自分はやはり呪術割と好きなんだなぁと…だけ
言いたいことは多分読めばわかるかと……思います……えぇ…はい。
それではお楽しみいただければ幸いです。
「――お前は――誰だ――?」
僕だって信じたくはない。
でも僕の中から湧き出る嫌悪感。
それがこれが睡さんではないと叫んでいる。
「何を言ってるの?」
無駄だよ……理解したくなくても僕はお前がそうじゃないと察してしまった。
「そんな事を聞いてるんじゃない。
お前は……睡さんじゃない」
「――違うわ、私はヒーローの香山睡」
「――違う……
……外見や、魂の輪郭そうかもしれない。
それでも――僕の中の"何か"が違うと声を上げてる」
「――」
「お前は、彼女じゃない。
取り繕っても無駄だ。
……睡さんを、どうした――!!!」
「……ぁひゃ、」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!
……なぁんでバレたんやろねぇ……?
今度はかる〜く記憶も見たし、バレる要素なかったはずやねんけど……」
僕が、あの人の違和感に気づかないわけがない。
彼女を誰よりもずっと観てきた。
「そもそもの違和感……
一つ目、一時とはいえ一緒に暮らした僕が服装に違和感を抱いた。
二つ目、呼び方が違う、あの人は僕を置換くんと呼ぶけど隷くんとは呼ばない」
「そして……三つ目、コレが致命だ。
時折出ていた、関西弁……あの人はそんな話し方をしない――」
「――あー……そっかぁ……
前回の身体、長かってんからなぁ……
口調が移ってもうたかぁ……」
「だから、お前は……」
そう、こいつは――
「お前は――梢……だな」
目の前の相手はあっけらかんとした表情で言葉を返す。
「せや……うちやで……?」
心臓が冷たい鼓動を打つ。
頬を、一筋の汗が伝う。
「ただ……うちは思うんよ。
そんな呼称に意味はあるんか?って。
少なくともこの身体は間違いなくミッドナイトのもんやし」
「……、この身体――?」
こいつが、睡さんの身体を奪った……?
――なぜ、気づかなかった。
僕の身体を奪おうとしていたと言うことは、
奪う手段があった。
事実梢もそう話していた。
なら、僕以外の身体を奪うことだって――
「なん、で……睡さんの、身体……を」
「うん……?いや、だってあのままじゃうち捕まってまうし……
それに……こうした方が、キミ……いい反応するやろ……?」
「――僕の……」
……僕の、ミスだ。
僕は睡さんに梢のことを伝えれていない。
だって、話す時間なんてなかっ――
「……ぁぁ、いいわぁ。
その反応、それが見たかったんや」
違う、それは言い訳だ。
だって僕はあの瞬間止められたはずだ。
鬼人が消えたから、思考が働いていなかった。
そんな言い訳意味がない。
「うちな、あの時からずぅっとやられたとこ痛かったんよ。
で、お返ししようと思て……ずっっっと、キミんこと考えとった。
我ながら……恋する乙女みたいやったわ。
キミんには……ね、できるだけ苦しんで欲しいんや」
僕の責任、僕が……
元に戻せないのか……?
でも恋人の身体を乗っ取られた松戸は無理だった……と言っていた気がする。
だからこそ、梢を殺すことで恋人を取り戻そうとした……そうだったはずだ。
……それでも、僕は彼とは違う……まだ……戻れる。
そう、そうだ。
僕は時間の逆行ができる。
あの瞬間に戻れたら……まだ、間に合う。
――戻れ。戻れ、戻れ……戻ってくれ……!!!
頼む、戻ってくれ、やり直せる。
僕にはその力がある。
だけどどれだけ願っても僕は戻れなかった。
なんで戻れない。
もしかして……白い空間、あそこに行かなくちゃいけないのか……?
あの時は……どうやって行った……?
そもそもあの時と、何が違うんだ……?
「――今のキミは独りぼっちや
カイもおらず、鬼の小僧もおらん。
恩師も――ねぇ?」
梢の言葉で気づいてしまった。
「――あ……」
カイが、いない。
鬼人も、いない。
僕は二人が消えてから二人の個性をうまく使えなくなった。
観えないから戻れない……?
……あぁ、そうだ。
今の僕には世界を外から観ている、
あの漫画を読んでいる、世界を上から見ていた様な全能感が今はない。
だから……戻れない。
そもそも、なぜ戻れたのか、それも分かっていない。
二人がいたからできたのか、あるいは別の因子があったのか。
「うちの個性で乗り移ったってことはこの中身はもううちに溶けて消えとる」
梢が何かを言っている。
「だから……この中身とはもう会えへんよ――?」
「……嘘だッ……!!」
こいつは嘘をつく。
「ホンマやねんけどなぁ……」
「ま、嘘やと思うんなら試しにうちここから出てみよか?
そしたらこの身体は中身がなくて死んでまうけど……なぁ?」
……死ぬ、死んでしまう……?
一つだけ、一つだけ戻れる可能性を思い出した。
もしかしたら、そう。
もしかしたら程度、失敗すればもう戻ることのできない可能性。
あの最悪のカミサマを信じる、そうすることで開かれる道――
「――」
自分では何かが足りなくて、もう戻れない。
……でも、もう一つだけ……可能性がある。
梢の言うように本当に睡さんが消えたのであれば……
この世界に意味はない。
……死に戻り……僕は、死んだ時にも過去に戻ることが出来た。
「……あぁ、そうか。
まだ手段はあるじゃないか」
目の前にいる彼女を突き飛ばし、机の上に置いてあったノートとペンに視界を向ける。
「――コレなら、逝けるかな」
梢が何かを察したようだが遅い。
「……もしかして――」
僕が腕を動かすと同時にドアが勢いよく開いた。
勢いよく迫ったペン先が喉の皮膚に触れ、この後に訪れる痛みに備え神経が集中する。
「置換……!!!」
「置換くん……!!!」
ペンが喉に触れ今貫こうとしたその瞬間、
尾白の叫びが部屋を割った。
指が震え、彼の尾で叩き落とされたペンが床でコロリと音を立てる。
「――ありゃ、こりゃ面倒やなぁ……」
梢は一瞬表情を歪めたかと思うと、すぐに僕に笑みを向ける。
「じゃ、隷くん。
――ばいなら、次はもっと楽しいとええねぇ……?」
人が増えて騒ぎになると察したのかそう言い残して梢は僕の部屋から走り去った。
「……」
僕は視線を落ちたペンに向けるだけで動けなかった。
尾白くんは僕の襟元を掴み引き寄せた。
「何してやがる!!お前……!!!」
「――死ねなかった……」
死ねなかった。
確かに二人が来て驚いたのはあった。
それでも、その前に僕の手は喉元に突き刺さる前に止まった。
「ふざけんな……!!!」
僕の頬に衝撃が走る。
勢いよく地面に倒れ込む。
僕は熱を持つ頬を抑えながら思考を巡らせる。
なぜ、なぜ止まった……?
身体は、操られていない。
なんで、自殺が――
「……あ」
胸の奥で、冷たい縄がきしむ感覚。
カイが僕に植え付けた“自殺の禁忌”。魂の縛り――だから、止まった。
……あれが、あるから……僕は自殺が、できない――?
「表でろ、置換」
目の前に立つ彼に視線を向ける。
今まで見たことのない鋭い目つき、本心から怒りが込み上げているのが伝わる。
「……わかった」
なら自殺は出来なかったけど……今の様子を見るとこのまま怒りのまま殺してもらえるかもしれない、そう思えるほどに彼に怒りを感じた。
葉隠さんが静止しても聞き入れないくらいだ、本当にキレているんだろう。
「ちょ、ちょっと待とうよ!!
二人とも、冷静に――」
葉隠さんが止めようとするがそれを無視して彼は先に進み、僕がそれについていく。
一つだけ疑問があった。
これが最後かも知れないから、それを解消しようと思った。
「なんで、あんな時間に僕の部屋に入ってきたの――?」
「…………」
尾白くんは無言を貫く。
葉隠さんが焦ったように声を出した。
「置換くんの部屋に、ミッドナイトが入るのを見て……どんな話するんだろうって、興味本位で……聞いてたの」
「なのに、途中からどんどん話が不穏になって――」
納得ができた。
だからあのタイミングで入ってきたのか。
「――そう、そうなんだ」
そう話していると寮から出て夜の演習場へ辿り着いた。
♦︎♦︎♦︎
薄暗い月灯りの照らす演習場を静寂が包み込む。
尾白くんは着ていたワイシャツを脱ぎすてると拳を構えた。
「――やんぞ。構えろ、置換」
「や、やっぱり……やめようよ。尾白くん……」
「葉隠さんは離れててくれ。
流石に俺も我慢の限界だ――こいつには言いたいことを言わせてもらう」
「…………」
まずは聞こう、僕にはその責任がある。
「なぁ、置換。
――俺たちはそんなに頼りないか?」
覚悟はしていた、でも……少し心が痛んだ。
違う、違うんだ。
僕は戻るために――助けるために――
しかし言葉は出なかった。
理解はされないだろう、僕は過去に戻れる……
そんなこと、誰が信じるというんだ。
だから僕は言葉を返せない。
「…………」
尾白くんは鼻で笑いながら言葉を続ける。
「……ま、そうだわな。
お前からすりゃ俺らなんて弱いのかもしんねぇな」
そして、言ってはならないことを言った。
「お前のダチ殺しに加担するくらいだしな」
「――!!」
「……あ?なんだよ。
しかも、あいつは死んで梢は生きてる。
なら、俺らがやっても誰も死ななかったかもな」
それは、違う――
「もしそうなら、とんだ無駄死にじゃねぇか――」
「――しろ」
違う。
それは違う、鬼人の……親友の決意を、願いを、祈りを、汚すな――!
「……聞こえねぇんだよ!!」
「――訂正、しろ……!!」
いくら尾白くんでもそれは許せない。
命をかけて僕たちを助けてくれたんだ。
壊れかけの命をさらに壊しながら、僕たちを守るために――
「それは、僕の親友に対する侮辱だ。
僕のことはどれだけ悪く言ってもいい、それは事実だ。
でも……それだけは許さない――」
「はっ――、やだね。
あいつは無駄死にで、俺らが殺したんだ。
そしてその結果ミッナイ先生も身体を奪われちまった」
「ふざけるな……!!」
僕は駆け出していた。
尾白くんにここまで怒りを抱いたのは初めてかもしれない。
「やっとかよ――
でもよ、そんな怒り任せの拳、当たるほど俺は弱くねぇ!!!!!!」
僕の大ぶりの一撃は尾白くんの左手に軽くいなされる。
駆け出した勢いも相まって身体のバランスが崩れた。
格闘家を前にこの隙は致命的だった。
僕の腹部には彼の拳が突き刺さっていた。
「弱ぇ、弱ぇな。
こんなんだとお前のダチの程度も知れるわ」
「その言葉、取り消せぇ――!!」
今度の一撃は躱されず彼の頬に命中した。
「――ぐっ、がぁっ。
……ってぇなぁ!!!」
今度は僕の頭頂部に尾白くんの尾が叩きつけられた。
「がっ――」
意識が白む、頬肉を噛み痛みで意識を立て直す。
「――らぁっ!!!」
今度は腹部に当たった。
「ぐ、がっ……!!」
拳がお互いに交差し合い、ダメージを蓄積させていく。
個性なんてものはほぼ使わなくて、ただのステゴロ。
それはお互いのわがままを……怒りをぶつけ合う、子供喧嘩。
「キミが……あんな事言うから――!!」
「……そうだよ……!!怒れよ!!
お前のせいだって、責めろよ……!!」
「違うんだっ!
僕のせいだ、僕は知っていた……!!」
「知っていた……!?だからなんだよ、俺が弱いからあいつが死んだんだろうが――!!」
「っ――!」
「知ってたくらいじゃ何も変わんねぇよ!!」
「違う、やり直せるんだ、僕はあの時に戻って――!!」
「もっと真面目にこっちを見ろ!!
やり直す?あの時に戻って……?ちげぇだろ!!」
「今しかないから、大事にするんだろうが……!!
一度失ったら戻らないから大事に、大切に守るんだろうが――!!」
「もしかしたら、お前の個性は戻れるのかもしれねぇ、
正直すげぇよ、あんな個性俺は見た事ない。
だがよ、戻れるから、今のミッナイ先生を見捨てるのか――!!?」
「っ……」
――見捨てる……?
僕が、あの人を――?
「なぁ!!!置換隷……!!
お前、それでいいのかよ――!!」
「見捨てない……!!
救うために――!!!」
「だったら、一人でやろうとするなよ!!!
一人じゃ無理なんだ!!
――いい加減分かれ、この……っ頑固野郎――!!!」
僕の身体に今までで一番強い衝撃が走った。
「――ッ」
「ひと、りじゃないと……出来ないんだよ――!」
「君たちは戻れない、だって戻れるのは僕一人。
あの人が死ぬのを何度も見てきた、君たちが死ぬのも、そして僕がこの手で……君たちを――」
「はっ……違ぇだろ!!
俺らは生きてる、ミッナイ先生も、葉隠も!
みんな生きてる――!!」
「――ッ」
「それとも、なんだ。
お前は、敵の言葉を鵜呑みにして……ミッナイ先生を救わないってか――?
恩人じゃねぇのかよ……なぁ、隷!!!」
「……、」
僕の拳が止まった。
それと同時に彼の拳も止まる。
「……あーー、クソ。
身体が重い。
まだ、やれんのかよ」
「そんなこと言ってるキミだって足が震えてるじゃん……」
「――殴ったら少し、スッキリした、わ……」
そう言って彼は空を見上げながら倒れた。
「なに、言ってるの……」
「お前は、違うのかよ――」
「……ま、少しは頭がスカッとしたよ……」
僕もそう言いながら空に視線を向けながら倒れた。
夜空の星が瞬き、月が輝く。
汗と血の匂いを、夜風が薄めていく。
「そうかよ、なら……ま、いんじゃねぇの」
「――もう!二人とも、やり過ぎたよ……!!
これじゃ爆豪くんたちと同じ目に――」
葉隠さんがぷんぷんと怒っているがそれに被せる様に尾白くんが言葉を放った。
「な、隷。
……俺がさ、手伝うから、もっと……頼れよ」
「――、わ、わたしも!
頼りないかも知れないけど、私も手伝う!」
「……まだ、どうにかなる、のかな」
「なるのか、じゃねぇよ。
……探すんだ、俺らはヒーローになりにきてんだ。
人を救うために頑張らなくてどうすんだよ――」
「な、ダチ公」
――、鬼、人……?
一瞬尾白くんと鬼人が被って見えた。
しかし次の瞬間には元に戻りボロボロになった尾白くんが横たわっている。
まるで僕には鬼人に言われた様に感じて、
視界が滲む。
頬を熱い雫が伝いこぼれ落ちる。
「……ごめん、ごめん……二人とも。
信じれなくて、頼れなくて……ごめん――」
せめて、二人に見られない様にその目を僕は手のひらで覆い隠した。
「――やっとかよ」
「……しょっ、と」
尾白くんが立ち上がった気配がした。
「三人なら、やれるよって
だって……三人で戦ったから梢さんを一度倒せたんだ。
一度出来たなら二度目だって……でしょ!」
葉隠さんもそう言いながら僕に近づく。
僕の手が二人に取られ視界が晴れる。
「さ、行こうぜ」
「ね、行こう?」
二人はそう言って僕の手を取り、僕を立ち上がらせた――