになるとは…


とりあえず連投なければ週一で続けられそうです。
それではどうぞ!

……あ、おまけにちょっとばかり布教を魔法少女ノ魔女裁判…いいですよ………

失礼しました、それでは今度こそどうぞお楽しみください。


77話 始まりの終わり

 

 目が覚める。

 辺りは白い空間に包まれていた。

 

  ――ッ

 

 額にずきりとした痛みを覚える。

 それと同時に身体から何かが離れた……そんな違和感を持ったけどそれは露と消えた。

 

 それよりも二人だ。

 

 ――カイ!!鬼人!!!!

 どこ!?

 

 あの二人がいるなら僕はまだ――

 

『おう、どした?』

『どうしたの?隷くん』

 

 ――あぁ……よかった。

 幻じゃなかった。

 僕は、一人じゃない。

 

『にしても、奇妙な感覚だな。

 過去に戻るつーのは……』

『俺も話には聞いていたけど……こんな感じなんだね隷くん』

 

 うん……僕も実感するのはこれが初めてだ。

 いけるって思ってやってみたらここに辿り着いた。

 

 二人は……ここは、何処だと思う?

 

『わりぃな、俺はわからねぇ。

 このチビ治すのにずっと力使ってて意識なかったんだ』

『っ……、おま……まぁ、いいや……

 多分だけど、隷くんの状態から見て……あのクソ女と会う前だと思う』

 

 クソ女……梢か。

 ――あぁ、だめだ。あいつのことを考えると頭が沸騰したみたいに熱くなる。

 もし……目の前にいたなら……ぼくは、どうなっちゃうんだろう。

 

 でもそうか、そのタイミングなら確かに睡さんを病院に連れて行って、尾白くんたちから連絡もらって……

 あいつを待ち伏せているタイミングってのが正確か。

 

『……つか、スマホ見ればいんじゃね?』

 

 鬼人のその一言に僕らは絶句した。

 まさしくその通り、是非もなかった。

 

 日付を確認すると9月25日……あの日だった。

 僕が二人を助ける代わりに影となり世界に干渉出来なくなったあの日、絶望の始まりの日だった。

 そして改めて場所を見渡すとここはトレーニングルームだった。

 光源を集めて光らせていたから真っ白だったようだ。

 

『んで、まぁ電話の時間から逆算するとざっとあと三十分で梢が来る時間になりそうだな』

『俺たちがついてる今の隷くんが負ける訳ないんだからとっととボコそうぜ!

 バッキバキに骨折って生きてるの後悔させよう!

 ――俺もスッキリするし!』

 

 ……あはは。

 でもどうなんだろう、二人はいま僕の中にいて……

 個性は――

 

 自分の足元の影が蠢いた気がした。

 

 ――ッ。

 

 もしかして、使えるの……?

 置換の個性――これは元々僕の個性だ。

 観測の個性――これはカイに眼球を移された際に得た個性。

 再生の個性――これはシャドウからだろう。ただ……いまはわからない。

 影の個性――これも、シャドウのはずだ。いま影が蠢いたなら……使えるかもしれない。

 鬼の膂力の個性――これも実験してみよう。

 

 

 時間は少ない、すぐに試そう。

 

『あぁ、そうしとこうぜ』

『ん、がんばれ隷くん』

 

 試した結果――

 置換、観測は当たり前のように使えた。

 むしろ観る視点が変わったのか数瞬前の時間にすら戻れるみたいだった。

 ただ……使い所は難しそうだ。

 

 

 再生の個性、これはこの時系列で本来あった頭部の傷が治っていることから使えるのだろう。

 先ほど軽く指を切った際も逆再生のように傷が治った……いや、直ったと言った方がいいのだろうか。

 まぁそれはいい。どの程度の傷まで再生出来るかは分からないけど……便利でありがたい。

 

 影の個性、これも……使えた。

 影の世界に潜り、影と影の移動を可能に、影を媒介に物を操る。

 影を現実に持ち出して攻撃に使うことすら出来そうだった。

 

 鬼の膂力の個性……これはすぐに実感した。

 足元の小石を拾い軽く握ったはずだった――

 その小石は砂となり手からこぼれ落ちた。

 力加減を身につけなくては人に触れることすら出来なそうだった。

 

 

『どうやら、全部使えるみたいだね……』

 

 使えるみたい……なんで出来るんだろう……

 今考えても分からないか。

 

『んー、ちと気になるのが俺の個性の派生は出来ないんだな』

 

 鬼人の個性……?

 ――あ、火球とか、魔法みたいなやつだ……

 

『そそ、魔法ってか、妖術っつー奴だな。

 細かいところは俺は感覚でやってたからわからねぇけど…』

 

 僕は手を前に出し、力を込める。

 どんどんと力を込めて顔が朱に染まっていく。

 

「はっ――!」

 

 何も起きない……(´・_・`)

 

『あの……何やってんの……?隷くん……』

 

 いや、あの、えっと、ほら出るかなって……

 

『あ、うん、そうだよね、ごめんね?変なこと聞いて……』

 

 なんか気を使われた気がする……

 てか鬼人!!!さっきからゲラゲラ笑うなぁ!!

 

『わはははははは!!!!

 いや、隷、ぷふっ……それ、ダサ――わはははは!!!!!』

 

 ――笑うなぁ!!!

 

 くだらないことかも知れない。

 それでも僕は、久しぶりに心の底から笑えた気がした。

 

 ありがとう、二人とも。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 たしか……このくらいの時間でスマホに――やっぱりそうだ。

 

 

 スマホから着信音が響く。

 ポケットから取り出しスマホの画面に視線を向けた。

 

 尾白猿夫

 

 その文字がスマホに記されていた。

 

 ……来たか……

 

 前回よりいくらか軽くなった指を動かす。

 スマホの画面をスワイプして電話に出た。

 

『――たでた。大丈夫か?すぐ出なかったけど……』

「……。うん、ごめんね、ちょっと掃除しててさ。

 手を洗ってたんだ」

『そっか、ならよかったぜ。ぼちぼち事務所に――

 あ、いたいた』

 

 電話がぷつりと切れると外から微かに声が聞こえてきた。

 

「――い。置換ーー!」

「置換くーーん!!」

 

 振り返ると車の窓から少し離れた位置でまるで手を振っているように上下に動いている手袋…葉隠さんと小さく揺れている尻尾が見える。

 

 さぁ、どうする。

 思考を回せ、置換隷。

 

 暫定ここに来ると思われるヴィランは梢と……もう一人の脳無――影人だ。

 

 ただし脳無は、影という個性である以上身を隠せると見て間違いない。

 

 

 目前に車が止まった。

 確認できるのは三名だ。

 運転席に梢、後部座席に尾白君と葉隠さんだろう。

 

 敵の姿を目に焼き付けようと、梢に視線を向けようとした。

 それと同時に後部座席から二人が出てくる。

 

「よ、久しぶり」

「やっほー!元気そうでよかった」

 

 いた、あれが……梢……?

 運転席に座っているものがいた。

 僕にはそれが人には見えなかった――

 

 そう、それは僕にとって蟲だった。

 僕から大切な物を奪う害虫。

 悪、悪で、敵である――蟲がそこにいた。

 

「――お、元気そやなぁ……れ――」

 

 蟲の顎がカタカタ動いたと同時に視界が赤く染まる。

 憎しみが、怒りが、恨みが僕の中から……いや、何処からか流れ込んでくるようにすら感じる。

 鬼人とカイが何かを言っている気がした。

 

『頭冷やせ!隷――』

『まって――!れ――』

 

 蟲は潰さなきゃ――

 

 それでも僕の身体は勝手に動いていた。

 車のフロントガラスを僕の手が貫き、蟲の頭部を掴む。

 

 何か喚いた気がしたけど……

 僕は気にせずそれを――潰した。

 

「っ――!い、いやぁァァァァァぁ!!!!」

「っひ――ころ、した……?」

 

 葉隠さんが叫び、尾白くんが僕に恐怖に満ちた視線を向ける。

 

 僕が二人を助けようと手を伸ばす。

 

「もう、大丈夫だよ」

 

「「っ――」」

 

 二人は僕が近寄ると同じ分だけ後ろに下がった。

 

 どう、して……?

 僕はただ蟲を消しただけなのに……

 なんで怖がるの……?

 

「な……なんで……置換、こ、梢……さんを……殺したんだ……」

「いやだよ、なんで、こんな……ウソだよ……」

 

 二人がなんで怖がっているのか分からない。

 だってそれは蟲だ。

 睡さんを殺した害虫の仲間だ。

 つまり、処分するのは当たり前じゃないか。

 

「な、なんで……二人は、逃げる……の……?」

 

 僕が近づけば近づくだけ二人は僕から距離を取る。

 それが酷く辛くて僕は勢いよく走り二人の肩に手を伸ばした。

 

「――ヒッ」

「く、くるな――!」

 

 僕は二人に触れようとしただけだった。

 二人を助けたかっただけだった。

 

 こんなこと、するつもりじゃなかった。

 

 二人は……僕が触れただけでその肩は潰れていた。

 

「ぁぁぁぁぁああ!!」

「がぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 僕の手が、友達の赤で染まる。

 違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う、僕じゃない、僕がやったんじゃない、違うんだ、違う、なんでどうして、正しいことをしたはずだ、助けようとしたんだろ……

 僕はただ蟲を潰しただけ、逃げられる理由なんて、ない……

 頬を雫が伝った気がした。

 

「……ど、し……て……」

 

 僕は、二人のその言葉を耳にして逃げるしか出来なかった。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 これ以上二人に近づけなかった。

 壊れそうで、壊しそうで――殺してしまいそうで。

 

 人は、脆かった。

 触れるだけで壊れてしまうくらいに。

 

 友達を傷つけて僕は死にたかった。

 でも死ぬわけにはいかなかったし、死ねなかった、

 それは睡さんを救えていないからであり、

 カイの残した呪いがあったから――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 手が汚れてる、赤い、いやだ……血が落ちない。

 どれだけ手を洗っても手に落ちた赤は消えてくれない。

 だから、僕は腕を切り落とした。

 それでも腕は生えてきて、生えてきた腕にも赤色がついたままだ。

 

 腕を切り落とし、燃やして、細切れにしても手についた血は消えてくれなかった。

 また新しい腕が生えてくる。

 

 もうその腕を見たくなくて僕は自分の腕を後ろ手に縛った。

 そこからは視界に入らなくなって少し落ち着くことができたんだ。

 

 それから――どれだけ時が流れただろう……

 一週間、いや……一ヶ月かもしれない。

 目を閉じて、見たくない物を見ないようにして……

 

 そんなある日僕が座っていた廃墟に足音が響いた。

 

 気づいていた……

 僕が見ようとしなくても影がそれを見せてくる。

 少なくともこの廃墟の中で僕の知らないことは何もなかった。

 

 

「睡、さん……」

 

 彼女が目の前にいた。

 視界が滲み感情が溢れる。

 生きている彼女に会えて、話しかけてもらえて嬉しかった。

 

「置換……くん……」

 

 僕はあの二人を傷つけた後、

 影の個性で自分を縛った。

 人を傷つけないために、それでも蟲がこの廃墟に入って写ると頭が真っ赤になって、影が勝手にそれを潰した。

 鬼人や、カイが話しかけてくれたけどだんだんとその声も聞こえなくなっていった。

 

 もう止められなかった。

 蟲が憎くて、嫌で、存在が許せなくて……

 あぁでも今は少し冷静でいられそうだ。

 誰よりも好きな彼女が目の前にいる。

 僕を見て僕に話しかけてくれる……

 

 

 冷静になれたからだろうか……

 二人はどうなったんだろう――

 そんな言葉がふと頭をよぎった。

 

 人と話すことをやめたせいで声が出なくてそれでも知りたくて声を絞り出した。

 

「……ぁ、ぁの……ふた、り……は?」

 

「……えぇ、あなたが知っているあの後すぐに治療されて無事よ……今も頑張っているわ」

 

「そ、か……ょかった」

 

「なんで……こうなっちゃったのかしらね」

 

 なんでなんだろう、僕が自分を抑えられなかったから……なのかな。

 

「ぃま、さら……だ、けど……ふたりに……ごめ、ん――って」

 

 睡さんが、綺麗な表情を歪めて僕を見つめる。

 

「そんな……こと言うなら、どうして――」

 

「むし、がいたんだ。……を殺そうとする、蟲が……いっぱい

 だから、潰した……殺させ、ない……ために」

 

「な、にを……」

 

「世界には蟲が、多すぎるんだ。

 平然と人を殺して、生きる蟲が……

 いやだよ、大切な人が汚されるのは――」

 

 甘い匂いが充満してきた。

 彼女のやろうとしていることはわかる。

 僕を眠らせようとするのだろう。

 それでいい。

 

「……そっか、置換くん、は……変わってないんだね」

 

 体温を感じた。

 目を開く――抱きしめられていた。

 

 僕は、睡さんに抱きしめられていたんだ。

 

「な、にを――」

「いいの、いいのよ置換くん。

 あなたは間違えちゃっただけ……

 だから休んでいいの」

 

 彼女の声が僕の中に響く。

 失われていた思考が少し戻ってきたようにすら感じる。

 

「やり方を、すっごく間違えちゃったけど……

 もっと、ちゃんと私が見てあげればよかったね……ごめんなさい」

 

「ちが、う……睡さんは……悪くない」

 

「あぁ、……今思えばその呼び方も懐かしいわね。

 なんだ……何にも変わってないじゃない」

 

「何を見ちゃったのか分かんないけどね……

 あなたはそんなに弱い子じゃないよ」

 

 僕は――

 

「大丈夫、やり直せる。

 罪を償うの……」

 

 罪、を……やり直す……

 

「だから、今は――おやすみなさい。

 隷くん、またね」

 

 僕は暖かな体温と柔らかい感触、そしてわずかに宿った心の熱と共に眠りに落ちていった。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 僕は微睡む。

 ここは泡沫の夢の中。

 全ては幻想、瞬きの夢。

 

 楽しかった思い出をただただ夢として見続けていた。

 

 気づけば僕は紫安刑務所というところに入れられたみたいだった。

 ……出ようとは思えなかった。

 ここには睡さんが満ちている。

 少し眩しすぎることを除けば何も不満はない。

 

 

 彼女の個性『眠り香』で満たされ、ありとあらゆるところを光で照らされた空間。

 それが僕に与えられた独房だった。

 

 常に頭ばぼんやりとしていて、睡さんが「待っててね」と言ったことだけが記憶に残っている。

 

 微睡み、虚に、夢の中。

 世界は今も動いている。

 

 夢を見ている僕がいた。

 世界を見つめる影がいた。

 

 どちらも見ていてどちらも観ない。

 そうしなければ保てなかった。

 

 時折、彼女が僕の独房に顔を出すことはあっても他の人間は訪れない。

 

 食事すら必要のなくなった僕の身体。

 僕は一体……なんなんだろう。

 

 思考をぐるぐる繰り返す。

 鬼人やカイは語りかけても返事をしない。

 もう……いないのかもしれない。

 

 それでも世界は進んで行って、致命的な時を迎える。

 

 朧げな意識の中、影から見えた光景。

 彼女が……ミッドナイトが……睡さんが。

 蟲に殺される光景。

 

 骨を折られ、肉を抉られ、血を流し、皮膚を焼かれ、原型も留めなくなった彼女。

 だとしても僕は今ここで彼女に包まれている。

 

 どれだけ辛い現実があってもここには僕の求めるものがあった。

 身体は触れられなくても確かに彼女はここにいる。

 

 だから、僕は変わらず夢をみる。

 彼女の望むままに。

 彼女がここに訪れるときまで「待っててね」その一言を心の支えにしながら――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 何やらうるさい。

 外から何かが壊れる音が何度も聞こえる。

 やめてほしい、ここは僕と彼女のセカイだ。

 

 破壊音と共に壁がピシリとひび割れる。

 彼女がここから抜けていく。

 僕を保っていた最後の理性が消えていく。

 

 壁がガラリと砕け落ちて蟲が入ってくる。

 

「――んだよ、こん中に何があると思ったが、ガキ一人しかいねぇじゃねぇか」

「まじかよ、厳重だったからなんか良さげなもんがあると思ったんだがなぁ――」

「とりま、イラつくしこいつ殺さね?」

「――お、さんせー。ずっと閉じ込められててむしゃくしゃしてるし、仕方ないよな」

 

 この世界から彼女が抜けていく。

 

「つか、ちょっと空気悪いな」

「お前の個性で吹き飛ばせよー」

「ったく、しゃーねーな。ほぉ、ら、よっと!」

 

 風が吹く。

 僕を包んでいた彼女が消えていく。

 理性がこぼれ落ちる。

 

 僕を包んでいた彼女が消えた。

 

 ――ぁぁ、どこ……?

 ねむるさん、どこにいるの……?

 

 右肩に熱を感じた。

 どうやら、何か投げられたらしい。

 

「お、ヒット!

 このままダーツみたいに遊ぼうぜ」

 

 まるで遊ぶように次は左肩に、右足に、腹に、左足に次々と矢のようなものが突き刺さる。

 

「へへっ、やりぃ!!

 これ高得点点じゃね?」

 

 

 

 僕は寝ていたかったのに……

 その痛みで覚醒させられる。

 

 彼女がいない。

 そのことに僅かに残っていた理性を失いながら……

 僕は――目を開いた。

 

 ――ぁ、蟲だ。

 潰さなきゃ。

 

 ここは明るかった。

 僕の個性が使えないように全てが光源で囲まれていた。

 だけどそれはもう失われた。

 だからここには――影がある。

 

 影は僕の意思に従って動く。

 

 逃げられないようにしなきゃ、ね。

 

 それはそこにいた全ての蟲の後ろ足を握りつぶした。

 聞くに耐えない不協和音、キィキィ、カサカサ、ゴソゴソと蟲が喚いている。

 

 僕は起きたくなんてなかったのに、彼女がいないことに耐えられないから眠っていたかったのに――

 

 あぁ、だから蟲は嫌だなぁ。

 

 後ろ足を潰したし次は――

 

 蟲たちは地面に這いつくばりながら不快な音を立て前足をつかって逃げようとしている。

 

 前足を、潰そうか。

 

 影を操り這いつくばっている蟲の前足を……潰した。

 

 気持ち悪いし汚いなぁ……なんか液体出てるじゃん……

 

 そんなことを考えながら蟲が喚いているところに向かう。

 

 何やらそれは視線を向けてこちらに何か訴えているようだった。

 キィキィと……とてもうるさい。

 

「……?

 あぁ……ごめんね。蟲の言葉は分からないんだ。

 僕は、人間だから」

 

 だから頭を潰した。

 何やら大きな絶叫をあげてぴくぴくと何度か動いた後その蟲は動かなくなった。

 

 少しだけ気がすっとした気がした。

 

「――なんか、少しすっきりするな」

 

 汚いものがなくなったからかもしれない。

 なら、僕のやるべきことは――

 

 蟲をこの世から無くすこと……だよね?

 ――睡さん。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 まだいっぱい蟲がいる気がして僕は紫安刑務所を歩いた。

 やっぱり蟲はいっぱいいた。

 どこから出てきたんだろうってくらいたくさんだ。

 それを一匹一匹すり潰した。

 

 蟲以外の人もいたりした。

 でもその人達は皆死んでしまった。

 たまに呼吸をしている人もいたけど……

 出血多量だったり、同じ言葉を繰り返していたり狂ってしまった人ばかりで助けられなかった。

 

 僕のことをヴィランだと言うんだ。

 僕は善意で害虫駆除してるだけなのに……

 変なことを言う人だなと思った。

 

 そろそろこの刑務所に動いているものも少なくなってきた。

 蟲が人かはわからないけど蟲なら潰せばいいし、

 人なら助ければいい。

 それだけだよね。

 

 僕は歩く、誰もいなくなった刑務所を。

 ぺちゃぺちゃと赤い水に足を濡らしながら歩き続ける。

 

 数時間……あるいは一日中歩き回ってやっと自分以外の動くものがなくなった。

 

 ふと疲れて、足を止める。

 ここは……刑務官の部屋だろうか。

 

 そんなことを考えながらそこにあったモニターを眺める。

 

「――あれ、まだ蟲いるじゃん」

 

 僕はポツリとそう呟いた。

 

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