推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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チェンソーマンレゼ編3回目をみてきました……
いやはや、何度見ても素晴らしい。
もし待てなければ是非。
あの二人は戦闘シーンすら踊るようなデートで…

手が届かないからこそ美しい。

ではどうぞ。
94話お楽しみいただければ幸いです。


94話 「──    」

 

 ぼくは、まちつづけていた。

 ときがくるのを、てきがここをおとずれるのを……

 

 じかんはすぎる。

 なにもない、ここにはなにも。

 どのくらいじかんがたったのかわからない。

 このなにもないじかんでぼくはわすれてしまったあのひとのことをずっとかんがえていた。

 わすれてもなおたすけたいとねがったあのひと。

 

 

 すこしまえにきづいた、ぼくのからだはすうじつならたべなくてもうごけるようだった。

 たまにたべものをたべればそれでうごける。

 それも、おにのこせいのいったんなのだろう。

 

 ぼくは"ぼく"のきおくをしっている。

 だから、ここでまっていればあれがくることがわかっている。

 まっているあいだかんそくのこせい、これでじぶんのきおくをみかえせた。

 でも……あのひとのなまえがずっとすなおとでけされてわからない。

 

 あのひととのおもいではしあわせだった。

 でもそれだけじゃなかった。

 かんそくのこせいはゆうずうがきかない。

 たのしいきおくだけじゃなかった、

 なんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもあのひとがしぬきおくをみせつけられる。

 

 つらいしいたい。

 でも、まえよりそのいたみはどんかしていた。

 たのしくて、いたいからおぼえていられた。

 いまのぼくは、まえのぼくとおなじなのかな。

 

 たぶんちがうとおもう。

 きおくはそのひとであるしょうめいだ。

 そのきおくがこわれているのに、

 じぶんがじぶんであるといえるわけがない。

 あのひとをたすけることがぼくのだいいちになってる。

 

 

 ほかのきおくはあまりのこっていない。

 ともだちがいたきがした。

 でもそのかおも、なまえも、

 ぼくのきおくにはのこっていない。

 ぺんでぐちゃぐちゃにいろんなせんがのせられたみたいに。

 なにかにおおわれてそのすがたをおもいかえすことができない。

 

 たのしいことがあったはずだ。

 うれしいことも、けんかだって、なかなおりだって、あったはずなんだ。

 でも、もうのこってない。

 ごめん、ごめんね、◼️◼️、◼️――

 ぼくはもう、きみたちのなまえをよべない。

 さいごにてがみだけのこせてよかった。

 こんなすがたをきみらにみられるわけにはいかないから。

 

 わすれてしまったぼくでもそのくらいはわかる。

 あのひといがいわすれたはずのぼくにのこっていた、かすかなゆうじょうのきおく。

 すくなくともこわれるまえのおきかえれいにとって、

 そのきおくもたからものだったはずだ。

 

 でも、それはつぶれた。

 まるでてがみのうえに、

 なんどもなんどももじをうわがきしたかのように。

 ほんらいのからだにおさまらないくらいのれっかこせい。

 それをぼくのからだにむりやりうえつけた。

 

 からだはおにのこせいでこわれずにすんだ。

 でも、なかみはそうはいかない。

 いくらそとがかたくてもなかはやわらかい。

 いまのぼくはあたまがあまりはたらいてないから、ことばにできないけど……なかみはやわらかかったみたいだ。

 

 

 ――あぁ……いつまでも、かんがえているわけにはいかない。

 

 

 

 ぼくはしっている。

 しがらきにそのこせいをわたすためにここにくるのを。

 そして、あいつがあのこせいをつかいこなすまえに、うばわなくちゃいけない。

 

 どぶのようなにおいがちかづいてきている。

 いろんなこせいをごちゃまぜにひとつのなべにいれてぐちゃぐちゃにかきまわしたみたいな、

 そんなどぶのにおいだ。

 

 ――きた。

 

 でも、みためがやけにおぼろげだ。

 なんで、だろう。

 いっぽいっぽ、しがらきにちかづいていく。

 

 敵をまえにして、すこしずつ頭がさえてきた。

 

 ああ、そっか、そうだ。

 まだ本体はつかまってるんだった。

 だからあれはあつめるやつだ。

 

 ――なら、やっぱり。

 あれはここで消さないと。

 そうすれば漫画のように世界はすすむ。

 

 消して、あの人を助ければいい。

 でも、どうやって助ければ……

 あそこから助けるだけじゃ駄目だった。

 

 ……違う、今はそんなことより、

 あれを消さないと――

 

 僕の身体は駆け出していた。

 今までの緩慢な思考ではなく、まるでゾーンに入ったかのような集中力を感じる。

 脳に回っていなかった血液が急激に回ったような思考がさえ渡る。

 

 一見脳無のような見た目、

 しかしそれとは確かに違う外見。

 頭部に表出しているのは脳ではなく角で、

 身体は黒く、口は裂けている。

 指は鋭利に尖り、身体は筋肉質に。

 

 僕はこの中に潜む衝動に駆られている。

 でも、その方向性は制御できた。

 だからこの殺意を、ただただ目の前の敵に向ける。

 

 

 ……身体が動くと同時に少し頭が回るようになってきた。

 

 現状の確認をした。

 

 ここは……

 今は……死柄木が眠りにつき目覚める前、蛇腔病院地下。

 そして……ヒーロが来る前……だ。

 

 まだあの人が生きていることを密かに喜びつつ、

 それでも溢れた言葉は悪意に満ちていた。

 

「――ミツケタ」

 

 そして……僕の喉から出たその声は、決して人の声ではなかった――

 

♦︎♦︎♦︎

 

 駆ける、駆ける、駆ける。

 僕は目の前の敵に向かってただただ進む。

 それはヒトガタでだけど何故か歪んでいる。

 

 当然だ。

 アレはまだ刑務所から出て来ていない。

 だからアレは偽物。

 

 残り、十五メートル。

 

 駆ける、さらに先へ、気づかれずに殺す。

 アレにあの個性を発動させてはいけない。

 いくら僕が対抗策を得たとしてもそれは確実たり得ない。

 

 なにせ、偽物とはいえアレは魔王だ。

 一つの時代を作り、終わらせようとしているバケモノの一部。

 

 それに比べて僕はただの凡人で……

 

 ……弱気になるな。

 退けば老いる、臆せば死ぬ、だからこそ、先へ。

 

 ――Plus Ultra、だ。

 

 残り十メートル。

 

 まだ気づかれていない。

 死柄木に真っ直ぐ視線を向け歩いている。

 今しかない、この瞬間、あの個性を初手で奪う――

 

 五メートル。

 観測の個性を発動。

 敵の個性視認を開始。

 

 三メートル。

 個性は……、こ……せい、は――

 まて……こいつは……コレは……

 確認できる範囲でいくつもの個性が重なり合い複合している……?

 

 

 二メートル。

 違う。探せ、探せ……僕が取らなくちゃいけない個性。

 共鳴の……個性を……

 じゃないと、僕はスタートラインにも立てない。

 

 

 一メートル。

 ダメだ、見つからない。

 ここまで来て何もしないのは致命的。

 どれでもいい、それでも一つは奪わなくちゃ――

 

 個性認識、敵の個性を確定させ、その形を認識する。

 

 ――ここだ。

 敵の後ろに辿り着きその胸元を僕の鋭利な手が貫く。

 そのまま目の前の敵を引き摺りながら死柄木から引き離す。

 貫いても暖かさは感じない。

 やはりコレは――

 

 

 

 個性接触発動。

 観測させたその個性に形を与え、

 その個性を握りしめ、

 相手の元から引きちぎった。

 

 

 

 個性を奪った。

 まず確認すべきことはこの奪った個性が何なのか、だ。

 共鳴ではない……これは……

 …………この個性は、幻惑……?

 それと同時に目の前の物体がこちらを振り返る。

 それの見た目は先ほどと変わっていた。

 

「――ノ、ウム……」

 

 脳無だ。

 そうだ、アレが使える肉体などそれしかない。

 僕が今奪った幻惑の個性によりその見た目を偽っていたのだろう。

 

「――」

 

 目の前のそれが何かを呟いた。

 直後僕の胸に一つの穴が開いていた――

 

「……ガッ……」

 

 身体から溢れる血液。

 当然だ。

 相手はあの共鳴を持っている。

 僕の与えたダメージはその個性を発動するだけで、僕に返ってくる。

 

 だけどそれは想定していた。

 だからこそのこの個性達だ。

 奪った劣化個性。

 それが今ここに役に立つ。

 

 血流操作、僕の血液は心臓を経由せずとも血管へと運ばれる。

 こんな操作本来は僕はできるはずがなかった。

 でも、それを可能にする個性も奪った。

 

 元々は血流操作は血液化という個性だった。

 だが、僕が奪ったことで劣化した。

 

 そしてもう一つの個性はマルチタスクという。

 この個性は並列回路という個性を奪ったもの。

 その結果、個性が変質しマルチタスクという思考のみに作用するものになった。

 

 故に、今の僕の個性は、一つじゃない、三つでもない。

 鬼人、カイ二人の個性を合わせた三つの個性、

 ヴィランから奪った七つの個性、

 そして目の前の脳無から簒奪した一つ、

 ――合わせて十一の個性。

 

 一つ一つそれぞれは些細なものだ。

 元の個性から劣化しているから特定状況以外で役に立つことなんてほぼ起こり得ない。

 だけど、それを組み合わせれば……

 僕は、これと戦える。

 

 そう考えているうちに、目の前のそれの身体が逆再生のように戻っていく。

 

「ヤッパリ、アルノカ……再生ノコセイ」

 

 僕が観測した範囲の相手の個性は……

 把握している個性は、共鳴、幻惑、再生、身体強化、

 そして個性を奪う個性の五つ。

 ただし、幻惑は奪い、そして奪う“個性"は……条件がある。

 故に気にしなくてはいけないのは共鳴と再生、身体強化、

 そして残りのいくつあるかもわからない個性達だ。

 

 対して僕の個性は十一。

 鬼、観測、接触に加え、

 ヴィランたちから奪った血液操作、マルチタスク、肉体維持、鎮静、意識隔離、遅延再生、体液変換の七つの個性。

 

 現在使用している個性は常時発動型になった鬼、

 個性奪取時及び攻撃時に観測と接触、

 胸部に空いた穴を埋めるのに遅延再生と肉体維持、

 血液が外に出ないよう血液操作、

 痛みを誤魔化すのに鎮静、

 そして全てを同時で使うためのマルチタスク。

 

 体液変換を除く全ての個性を同時に発動している。

 マルチタスクがなければできなかったであろう芸当。

 この個性の持ち主に感謝してもいいくらいだ。

 

 ……といっても、ヴィランに感謝なんて馬鹿らしいけど……

 

 だけど、これでもまだ足りない。

 あの脳無の個性を簒奪し、自らの力に――

 

 この勝負は、個性の奪い合い。

 理性のあるものと理性のないもの、

 獣と人間の生存競争だ。

 

 胸に空いた穴を幻惑で視認できないよう幻を重ねる。

 当然目の前の相手もすでに胸の傷は再生し切っている。

 

 見た目はどちらも無傷、

 されど、あちらは個性一つの消失。

 こちらは胸に穴が空き、個性を全て並行稼働させている。

 負傷の度合い、脳の稼働、どちらをとってもそう長く続くものではない。

 

 だからこそ、短期決戦。

 そうでなくてはこの後に続かない。

 ――あの人を救えない。

 

 死は怖い、何度死んだってそれは変わらない。

 終わった時の喪失感、身体が奈落に落ちていくような錯覚、

 あの人に会えなくなるかもしれない、

 そして……もうやり直しはできない。

 つまりこの命はこれしかない。

 

 ――失敗はできない。

 

 そう、でも僕が本当に怖いの死ぬことじゃない。

 あの人が消えてしまうこと、

 それだけはダメだ。

 だから死力を尽くして、でも決して死なずにあの敵を……

 あの敵の個性を……奪い、殺し尽くす。

 

  ――いくぞ、ニセモノ。

 偽物(こっち)はまだまだやれる。

 お前を、終焉(おわ)らせてやる――

 

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