推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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おまたせしました。
今週もお楽しみいただければ幸いです。
多分ですが来週は2話投稿になると思います。
94話だけだと分量が少ないんですが、そこで区切った方がなんかいいかなと…

ではどうぞ。


93話 痕跡

 

 俺たちが戻ると置換はそこにいなかった。

 代わりにそこには白い封筒が二通置いてあって、

 少し震える文字で

 

 ――尾白猿夫さん、葉隠透さんへ。

 

 と宛名が記されていた。

 

「……なんだよ、これ……」

 

 俺たちに対して宛てた手紙。

 この文字は置換の文字だ。

 

 どうしてここにあいつがいないのかここに書かれている気がした。

 そして、俺は……俺たちはもうあいつに会えないんじゃないかってそんな不安がよぎった。

 

「なぁ……葉隠さん」

 

「どうしたの……?」

 

 その不安を彼女に伝えるべきか悩む。

 

「いや……いい。

 ……読もう」

 

 だけどやめた。

 そんな想像はしない方がいい。

 そうして封筒を開けると一枚の便箋。

 

 やはり、その字は震えていて、

 俺の中になんとも言えない感情が広がった。

 

 ♦︎♦︎

 

 二人ともなんで僕が手紙を残して消えたのか気になるよね……

 やらなきゃいけないことが出来たんだ。

 これは……先生たちに伝えてくれたら助かる……かな。

 ……うん、絶対に伝えておいてほしい。

 ただの学生が言ったことで信用されないかもしれないけど……

 それでも知ってるのと知らないのは大きな差があるから……

 

 伝える内容はこれだよ。

 AFOが最悪の個性を獲得しました。

 個性の名前は共鳴。

 自身の負傷、病を自身に触れたものに押し付けたり、

 記憶を読み取ったり、

 一部の人間に対して身体を奪い取ることが出来る。

 

 流石にさ、こんなんされたら勝てなくなっちゃうよ。

 僕にはこれをどうにかする手段があります。

 だから、僕はこれからこの個性を磨きます。

 これは僕の責任だから……僕が居なければ起こらなかったことだから……

 

 ♦︎♦︎

 

「これ、どういうことだ……?」

 

「えっと、確か梢……さんの個性って乗り移れるって。

 それがAFO……?に奪われた」

 

「……誰だ、それ……」

 

 知らない。

 俺たちはそんな名前の存在を知らない。

 

「あいつは何を知ってるんだ……?」

 

 わからなかった。

 あいつが何を考えていて、なんでいなくなったのかも――

 

「……続きを読もう」

 

「……うん」

 

 ♦︎♦︎

 

 変な話だけど……この手紙書いてる時に楽しかった思い出が色々よぎったんだ。

 書いておかないと忘れちゃうかもしれないから、

 ここに残させてくれると助かるな。

 

 二人と仲良くなるきっかけは確か……

 あぁ、そうだ。

 入学してすぐにあった戦闘訓練だ。

 ほんの数ヶ月前のことなのにね……なんだかすごい昔の様に感じるな。

 

 ……確か、障子くんと轟くんと戦ったんだっけ……

 僕たちがヴィランで、彼らがヒーローとして。

 

 あの時は危なかったよね、

 三人もいるのに轟くんの凍結で全滅するところだったし……

 

 ……そうだよ、思い出した。

 二人ともあの時はほんとごめんね、

 カッコつけたのにめちゃくちゃダサい負け方することになっちゃって。

 

 なんだよ、拍手とは魂の喝采とかいって転んで気絶してたら世話ないよね……

 

 あのあと二人が保健室にお見舞いに来てくれて、

 透に揶揄われたからいつかやり返してやるって思ってたけど……

 ……無理そうだね、仕方ないや。

 鬼人もあの後来て、二人ともびっくりしてたっけ。

 

 あの時……この二人は会ったばかりの僕にここまで優しくしてくれていい人だなって思ったんだ。

 変だと思うでしょ?

 でも僕さ鬼人以外友達って言っていい関係性の人居なかったから……

 

 優しくしてくれた、ただそれだけで良かったんだよ。

 ……二人は僕と仲良くしてくれたでしょ?

 

 

 色々あったよね、

 USJではヴィラン連合が攻めてきたり、

 体育祭があったり……

 体育祭といえば、

 ……あ、もう出来ないけどさ、

 僕……猿夫とちゃんとした舞台で戦いたかったんだ。

 

 あの後僕の方で色々ありすぎたから二人やみんなとそんなに関われなかったけど……

 それでも二人は僕と一緒にいてくれたんだ。

 

 職場体験、林間合宿、インターン、

 色々あった。

 辛かったし、きつかったし、でも楽しかったな。

 楽しい思い出がいっぱいあって。

 

 でも二人には何度も何度も傷つけること言っちゃった。

 ……ごめん、本当にごめん。

 でも、それ以上に……僕と友達になってくれてありがとう。

 ……あの時……二人が親友って呼んでくれた事は忘れない。

 本当に、ありがとう――

                    置換隷より

 

 ♦︎♦︎

 

「なんだよ、もう会えなくなるみたいに書きやがって――!!」

 

 

「それに……どういうことだ……?

 親友……?」

 

 ボソリと呟く。

 引っかかる言葉が多すぎた。

 俺たちの知らない何かをアイツは知っていた。

 確かに俺たちは仲がいい。

 親友と呼べるほど仲がいいかもしれない……でも明確にそう断言したことは無かったはずだ。

 そして、置換はそういうことを自分から言うタイプじゃない。

 なら、何故――

 

 

 思考に耽っていると葉隠さんが少し震えながら静かに呟いた。

 

「ねぇ……鬼人ってだれ……?」

 

 鬼人、鬼瓦……鬼人。

 知っている。

 名前を知っている。

 だけどそれだけ。

 

「……え、鬼人……って、言えば……

 あ、れ……」

 

 覚えてるはずなのに記憶の中から無くなってしまった感覚。

 最初からそんな人はいなかったと、俺の記憶は示している。

 でも……俺にはそうは思えなかった。

 

 葉隠さんは呆然とする俺に畳み掛けるように疑問を投げかける。

 

「ねぇ、私たち梢さんに勝ったよね……?

 どうやって、勝ったの?」

 

 戦った記憶はある。

 でもどう戦ったのか、なぜ勝てたのか……その記憶だけがない。

 

 まるでその記憶が無かったかのように、

 まるでそんな人物の存在を世界が許さなかったかのように。

 

「――あ」

 

 俺は……どうやって勝った?

 梢の個性は……共鳴は誰かの犠牲無くしては突破できなかったはずなんだ。

 でも俺も、葉隠さんもそして置換も無事だった。

 

 あの時、あそこに……俺たち以外の誰かがいた……?

 

 いいや、そんな記憶はない。

 ならば…………

 

 ――俺たちは、記憶はどこに消えた……?

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 そんな疑問を浮かべながら、

 それでも置換の行方を憂いながら、俺たちは周辺を探す。

 何か少しでも手掛かりが残っていないかと、

 置換がどこに行ったか探すために――

 

 でも見つからなかった。

 どれだけ探してもあいつがいた証拠はその手紙しか無くて……

 日も暮れて寮の門限もあった。

 だからその日は帰ることにした。

 

 もう一つの手掛かりである。

 ミッドナイトへの手紙を携えて――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 翌日、俺たちは昼休みにミッドナイトを探しに行った。

 幸い職員室にいたようですぐ捕まえることができた。

 

「あら?

 どうしたの……?」

 

 ミッナイ先生は職員室を訪ねた俺たちに問いかける。

 

「えぇ……置換が、いなくなって――」

                  

 ミッナイ先生は目を見開きガタリという音を立てて席を立った。

 

「……ごめんなさい。

 続けて」

 

「俺たち、昨日あの後……戻ったんす。

 あの場所に……」

 

 

「それで、戻ったら置換君いなくて……

 手紙が二通だけ置いてあったの……」

 

「俺たちと、ミッナイ先生への手紙が――」

 

「見せてもらってもいいかしら……?」

 

「はい」

 

 ミッナイ先生は俺たちの手からその手紙を受け取ると静かに便箋を開く。

 そこには二枚の紙が入っていた。

 

 そして、ミッナイ先生はその1枚目に目を通した――

 

 

「――」

 

 直後目の前のミッナイ先生は目を見開いて手紙を落とした。

 俺たちの視界にその文字が目に入った。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 ――睡さんへ。

 

 二人の手紙にも書いたんですけど……

 僕は、やることが出来ました。

 詳細は二人に聞いてくれるとありがたいです。

 同封の退学届を出しておいてくれると助かります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いろいろ書きたいことはあったんですけど、

 いざ書くとなると頭が真っ白になっちゃいますね……

 なので一言だけ……

 

 

 

 

 ありがとう ございました。

 

 

                    置換隷より

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

「……これ……だけ……?」

 

 俺から溢れた言葉はそれだった。

 俺たちに対する手紙より少ない文章。

 だけどよく見るとこの手紙は何度も何度も書いては消して書いては消してを繰り返してるように、ぐしゃぐしゃだった。

 

 それを見た葉隠さんは絶句している。

 

「うそ、置換くん……あんなに好きだったのに、これしか……」

 

 だけど、彼女は大人だった。

 

「――えぇ、うん。

 二人ともありがとね」

 

 ミッナイ先生は一度目を閉じ深く呼吸をするとそっとその手紙を拾い職員室の机にしまった。

 

「とりあえず、これは預かっておくわ」

 

「二人はゆっくり休みなさい?

 もう少し昼休みあるからね」

 

「え、あ……はい」

 

 どうして、そんなに普通でしていられるんだろう。

 手紙を落とすくらいには動揺していたのに、

 もうその気配すら感じられない。

 

「……」

 

 俺は……何もわからなかった。

 そして、このなんとも言えないモヤモヤを抱えたまま職員室を後にした。

 

 後ろで、何か呟いている葉隠さんに気づかずに――

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 私は納得できなかった。

 

「ねぇ……!!ミッナイ先生!!

 それで、いいの――?」

 

 置換くんとあれだけ楽しそうに笑い合っていたのに、

 想いを寄せられて微笑んでいたのに、

 すでに情はかなりあるはずなのに、

 それを取り繕って笑っている。

 

「何のことを言ってるの分からないわね……」

 

 もしかして、ミッナイ先生は一人で――

 

「ダメですよ、それ……

 尾白くんは気づいてなかったけど……おかしいですもん」

 

 ミッナイ先生は無言のままこちらに視線を送る。

 

「……」

 

「白紙なのに、何度も書き直した後……ありました。

 だから、その文字を浮き上がらせれば、何か……」

 

 ふわりとミッナイ先生の香りが鼻先をくすぐる。

 

「――大丈夫よ。

 心配しないでいいの」

 

 ふわふわと夢の中にいるような錯覚。

 考えていたことがどこかに飛んでいくような、そんな……

 わたしは……

 わた、しは――――

 

「――あれ……?

 何考えてたんだっけ……」

 

 

「――まったくもう、そろそろ文化祭の準備があるでしょ?」

 

 ミッナイ先生はニコニコと笑っている。

 だけどその中にどこか影が潜んでいるような――

 

「むー、何でここ来たんだっけ……

 ま、いいや!ミッナイ先生!うちのクラスのライブ見に来てね!」

 

「はいはい」

 

 そして私は職員室を後にした。

 

「――大丈夫よ、あの子はヒーローになれる子だもの。

 こんなところで終わったりなんかしないわ」

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 私は二人が職員室から退室するのを確認した後、

 さっきの手紙と退学届を校長に届けず机に隠した。

 葉隠さん……あの子には申し訳ないことをした。

 

 でも、あの子達は知れば着いてこようとしただろう。

 だから、私の個性でその記憶を眠らせた。

 

 私の個性、眠り香。

 いつからか、こんなことができるようになっていた。

 人を眠らせるだけじゃない。

 記憶を眠らせたり、痛みだけを眠らせたり、出来なかったことが出来るようになった。

 

 これも、あの子――カイに捕まってからだ。

 朧げに覚えている。

 私の中身だけがカイに捕まったことを。

 そしてそれを助けたのが置換くんだってこと。

 

 それからだった。

 私の個性は少しずつ変わっていった。

 ふとした時、眠らせるだけじゃない気がした。

 眠り香という個性。

 この睡眠を促す個性。

 

 固定観念に囚われてはいけないと思った。

 だってあんなことが起こるんだから、個性の可能性は無限なのかも知れない……と。

 

 だから試行錯誤した。

 その結果、記憶を眠らせることができた。

 痛みを眠らせることができた。

 感覚を眠らせたり、思考を少しだけ眠らせたり。

 眠らせるだけだった個性の強弱、派生が広がっていった。

 

 今回あの子に使ったのはそれだった。

 直前に考えていた記憶を眠らせた。

 当然眠っているだけだから何かきっかけがあれば起きるでしょう。

 でもそれでよかった、また眠らせればいいだけなのだから……

 それに、それまでにあの子を連れかえればいいでしょう?

 

 私は仕事の合間に、

 置換くんがいたかも知れない場所を虱潰しに探した。

 

 そして、分かったことがある。

 あの子は強くなっている。

 間違いなく、強く……

 

 それこそ私でさえ苦戦するようなヴィランを簡単に捕獲してしまえる程に。

 あの子がいなくなってからまだ一ヶ月しか経っていない。

 どれだけ鍛えたのだろうか。

 

 最初に私が訪れたのは瓦礫の山だった。

 そこでは彼らしき人物が目撃された、と。

 なぜか目撃者は助けられたはずなのに恐怖を覚えていたのがわからなかった。

 訪れてみるとそこは衝撃と破壊痕だけが残っていた。

 

 彼の個性でこれができるとは思えなかった。

 でも、目撃証言が彼を示している。

 瓦礫の山の中、学生証が落ちているのを発見した。

 

 ――置換隷。

 

 その名が記されていて、間違いなくここに彼がいたのだと確信した。

 

 

 

 次に私が訪れたのは、砂浜だった。

 海と砂、防波堤、そこにあったはずのそれらは。

 まるで大きな手に握られたかのように抉り取られていた。

 そしてその周辺には血痕が滲んでいた。

 

 そう、ここに訪れた理由はこの血痕だったのだ。

 これが彼の血液と一致したのだ。

 だから、ここに来た。

 

 でも残されていたのは謎の破壊痕と血液だけで。

 本当にここにいたのかわからなかった。

 

 だから、ここにその時いた人を探して話を聞いた。

 その人曰く、助けてくれた人は波を掴んだ……らしい。

 でも、変わってしまったとしても……それでも彼が誰かを助けた事を少し誇らしく思った。

 

 

 最後に私が訪れたのは廃墟だった。

 あるヴィラングループが占領していた廃墟だ。

 血液化という個性を持っているヴィランがリーダーとなり人の血を啜り殺すというヴィランだった。

 

 私たちが捕まえられなかったのは他でもない。

 リーダーが血液化され捕まえられなかったからだ。

 排水溝を通じてどこにでも逃げられたからだ。

 

 にも関わらず、彼はそれを捕獲していた。

 ……そして、何故かリーダーの個性は失われていた。

 

 そのリーダーに話を聞くことができた。

 だけど、その言葉は要領を得ていなかった。

 

「あの、バケモノは、何だ……

 こっちをみるなこっちをみるな、みるな。

 視線を向けるな、やめてくれ、もうしない、二度としないから、その視線を向けないで、こわい、みないで、やめて、

 ――おれを、みないで」

 

 そんなことを言いながら何かに怯え続けている。

 何をしたらそうなるのだろうか。

 今までの置換くんであればあそこまで人を追い詰めることはあるわけがない。

 だからあの子は追い詰められていると私は思った。

 静かに、早く助けてあげたいと目尻から涙が溢れた。

 

 

 どれだけ調べても彼が何処にいるのかわからなかった。

 私が辿り着けたのは彼のいた痕跡だけで、

 今何処にいるのか、

 何処で眠っているのか、

 ご飯をちゃんと食べているのか、

 私には……なにも、何一つわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 手紙を残しあの場を立ち去ったあと僕は今使える個性を確かめていた。

 

 鬼、接触、観測。

 どれもピーキーでまるで化け物のように。

 

 そして、僕の心の中に黒い感情が芽生え始めているのを感じた。

 これが……もしかしたら鬼人の背負っていたものなのかもしれない――

 

 それに、僕の身体は個性を使えば使うほど鬼の個性に侵食されていった。

 身体は変貌し黒く染まり頭からは角が生えている。

 

 今の僕を見て置換隷だとわかる人はもういないのだろう。

 

 最初に鬼の個性が暴走したのは人を助けようとした時だった。

 ヴィランに人が襲われているのを見て僕はすぐ使えそうだったこの個性を発動させた。

 

 瞬間僕の思考に殺意が溢れた。

 目の前が赤く染まりヴィランを壊すことしか考えられなかった。

 わずかに残った自意識で襲われていた人を見ないように目を逸らしながら、勝手に動く身体が目の前のヴィランと廃墟を粉砕する。

 

 だけど、僕は少しだけ安心していた。

 ちゃんと守れたから、それに……この個性ならAFOとも渡り合えるかもしれない。

 

 

 

 僕が使っていた頃とは出力が違う。

 まるで本物の鬼になったような万能感。

 

 だけど僕は知っている。

 この万能感に酔ってはいけない。

 その先は全ての人を殺し尽くす未来だから――

 

 

 

 

 個性を鍛えて放浪する最中、ふと海辺に立ち入った。

 人声に囲まれながら流れる海を眺めていると……

 いきなり雨が降り、海が荒れた。

 防波堤を超える波、波に流されてきた大きな船。

 このままでは人にぶつかってしまうことがわかった。

 でも、鬼の個性は使えなかった。

 こんなに人がいる時に使ってしまってはこの人達に殺意が剥かないとも限らなかったから……

 

 だから、もう一つの個性。

 接触を使った。

 触れる個性……

 触れるということはそのものに形を与える……と言い換えることもできる。

 だから僕はその船ではなくこちらに向かう波を掴んだ。

 波という液体が迫る現象に接触の個性で形を与え固形として、

 その波を掴むことを可能にした。

 

 幸いそれは成功した。

 引き換えに……僕の腕は潰れた。

 当然だ、人の身体で波という自然災害を止めようとした。

 

 だから腕は潰れて当然だった。

 代わりに人を救えた。

 

 僕はよかった。

 だけどこれだとAFOと戦う時に困るなとも思った。

 瞬間、潰れた腕がまるで逆再生のように……黒く汚染されて再生された。

 

 腕から侵食が僕の身体に進んでいく。

 恐怖はなかった。

 当たり前のように身体を鬼が侵食していく。

 個性を発動していないのに……まるで僕の身体を守るように。

 ……いいや、僕の身体……ではない。

 この身体を守るかのように――だ。

 

 

 

 

 僕はフードを被り顔を隠して放浪を続けた。

 その道中、噂を耳に挟んだ。

 あるヴィランが廃墟を根城にしていると。

 人の血を啜り、吸い殺す。

 そんな奴らがいると。

 

 だから、止めないとと思った。

 そいつらなら――殺しても良さそうだから。

 それに放浪の最中一つAFOに抗える手段が思いついた。

 それを試したかった。

 

 

 廃墟に訪れると目の前に現れたヴィランを侵食された鬼の個性で叩き潰した。

 問題は血液のように流体になり逃げる親玉。

 

 接触の個性で掴んで叩きつけても水滴となり逃げる。

 だから、試したかったことを試すことにした。

 

 観測の個性。

 観る、そう、僕は個性を観た。

 

 個性が、観えてしまった。

 そして、観えたということはもう一つの個性で触れられる、ということ。

 観て、触れる。

 それは人が行う当たり前の動作。

 だから、その厄介な個性に触れ引き出そうとした。

 でも難しくて、何故か個性を引き出されるヴィランの親玉は叫んでいた。

 みるなみるなとか訳のわからないことを叫んでた。

 

 目の前の親玉の個性は引き出せた。

 でも個性を出したもののどうしたらいいんだろうと迷った。

 だから自分の中に入れた。

 

 ――個性を奪うことができた。

 でもそれは完全な血液化ではなく……血液変化という個性に劣化した。

 そして、だんだんと自分が壊れていく感覚。

 自分が自分ではなくなる感覚。

 

 

 でもそれより嬉しさがあった。

 個性を奪えるということはAFOから共鳴を奪えるということ。

 それはつまりあの人を救えるかもしれないと。

 だから僕はヴィランを襲い個性を奪い続けた。

 

 個性が増えるにつれて薄くなる自我。

 記憶が消えていく、それが自分でも怖い。

 でも止まれない……止まってはいけない。

 何故なら、あの人の死が近いと“なぜか確信している”。

 

 

 僕は「あの人を救いたい、あの人に誇れる自分になりたい」という願いだけで動いていた。

 それだけが僕がヴィラン以外を襲わずに済んだ最後の良心であり、最後の理性だった。

 

 ただ、一つの疑問。

 あいつは……もう、外にいるんだっけ……?

 それとも、まだ――

 その考えは、泥のように沈んでいった。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 ――さぁ、“個性"は集まった。

   奪う方法も理解できた。

   だから、僕の敵を……殺しに行こう――

 

 

 例えぼくが壊れたとしても――

 

 

 

       ただ、あの人ってだれだっけ……?

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