推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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お待たせしました。
ちょっと前にチェーンソーマンのレゼ編の勉強映画を見まして。
あれめっちゃいいですよ、俺の大好きな残響がある。
……いや、そもそもチェーンソーマンという物語自体に残響がある。
多分うっすら惹かれてるところもあるかもですね…

漫画もいいけど一番はアニメですね。
あれは、いい。
思わず心の中の東堂葵が藤本タツキを親友認定しましたからね…

ごほん、失礼しました。
本日もお楽しみいただければ幸いです。


89話 顔のない世界

 

 

 あの時、僕は何があったのか覚えていない。

 ただ……何かを失った喪失感と、何度も戻ろうとした記憶、

 だけど戻れずに……誰かに自室に連れてきてもらったことだけが記憶に残っている。

 

 あれほどまでにあった希望の断片、救いたいという願い。

 それが今はどこにも残っていない。

 ……救う……?

 僕は誰を救う気だったのだろう。

 今はそれすら朧げで、何も考えられなかった。

 

 カーテンを閉め切っているから暗かった。

 でも誰かが毎朝カーテンを開きにくる。

 だから今が朝とか今が夜とかそういうのは光の強さで何となくわかっていた。

 

 そしてその人は僕に話しかける。

 でも僕にはそれが誰か分からなかった。

 

 誰かが食事を置いてくれた。

 それなのに僕は食べようという気力が湧かない。

 ……いや、違う。

 一度食べたんだ。

 咀嚼をするたびに、口の中で音だけが響く。

 味も匂いもない、飲み込もうにも身体がそれを拒んだ。

 その誰かはいつも肩を落として立ち去った。

 やっぱり僕にはそれが誰か分からなかった。

 

 ――だって皆、顔がなかった。

 顔がないから声も聞こえず、

 それでもその身体は動いていて僕に何かを訴えかけていることはわかった。

 

 なんだろうか、この無気力な感じは……

 燃え尽きた……いや、燃え尽きるほど何かが出来たわけじゃない。

 

 まるで全てがなかったかのように、

 最初から何も持っていなかったように、

 そう僕には感じられた。

 

 そうぼんやりと過ごしているとだんだんと視界が重くなってくる。

 目の前に置かれた食事は毎日変わっているみたいだけど……

 それでもあんなものに手をつけようとは思えない。

 

 肉は、嫌だ。

 赤も……嫌だ。

 

 何か僕の中にしまい込んだものが溢れ出そうになるから――

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 どれだけ時間が経ったのだろう。

 誰かが僕を連れ出そうとした事があった。

 でも、どれだけ試しても僕に触れられず……諦めたみたいだった。

 

 何度も何度も来ていた。

 でも、もう最近は見ていない。

 

 猿夫は元気だろうか、

 透はどうしているだろうか、

 ◼️さんは――

 

 ……あれ?

 ◼️さんって……だれだろう。

 

 でもその名前を考えるとほのかに暖かさが胸に広がった。

 だけどそれはすぐになくなって冷たさが僕の全身を襲う。

 大切なひとだったのだろうか、とても大切な――

 

 でも、今の僕にはそれを確かめる術はない。

 身体も動かない。

 ふと思った。

 ……あぁ、これ、昔もあったな。

 

 いつだったか……何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も◼️さんが殺されそれを僕はただ観ているしか出来なかったあの時――

 

 世界がそのものが◼️さんを殺そうとしているように感じたあの時――

 

 ちがう、殺されたならまだやり直せた……

 

 でも今回は自さ――

 

 あ、あぁ……ぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁあ……

 ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――

 

 観たくないものが記憶の封を開き蘇ろうとして、

 それでも僕は観たくなかったから目を閉じた。

 身体も重い、眠れるのだろうか。

 

 もう、誰も僕を起こさないで――

 

 そんな願いを抱きながら僕の意識は薄れていく。

 鼓動が緩やかに遠ざかる。

 指先からだんだんと冷たくなって、動かなくて。

 何も考える事ができなくて。

 ぼんやりとした意識の中、誰かの笑顔が脳裏によぎる。

 だけどそれは一瞬で、

 それに手を伸ばそうとした時……

 

 まるで電源が切れるように僕の視界に闇が落ちた。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

「……生きてる人が多くてよかった……」

 

 そう呟いた俺の発言に透が言葉を返す。

 

「ね、猿夫くん。

 ほんと生きてる人いてよかったよ……

 正直、あの時みんな……って思ってたもん」

 

 そう、俺たちは先生に指示を出された後倒れていた人一人一人の生存確認を行なった。

 

 幸いなことにこのショッピングモール内の死者はほぼいなかった。

 どうやら俺たちが最初に訪れたあそこが一番眠り香が強く

 死んでしまった人たちが多いようだったからだ。

 ……少ない……と言っても人数にして十三人。

 十三人の人が殺されたんだ。

 

 俺たちは死んでしまった人に静かに追悼する。

 もっと早く辿り着いていれば助けられたかも知れないという後悔。

 だけどそれは結果論の話。

 だから俺はその後悔から目を逸らすしかなかった。

 

 俺たちは救急隊に全てを引き渡し音のしなくなったモール内に戻ることにした。

 

「マイク先生、引き継ぎ終了しました」

 

 

 先生に声をかけながら自動ドアをくぐる。

 ほのかに匂った錆びたような鉄の香り。

 俺は思わず顔を顰めた。

 

「……なんだ……?これ――」

 

 思わず呟いた俺の言葉に透が言葉を返した。

 

「猿夫……くん、これ……」

 

 そう、三人いるはずだったそこ。

 隷と、マイク先生と、ミッナイ先生のいるはずだったそこにいたのは"二人と一つ"だった。

 

 まず視界に入ったのは隷だった。

 あいつは何故か全身が赤く染まっていてまるで放心しているように動かない。

 心配になって駆け寄ることにした。

 

「おい、大丈夫か。

 れ――」

 

「――隷くん!!」

 

 俺と葉隠は声をかけながら足を進める。

 

「おい……!お前ら来るな――」

 

 マイク先生の声が耳に入る。

 でもそれは遅すぎた。

 俺たちは見てしまった。

 

 それは――――だった。

 

 一面に広かった赤。

 あたりには鉄の……血の香りが充満し頭がクラクラしそうになる。

 

 縛られた女性の身体。

 ――見覚えがある。

 

 そこは血で彩られている。

 ――なんで。

 

 それだけじゃない、おかしなところがあった。

 その身体にはついているべきものがなかったからだ。

 

 ――頭がなかった。

 頭があったその場合から血が溢れ出している。

 その勢いもやけに弱い。

 

「せ、先生……」

 

「……クソッ、間に合わなかったか。

 ――いいか、二人とも連絡を頼む。

 頼むから、離れてくれ……

 被疑者は死亡、死因は――自殺だ」

 

 とても辛そうに絞り出されたその声に俺たちは返事をするしかなかった。

 

「は、はい……!」

 

「わ、わかり、まし……た」

 

 俺と透は震える声で言葉を返す。

 現実感のなかったあの中。

 なのにショッピングモールの外に出てもその景色は頭の中で鮮明に再生されて――

 

「ぉぇ……おえぇえええええぇぇぇ――」

 

 俺は外に出ると同時に胃の中のものを吐き出していた。

 横をチラリと見ると透も気持ち悪そうにしていながら口元を抑えている。

 

「……ね、ねぇ……アレ……

 ミッナイ先生……じゃないよね……?」

 

 透は見たものが違ったと思いたいようだった。

 それでも、粗方吐き出して少し落ち着いた俺は事実を返す。

 

「……わからない……少なくともあの衣装は……ミッナイ先生のものだと思う」

 

「――そんな……」

 

 酷くショックを受けているようだった。

 それはそうだ、当然俺だってショックだ。

 

 でも、何より今辛いのは……あいつだ。

 あの人がミッナイ先生だとするならば……あの状況を見るに目の前で自殺された。

 その可能性が高いからだ。

 

 今までも目の前でミッナイ先生が死んだ……あるいは殺されたことはあるはずだ。

 にも関わらず、あいつが今そこまでショックを受けているのは……目の前で自殺されたから……なのだろう。

 救いたい、助けたい人に目の前で自殺される。

 たとえ中身が違うとしてもその身体はその救いたい人のもので……それはどれだけ酷いのだろう。

 

「……はやく、連絡して戻ろう猿夫くん。

 今の隷くんを一人にしておけないよ――」

 

 透も同様の結論に達した様だった。

 俺は返事を返し、すぐさまスマホで警察に連絡を入れるのだった。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 あの後隷はずっと放心したままで俺たちやマイク先生、警察が来ても微動だにしなかった。

 まるで、心が凍ってしまったかのようだ……と俺は思ってしまった。

 

 マイク先生に車で寮まで送ってもらい、

 俺と透はなんとか引きずりながら隷の自室のベッドに寝かせる。

 食事もおいたが……アイツは食べてくれるだろうか。

 

 翌日朝部屋を訪ねる。

 食事は少し食べられた形跡はあった。

 

 少しだけ安心する。

 食事を入れ替え、隷に声をかけた。

 

「これ……朝飯だ。

 食えたら食ってくれ……」

 

 ――返事はない。

 

「…………」

 

「なぁ、隷……辛いとは、思う……

 だけどよ、俺ら……信じてるからな」

 

 ――返事はない。

 

「……待ってるね。

 私も猿夫くんも……待ってるから――」

 

 透も声をかけた。

 ――それでも返事はなかった。

 

 そうして俺たちは授業に向かった。

 一日を学校で過ごし、授業を終え隷の部屋に戻る。

 隷はベッドの上に膝を抱えて座っていた。

 

「……隷……!!

 動けるようになったのか――!?」

 

 俺と透が駆け寄り肩に手を伸ばす。

 

 

 

 

 ――その手は空を切った。

 

「――え……?

 ……れ、い……?」

 

「れい……くん……?」

 

 触れられなかった。

 隷に触れることができなかった。

 まるでこの次元に実体がないように、どれだけ触れようとしても声をかけてもすり抜ける。

 反応がない。

 

 俺たちは慌てて相澤先生の元へ向かった。

 これが、個性によるものなら先生の抹消で消せるのではないか――と。

 

 しかしダメだった。

 相澤先生の抹消では消すことができなかった。

 隷はそこに確かに在るのに居なかった――

 

 それでも俺たちは日常を送りながら隷の様子を見守り続けた。

 助けたいのに助けられない、そんな歯痒さと絶望を胸に抱えながら一ヶ月、半年、一年と時を重ねる。

 そんな中、透はいつしか来なくなった。

 

「ごめん……猿夫、くん。

 わたしは、見てられない……辛いよ――」

 

 そんな一言を残して、もうこの部屋に現れることはなかった。

 仕方ないことだ、と思う。

 それでも友情が壊れたようで俺は、少し……寂しかった。

 

 一年と少し経った頃だろうか、隷の様子に変化を覚えた。

 

「……これ――」

 

 臭いはない、触れられもしない、

 でも確かにその身体は腐り始めていた。

 

 俺は慌てて色んな人に助けを求めた。

 それでも、隷を救うことが出来ず……

 なんの情報も得ることが出来ないまま……

 

 あいつの身体は朽ちてしまった。

 

 あの時AFOとの最終決戦を超え――

 俺は……俺たちは今、ヒーローになった。

 もうあんな結末を見ない為に。

 

 

 ――――――――――――――――何処かで、音が響いた気がした。

 

 

 

 




◼️◼️の叫び
 
 いいや、おわらねぇ。
 あいつの人生が、あんなに苦しんだ人生がこんな終わりだなんて認めねぇ。

 ――立て、隷。
 ここで終わるようなタマじゃねぇだろ……
 
 
 
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