推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

85 / 102
お待たせしました。
今回もお楽しみいただければ幸いです。



83話 繋がる手、繋ぐ声

 

 地面が凹み、血が辺りに散っている。

 まるで犯行現場の様な有り様を見て尾白くんが呟いた。

 

「……さて……

 この惨状……どうしよ……」

 

 わずかに怒りを感じさせる声色で葉隠さんが答える。

 

「……もうっ!

 ……止めたんだから……私は知らないんだからねっ!」

 

「……あ、はは……」

 

「やべぇじゃん……その場の勢いで色々言ったけど……恥ずいし、今のこの状況も――」

 

「――おい」

 

 突然聞こえた男の声に背筋が凍る。

 

 この、声は――

 

「こんな夜遅くに、何してやがる……

 ただでさえ少ない俺の睡眠時間を、削るつもりか――?」

 

「あ、相澤……先生……」

 

「あー……葉隠……説明、してくれるよな……?」

 

「え、あ……えっと、二人が訓練したいって……」

 

 慌てつつも僕たちを庇う様に事実と異なることを葉隠さんが先生に伝えた。

 

「――ほう……?この惨状が、か……?」

 

 先生は血が飛び散りボロボロになった演習場を見渡すと次に備え付けられている監視カメラに視線向ける。

 

「ね!?二人とも……!!?」

 

「「え、あ、う……うん。そうそう」」

 

「そうっすよ!先生。

 まさか爆豪たちの惨状を見ときながらそんな考えなしのことしないですって……」

 

「僕が弱いから……尾白くんに頼んだんです……

 でも、昼間だと他の人に見られるから――」

 

 僕のその言葉を聞くと先生はスマホを片手に何かを始めた。

 

 

「……警備室、悪い。

 ……仮眠中だったか……?至急第八演習場のカメラを確認してもらいたいんだが……」

 

「……そうか。

 "何も"映ってないんだな……?

 わかった、悪かったな。

 ゆっくり休め」

 

 先生は一瞬葉隠さんのいる位置に視線を向けたが、

 すぐに僕たちの方を睨みつける。

 

「次はないぞ……とっとと寝ろ……」

 

「んで……三馬鹿」

 

「「「三馬鹿……!?」」」

 

「深夜の無断外出と施設無断利用の反省文。

 明日の昼までに提出だ。

 ……わかったな?」

 

「保健室は開けておく。

 鍵は――職員室に置いておけ」

 

 先生は気怠げな表情でそう告げるとぶつぶつと何かを言いながら演習場を離れていった。

 

「はぁ……ったく……

 葉隠のやつ……」

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 先生が演習場から出たのを確認してからほっと息をつく。

 

「「「はぁ……」」」

 

 三人のため息が重なった。

 

「ははっ」

「あはは!!」

「ふふっ」

 

 そうして僕たちは三人で笑い合った。

 

「んだよ、葉隠さん。

 助けてくれんじゃねぇか」

 

「全くもう……私がカメラに気づいて個性使わなかったら……全部映ってたんだからね……!!」

 

「ありがと、ね。

 うん……本当にありがとう」

 

「あ、い、いや……そこまで感謝されるのも……なんともいいがたい……感じが……」

 

「んだよ、いいじゃん。

 ――な?隷」

 

 ……あれ、尾白くん……

 気づけば、彼は僕のことを名前で呼んでいた。

 思い返せばさっき戦っていた時からそうだったかもしれない。

 なら、僕も返そう。

 それが……友情の証だと思うから。

 

 

「あはは……うん。少なくとも僕たちに葉隠さんは感謝されることをしたから……ね、猿夫」

 

「むー…………

 ……ん……?」

 

 葉隠さんが何か唸っている。

 

「あーーー!!!

 なんか変だと思ったら……ズルい!

 ……なんで……?!

 二人とも名前で呼び合ってる……!!」

 

 僕は尾白……いや、猿夫と視線を合わせて苦笑いをした。

 誤魔化す様に猿夫は葉隠さんに声をかける。

 

「ごめんごめんって、透さん。

 これでいい……?」

 

「ん……、さん付けが気になるけど……

 まぁ、とりあえず……いっか。

 で、隷くんは……?」

 

「……え?」

 

 あ、そうだよね。

 こっちにも来るよね……

 女の子を名前で呼ぶのって緊張するんだよね……

 

「……は、葉が……じゃなくて、と、透……さん……?」

 

 一瞬喜びの気配を感じたけど、すぐ一転して拗ねる様に彼女は呟く。

 

 

「あー、あー、寂しいなー

 なんか距離感じるなー……?

 二人は呼び捨てなのに、私だけさん付けなの距離を感じるなー……??」

 

 透明で何も見えないが意地悪そうにニヤニヤと笑っている様子が思い浮かぶ。

 

 恥ずかしい……けど。

 今まで迷惑をかけたし、確かに僕も友情を感じている。

 だから――

 

「……透。……これで、いい?」

 

「……うん!……ありがと」

 

 それを聞いた彼女はぴょんぴょんと跳ねているのだろう、足跡を残しながら地面の砂が舞っていた。

 しばらくすると飛び跳ねるのをやめたのか砂埃が落ち着く。

 

「……ジー……」

 

 そう声に出しながら猿夫の方を向いてる気がする。

 見えない、見えないのに、僕にその視線は向いていないのに……確かに圧を感じる。

 早く名前を呼び捨てで呼べと、そういう気配を放っている。

 まぁ僕も猿夫だけさん付けはずるいと圧を掛けてたんだけど……

 

「……透……、で、いいかよ!!

 ったく、なんでだよ、二人して……」

 

「……よし、いいでしょう……猿夫くんもグッドだよ……!

 一旦保健室行こ、相澤先生が開けてくれるって言ってたし、隷……くんは治ってるけど猿夫くんは怪我そのままだしね」

 

「……、だな。

 わりぃ透」

 

「ごめんね、僕だけ……」

 

「んにゃ、しゃーないだろ。

 ……そういう個性になったんだろ?」

 

「……ね、何で何だろうね。

 この個性は――」

 

 僕たちはいつも通りの会話をしながら保健室に向かった。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 保健室に着くと透に猿夫が手当てされ始めた。

 光のもとでそれを見るとなかなかに酷い怪我だ。

 

「……いつつっ……」

 

 透は消毒液を傷口に吹きかけながら絆創膏を貼っていく。

 

「わ、大丈夫……?

 思ったより切れたり、腫れてるよ……」

 

「ハイ……ホントごめんなさい……」

 

 僕は罪悪感でいっぱいだ。

 猿夫は手当てされながらではあったが言葉を発した。

 

「んで……隷。

 もう遅いけど……これは話しておかねぇとな。

 ミッナイ先生の事だ」

 

「……!!」

 

 ……そう、だよね。

 これは話さなくてはいけない。

 

「――乗り移られたんだな……?」

 

 少なくとも僕はそう判断したし、あいつもそう答えた。

 

「……みたいだね」

 

「梢……さんってそんな事できたの……?」

 

 透の疑問に僕は答える。

 

 

「出来たんだよ……そもそも、あいつは僕の身体を狙っていたみたいだった」

 

「隷の、身体……?」

 

「うん、本人からそれは聞いたから間違いない。

 理由はわからないけど、確かに最初はそのつもりだったみたい」

 

「……ん。ならなんでミッナイ先生を……」

 

 僕もそれは疑問だった、でもあいつの言っていた僕の歪んだ表情を見る、苦しめる……という行為の延長線上なら……悔しいけど、非常に効果的だ。

 

「……え、猿夫くんわかんないの……?」

 

「……?」

 

「多分……隷くんが、ミッドナイトのことすっごい好きだからじゃないかな……」

 

「……?隷が、ミッドナイト……を……?」

 

「――え、気づいてなかったの……!?

 あんなにわかりやすかったじゃん……!!」

 

「……!?」

 

 いやでも待って!!?

 気づかれてた、え?……、マジで……?

 

「あ、え、お、おう……

 ま、まぁ……あれか。

 隷を追い詰めるためにミッナイ先生に乗り移った……と」

 

「ちょちょちょ、透……さん……?

 え?……知ってた……の?」

 

「うん」

 

 透はあっけらかんと言葉を返す。

 

「まぁ、隷のそれは後で聞くとして……」

 

「いやいやいや、まっ」

 

「それは……後で聞くとして……!!!

 話を戻そう……それならなんでわざわざミッナイ先生に乗り移ったんだ……?

 だって隷の身体を奪おうとしてたんだろ……?」

 

「なんか、無理だったんだって……

 僕の身体に乗り移ったけど僕の精神を乗っ取れなかったって……」

 

「……」

 

「隷は無理なのにミッナイ先生が乗り移られたのは変じゃないか……?

 少なくとも彼女は成熟したヒーローだ。

 精神性は俺らと比べ物にならない」

 

「……、確かに、そうだ」

 

「……でも、隷くんだけじゃなくて私たちも乗り移られてないよ……?」

 

「確かに……

 なら、乗り移るにも条件があるのかも……」

 

「……条件……か。

 精神的な負荷……?性別……」

 

 最初は僕の身体を奪おうとしていた。

 でも、僕にやり返されて僕に苦痛を与えることを選んだ。

 ……この二つは繋がらないのか?

 どちらも意味があるのなら、精神的な負荷をかけることに意味があった……?

 

 僕の思考が一つの結論を出そうとした時、

 猿夫が真剣な表情のまま呟いた。

 

「なぁ、梢って女性だよな。

 そしてミッナイ先生も女性だ……」

 

「……?そうだね」

 

「こうは考えられないか……?

 女性であればその条件は緩和される。

 でも男は何かしらの条件を達成しなければ乗り移る事が出来ない……って」

 

「だって、あの時アイツは俺に乗り移れたはずなんだ。

 でも、そうしなかった……いや、できなかった……とすれば……!」

 

「……確かにあの場面で透は梢に触れていない」

 

「……それなら、あり得ちゃう……?」

 

 とはいえそれを検証するわけにはいかない。

 それに、条件も気になる。

 

「……あの場面では俺と隷には乗り移れず、

 透は隷に守られていた……だから乗り移りをあきらめて戦闘していた。

 それに、三人のうちの誰かが死んだ方が、隷に対するダメージが大きい……って考えたんじゃないか……?」

 

 猿夫の意見はかなり的を射ているかも知れない。

 

「……?でも、おかしいよ。

 だって梢さんの個性はダメージを相手とも共有するだけなんでしょ?

 なら梢さんも死んじゃうじゃん」

 

「それ、も……多分梢は、死んでも僕の中に戻れるんだ……だから死んでもよかった……」

 

「そんな……だって身体は一つしか――」

 

「違うんだ、僕たちが梢……と呼んでいた……あの身体は、あいつのものじゃないんだ……

 松戸砕壺の恋人の梢って人物の身体なんだよ……」

 

「……え」

 

「だから、身体を雑に扱うんだ……

 壊れたって構わないから……自分のじゃないなら、壊れたら次の身体に行けばいいって……」

 

 猿夫が一度咳払いをすると話を纏めた。

 

「なら、事実だけを話そう。

 事実として梢……じゃないのか。

 じゃあ仮称梢の個性は共鳴である」

 

「うん、それは間違いない」

 

「その個性はダメージの共有及び、乗っ取り、記憶を読み取ると多彩である」

 

「……うん、それも間違いないと思う。

 でも他のこともできるかも知れない」

 

「置換隷は乗っ取ることができず、実際に彼女に乗っ取られたのは松戸砕壺の恋人である梢と、ミッドナイト先生だけである」

 

「……ん、僕はそれより前を知らないから断定はできないけど……少なくともその二人は乗っ取られてる……とみて間違いない」

 

 透がいいアイディアを思いついたとばかりに手を叩いた。

 

「あ、ねぇ二人とも。

 ならその松戸さん……?に連絡してみたらどう?!」

 

「……?」

 

「だって、ミッドナイトに中身が移ってるってことは梢さんは……!」

 

「……どう、だろう。

 あの時二人が入ってくる前に梢は言ってた。

 『うちの個性で乗り移ったってことはこの中身はもううちに溶けて消えとる。

 だから……この中身とはもう会えへんよ――?」』って……」

 

「……それじゃあ……」

 

「それ、でも……!!何か知ってるかもしれない。

 その松戸さんは……ずっと梢さんを追ってたんでしょ……!!」

 

「確かに、そうだ。

 あの人なら……」

 

「隷、電話番号わかるか……?」

 

「えっと……確か……あった……

 梢と戦う前に……何か新しくわかったことがあればここに連絡しろって……」

 

 ポケットをゴソゴソと探る。

 くしゃ、と紙を握りしめた瞬間、胸の奥に小さな火が灯るのを感じた。

 ……これが、僕たちのまだ残された可能性……。

 

「……あった。

 この番号だ」

 

「じゃ、かけてみようよ!」

 

「だな……」

 

 二人の提案に従い僕は松戸さんに電話をかけた。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 そこはどこかの研究室。

 ベッドに横たわる少女と一人の白衣を着た男がそこにいた。

 

「……梢。……梢ッ!!

 ……何故、目を開けない……何故、声を聴かせてくれない……何故、お前の脳波は、心臓は動きを……止めているんだ」

 

 男の脳裏に蘇るのは二人で過ごした記憶。

 梢と共に育ち、笑い合い、時に助けられ時に助けた。

 男が照れながらも告白し、周りに茶化されながらも結ばれた。

 梢の両親に殴られようと結ばれることを諦めず、

 やっと認められて、蟠りもなくなり結ばれようとした結婚前夜に悪夢が訪れた。

 ――梢は、男の知る梢ではない別物へと変貌した。

 

 男は変化にすぐ気づいた。

 梢がそうではない、と。

 それは男が幼馴染だったからなのかも知れないし、

 愛が起こした奇跡だったのかも知れない。

 

 だから、気づいたからこそ男は生き残る事が出来た。

 その幸福であったはずの結婚は、その結婚式は朱に染まった。

 梢の両親はその別物の何かによって殺害、そしてその何かの手によって行方不明届が出された。

 松戸の両親は……消えていた、何も書き置きも、メッセージも何一つ残さず忽然と姿を消した。

 そして、結婚式場に本来訪れるはずだった人たちはキャンセルの連絡が根回しされていた。

 

 故に、その男――松戸砕壺以外は真実を知らず。

 そして彼もそれを語らず、梢を取り戻すために、その為だけに二十年という時を生きてきた。

 

 幼馴染であり恋人であり妻になるはずだった最愛を……実の両親を、そして義両親を、幸福を、全てを奪われた。

 

 その結果がこれだ。

 救おうとした最愛は彼の手から離れた。

 彼に残ったのは、怒りだった。

 

「……ぁぁ……梢、お前の仇を討ってから……俺も、そこに……」

 

 彼の持つスマホが白衣の中で震える。

 血走った目はスマホに表示された文字を見るとすぐさまその電話に応答した。

 

 そのスマホにはこう記されていた。

 『置換隷』――と。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

「電話出るかなぁ……夜遅いんだけど……」

 

 僕が電話をかけた瞬間だった。

 その電話はすぐさま繋がった。

 

「…………」

 

 電話口は無言。

 僕は彼が出たであろうと思い口を開く。

 

「……あの、松戸……さん」

 

 声が聞こえた。

 地獄の底から手を伸ばす亡者のような低い呻き声。

 僕にはそう感じられた。

 

「……アレは、何処だ」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。