推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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ハイ…エエ。
危うく毎週更新ミスるとこでした。
危ない危ない。
遅くなって申し訳ない。

それではお待たせしました。
本日もお楽しみいただければ幸いになります。
どうぞ。


84話 地下に眠る記録

 

『……アレは、何処だ』

 

 電話が繋がると同時に聞こえた重い声。

 それは、絶望に犯された怒りの嘆きだった。

 

「松戸……さん?」

 

 先ほどまでの気分とは一転、

 僕は震える声で松戸の名を呼んだ。

 

『もう一度聞く、アレは……何処だ?

 ……俺は、アレがこの世に存在する事を許容できない』

 

 溢れんばかりの怒りを前に、僕は言葉を発してしまった。

 

「……わかりません」

 

『――そうか』

 

 そんな声と僅かな破壊音音が耳に入り通話が切れた。

 それを示すように保健室に淡々とした機械音が鳴り響く。

 

「……」

 

 僕は静かに二人の顔色を伺った。

 

「やば、そうだな……」

 

「……松戸さん」

 

「多分……あの台詞と雰囲気は……梢を、殺す気だ……」

 

「やばいじゃんか!」

 

「止めないと……!!」

 

 そう、間違いなく僕たちはあの人を止めなくては行けない。

 だってあの人が狙っているアイツが入ってる身体は、彼女のものだ。

 それはつまり、彼女を殺すということで――

 

「……させない。

 もう、僕の前であの人の……命は……失わせない」

 

「だよな……!」

 

「うん……あんな思いはもうしたくない……」

 

 二人は静かにそう言った。

 時計の針が動く音が保健室に響く。

 僕は音に釣られ時計に視線を向けた。

 

「……あ、こんな時間だ」

 

 気づけば二時間も経過し、時計の針は三時三十分を示していた。

 

「……本当だ、急がなきゃ……やばそうだが……流石に今日は疲れた」

 

「……わたしも、ちょっと疲れたな……」

 

 僕は静かに彼に思いを馳せる。

 松戸さんが何処にいるのかはわからない。

 だから彼のいる可能性が一番高い所に行がなくちゃいけない。

 だけど、一人ではダメだ……二人には頼れって言われたばかりだ。

 だから僕は――

 

「明日……じゃなくて……もう今日、だね……。

 今日のお昼から時間もらえる……?」

 

「……?うん」

 

「……あぁ」

 

「シャドウ事務所に向かってみようと思う。

 梢の情報を探りたいし……なにより松戸さんも……そこにいる、気がする」

 

 

 僕一人じゃ力不足で……助けられないから、手伝って欲しかった。

 そして、二人なら手伝ってくれる確信があった。

 

「わかった」

 

「明日だね……じゃあ今日は休もっか」

 

「だな……」

 

「……ありがとう」

 

「気にすんなって!」

 

「気にしないで!」

 

 僕たちは小さく笑うと保健室を出て鍵を返し部屋に戻った。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 二人と別れた後僕はベッドに横たわった。

 一人になった瞬間遠ざけていた痛みが僕を襲う。

 ベッドから微かに睡さんの香りが漂い、目尻から静かに雫がこぼれ落ちた。

 

 ……ごめん、ごめんなさい睡さん……

 僕のせいで、こんな事になって……

 助けるから……絶対、助ける。

 猿夫も、透も……助けてくれるって言ってくれた。

 僕にはもったいないくらいの友人たちだ。

 

 もし、目の前に睡さんがいたなら「青臭くて、ドキドキしちゃう……」とか……言うんだろうな。

 

 僕は静かに袖で涙を拭うと目を閉じた。

 

 早く、寝ないと……朝になったら、松戸さんを……

 

 眠れない……と思っていたのに不思議と身体は静かに夢の世界へ堕ちていった。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 ――、――――。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 鳥の声が朝を知らせてきた。

 夢の中で悲しい何かを……見た気がした。

 僕は右目から静かに流れた雫をぬぐう。

 

「なにか……見えた気が……」

 

 何かを見た気がした、でも何も覚えていない。

 ……覚えていないことを考えても仕方ない。

 時計を見ると約束の時間は近い。

 準備しないと――

 

 

 腹が減っては何とやら……何が起こるかわからない以上軽く何か食べた方がいいよね……

 

「えっと……何かあったかな……」

 

 僕は部屋を見渡した。

 けれど、何もない。食べ物が……何も、なかった……。

 

「そうじゃん……この部屋にほとんどいなかったんだから食べるものなんてなかった……

 売店、行こうかな……」

 

 僕はそう呟くと着替え、部屋のドアに手をかけた。

 ノブを捻りドアを引こうと――

 

 

「おっ、はよ――――!!!」

 

 バン――

 

 

 瞬間鼻頭に感じた衝撃。

 どうやら、ドアが勢いよく開かれたようだった。

 鼻から何かがツーと垂れている気がする。

 

「おっはよ!

 ……隷……くん……?

 ……あれ……?もしかして、私……やっちゃった……?」

 

「ったく……透。

 もう少し静かに開けてやろうぜ――」

 

 透が部屋に入り後ろから猿夫が続いて部屋の中に入り込む。

 僕は静かに鼻に手を伸ばしその液体に触れた。

 その手は、確かに赤かった。

 そして二人は僕を見ると時が止まったかのようにその表情を凍らせた。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 その場には部屋で一人立っている僕と正座している透と猿夫の二人がいた。

 

「ね、透さん。

 ドアはさ、勢いよく開けちゃダメだと思うんだよ。

 やっぱりほら人がいるかもしれないし、

 僕だからすぐ治るとはいえ、

 ドアが勢いよく当たったら痛いんだよ……?」

 

「ハイ……ハイ……ホントにごめんなさい」

 

「猿夫も猿夫だよ……

 あんな勢いで開けるなんて…………二人で来るなら止めてよ……」

 

「い、いや、俺悪く――」

 

 ギロリと猿夫を睨みつけた。

 

「あ、ハイ……わりぃ……隷。

 今度から……気をつけるわ…………」

 

 僕は二人を怒って少し満足した。

 

「うん、二人とも気をつけてね、全く……」

 

 僕が会話を切り上げると腹の虫が部屋中に響いた。

 そして、また……部屋の中の時が止まった。

 

「……えっと、おにぎり……あるけど…………食べる?」

 

 透のその優しさが痛かった……。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 透が持ってきたおにぎりを頬張る。

 

「ほ、ほれで……はんでほくのへはに……?」

 

「いや、隷……飲み込んでから話せよ……」

 

「そだよー……行儀悪いよーー……」

 

「あむ、あむ……ごくん」

 

 僕はおにぎりを飲み込むと再び二人に質問を投げかけた。

 

「それで、何で僕の部屋に……?」

 

「いや、隷の部屋……飯ねぇんじゃねぇかなって思ってさ……ほれ」

 

 猿夫の手をみるとカロリーメイトの箱が握られていた。

 

「私も、私もそうなんだよ。

 だからおにぎり持ってきたんだー!」

 

 透の手にもランチボックスが握られその中にはぎゅうぎゅうと言う擬音が聞こえるほどの……山のように積み重なったおにぎりが詰められていた。

 

「二人とも……ありがとう」

 

 でも……透……その量は、多すぎるよ……

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 何とか三人でおにぎりを完食すると電車に乗り僕たちはシャドウ事務所へと向かった。

 あれから松戸さんに何と電話をかけても出ず、

「電源をお切りになっているか、電波の届かない所に――」と言うアナウンスが繰り返されるだけだった。

 

 でも、僕には確信があった。

 松戸さんはあそこに居ると……

 梢のことを知るならシャドウ事務所に行くしかない。

 そして、それは、別世界の猿夫が証明してくれた。

 

 ……あの隠し部屋だ。

 研究データと日誌、さまざまなものが眠っているあの場所。

 あそこへ行くのが、今回の目的。

 梢の個性についてもあればいいんだけど……流石にないよね……多分。

 

「おい……隷!」

 

「隷くーん……?着いたよー」

 

 思考を巡らせているといつの間にかかなり時間が経っていたようだ。

 

「ごめんごめん。今行く」

 

 僕は苦笑いしながらそう告げると二人に駆け寄った。

 

「ったくよ、なんか考えてんのかって思ったら一時間も返事しねぇとかどんだけだよ隷……」

 

「あまりの集中力にびっくりしたよね私たち……」

 

「な、透。

 隷抜きで透とだべってたくらいだ」

 

「だね〜、隷くんには内緒☆」

 

「え、ずるい。

 教えてよー!」

 

「ばーか、そんなん聞いてないやつが悪いだろ?」

 

 透はいたずらげにくすりと笑い、猿夫は茶化すようにそう言った。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 電車を降り三十分歩いた市街地。

 そこにそれはあった。

 

「ここが……シャドウヒーロー事務所……」

 

 少し前までは活動していた為だろう。

 人気こそないが、人が過ごしていた様子は伺えた。

 だけれど壊されている箇所があった。

 よく調べるために近づき扉を見ると扉そのものが粉々に粉砕されていた。

 

「……これ……」

 

 僕は予想が当たっていたことを確信しながら静かに言葉を返した。

 

「……だね、あの人はやっぱり来てるみたいだ」

 

 この扉が壊れてそう時間は経過していないように感じた。

 

「なぁ、隷。

 奥……見てみろ」

 

 猿夫の声を聞き事務所の奥に視線を向け――

 

「なっ――」

 

 壊されていた。

 壁が、机が、椅子が、ありとあらゆる物がただただ粉砕されている。

 

「……何でこんなことに――」

 

「見ろ、壊された壁がある。

 ……下に、続いてるぞ隷……」

 

「……不気味、だね……」

 

 ――ここだ。

 あの時の猿夫は錯乱していたから場所までは覚えてないけど……間違いない。

 ここが梢の研究室の入り口。

 

「――二人とも、行こう」

 

「……あぁ」

 

「……うん」

 

「……まず、僕が降りるね。

 その後に合図を出すから……そしたら二人とも降りてきて」

 

 僕はその暗闇の中を滑り落ちる。

 ここは階段ではなく滑り台のような設計になっていたからだ。

 だからこそあの世界の猿夫は滑り落ちてあそこに辿り着いたんだから……

 

 暗闇の中をしばらく滑り落ちると、

 僕は最下層に辿り着いていた。

 

 出てきた穴を手の甲で二度叩いた。

 

「この材質なら反響音が上まで届くはずだ……」

 

 数秒のラグの後金属の反響音が二度聞こえた。

 

 ……うん、二人とも大丈夫みたいだね。

 二人を待つ間暇してるのも勿体無いし……

 少し、漁ろうかな――

 少し進むと電気が灯り視界が開けた。

 そこにあったのは破壊され見るも無惨になった部屋だった。

 

「……ここで、何が……」

 

 違う、想像通りならここには松戸さんがきている。

 なにか、梢の情報か、何かを探そう。

 

 見た限りここはそう広くない。

 壊れずに残っているのは壊れたデスクの下に隠れた三冊のファイルだった。

 軽く砂埃を祓いそのファイルを手に取った。

 それはk-102と記されたファイルと

 Project Resonanceというファイルと、

 その実験体の被検体二十号から三十号のファイルの三つだった。

 

「……これは、なんだ……?」

 

 そんな疑問を浮かべながら一つ目のk-102を手に取り開いた。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 k-102

 報告者名 梢

 被検体 十二号 名称:シャドウ

 性別 男

 年齢 三十二

 体重 七十六キロ

 

 

 実験概要 生きた人間の脳無化

 報告書 102日目シャドウの外観の侵食を確認。

     被検体の意思は変わらず存在。

     脳無までの道のりは長いように思える。

     記憶消去行い、ヒーロー活動を続けさせる。

     ※追伸、“個性"使用時の凶暴化を確認。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 ……影人、さん。

 あなたは……最初、から……

 

 知ってはいた。

 あの時見ていたから、でも……だからと言って僕を助けてくれた人がこんな目に合っていたと知って何も思わないほど、人でなしじゃない……

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 Project Resonance

 

 実験概要 適応変異実験

 

 この実験は個性と呼ばれる能力が後天的に変化、或いは発現するのかを調べる実験である。

 適応させるために疫病、疾患、感染症、負傷等様々な外的要因を与えそれによる個性の変化を観察する事を目的とする。

 実験の是非によっては発現させたい個性を狙って再現する事で発現させる可能性あり。

 

 追記、この実験は一体の成功例を除き再現性欠如により凍結となる。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

「……、これ、は……」

 

 ……ひどい。

 人を、何だと思っているんだ……

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 報告者名 ◼️◼️◼️◼️

 被検体番号二十号

 性別 女

 年齢 十八

 体重 四十六キロ

 

 ウイルス疾患の付与。

 インフルエンザ、RSウイルス感染症、麻疹、風疹、水痘、アデノウイルス感染症、ノロウイルス腸炎、デング熱、チクングニア熱、黄熱、日本脳炎、西ナイル熱、狂犬病。

 

 狂犬病付与時発狂。

 口から唾液が絶えず流れ暴走、実験にならず殺処分。

 

 報告者名 ◼️◼️◼️◼️

 被検体番号二十一号

 性別 男

 年齢 十五

 体重 五十キロ

 

 ウイルス疾患の付与。

  インフルエンザ、RSウイルス感染症、麻疹、風疹、水痘、アデノウイルス感染症、ノロウイルス腸炎。

 

 ノロウイルス発症時脱水により死亡。

 

 報告者名 ◼️◼️◼️◼️

 被検体番号二十二号

 性別 男

 年齢 二十

 体重 七十キロ

 

 実験による毒性付与に変更。

 放射線被曝、重金属中毒、有機溶剤中毒。

 

 三つ目の中毒症状が出現後首を掻きむしり自殺。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

「どうしてこんなことが、出来るんだ……」

 

 あまりの衝撃に目が眩む。

 しかし一度見た以上、目を逸らすことはできない。

 

「ここに置いてあるということは……なにか理由が……」

 

 僕は被験体の情報を読み進める。

 凄惨な実験がただ淡々と記されている。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 報告者名 ◼️◼️◼️◼️

 被検体番号三十号

 性別 女

 年齢 二十

 体重 三十四キロ

 

 ウイルス性疾患付与→十六種、罹患したまま生存も呼吸不全。

 細菌性疾患付与→十三種、罹患したまま三十日生存――よって次の実験に進む。

 毒性付与→六種類、罹患したまま生存も肌の色が紫に変色、皮膚が朽ち始めるも生存――よって次の実験へ進む。

 悪環境付与→ 低酸素、減圧症、熱傷、凍傷の付与結果四肢が腐り実験継続のため切断。

 

 個性覚醒にて実験中止。

 

 適合実験成功。

 被検体番号三十号は個性を獲得。

 自己に宿したまま他者にその病を転写する個性。

 名称未定の為、被検体番号三十号、ミオと仮称する。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

「……、もしかして……」

 

 

 

「わりぃ、わりぃ。

 結構時間かかっちまった」

 

「こわ、こわい……しばらく滑り台見たくない……」

 

「見ての通り……透がダメだったみたいでな……」

 

「あはは……怖いよね……あんなに長いと……」

 

 僕はあまりの衝撃に二人に反応を返せなかった。

 それを変に思ったのか猿夫が僕に疑問を投げかける。

 

「……あれ、隷……どうしたんだ……?」

 

「――」

 

 それでも僕は反応を返せず思考を巡らせる。

 猿夫が僕の持つ資料を後ろから覗き込む。

 ついで透も静かに寄ってきてその資料を視界に収めた。

 

「――なっ」

 

「……?どしたのー、二人と、も――」

 

 

 二人は言葉を失った。

 当然だろう、僕もそうだ。

 こんなものを見て何も思わないならヒーローになろうとなんてしていない。

 

「……ごめん。僕がこんなのを見つけちゃったから……」

 

 でも、僕はこんなことをする相手と戦おうとしていることを理解しなくてはいけない。

 こんな正気とは思えないことをやるような相手と戦い彼女を取り戻さないといけない。

 

 だからこそ……この先にいる松戸さんを説得するんだ。

 

 僕は、僕たちはそうしてこの施設の先へ足を進めた。

 その先で、何かが壊れる音が響いた気がした。

 

 

 

 

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