推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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さて、お待たせしました。
レゼ編に脳が焼かれた三つ首黒虎です。
ぜひ楽しんでいただければ幸いです。

ある程度ストックできたら連続投稿…する、かもす…
それではどうぞ。


90話 置換隷

 

 ……こ、こは――

 ……あの時に来た、何もない空間……?

 

 ……いや、僕は何していた……?

 ――思い出せない。

 まるでその記憶が僕の中からこぼれ落ちたかのように。

 

 あぁ、そうだ。この空間があの場所なら……

 いるはずだ。

 そう、最初に出会ったあのカミサマが――

 

 ――やぁ。

 

 声の方向に視線を向ける。

 

「あ――」

 

 それを、観てはいけなかった。

 圧倒的な存在感と……そこにはありとあらゆる情報……愛があった、知恵が知識が、欲望が、死が、生が、救いが、希望が、絶望が、未知が、既知が、世界が――そこには情報の嵐があった。

 

 僕の頭の中を台風のようにかき乱し、壊――

 

 あ、ごめんごめん。

 そうだったね、今のキミの目はそうだった。

 忘れてたよ。

 ――これで、大丈夫かな?

 

 危なかった。

 アレほどまでにあった存在感、情報の嵐が今は何も感じられない。

 意味がわからない。

 

 それでも今の僕の目で観てはいけない存在だった、それだけはわかった。

 

 今まで色んな経験しても尚、コレに対する恐怖は微塵も減っていなかった。

 しかしそれを表に出してはいけない。

 

 

 

 ……へぇ……うん。

 覚えてるようで何よりだ。

 落ち着いたかな……?

 さて、さっきぶりだね。

 ……違ったか、キミからすればお久しぶり、が正しいかな。

 それで……探していたのは……ボクかな?

 何かを聞きたいのかあるいは――

 

 それとも、これを探していたのかい――?

 

 白い影が視線を向けた先には無骨な白い椅子に一人の青年が縛り付けられていた。

 

 その青年は涙こそ流していたが無表情で、

 瞳に何の色も宿してはいなかった。

 

 それを見て抱えていた疑問が吹き飛んだ。

 僕が何を思い出せないのか、

 そんなことよりこの青年から目を離せなかった。

 

 

 だけど同時にその青年を観て胸の奥に、何年も前からあったはずの空洞が、一瞬だけ埋まった気がした。

 

 ――見覚えが……、ある……?

 僕は、あの青年を知っている……?

 

 ……んー、違うみたいだね。

 じゃあ、いいか。

 キミはまだ要らないみたい。

 ばいばい――

 

「まっ――」

 

 僕が静止しようとするもそれは間に合わずその青年は――

 

 ――ぐちゃりと音を立てた。

 

 その青年はまるで巨大プレスにでも潰されたように潰れ赤い液体だけがその白い空間に残った。

 

「――なんで、そんな事を……

 何で殺したんだ!!

 その人が、何をやったって――」

 

 ……ん?勘違いしてる?

 死んでないよ、死ぬわけないじゃん……

 今邪魔だから見えないように潰しただけだったんだけど……嫌だった?

 なら、後で戻す気はあったけど……まぁ元に戻してもいいか。

 

 それのその声に呼応するようにその液体は逆再生しながら身体を形作る。

 

「……なん――」

 

 その液体は姿を取り戻し先ほどの青年の姿に戻った。

 生きている、らしい。

 呼吸もしていて、涙も流れ続けている。

 

 いやぁ、コレさぁ。

 なんか反応しなくなっちゃったんだよね。

 ずっと他の子や彼と一緒にキミを観てたんだけど……

 そうそう、ちょうどキミの目の前で彼女が死に続けているあたりから壊れ始めて……

 んー、目の前で自殺した時に完全に壊れちゃったみたいなんだよね。

 

 ま、そりゃそうか。

 キミからの絶望は全てコレに流れてるし……

 

「僕の絶望が、全て……?」

 

 ――あれ?疑問に思った事なかった?

 何で普通の人間だったキミが何度も何度も死ぬような怪我をしたり、死にかけていたのに正気を保てていたのか。

 なんで、自分の身体を無視して戦えていたのか。

 何で、何で何でって……そう思わなかったのかな?

 

 普通の学生は、血が抜けて死ぬとわかっていて自らの傷口を火で焼くことなんて出来るのかな?

 

 普通の学生は、友達を殺したのに正気を保っていられるのかな?立ち直れるのかな?

 

 普通の学生は、想い人を何度も何度も目の前で殺されたのを観て精神性が変わらずに要られるのかな?

 

 普通の学生は、親友を殺す原因となった存在に恨みを抱かないのかな?

 

 ねぇ、どうして何だと思う……?

 

 それの問いかけに今までを振り返った。

 違う、おかしいと思ったことなら何度だってあった。

 でもこいつの台詞が、そして僕の魂が理解している

 もしそうなら、これは――

 

「それは、誰だ――?」

 

 そうだね、正直この物語にも飽きてきたし……

 ――終わらせようかな。

 

 だから、教えてあげよう、これは――"本当のキミ"だよ。

 オリジナル……と言ってもいい。

 壊れる直前最期にキミがここに来るきっかけをくれたじゃないか。

 

 

 そう、もしそうなのであれば……彼は、僕の大元。

 転生前の――――その人だ。

 

 だから、僕の悪感情は僕を素通りして彼に向かう。

 そしてその感情を彼が受け止められなくなったから僕が……

 

「僕の、せいか……?」

 

 いやいや、まさか。

 コレは彼が弱いからだよ。

 キミが悪いわけないじゃないか。

 こんなに楽しく愉しいタノシイ気持ちにさせてくれるキミが悪いわけないだろう?

 

「なに……を……」

 

 理解した。少なくともこれは味方じゃない。

 視点が違うんだ、圧倒的な上から見下ろしている。

 だから、僕のことを娯楽としか思ってない――!!

 

 ?

 当たり前じゃないか。

 なんのためにキミをそこに送り込んだと思ってるの……?

 それに最初から娯楽をって、楽しませてくれって言っただろう――?

 

 

 そうだ、思い出せ、アレは――最初からそう言っていた。

 ――娯楽が少ない。それこそ、君たちのいる次元を覗いている程度には――

 

 ――だから、送ってあげるからさ。

 救って見せてよ、ボクらはそれを娯楽にたのしむからさ――

 

「そうだ、最初、から……言っていた」

 

 ね?ボクたちは嘘なんてつく必要ないんだ。

 自分たちより劣ってるモノに嘘つく理由なんてないだろう?

 指先一つで生も死も自由自在なんだから――

 

 

「――」

 

 そうだ、これだ。

 この恐怖、これが――カミサマ。

 

 うんうん。分かってくれて何よりだよ。

 さて、彼女を救うんだろう――?

 今のキミだとまだ足りない。

 だから、キミは思い出す必要がある。

 思い出せないならそれで終わり、ツマラナイ結末だけど……

 

 さて……キミの個性はちゃんと思い出したかな……?

 

「ぼくの個性、は――なんだ……?」

 

 僕の個性は置換のはずだ。

 それ以外に個性なんて――

 

 あれ?少なくともキミは四個の個性を獲得したよね

 最初から使えた置換の個性……は除くとしても、

 再生の個性、影を操る個性、

 観測する個性、鬼のような膂力を得る個性。

 なぜ……後天的に複数の個性が獲得できたのかな?

 ――そもそも個性は常人に複数持てるものだったかな?

 

 キミの読んだヒロアカで緑谷出久のOFAに宿る意識が言っていなかったかい?

 もう、OFAは個性のある人間には継承できない。

 

『君の世代でも絶滅危惧種の無個性且つ力を必要とする者が今後現れない限りは』

 

 そう言っていたよね。

 

 なら似たような状況であるキミは――

 キミは、一人で数多の人間から個性を継承した?

 キミは、一人で数多の人間の個性を奪った?

 そもそも、置換の個性で時間回帰できるのは何故?

 その原理をキミは理解していたのかな――?

 

 ねぇ、どう思う……?

 積み重なった個性を持ってなぜキミは無事で入れるんだろうね?

 

 あぁ……不思議だ。

 こんなおかしいことに疑問を抱いていなかったキミ。

 自身の力の根幹を知ろうとしなかったキミ。

 

 それは、何故かな――?

 

 思い出してごらんよ、キミの原初を。

 さぁ、キミは誰でしょう――?

 

「え――?」

 

 疑問、疑念、自分を信じれない。

 今の僕は正しいのか……?

 僕は……

 

 僕は、誰だ――?

 僕はなんだ――?

 僕、僕の最初、ぼく……は……

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 僕の最初の記憶は白だった。

 ただ真っ白。目の前には白い空間、白い影、そして一人の青年がいた。

 

 白い影と青年が何かを話していた。

 

 生まれたばかりの僕はそれを無感動にただただみていた。

 

 なぜあんなに感情を動かせるのだろう、

 なぜあんなに見も知らぬ他人のために頑張ろうとするのだろう、

 僕にはわからない、何も何一つわからない。

 

 カミに手をかざされた。

 個性だ、それを与えられた。

 

 ふと、その個性を使おうと思った。

 青年を対象にただひたすらに「あぁなりたい……」と。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 そう、だとするならば。

 僕は彼ではない。

 僕の個性は――

 

 ――複製……だ」

 

 

 正解だ――素晴らしい。

 うん、そうだよ。

 

 キミの個性は複製だ。

 だからこそ、他者の個性をその身に宿しても破綻せず、他者の意識を自身の中に留めておけた。

 

 だけどね、置換の個性といえど時間回帰はできない。

 せいぜい過去に送れるものなんて指一本分がいいところだ。

 何せ空間が違う、時間軸が違う。

 そんなものを許すわけがないだろう――?

 

 だからキミは自身の脳の海馬を入れ替えた。

 知っているだろう?

 海馬は記憶を司る場所だ、だからキミはキミの記憶を過去に送った。

 それは即ち、時間回帰ではない。

 ――タイムリープだったんだよ。

 

 なら……

 

 そう、であるならば。

 キミに宿っていた意思はなんなのか。

 この疑問の答えも明白だ。

 

 ただの複製、ニセモノ――だよ。

 

 

「にせ、もの……」

 

 そう、そうだとも。

 キミが今まで話してきたのは、話していたのは、

 ただの偽物。

 そうだろう?死んだ人は生き返らない。

 そんなことは世界が許さないし……何よりボクがつまらない。

 

「あ、ぁぁ……」

 

 さぁ、オリジナルのキミと同じく、壊れて終わろう。

 大丈夫、キミが出来なくてもボクのおもちゃは……

 

 

 まだまだいるから――。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ――」

 

 その言葉が僕の中に溶け込み、心が砕けた音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで終わるなんて……

 んなわけ、ねぇよなぁ……?

 なぁ、隷――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――え?」

 

 この声、は――

 

 

 おや……ニセモノのご登場だ。

 ――うん、コレもまた面白い。

 いいよ、黙っていてあげる――

 

「はっ、ニセモノ……ねぇ。

 ――まぁいい。

 おい、隷」

 

 ――鬼人の声がした。

 

「わー、隷くんだ。

 ひっさしぶりぃ」

 

 ――カイの声。

 

「ったく、それじゃわからないじゃんかよ……俺。

 おーす、隷くん元気してた〜?愛しのカイちゃんだぜ……?」

 

 ――もう一人のカイ……?

 

 ここにいるはずのない人がいた。

 ……あぁ、でも神様の言うとおりならこれもただの複製だ――

 

 

「ひっでぇ……

 ――ま、仕方ないよね」

 

「おいコラ、いつまでもウジウジしてんな――」

 

 その声と共に鬼人の……複製に殴られた。

 

「――いたっ」

 

「はぁ……隷。

 ホンモノだ……ニセモノだって、んな大事か……?」

 

「なに、を――」

 

「ま、今いる俺らがホンモノだって言っても信じれねぇか」

 

 そう、僕の個性が複製ならば。

 今いる彼らは複製ではないと否定できない。

 

「複製だの偽物だの、本物だのお前は知ってるはずなんだがな……」

 

 鬼人の複製はそう言ってため息をつく。

 横からカイが僕に話しかけた。

 

「ねぇ、隷くん。

 スワンプマンの観測問題って知ってるかい?」

 

 カイが言葉を発した。

 

「……ううん、知らない」

 

 なんだろう、それは……

 

「今回は……まぁ、関係ないんだけど。

 このお話はね、落雷で死んじゃった男の人がいて、

 でもその死んだ直後に同じ場所で同一の存在が生まれた。

 この存在は記憶も思考も思想も全部同じ。

 違うのは死んだことを覚えていないだけ。

 なら、コレはその人って言えるのかな……?って話」

 

 それは……

 

「――ま、今の状況に直接は関係ないんだけどね?」

 

 てへっと舌を出して笑うカイ。

 話をややこしくすんなってもう一人のカイに頭を叩かれている。

 なんか、あの二人……姉妹みたいだ。

 

「ま、小難しい話はどうでもいい。

 俺らはホンモノだ……と言っておく。

 ……で、だ。

 ――お前はそれで終わるのか……?」

 

「なにを……」

 

「お前の惚れた女救えもせず、

 目の前で自殺されたからって終わるのかって聞いてんだ」

 

「きみに、なにが――」

 

「しかもそれ、お前の惚れた女じゃねぇし。

 ただ身体が同じ別人だ」

 

「なぁ、記憶があって身体が同じならそいつなのか?

 思考、思想、記憶、肉体、色々あるがよ……どれが個人を定義するんだよ――?」

 

「そ、れは――」

 

 個人の……定義。

 それは、何だろう――

 

「――俺はな、魂だと思うぜ」

 

 

「……この二人がいたから俺は魂の存在を確信した。

 そして、隷……お前もそれをしってるだろうが……」

 

 

 そう言ってる二人のカイを親指で示す。

 

「そうだね、俺が魂を観て――」

 

「オレが触れるのさ――」

 

「そう、オレがいたからこの脳筋ともう一人の俺を救えたんだぜ?」

 

「……」

 

 こんな状況だけど……ちょっぴりわかりにくい。

 見た目も同じ、なんとなく俺/オレのイントネーションが違うだけだし……。

 

「はぁ……

 わかった、わかったよ、わかーりまーした!

 説明するよ……

 俺の方はキミが大好きな方で、キミと戦った方だよ。

 個性は観測……観る力だ」

 

「オレは君を助けた方さ。

 個性は接触。

 ただ観えたものに触れる……そんな最弱の個性。

 だけどな、俺が組み合わさることで……

 観れることで、なんでも触れれるのさ」

 

「そう、俺が観て手を伸ばした」

 

「そして、オレがその手を掴んだ。

 だから、オレが……この世界の出身ではないオレがここにいる――」

 

「ま、そう言うわけだ。

 隷、こいつらがな……崩れかけてた俺の魂をお前の中にぶち込みやった。

 ――だから俺がいる」

 

「で、でも……」

 

 カイが憎しみの表情を浮かべて言った。

 

「いいのさ、信じなくても。

 ――どちらにしても俺たちはここで退場だ」

 

「なぁ――クソガミ……?」

 

 うん、そうだね。

 だってそれはルール違反だ。

 世界の摂理に反する。

 

「ほんと、クソッタレだぜ。

 自分だって散々ルール違反してるくせによ――」

 

 カミサマの言葉に反してカイがボソリと呟いた。

 

 いいのかい?

 面白い見せ物ではあったから放置してたけど……

 ボクに話を向けたなら……うん。

 ……そろそろ罰を受けてもらおうかな。

 

「はっ、勝手にしやがれ。

 どうせ消える命だ。

 こいつのために使うってのが俺らの総意なんだよ」

 

 鬼人がカミサマに噛み付く。

 

 うんうん、素晴らしい。

 鬼瓦鬼人……と、カイ……いや、本名は廻って言うんだね。

 ……君たちの名前は覚えておこう。

 ――忘れない限りね。

 

 さぁ、罰の執行だ。

 コレが終わったら心の折れたキミも処分しよう。

 うん、次の世界が楽しみだな――

 

 鬼人が、ぽつりといった。

 

「……、いいか、隷……前を向け。

 振り向くな」

 

 この世界のカイが呟く。

 

「……あぁ、うん。

 そうだね、キミは観ない方がいいと思う」

 

 別世界のカイが強がった。

 

「大丈夫さ、隷くんオレたちがこんなクソガミにやられて痛いわけないだろ?」

 

「……え」

 

 僕は首を後ろに――

 

「振り向くな――!!!」

 

 鬼人の怒声が響く。

 そして別世界のカイが言葉を繋いだ。

 

「いいか、隷くん……キミは先に行って。

 過去に縛られるな、オレたちは……いなかったことになるだろう。

 神の罰ってのはそう言う理不尽なものだ。

 人一人の存在なんて簡単に消せるんだよ……」

 

「大丈夫……キミは……オレの知ってる隷くんじゃ……ない、けど……

 いつか……このクソ野郎に、一泡吹かせてくれるって信じてる。

 オレの個性あげる……からさ。

 代わりに、キミの一部をちょうだい」

 

「うん……あげる。

 なんでもあげるから――」

 

「……託すよ。

 オレの個性、キミなら活かせる。

 個性"接触"……これはキミのものだ――」

 

 パァンという音と共に背中に痛みが刺さる。

 しかしそれは一瞬で、すぐに重みは消えた。

 

 同時に後ろの気配が消えた。

 わずかに残った痛みだけが彼女の存在を肯定している。

 

「――!」

 

「だから、振り返るな、前を向けって言ってんだろ……」

 

 ぽすりと鬼人に肩を叩かれた。

 声も肩の上にある手も力強さを感じない。

 

「なぁ、多分よ……これご最後だし話そうぜ……隷」

 

「……うん」

 

 聞かなくちゃいけない。

 僕は彼の言葉を――

 

「俺はお前と一緒に過ごせて、遊べて、喧嘩して、戦って――

 ……楽しかったぜ」

 

「俺は夢がない、頭も悪りぃ。

 知らねぇだろうがちっせぇころよ、

 俺にはお前が何かを懸命に追ってる様に見えたんだ。

 ……俺にねぇ何かを持ってる様に見えた。

 だから声をかけたんだぜ?」

 

「俺の怖い外見に物怖じもしないお前と遊ぶようになって、

 受験のために一緒に勉強したりよ……

 ――最高だった」

 

「あぁ、俺は満足だ。

 だからよ、俺の個性……鬼、くれてやる」

 

「……代わりにお前の一部を貰っていくぜ――」

 

 その一言を最後に重みが消えた。

 また一つ僕は失っていく。

 

 ほのかに肩に残る暖かさだけが彼の存在を肯定した。

 

 

「――、」

 

 振り返らないで、前を向く――

 それが鬼人の言葉だ。

 

「……ま、やっぱり最後はヒロインだよね。

 うん…………もうちょっと時間ありそうだし」

 

 カイは何かを観て静かに頷いた。

 

「……多分ね、キミは今まで誰も助けてないって思ってるかもしれない。

 でもそれは違う、それだけは俺が否定する。

 キミに救われた――俺が、ね」

 

――そうだ。僕は一度も誰も救えていないと思っている。

 

「あっちの俺が言ったとおり……隷くん、俺が観てたのはキミじゃない隷くんだった。

 でもね、俺を助けてくれたのはキミだ。

 あっちの隷くんじゃないんだぜ……?」

 

「キミは間違いなくこの世界で一人を救ったんだ。

 俺と言う一人の女を絶望の底から救い上げてくれたんだ」

 

 そう言ってカイは後ろから僕を抱きしめた。

 背中に暖かさを感じる。

 

「だから、ありがとう。

 キミに会えてよかった――」

 

「それじゃあ、バイバイ。

 俺の個性をあげる。

 個性"観測"これはキミのもので――」

 

「……俺たちはキミのその呪いを貰っていこう――」

 

 背中の重みが消えた。

 後ろに残っている気配はカミ……だけだ。

 

 僕は思わず振り返った。

 振り返らない……と約束したはずなのに。

 

 でもそこには何もなかった。

 いや……それは正しくない。

 そこには笑みを浮かべるカミと三つの灰が足元に積み上がっていただけだった――

 

 辛いし、痛い、今すぐにここにうずくまりたい。

 

 それでも、僕は先に進まなくてはいけない。

 

 カミの奥に青年を見た。

 白い椅子の上で、縛られた青年はもう涙すら流していなかった。

 ただ、空っぽの瞳で俯いている。

 ……その姿を見た瞬間、僕は悟ってしまった。

 次元の壁を越えるような個性――タイムリープは、これが最後になるだろう。

 あの人は、もう壊れている。

 僕では、もう助けられない。

 

 だけど、絶対にキミの願いを僕が叶える。

 ……この願いは僕だけの願いではなくなった。

 鬼人、別世界のカイ、そしてこの世界のカイに、そしてキミに託された願いであり、祈りだ。

 

 だから、戻ろう。

 全てを取り戻せるあの時へ――

 

『うん……きみに、たくした。

 まかせるね、ぼくのおしを――』

 

 

 

 

 





[ ]

 罰……かぁ。
 そうだ、燃やそう。
 神の怒り……みたいな感じで下から炙ろう。

 ――それじゃあ、バイバイ。

 

 ……む、なんだよこいつら誰一人呻き声ひとつすら挙げずに消えていくとか……

 あ、置換隷も消えたし……

 まぁ、いいか。
 どうせコレはもう使い物にならないし最後だろうし?
 
 んー、む。
 にしても……うん、すごいやこの三人……?二人……?
 足元からじわじわと業火に焼かれてるのにそれを何一つ悟らせずに、ボクの与えた個性だけ持っていった。

 すごい、すごいね。
 こういったのがあるからやめられない。
 これだから――面白い。

 名前はもう忘れたけど、キミたちは本当に素晴らしい。

 じゃあ、もう少しだけ続きをみようかな。
 ボクもそうだし……なにより、
 ――みんなも待ち遠しいでしょ?
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