推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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お待たせしました。
だんだんと分量が安定してきましたね。
このくらいなら週一で上げられそうです。

楽しんでいただけらば幸いです


80話 血換

 

 

 尾白くんと葉隠さんは僕に引き離された後も何度もこっちに来ようとした。

 だから、僕はこの場所と尾白くん達を影で遮った。

 こっちにこれない様に、こんな血生臭い世界を、まだ知らなくてもいい様に――

 

 影を叩かれている、何度も何度も叩かれている。

 

 その間も僕は梢から目を逸らせない。

 いつ襲われるかもわからず……緊張のせいか額から汗が落ちた。

 

 二人は何度も壁を破ろうと挑戦した。

 それでも、突破できない、とわかり諦めたのだろう。

 影から見えた景色は彼らが立ち去る姿だった。

 

 ……よかった。

 やっと、逃げてくれた。

 何度も振り返ってるけど……いいんだ。

 二人は逃げて、ちゃんとしたヒーローにならなきゃ……ダメだ。

 

「もう、ええかな……?」

 

 ……待って、いた……?

 

「お邪魔虫も消えたし……ほな……やろか、隷くん」

 

 ……何かを、企んでいるはずだ。

 無策ならあの二人を逃す時間をくれるわけがない。

 

「そもそも、立場っちゅうもんを理解させんといけなかったんや」

 

 梢が一歩踏み込む。

 それと同時に世界が闇に染まり梢が目の前から消えたように感じた。

 

「……消えた?」

 

 梢が消えた、次の瞬間に――

 僕は髪を掴まれ地面に叩きつけられていた。

 

「うちが、上で、キミが下や――」

 

 頭皮が切れ、頭蓋が砕け血が流れる。

 

 なん……で、梢にこんな力、は――

 

 梢に髪を引き上げられ無理やり顔を上げさせられた。

 こんなに、力が強いはずが――

 

「うんうん、いい面んなったわ」

 

 ……いや、いまはそれより離脱しなきゃ――。

 頭部の傷もすでに再生している。

 …なのに、視界が重い。空が暗い。

 いや、夜なんかじゃない。

 これは――

 

「――このッ」

 

 右拳でのストレート。

 あいつの動体視力なら――

 

「おっと――」

 

 黒い手が僕の手を掴んでいた。

 

 

「――なっ」

 

「危ないわぁ……こんなおいたする手は潰してまお」

 

 じわりじわりとなぶる様に力を加えられる。

 バキリ、という音と共に僕の手は握りつぶされ骨が皮膚を突き破り血が滴った。

 

「ぐ、がぁぁぁッ」

 

 左手でやつを叩くが効いている様子がない。

 それどころか、世界が暗く……肌も黒い――?

 

 ……既視感を覚えた。

 

 黒、い……?

 これを、どこかで、見たことがある――?

 

 どこだ、どこで見た。

 このループじゃない。この前、いや……そのさらに前の時間軸……?

 

 ……黒い手、影に染まった肌。

 どこかでみた……既視感。

 あれは――シャドウが使い、僕が使ったものだ。

 

 影人さんが試験会場で影を空間に展開していた。

 そして、彼は通常ではあり得ない膂力を獲得していた。

 

 ――あれが個性によるものとするなら……

 

 影の強さは僕が誰よりも実感している。

 さっきから影の個性を使おうとしても相手に空間の優位性があるみたいで動きすらしない。

 

 そして……僕も過去あの腕と似た状態になったことがある。

 その時は事実、膂力はかなり増大していたはずだ。

 

 その組み合わせ、だからこそのこの力かっ――!

 

 だが、梢の個性は共鳴……

 いや、共鳴だから、だ。

 

 彼の意識を奪って自身の身体を影人さんの身体と誤認させて個性を使っているのか……?

 だから、今ここにシャドウがいなくて……梢が力を振るっている……理由はわからないがそう外れてはいないはずだ。

 

 まずは距離を、と――

 

 僕の瞳に熱が走り視界が消える。

 世界が暗い、これは……影に包まれているだけではない。

 

「……こ、れは……」

 

「……だめやよぉ?逃げちゃ、いま、逃げようとしたやろ……?」

 

 ぐちゃり、ぐちゃりと眼球が眼窩からこぼれ落ちそうになる。

 

 痛みはなかった。

 ただただ両眼に熱さと圧迫感を覚えただけだった。

 

「お仕置きやなぁ、しばらく何も見えん様にしたる」

 

 影を引き抜こうとしても触れられない。

 そもそも実体がない。

 ――眼球に達した部分だけ実体化させているのだろう。

 

「……うんうん、やっぱりこうやわ」

 

 だんだんと自分が壊れているのを実感した。

 痛くない……とは言っても眼球を抉られている。

 それにも関わらず冷静に思考を巡らせる。

 

 常人じゃない、と少し笑みが溢れた。

 

「……?」

 

 見えなくても、梢が目の前にいるのは分かっている。

 気配がある、そして、呼吸も聞こえる。

 視覚を奪われたとしても聴力は奪われておらず、触覚、嗅覚も無事だ。

 なら僕は、そこに攻撃すればいい。

 

「おーい?隷くーん?痛ないの?」

 

 目は見えずとも気配は感じる。

 置換も、観測も、影も個性は使えずとも僕にはまだ一つ。

 力、制御するのすら難しい並外れた膂力がある。

 今の梢は油断しているのが丸わかりだ。

 なにせ、上機嫌に鼻歌を歌いながら人の眼球を傷つけ続けている。

 ……少し、寒い……そんな気がしたが、今は重要じゃない。

 

 ――殺さない様に、と言ってもさっき見えたあいつの身体は腕だけではなく全身が黒く染まっていた。

 

「反応なくて、つまらへんなぁ……」

 

 なら、防御力も十分だ。

 攻撃をするならどこか……即死させず、後も残りにくい、されど骨に守られていない――それは、腹だ。

 

「つまらへん……から……もう一箇所やら――」

 

 腹はただ筋肉に守られているだけ。

 全力で殴れば影の装甲すら貫通できるはずだ。

 

 僕の拳が解き放たれたその瞬間、影が目の前を通り過ぎた気がした。

 

「――が、ぁっ」

 

 ――当たった。

 目は見えずとも、触覚と聴覚がそれを教えてくれる。

 これで、距離が少しでもとれるなら――

 ――あ、れ……?梢が僕の前から消えていない。

 なんで――

 

「――いったいわぁ……」

 

 しかし、当たったはずの梢は声に痛みを浮かべてはいなかった。

 

「――な、んで……」

 

「…………あぁ、気づいてへんかったんね。

 今の隷くんの状況……」

 

「……状、況……?」

 

「あ、そかそか……忘れてたわ。

 うちが視力奪ったんやった……」

 

「キミは今、どれだけの血を流したとおもう――?」

 

「血、だと……?」

 

「痛みがない?あぁ……そやろな。血が足りんくてそんなもの感じる余裕がないはずや」

 

「何で、それを――」

 

「あぁ、その個性は"血換"ちゅうんや」

 

 ……血、換……?

 なにを、言っている……

 あ、れ……声が……でない。

 

「AFOから受け取り、シャドウに植えつけた個性」

 

 ……AFO……

 

「裏切りを防ぐためなんかね、万能な再生じゃなくてそれを、よこしよった」

 

「その個性は、血を怪我の修復に当てている。

 そして幸か不幸か変換効率がめちゃくちゃええんよ」

 

「それこそ、腕の欠損ですら……そやな、血が10mlでもありゃ治せるくらいや」

 

「せやけど、怪我をして身体から血を流して、治すのに血を失って……さぁて、隷くんの中にはどれだけの血が、残ってるんやろねぇ……?」

 

 …………

 

「とはいえ、便利やろ?……ただし、血がなきゃ何もできん。今のキミんみたいにね?」

 

 

 その言葉が耳に入ると同時に僕は地面に倒れ込む。

 僕たちを覆っていた影が消え、視界が明るくなった……でもそれだけだ。

 ……霞んでいてよく見えない。

 それに、寒さに身体が震え力が入らない。

 僕が倒れているここにある液体の方が熱く感じるくらいだ。

 

 ……鉄、臭い……?

 

「その個性な?どれだけ持ち主が怪我しても治すんや、それこそ血が無くなるまで――」

 

 何かを言っている。

 ……あぁ、そうだ。

 こいつは、敵……たおさ、なきゃ。

 

 右腕を水溜まりのある地面に立てる。

 身体を起こそうとしても力が入らず僕は再び崩れ落ちる。

 

「――ぷふっ……アハハハハハ!!!」

 

 笑い声……?

 

「おもろいんもん見してもろたわぁ……

 それじゃ、そのままキミが息絶えるのを眺めさせて貰うわ」

 

「次の世界で――また、会いましょか――」

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 俺は目の前にできた黒い壁を殴る。

 渾身の力で何度も何度も、殴り続ける。

 

「お、尾白くん!!

 や、やめて!手が真っ赤になってる……!!」

 

「だけど、このままあいつを置いていけねぇよ!!

 ……何かしらねぇけど……俺、あいつを怖ぇって思っちまったんだ」

 

「逃げたら俺はヒーローになれなくなる。

 友達の一人も助けられずに何がヒーローだ」

 

「……尾白、くん。

 わたしも……わたしもね、なんか……置換くんが近くに来た時……身がすくんだんだ……」

 

「なんでか、わかんないけど……ビクって怖くなんてないはずなのに、怖いの……自分がわからないよ――」

 

「葉隠、さん……」

 

 そう、なよな。焦るのは自分だけじゃない、辛いのも自分だけじゃない。

 ……ダメだ。この黒い壁は俺たちじゃ壊せない、それを認めよう。

 

「ごめん、わかった。

 別の方法を探そう」

 

 そうしていると黒壁の奥では破壊音が鳴り響き始めた。

 

「わりぃ、すぐ戻るから……待ってろ、置換――」

「わ、わたしも、行く……ごめんね、って謝るんだ、置換くんに――」

 

 

 

 ♦︎♦︎

 

「でも、どうしようか……

 あの感じ……梢、さんってヴィランなんだよね……

 ヒーローに助け求めようよ!」

 

「……あぁ、そうだな、焦ってたわ。

 そうしよう、葉隠さん……頼んでいいかな……?」

 

「うん!任せて!」

 

 葉隠さんはスマホを取り出すと近場のヒーロー事務所に電話をかけ始めた。

 

 三コール程すると相手が出た様で葉隠さんの表情に笑みが浮かぶ。

 

「あ、もしもし……いまミッドナイト事務所にヴィランが出て……助けてください!!」

 

「――え、今同時に色んな箇所でヒーローが駆り出されて時間が、かかる――?」

 

「それじゃ、ダメじゃねぇか……」

 

 どうする。どうしたらいい。

 黒壁を壊す……それはできなかった。

 では、下からならどうだ――?

 穴を掘って、下から黒壁を越える。

 

「そうだ――!これなら……」

 

「わ、どうしたの?急に大きい声出して……」

 

「説明は後だ!!今は戻ろう、葉隠さん!!」

 

 

 そう言って俺は黒壁に向かって走る。

 黒壁に近づけば近づくほど辺りが嫌に静かになってくる。

 

「……物音が、消えている――?」

 

「尾白……くん?」

 

 そして、壁のあった場所へ辿り着く。

 

「待て、壁もないぞ――」

 

 俺たちを分けていたあの黒い壁がなくなっていた。

 なぜ、なくなった?

 なぜ戦闘音が消えた?

 戦闘は終わったのか…………?

 

 そして、俺は葉隠さんと先に進んだ。

 

 その夕日に照らされた静かな世界に映った光景は――

 

「きゃぁぁぁぁぁ――!!!!」

「な、お、置換――!!!」

 

 その先で見たのは血の池に沈む隷と、

 ……それを眺めているヴィランだった。

 

「お、ま……ぇぇぇぇ――!!!」

 

 俺は梢に向けて走り出していた。

 尾を地面で弾き、まるで弾丸の様な速度でヴィランに迫る。

 

 怒りに呑まれたことを除けばその頭部に完璧な一撃が決まったはずだった。

 

「……ん?

 あぁ――またブンブンと耳元で五月蝿いからに……」

 

「キミらいたら……せっかくおもろいもん見とんのに、しらけるやん……」

 

 後ろにいる葉隠さんに視線を向け、彼女が頷いたのを確認した後、連続で正拳突きを撃ち放つ。

 

「うぉぉぉぉぉおぉ――!!!」

 

 よくも、よくも!!

 俺のダチを!!!!!!!

 

 呼吸も忘れどれだけ殴っただろうか、呼吸を整えるために後ろに下がり距離を取った。

 

「――はぁ……もう、ええ?」

 

「はぁっ……はぁっ。

 ――え?」

 

 効いて、ない――?

 

 俺は葉隠さんが置換を運んだ方へと飛ばされていた。

 

「おじ――きゃっ……!」

 

 葉隠さんにぶつかり、葉隠さん、置換と俺の3人で倒れ込んだ。

 

「くっ……だい、じょうぶ……か?」

「う、うん……私は大丈夫、だけ……ど……」

 

 置換は顔が青白かった。

 首に軽く触ったが肌が冷たい。

 微かに脈は動いているが……それももう止まりそうだった。

 

「……置換ッ!」

 

 出血多量、この場合の処置として適切なのは……なんだ?

 

「わりぃ、葉隠さん、

 心マ……いや気道確保と止血頼めるか……!?」

 

 少しずつ腹部の傷から血液が流れ出ている。

 心臓マッサージをするのは呼吸が止まってから……のはずだ。

 今止めなくてはいけないのはそこから血液が抜けることを防ぐこと――

 

「――任せて!

 絶対、死なせないんだから――!!」

 

 

 ただ止血……葉隠さんは手元に布がない……

 そのことに気づきジャケットとネクタイを解き渡した。

 

「使ってくれ、圧迫するために必要なはずだ」

 

「あ、うん……ありがとう!!」

 

 さて、これでとりあえず任せておけるはずだ。

 

「――待たせたな」

 

「……?……ええよ?……おもろい見せもんやったわ。

 あんなに怖がってたのに今は助けようとするんね。

 それが、おもろくておもろくて――」

 

「――おもわず、まじまじと見ててしもてん」

 

「――お前」

 

 なんだ、コレは……本当に俺たちの知っている梢、さん……なのか……?

 

 こんなやつと俺たちはさっきまで居たのか――?

 

 少なくとも、状況はこいつがヴィランであり、置換をあの状態に追いやった本人であると示している。

 

「もし、違ったならそう言って欲しい。

 俺は、さっき殴りかかったことを謝らなくちゃ……いけない……置換、は……お前がやったのか……?」

 

「――?何言うてん。

 うち以外誰がやるんよ」

 

 再び視界が赤く染まった。

 そうだ、これがヴィラン……

 自己の快楽のために人を傷つけて、何も感じない破綻者――

 

「――そうか。

 なら。もう何も言わねぇ。

 ……お前を、倒す」

 

「――アハっ、何いうてるんだか……

 蟲風情に何できるん言うんや――」

 

 ただただこいつを倒すこと以外何も考えていなかった。

 それが功を奏したのだろう。

 俺は無意識下で動いていた。

 

 流れるように尾で地面を弾き、気づけば梢の眼前に迫っていた。

 

「――なっ」

 

「――シッ」

 

 呆然とした表情をしている梢の腹部、胸部、上腕、顎下に一撃ずつ拳を叩き込む。

 コレほどまでスムーズに攻撃できたことはなかった。

 

 ――あぁ、怒りは確かに人を強くするんだな……

 

 普通であれば……コレで終わるはずだけど――

 

 

 俺は残心をしながら梢から距離を取った。

 

 ――はずだった。

 

 足が、黒い何かに掴まれていた。

 

「――なん、だ……ッ!!」

 

「いややわぁ、こんなに色んなもんくれたんに……

 こっちのお返しも、受け取ってぇ――な!!!」

 

 攻撃の気配に咄嗟に尾を身体の前にのばしていた。

 

 梢から放たれた拳が尾を打ち砕きながら俺の腹部へと衝撃を伝える。

 

「――がッ……」

 

 そして俺は吹き飛んだ。

 受け身を取ろうにも衝撃が強すぎる。

 姿勢を整えられない。

 

 バシャリ……という音と共に俺は地面に叩きつけられる。

 

「かっ……はっ――」

 

 痛みもあった、それでも俺はここが少し気になった。

 

 ――水……?

 いや、これ、は……鉄臭い……

 なん――

 

「――血、だ」

 

 わずかにその血が蠢いたような気がした。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 なんで、なんで、止まってくれないの――!!

 

「止まってよ、止まって、お願いだから!!」

 

 ……ダメだ、止まってくれない……

 いや、諦めちゃダメだ、葉隠透!

 ここで諦めたら置換くんが死んじゃう――

 

「なん、で――いつもいつも、わたしは――」

 

 透明になるだけしか出来ない。

 

「……」

 

 呼吸もだんだんと弱くなってきた。

 彼の体温がさらに下がった気がした。

 

 尾白くんの呻き声が耳に入り振り返る。

 

「――ガハッ」

 

 まるで蹴鞠のように梢に蹴られ吹き飛ばされた尾白くんがこちらに飛んできていた。

 

「――尾白くん……!!!」

 

「受け止めないと……」

 

 でも尾白くんが、置換くんにぶつからないように…

 私が前に、立つんだ。

 

「ぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 とても重い衝撃、身体中が悲鳴をあげている。

 蹴られた衝撃、尾白くんの体重が全てわたしにぶつかる。

 

 でもやっぱり、わたしじゃ受け止めることはできなくてわたしと尾白くんは置換くんの寝ている場所へ崩れ込んだ。

 

「……っ、ぁ……」

 

「――、ま、だ……だ」

 

 わたしは身体に力が入らず起き上がることすらできない。

 でも震える足と尻尾でゆっくりとしかし確かな足取りで尾白くんは立ち上がった。

 

「お、まえ……は倒さないと――」

 

 尾白くんは全身から血を流している。

 怪我のないところなんてほぼない。

 そして、彼が立ち上がったその時……拳を伝って血が置換くんに落ちた。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 置換の咳き込む声が聞こえた。

 

「――ガハッ、ゴホッ」

 

「どうして……?」

 

 置換はなぜ今回復した?

 さっきまで死にかけていたはずだ。

 でも今の呼吸は安定して身体の傷も塞がっている。

 

「い、ま……見えたよ。

 尾白、くんの……血が置換くんの、口に――」

 

「――!!」

 

 もしかして、そうなのか……?

 置換がなぜそんな個性を持っているのか分からないけど……可能性があるなら――ッ。

 

 右の拳に全力で力を込める。

 そして、置換の口のそばまで持って行った。

 

「いい、か……飲め、置換。

 もしかしたら――」

 

 隷の唇がピクリと動き、喉がごくりと鳴った。

 

 何故?やっぱり、と思う暇もなく置換の身体が再生していく。

 俺にあったのは安堵だった。

 コレでこいつは死なない……と。

 

 

「はっ、はっ、は…………な、んで……ふたり……とも、いる……の……?」

 

 置換の声が聞こえた。

 

「おまえ、意識が……!?」

「――置換、くん……!!」

 

「わりぃ、葉隠。

 何も言わずに血を置換に……」

 

「?……あ、うん……!!待ってて――」

 

「ふたり、とも……何を――」

 

 そして葉隠さんの手から滴るそれを置換の口に流し込んだ。

 

『――やっと……繋がったぜ』

 

 そんな男の声が聞こえた気がした。

 

 

 

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