なんだかんだで92話、ほぼ週一投稿。
よく書いたものですし…皆様もここまでついてきてくださりありがとうございます。
お気づきかもしれませんが幕引きは近いです。
残り数話お付き合いください。
それではどうぞ、本日もお楽しみいただければ幸いです。
戻ってきた。
最後の世界。
最期の……
世界は夜の帳が下りている。
頭が痛い。
心は折れたまま……だけどやることがあった。
「…………」
ミオは梢の身体で地面に倒れていた。
やはり……呼吸はしている様だ。
「置換――」
尾白くんが僕に声をかけた。
「……?どうしたの……」
「――」
猿夫が息を呑んだ気がした。
直後透が声を上げる。
「……先生が来たよ!」
視線を向けると確かに睡さんだ。
「――睡さん……」
生きている。
乗り移られていない、本物の睡さんだ……
折れていた心が少しずつ形を取り戻そうとしている。
「っ――あなた……また……」
前回に続き、今回も何故か彼女の表情が歪んだ。
何故だろうか。
「後で話を聞かせて、ね……
それで、ヴィランは何処かしら――」
頭が働かない。
「は、はい!こっちに縛ってあります」
だけど動かなくてはならない。
ミオの魂は蠢いている。
今か今かと睡さんが触れるのを待っている。
「ありがとう、それと……ごめんなさい。
本当だったらすぐに来ないと行けなかったのに生徒に任せることになっちゃって……」
その時を待ち侘びている。
そう、この後……
この後に――
「い、いえ!仕方ない……ですから」
「あぁ……他のところでもヴィランが出たなら仕方ないっすよ……ミッナイ先生」
まるで、餌が罠にかかるのを待つ蜘蛛のように……
止めないと……
動け、動け、動け!!
『――オマエは何を託された?』
彼の言葉が頭をよぎった。
「……。ありがとう。
じゃあ裏に警察も来てるから運んじゃうわね」
そう、だから助けるんだ――
僕は手を叩いた。
「――睡さん!!!!」
――個性は発動しなかった。
なぜ、なんで……?
……違う、あの三人が僕から呪いを奪った……と言っていた。
ならばその呪いが元になっているものは何も使えない。
スローになった世界で睡さんが振り向く。
そうか……!!
だから僕の個性は、置換は……
複製を元に使えていた個性だから……
――使えない。
その手が梢の首筋に触れてしまった。
間に合わなかった。
……だけど、まだ。
まだ足掻け、足掻かなくちゃいけない。
この世界が最後なんだから。
そう、僕はあの三人から託された。
救う意味を、命を、時間を、そして……
――個性を。
「うん……怪我は酷いけど。ちゃんと生きてる。
――大丈夫。絶対あなた達を罪には問わせないわ」
僕に残されたもの。
僕に託された個性。
頭を使え、思考を巡らせろ。
そして僕は思い出した。
前回の世界、その世界での松戸さんの最後の言葉を――
『俺の初見だが……次の身体に入れ替わる前であれば……
コイツの……梢のようにならないはずだ。
アイツの中身だけを封印する……あるいは、あの中身だけを抜き取る……
それが出来れば……俺は……
尤も……そんなことはできるはずもないか……』
「――っ」
今までの疲れが出たのか睡さんが少しふらついた。
僕が使用できると思われる個性は観測、鬼、接触の三つだけ……
たったそれだけ……?
いいや、そんな筈はない。
三つも……ある、だ。
だから、まだ間に合うはずだ。
それにこの個性は、今の僕が最も必要としている……個性。
だから、今であれば――
僕はその個性を発動させた。
「――観測」
梢の身体から何かが抜け出て睡さんの身体に入り込もうとしている。
それは――今までよりもはっきりと形を成していた。
悪意の片鱗。
命の欠片。
そして、魂のカタチ。
――僕はもう、置換は使えない。
僕は全力で地面を踏み締めた。
下肢に力が入る。
脹脛が膨張し地面を思いっきり蹴飛ばした。
「睡さん――!」
「「ミッナイ先生!!」」
「――うん、大丈夫、よ。
じゃ、行ってくるわ」
「――いいや、まだだ。
逃げるな、ミオ」
――接触の個性の発動。
僕はそういうと同時に彼女に絡みついていた"それ"を掴む。
他の人には見えない"それ"。
ミオの個性共鳴の正体。
そして、ミオそのものになった個性――共鳴。
もはや彼女は生体個性と言ってもいいのかもしれない。
その個性はすでにミオという意識を取り込んでいる。
魂と個性の輪郭は既に無く、お互いがお互いに溶け合っている。
――鬼の個性発動。
その膂力で彼女がここから逃げることを封じる。
幸い睡さんの身体からは引き離せた。
そして、今だからこそ自らの意思でミオは梢の身体からも出た。
つまり、どちらも救える可能性があるのはここだけ。
「――猿夫!!
――透!!」
「「――!?」」
「……え、なになに!?
置換くん……!!!?」
「!!――なんだ置換!!?」
あぁ、そうだった。
この世界ではまだ僕たちは――
違う今はそうじゃない。
「――睡さんと梢をここから遠ざけて!!」
そうして一瞬の間の後、二人は顔を合わせると頷いた。
「「――わかった!!」」
そう言って透が梢を、猿夫が睡さんを担ぎこの場を離れた。
確実にみんなが離れたと判断してミオの魂を離した。
その魂は僕から距離を取り睨みつけている。
だけど、そんなことはどうでも良かった。
別世界で死んでいった松戸さんの願いを果たし……
そして、あの場面から彼女を救えた。
だから僕は安心していた。
「あぁ、やっとだ。
やっと、これでキミとの因縁が終わらせられる」
今ミオの目の前にある肉体はひとつだけ。
『やってくれたわ……
うちがやろうとしてたことようわかったねぇ――』
そして、この言葉を聞き僕は察した。
このミオは僕と記憶を同期できていない、と――
目の前のそれ――個性は声帯を持たない。
肉体無くしてはこの世に存在できない。
だから、彼女は僕の身体に――
『しゃーない、死にたくはあらへんし……
恨みを晴らすのは我慢……か』
戻るしか、ない。
『ダメ元にはなるんけど――キミの身体、貰おか』
そう、それでいい。
僕の身体は奪えないなら、ミオを助けられる方法が見つかるまで……この身体を保存容器とすればいい。
ミオがそう言ったと同時だった。
足音が聞こえた――
それはコツリ、コツリと静かにその足音を立てる。
その存在に僕は足を無意識に下げてしまった。
「――!」
この男は――
この男は、ダメだ。
「――AFO……!!」
僕が発したその名前を目の前の存在はまるで気にも止めないようにミオの方向に視線を向ける。
「やぁ、梢。
辛そうだね……助けてあげようか……?」
『――ここで来るかいな……AFO』
「何言ってるかわからないけど、
そろそろ収穫の時だろう……?」
「なにせ、キミの個性は難しい。
奪えるタイミングが少ないんだ」
『そんなこったろうと思ったわ……』
「大丈夫、キミの個性は僕が有効活用させてもらうから――」
「――ミオ!!
早く……!!」
早くしないと、キミを……助けられなくなる。
ミオの視線が僅かにこちらに向いた気がした。
だけどそれはほんの一瞬で……
『……なんやそれ、同情なん……?
……うちを助ける……?
……ほんま、意味わからん』
AFOがミオのいる方向に手を伸ばす。
彼女の魂がだんだんと吸われていく。
『うちに、同情するな――
うちはうちの為に生きて、そして死ぬんや――』
その言葉を最後にミオはAFOに吸収された。
――助けられなかった。
だけど、不思議なことにAFOは僕の方を間違いなく見たはずなのに僕を見ずにその場を立ち去った。
その場に残ったのものは僕だけ……
ミオの魂もAFOがいた片鱗も僕以外には何も残っていなかった――
♦︎♦︎♦︎
助けられなかった。
だけど、だからと言って……僕は折れ切ってはいけない。
だってまだ睡さんが死ぬ因子はなくなってない。
だから、僕は……足掻かなくちゃいけない。
それに……睡さんをあのタイミングの死から救ったとしても……
AFOが新たな力を得てしまった。
共鳴という最悪な個性を――
だから彼はミオの様に受けたダメージを反射するだろう。
持ち得る数多の個性を持って仮に倒されても……
彼は人から人へ乗り移る魔王になる。
そんなものは考えるまでも無く明らかだ。
いいや、ダメだ。
そんなことはさせない。
僕が達しなければならない目的は二つ。
まず睡さんを助ける。
そして……AFOから少なくとも共鳴の個性だけは放棄させること、叶うならばAFOの討伐だ。
そしてそれはできる限り早く行わなければならない。
彼がその個性の使い方を理解するまでに、
時間は短い。
僕は弱い、だけど僕には託された願い/個性がある。
睡さんを助けるだけでは意味がない。
その先が終わりを示しているのに、一度の命の危険を救ったって意味がないんだ……
だからこそ、僕は助けなくてはいけない。
強くならなくてはいけない。
――学生など、やっている場合ではない。
血に塗れ、限界を超え、世界を救い……あの人を助ける。
……この個性達を極めなくてはならない。
相手は数え切れないほどの個性を持つAFOだ。
僕は三つの個性で彼を倒す。
幸いこの三つは概念系の個性だ。
使い方次第でなんでもできる。
観測、接触、鬼、どれも強力なのは間違いない。
でも……最期に手紙だけは許して欲しい。
鬼人……カイ……
それだけ、僕の最後の弱さをここに置いていくから。
だから僕のニセモノの最後の弱音。
別世界とはいえ親友になってくれたあの二人、
そして僕が誰よりも好きで、
共に過ごし、笑い、悲しみ、より好きになったあの人への……
あの三人に向けた手紙だけは――
♦︎♦︎♦︎
ミッドナイトと梢さんを遠くまで避難させた後、
俺と葉隠さんは置換のいるあの場所に戻っていた。
手伝えることがあるかもしれない、そう判断してのことだ。
あの場は置換の雰囲気に呑まれ避難を優先させてしまったけど……
本来であれば一緒にいるべきだったのかもしれない。
だけど、戻った俺たちが見たのは誰もいないその場所と……
俺と葉隠さん、そしてミッドナイトへ向けた二通の手紙だけだった。