推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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お待たせしました。
さらに執筆が楽しくなってきたかもしれないこの頃。
筆のノリが…素晴らしい。

ではどうぞ。
この世界があなたの退屈を少しでも紛らわされたら幸いです。


78話 解き放たれた影の魔物

 

 蟲が外にも沸いていることに気づいた。

 モニターにニュースが流れていたからだ。

 ヒーローが戦っていたし苦戦しているのだろう……

 それに……影を除くと緑谷くんの、A組のみんなの姿見えた。

 

 

 ただ……睡さんがいない。どこにいるんだろう。

 

 そう気になって、だから僕は外に出ることにした。

 

 刑務所から出ようとすると何故かヒーロー達に襲われたけど……まぁ痛くもないし、どうでもいいや。

 

 あぁ……でもヒーロー達の間にいた不恰好な蟲もどきはなんだったんだろう……

 

 ……あ、そうだった。

 なんか、第二次決戦が如何とかって……いってた記憶あるな……

 そこに蟲がいっぱいいるのかな。

 

 ……なら、ちゃんと潰さないと――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 えーと……第二次決戦はどこでやって……あぁ、そうだった。

 僕は知っているじゃないか。

 記憶は脳に封じられている。

 一見知らないと思っても僕は識っている可能性がある。

 

 ――原作知識だ。

 カミサマによって封じられているだけで僕の脳には存在している。

 

 

 それなら、と。

 自分の頭に手を差し込み脳をかき乱した。

 

 封じられているなら直接それを解き放ってしまえばいい。

 観測の個性、触れる個性、それがあればできるはずだ。

 カイは、僕の枷をそうして外したはずなんだから――

 

 

 ただ……欲しい情報は……確かもっと奥、かな。

 

 ぐちゅり、とさらに奥へ腕を進ませた。

 

 ――あったあった。

 ……たしか……そう、群訝山荘だ。

 あそこに害虫のボスがいたはずだ。

 

 影に視線を向けようとした。

 

 ――んー、でもそれだと情報が膨大だよね。

 あ、目を落としたらいんじゃない?

 目を行きたい場所まで影で運ぶんだ。

 

 そうすれば見えるじゃん……

 

 そう思い、すぐさま自身の眼球を抉り取った。

 そしてそれをぽとん、と足元の影に落とす。

 その瞳は静かに沈み、視点は群訝山荘の影へと移動していった。

 

 

 僕が観たAFOは蟲とヒトが被さったように見えた。

 それどころか最後に見た時よりも外見年齢が若くなっている。

 今は……壮年期と言ったところか。

 

 ……いや、それだけじゃない。

 その姿の後ろにはそれを呪っているように数多の影が虚ろに漂っていた。

 

 ……あぁ、そうなんだね。

 そいつが憎いんだね、うん。

 ちゃんと僕が潰すから、安心していいよ。

 

「――なら、行こうかな。

 蟲は綺麗に潰さないと……」

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 僕は置換の個性でAFOのいるここまできた。

 数多のヒーローが、ヒーロー訓練生が命を燃やしてアレを止めようとしている。

 ……あぁ、でもそろそろだめかもしれない。

 ヒーローすらも蟲に見え始めてきた。

 

『これまでのリスクヘッジを放り出してでも止めたいと……

 そうか、そうか……フフ……』

 

 そうしてAFOは皆に複合した個性をぶつけ始めている。

 

 ……アレは良くない。

 ……あぁ、ダメだ。

 

『この期に及んでまだ、どうにかなると思っている。

 僕に唯一届いた男を欠いて尚!』

 

 ちょっと準備が必要そうだ。

 影を少しずつ集めて収束。

 はじめてやるから上手くできるか分からないけど……

 それを捻り重ね、束ねる。

 

 ……ほら、これで即席の槍の完成だ。

 名前は……うん、贖影だ、上手くできた。

 

 ――いや相変わらずお前ネーミングセンスねぇのな。

 

 昔誰かにそんなことを言われた気がした。

 

『だが……個性を奪われる事を恐れ近付けない。

 もういい、君たちの行き着く先は――――』

 

「闇ニモ、色ンナ味ガアル」

 

 あ、そうか。

 常闇くんがいるのか。

 

「おまえが」

 

 なら、これをあげるよ。

 

「闇を語るな」

 

 ダークシャドウならこの贖影を使えるはずだし。

 

「お前が生んだドブのような味の闇なら――」

 

 うん、闇も影も似たような物だよ。

 

「皆デ、モウ、喰ッチマッタ」

 

 

「……さ、常闇くん……」

 

 ――よかった。

 まだクラスメイトは蟲じゃない。

 僕はまだ、大丈夫だ。

 

「っ――、これはッ!

 誰か知らんが感謝する!!

 行くぞダークシャドウ……!!!!」

 

 巨大な闇と化したダークシャドウが贖影をつかむ。

 さらに風も彼を後押ししている。

 

「――深淵闇躯光明影槍!!!」

 

 闇と闇がぶつかり合い。

 世界が白に染まる。

 

 さ、て……

 こんなのでやられるはずないよね。

 蟲はちゃんとすり潰さなきゃ。

 

 僕は置換の個性で奴の背後へと移動した。

 

『……やはり力で……

 ゴリ押ししてくる奴は――』

 

「……うるさいんだ、蟲がいつまでも鳴くなよ――」

 

 その蟲の影を使い、身体を縛りつける。

 

『――なっ』

 

 あぁ、やっぱりこの蟲は強いんだ。

 ここまでの出力が出たのは初めてかもしれない。

 影は本体の力だ強ければ強いほど力を増す。

 これほどの力だ、流石AFOといったところ――

 

『……影、か……ならこれだな……

 まさかこんな個性が役に立つとは――』

 

 目の前の蟲が光った。

 

「ッ……!!」

 

 なっ、発光する個性――!!

 

『その個性は便利そうだ――もらっていくよ』

 

 僕はやつに触れられた――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 ぼくは――につくられた。

 ぼくには何もなかった。

 だから、いろんなものが欲しかった。

 色、光、願い、力、感情、祈り、意志。

 その力を――は与えた。

 

 僕は記憶を得た。

 力を得た。

 身体を得た。

 存在を得た。

 希望を知った。

 痛みを知った。

 願いを、感情を知った――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 個性が無くなった、それを直感的に確信した。

 そしてそれと同時に抜けてはいけない大切な何かも消えた気がした。

 

『……あぁ、ダメだなこれは……』

 

 蟲の腕が、身体が、頭が、膨れ、弾け、治る、

 それを繰り返している。

 置換の個性を奪っただけでなぜ……?と言う疑問が一瞬頭にちらついた。

 

 

『戻す……しかないか……』

 

 胸の奥が空洞になる。

 自分の何かが抜け落ちた――それを確かめる暇もなく、腕が僕を貫いた。

 

『さぁ、その個性は返そう……僕には使えないみたいだね……』

 

「――」

 

 だけど僕の身体は勝手に再生する。

 何か……違う、今までと違う。

 直っているんじゃなくて、壊れたまま直されている感覚。

 これは――

 

『面倒だな――』

 

 目の前の蟲は一息嫌そうにつくと小さな声で何かを言った。

 

『マキア、こいつを相手しておけ』

 

「――」

 

 ……今、なんて言った……?

 

 マキア、マキア……?

 ――さん、の仇だ。

 

 いや、――さんは死んでない。

 死んでなんて――

 

 僕は見ていたはずだ。

 夢現であったとしても、彼女が殺される場面を――

 

 死んでなんていな――

 

 僕は、みた。

 

 あ、ぁあああぁぁぁ……

 怒りと悲しみ、無力感と絶望が僕を嬲る。

 個性そのものと意識がまるで別物になったように。

 "その事実"を認識してしまった瞬間、僕は自身の身体から弾かれた――

 

『僕は先に行く。

 こんなのを相手していたらいつまでも時間が足りない』

 

 身体から影が溢れる。

 肌は黒く染まり膨張した。

 頭部には角が生え、額には三つ目の目が開かれた。

 

 今までとは全く違うぼくがそこにいた。

 僕は……僕の意識は影に落とされていた。

 

「――――」

 

 酷く壊れたぼくを僕は別の視点から観ている。

 ここは、影の中だった。

 

 外のぼくはここから離れようとするAFOをその場に贖影で串刺しにした。

 そしてマキアと呼ばれた巨大な蟲のところへ駆け出す。

 

 そのぼくはまるでそれが見るに耐えないとでも言いたげに影で拘束し、その影を使って一瞬で圧死させた。

 

「――――――――!!!!」

 

 そして、次の獲物を……と辺りを見渡す。

 

 嫌な予感がした。

 ここに落ちてから朧げだった思考力や理性が少しずつ戻っている。

 

 

 外のぼくの視線が固定された。

 ここに蟲は二人しかいなかったはずだ。

 

 ぼくは、その溢れるようにいる人たちを見て、満面の笑みを浮かべた。

 

 ――やめ、て。

 

 

「――ッ、ダークシャド――」

 

 影を纏った蟲が潰された。

 

 違う、違う、ぼくじゃない。

 

「ッ、常闇く――」

 

 翅の生えた蟲の上半身と下半身が分たれた。

 

 とまれ、とまって、いやだ。

 

「――みんな――!!」

 

 イヤホンジャックの生えた蟲の首から上がなくなった。

 

 あああああああああああぁ――!!!

 

 どこか見覚えのある蟲を僕の身体が殺していく。

 視線をずらすことすら許されずに。

 意識しかなく、自殺すらできず、狂うことすら許されない。

 蟲の死に様を見つめ続ける。

 

 ぁぁぁぁぁぁぁぁ――

 

「――ァァ……蟲ガタクサンイル。

 蟲ハ潰サナキャ」

 

 翼を広げた蟲が裂け、

 雷を吐く蟲が痙攣し、

 氷と炎を纏う蟲が真っ二つに割れた。

 酸を滴らせる蟲は溶け、

 舌を伸ばす蟲は千切れ、

 耳のような器官を生やした蟲は首ごと弾け飛んだ。

 幾つもの影が――ただの肉片へと変わっていった。

 

 尾の生えた蟲が、透明な何かを庇った。

 そして、尾の生えた蟲は尾を残して赤い液体になった。

 

 透明な何かは、助けられた直後に――その後を追わされた。

 

 あ、ぁぁあぁぁぁぁぁあああああ――

 

 ぼくは蟲を殺している、そう実感している。

 だけど、僕の中の理性が、これは彼らだと告げている。

 

 ……ぁぁ、いや、だ……見せないで、くれ――

 

 ぼくは彼らを潰しても止まらなかった。

 何もない蟲を、筋骨隆々な蟲を、細い糸になる蟲を、巨大な蟲を、炎を纏う蟲を、足が発達した蟲を、ありとあらゆる蟲を鏖殺していった。

 

 ……僕はその絶望を、ただただ見ている事しかできなかった。

 

 ――僕を、ころ……して……

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 誰もいなくなった日本。

 ……僕は廃墟にいた。

 蟲を潰し尽くしてからの僕は大人しかった。

 

 俯き微動だにもせず座り込んでいた。

 まるで滅びるべき時を待つかのように。

 

 誰もいないはずの廃墟に足音が響いた。

 

 ――あぁ、これはどこかで観たことがあるな……

 

 ふと、僕はそんな既視感を覚えた。

 影の魔物になった僕はもう話すという機能を消失させている。

 

「……ごめんね、隷くん……俺だ、カイだ」

『わりぃな、隷。お前を助けられなくて――』

 

 それでも、その魔物は目の前の蟲/友達を潰そうと動き出した。

 

『「……だから、俺はキミ/隷を助けにきたんだ」』

 

 ぼくは襲う、目の前のカイを……

 だけどカイは観測の個性を用いて避けることを可能としていた。

 

「……そらっ!動き、とめっ、やが……れっ……!」

『まだ慣れてねーんだっつの!!

 ――っ、出来たぞ!!』

 

 カイの身体から火が燃え盛った。

 赤黒く、闇を見つめているかのようなとても怖い火だ。

 

 その炎が、ぼく/魔物の身体を焼く。

 ぼく/魔物も逃げようとするけど……何故か個性を使えないみたいだ。

 

「……さて、と……これが他世界の科学だよ。

 俺は探し出した。個性を封じる科学を……」

 

 ……他世界の、科学……?

 

「まぁ……厳密には違うけど、この脳筋の個性で再現してるだけだし……」

 

「……俺達の世界は常にいろんな可能性があるし今も生まれている。

 だからこのタイミングでみんなが生きていた今もある……逆にヴィランが勝ってしまった今もある……

 だから……科学力によって個性を駆逐した今だって存在するんだ」

 

 個性を……駆逐……した。

 

「……誰が言ったか……人が想像しうる事は全て実現可能なんだってさ」

 

「昔の人は……空を飛ぶことを夢見てた。

 だから飛んだ……今は空だって飛べる」

 

「昔の人は火を自由自在に使う方法を求めた。

 だから……今は簡単に火をつけ……使うことができる」

 

「移動だってそう……車や新幹線……昔はなかった。

 でも人間が作りたいと思ったからこそ……それは叶った」

 

「――さぁ、この個性社会における無個性の人たちは……

 ……個性を持った存在を憎まないと思うかい?

 そんなわけはない、当然憎んだ……でも力がなくては願いは……叶わない」

 

「でもね、人は弱いんだ……いつだって自分が強くなることより他者を弱くすることを目的とする。

 だから、できた……できてしまった。

 個性を封じる科学を、見つけ出してしまった」

 

 …………

 

「それからは、もう簡単だ。

 個性を持った人はそれを封じられて刑務所へ。

 そんな、マイノリティがマジョリティを搾取する世界の完成だ」

 

 ……それは……

 

「これは、そんな世界の罪の結晶。

 君を救うために、俺が探し出した希望の一欠片」

 

「他世界の観測は……さ。

 ……魂を削るんだ……だからこれで最後……」

 

 ……まって、カイ……何を、言って――

 ……なにか、おかしい。カイが――

 

「キミのために、俺ができる最後の……」

 

 ッ――!カイの魂が、薄くなってる……?

 

「ごめん、辛いよね、隷くん。

 戻れないんだよね、今終わらせてあげる」

 

 待って、まだ話したいことがあるんだ。

 

「ほんと、は。もっと……話したいことも……」

 

「……あったんだけど、さ。

 この世界は……キミには辛すぎるだろう……?」

 

「だから、早くしなくちゃいけなかったんだ。

 俺が、他の世界から消えるとしても」

 

 ……なん、だって……?

 消える……?カイが……、消える……?

 

「そもそも、他世界の観測なんて人に許されていい力じゃないんだ……」

 

 待って、何を言って――

 

「ここまで存在が保ってくれて、よかった」

 

 まるで最期みたいな、そんなのやめてよ――

 

「ちゃんと、救ってあげろよ……隷、くん」

 

 救って……

 誰、を……

 

「キミの、推しを……だよ……」

「あ、はは……俺はやったぞ……

 やってやったんだ……俺の推しを、俺が救った」

 

「……すっごい、嬉しいな……これ」

 

 まっ――

 

「……つぎは、キミの番だ――」

 

 

 トン、と背中を押された気がした。

 

 その直後――どこかで何度も聞いた音が響いた。

 

 

 

 




とある少女の◼️◼️

「――あぁ、俺はキミのために死ねて」
 
「本当に、幸せだった」
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