90話までに…いい区切りをつけたいなぁと思いつつまだかかりそうな気もしてます…
まぁそれはそれとして……今回も僕の世界の断片をお楽しみいただければ幸いです。
目の前で建物が崩れていく。
「……松戸さん……」
なぜ、彼は自ら終わりを選んだのだろうか。
まだ僕たちと生きる可能性はあったはずなのに……
「……隷」
「……隷くん」
どうにも、死が近くにあると感じる。
僕が近づいた人は、だんだんと死んでいく。
そんな気がするんだ。
鬼人も、カイも、睡さんも……影人さんも……そして松戸さんも――
皆死んでいく。
「お前のせいじゃない……」
「自分を責めないでね……」
二人は慰めてくれるけど……
「……ぼ――」
「おい、隷。
俺らも死ぬかもしれない……とか思ってねぇよな」
「……え」
「いいか、死ぬ時は死ぬんだよ。
攻撃するってことは相手を傷つけることで、殺すかもしれないんだ。
命がある限り死の可能性はいつもある」
「――ま、そんなこと言っても
人の死を近くに感じた事はないからさ……
……なかなかにクるな……これ……」
猿夫がそう呟く。
「あのね……私。
隷くんが出た後……松戸さんを助けようと思って部屋に入ったの」
続いて透がつぶやいた。
「その時に、言ってたんだ。
俺の身体は限界だって……
身体の臓器を梢さんに移植してたんだって……」
「――」
……貴方は……そこまで――
「生かすためには彼女の中身は弱りすぎてたって……
だから、自分の中身を移植したんだって……」
そこまで彼女を想っていたから……
だから彼女のいない世界に意味はないって……
そういうことなの――?
「……マジかよ、それでもあんなに強かったのか……?」
そこも……だ。
身体がぼろぼろにも関わらず僕たち三人を真正面から潰せる実力があった。
戦闘職ではなかったのに、医者であり研究者にすぎないのに――
あそこまでの力を……?
復讐……のためか。
鍛えたんだ、身体を……
闘いを学び、人体の構造を知っているがゆえに死角をついたり、人間の意識の間……あの人は……無拍子を会得したんだ。
彼の憤りは……憎しみはそれほどまでに強く……
だからこそ……そこまでの力を得た。
彼は憤怒の怪物だ。
だけど彼は僕に救いを見た。
梢さんを救える可能性、それを僕に見つけてしまった。
だからこそ、命を絶った。
この世界では決して救えないから――
「――警察に連絡しよう」
そうして僕たちは警察に連絡をした。
だけど、松戸さんと梢の死体は見つからなかった――
全てが終わり寮に戻ると警察から連絡が入っていたのか相澤先生に叱られた。
なぜ頼らないのか……お前たちは子供なんだからもっと頼れと。
信じてもらえるか分からないし、そもそも誰が敵か分からなかった……と反論したら反省文を増やされた。
酷いと思う……。
そして僕達に起こったことを全て話すと相澤先生から一人のヒーローを紹介された。
「お前らも知ってるだろうが……山田ひざしこと、プレゼント・マイクだ」
「オイオイ、オイオイ、そりゃねぇぜイレイザー!!
せっかく呼ばれたから来てやったのにヨォ――!!」
相変わらずのやかましさ。
彼は雄英高校の教師の一人。
担当科目英語。
サングラスをかけトサカのように尖った金髪が特徴のヒーロー。
「――マイク先生」
「おう、どしたリスナー!?
元気がねぇぞォ――!!!」
僕たちの活気がないことを察したのかマイク先生はそれを指摘する。
しかし、それを遮るように相澤先生が淡々と告げた。
「山田……黙れ。
……ミッドナイトが乗っ取られた」
「――」
マイク先生が絶句する。
「おい、そりゃどういうことだ?
何がどうなってやがる」
今までのマイク先生が嘘のように低い声で相澤先生を問い詰める。
「それを説明してやる。
――黙って聞け」
「……あぁ……頼むぜイレイザー」
そうして相澤先生は説明した。
ミッドナイトが梢と名乗るヴィランに肉体を奪われたことを、そしてその梢は僕を狙っているということを。
僕たちが独断専行で梢の研究所に訪れたこと、
そこで梢の恋人松戸砕壺と出会い戦い、情報をもらったこと。
研究所が崩れたにも関わらず松戸と梢の身体は見つからなかったこと。
全てを淡々と事実のみをマイク先生に話した。
「……そうか。
先輩が……か」
いつものマイク先生には似合わぬとても沈んだ声。
しかしその瞳はサングラスに遮られ見えない。
だけど僕には泣いているように見えた。
「……で、助けられるのか?」
「わからん……が。
置換が松戸という研究者から聞いた話曰く……可能性はあるそうだ」
マイク先生はゆっくりと僕たちに視線を向け、そのまま腕を掴んだ。
「……じゃ、行くか。
俺とこいつらは課外授業してくるぜェ!!
イレイザー申請よろしくゥ!!」
「――オイ、マジかよ山田……」
流れるように車に乗せられそのままマイク先生が運転を始める。
助手席に僕、そして後部座席に猿夫と透が座っている。
しばらく運転し高速道路に乗った頃だった。
マイク先生は鋭い視線をこちらに向けた。
「……さて、少し真面目に行こうかリスナー?
居場所は分かるか――?」
「いいえ……」
「ミッドナイトに乗り移ったやつの個性は……?」
「……共鳴です。
ダメージの共有及び、乗っ取り、記憶を読む……」
……待って、何かが気になる。
「……どうしたリスナー?」
「――」
先生が何か言っているが今はそれより重要なこれだ。
僕は何に引っかかったんだ……?
そう、個性についてだ。
僕は最近似た記述を見なかったか?
ダメージの共有……?
共有が出来るなら、押し付けることも出来るのではないか……?
松戸さんも言っていた。
『……いいか、梢についてまとめた研究データがここのデスクにあったはずだ。
アレを見ろ、その上でアイツの個性が本当はなんのために生まれたのかを……知れ』
そう、であるならば……
だとするなら――
僕はカバンに入れていた実験ファイルを取り出した。
♦︎♦︎♦︎
報告者名 ◼️◼️◼️◼️
被検体番号三十号
性別 女
年齢 二十
体重 三十四キロ
ウイルス性疾患付与→十六種、罹患したまま生存も呼吸不全。
細菌性疾患付与→十三種、罹患したまま三十日生存――よって次の実験に進む。
毒性付与→六種類、罹患したまま生存も肌の色が紫に変色、皮膚が朽ち始めるも生存――よって次の実験へ進む。
悪環境付与→ 低酸素、減圧症、熱傷、凍傷の付与結果四肢が腐り実験継続のため切断。
個性覚醒にて実験中止。
適合実験成功。
被検体番号三十号は個性を獲得。
自己に宿したまま他者にその病を転写する個性。
名称未定の為、被検体番号三十号、ミオと仮称する。
♦︎♦︎♦︎
これが……梢……?
しかし個性の特徴は一致する。
もし、この個性が成長したのであれば……
「……これ、だ……
ミオ……これが梢の……ミッドナイトに乗り移った人の正体」
「……見せてくれ」
マイク先生はパーキングエリアに入り、僕からそのファイルを受け取った。
「なるほどなァ……!
確かにこの個性ならあり得なくもないか。
転写の個性……。
なら“共有”も“押し付け”も、"乗り移り"もあり得る。
さながら――共鳴(シェア)ってところか」
だけど……だとするなら何て……
彼女も、被害者じゃないか……
被害者ゆえに力を得て加害者に堕ちた。
そういうことに、なってしまう。
「……」
「オイオイ、まさか同情してんのかァ?
仮に過去が悲惨でも、今を選んだのはそいつなんだぜ――」
そう言いながらマイク先生は通知音の鳴るスマホを取り出した。
それでも、僕はもう……彼女を憎めない……。
ただの被害者であった彼女。
言ってしまえば……カイと同じとも言える。
悪意の被害者、その結果……加害者となってしまう。
それは誰にも起こりうる事で、誰でもそうなってしまうかもしれない事。
だけど……だからと言って許せるわけではない。
彼女は人を弄び過ぎた。
僕がみただけでも二人の人物に乗り移り周囲の人生を壊している。
だから……止めてあげないと。
そうじゃなくちゃ睡さんも救えない、助けられない。
誰かを救うということは誰かを救わない……ということで。
僕は……睡さんを……救うんだ。
「さて……と。
さっきイレイザーから情報が入った。
ハイネスパープルが死んだらしい」
「……!!」
社長……が……?
なんで、どうして――
「ハイネスパープルが病院で寝ているところに先輩が尋ねてきて数分話した後……死亡した……との事だ」
ミッドナイト……いや……ミオが……
社長を……
「これよりヒーロー名ミッドナイトこと香山睡は重要参考人として指名手配される……が、情報をイレイザーが少しだけ送らせてくれる……らしい」
「だから、それまでに先輩を確保する。
そして可能であれば仮称ミオと香山睡の精神と肉体を切り離す。
できるから……置換?」
「分かりませんが……最善を尽くします」
いきなりだ……けど
「……というわけで!
尾白、葉隠……巻き込んで悪いと思ってる。
ここで降ろすこともできる。
当然帰りの移動費は出す……どうする――?」
車内に一瞬の静寂。
「――行きます。
俺たちの先生でもあります」
最初に声を出したのは猿夫だった。
「もちろん、ここで帰るわけないじゃん!
ミッナイ先生を……隷くんも、みんな助けるんだから……!!」
続くように透も言葉を返した。
「――よく言ったァ!
それじゃあまずは……仮称ミオが訪れた最後の場所へ一直線に行こうか!!
飛ばすぜェ、Everybody say hey!……!!」
そう叫んだマイク先生は車を飛ばした。
……法定速度を超える速度で……
それでいいのだろうか、仮にも教師なのに……
♦︎♦︎♦︎
現場に到着した。
ここは……市内の総合病院。
夕暮れ時の病棟は静まり返っている。
外は赤く染まりまるで血に濡れたかのようだ。
遺体は簡易的な安置室へ移されていた。ベッドに白布がかけられている――社長だ。
ヒーロー名ハイネスパープル。
……ある事件で両腕を失い、それでも尚胸毛と言う個性でヒーローであり続けた猛者。
その男が死んでいた。
「……社長……」
何度見ても人の死は慣れない。
……身近な人であれば尚のことだ。
社長にはいろんなことを教えてもらった。
彼のおかげで強くなれた……そして彼がいたから今の僕がある。
「……さて、死因は――?」
マイク先生が鑑識に尋ねる。
「司法解剖に回してみないことには確定しませんが……
そう、ですね。
見ての通り外傷はありません。
カルテを見るに持病もなく、腕がない以外は健康体だそうです」
「そうだな、なぜ死んだかわからねぇくらいには綺麗すぎる――」
「……いえ、爪を見てください。
指先が青みがかった灰色になっているでしょう……?
それに布を剥がせば分かるんですが……唇も同様に紫になっています。
これはチアノーゼといいまして……酸素をうまく取り込めない場合こうなるんです」
「酸素を取り込めない……つまり……窒息……か?」
「えぇ……ほぼ間違いないでしょう。
今回は監視カメラに写っていた映像から最後にミッドナイトがここを訪れ数分話した後ハイネスパープルがベッドに横たわりそのまま死亡しています」
僕の足が進む。
彼の最期の表情を見ようと……
顔に被せられた白いその布を捲った。
その表情はひどく安らかで……痛みがなかったということだけが分かった。
「なんで……社長が……」
どうして死ななければならなかったのか。
その理由を、真実を――知りたい。
視界が滲む。
その“知ろう”とする意志に呼応するように、膝が崩れ、静かに彼の冷たい肩へと手が伸びた。
――触れた瞬間、何かが僕の中に入り込む。
♦︎♦︎♦︎
……これは、記憶……?
ここは……そう、見覚えがある。
……ミッドナイト事務所のトレーニングルームだ。
社長はトレーニングを終えたのかシャワーを浴び身体を拭いているところだった。
トレーニングルームの入り口が開き一人の女性が入ってきた。
――睡さんだ。
「あら?どうしたの……?睡ちゃん」
少しずつ、睡さん……いやミオは社長に近づく。
「えぇ、お話がありまして」
社長はミオから視線を離しており彼女の表情は伺えない。
「ごめんなさいね、服着ちゃうわ」
社長は足でシャツを引き寄せ、肩に羽織った。
「そのままでいいですよ、社長さん」
「……?そう、それでどうしたのかしら?」
「置換くんの事です」
「……彼がどうしたのかしら……」
社長は訝しげな表情を浮かべる。
「えぇ、彼にはちゃんと絶望して貰いたくて――」
その言葉を聞いた社長は勢いよく振り返った。
視界に映るのはミッドナイトで間違いなかった。
「――睡……ちゃん……?
……いや違う……!!
貴女……誰……」
社長の体がふらついた。
視界が滲み意識が朦朧としている。
「やっと効いたんか……んー……まだ個性の制御は難しいんかねぇ……」
そう言いながらミオは静かにトレーニングルームから出て歩き出す。
「うちの研究室は壊されたみたいやし……ちと近場で実験しよかな」
♦︎♦︎♦︎
「――!!」
今のは……
「どした……?リスナー」
「社長が、殺された場面が……見えました」
「――どういう事だ?」
「社長はミオに眠らされたようです。
その睡眠が深すぎたが故に呼吸不全に陥り死んでしまった……そういう事だと思います」
「……えぇ、凄いですね。
概ね私もその認識です。
あの場にいたのがミッドナイトなのであればそういう個性の使い方もできなくはないでしょう――」
「――そして、彼女は近場で実験するといいトレーニングルームを離れた」
「!、行くぞリスナー!!
ミッドナイト事務所に近くで、人が多くいるところ……
たしか……あそこには大型のショッピングモールがある。
……急ぐぞ!!」
急いで車に戻ると車内に待機していた二人に声をかける。
「行くぜリスナー!!
やつの場所が分かった――」
マイクがエンジンをかけ直し、夕暮れ時だった空は闇に染まり車が夜道を走り出した。
「止めるんだ……あの人を。
今度こそ――僕が」