口約束でも約束は約束です。
2話目、どぞー!
目の前の脳無が死柄木の元へ歩き出そうとしている。
だから僕は走り出した。
――僕を無視して、その凶悪な個性を死柄木へ譲渡しようとしている。
止めなくてならなかった。
だから駆けた。
背中を向けている脳無から個性を奪おうと観測の個性を発動させる。
改めて見るとその脳無にはどこかに信号が向かってきているようだった。
わずかな疑問、だけど今はそれを気にしている場合ではない。
敵の背後にたどり着く。
それは見るからに無防備で、前しか見ていない。
そんな脳無の身体を僕の腕が貫いた。
個性を奪うため一番近くにあった個性に接触で触れ、形を確定させた。
そして、それを引き抜こうと腕を引い――
――引き抜けない。
個性は掴んだ。
掴んだ……それでも僕が奪うためには相手の身体からそれを引き離さなくては行けない。
だけどそれは脳無の肉の鎧に防がれていた。
僕の腕は脳無を貫いたまま、
だけど腕が引き抜けないよう脳無の胸元でその腕を握られた。
鬼の個性が発動しているから、
脳無の力といえど折られることはない。
だけど、引き抜くことは出来なかった。
『……いつまでも個性が受け渡されないから……
どうしたのかと思ったら……』
「ハナ……シタ……?」
目の前の脳無から声が出た。
――いいや、まるでこれはスピーカーを通して声が聞こえているような、そんな感じだ。
『まぁ……なんでもいいかな。
脳無、せっかくだからそれの個性も奪ってしまおう』
その声に呼応するように脳無は振り返った。
そして僕は振り回され、掴まれていた腕を離された。
遠心力で僕は壁に叩きつけられる。
「――ガッ」
だけどこれは大したダメージではない。
外傷は鬼の皮膚が軽減してくれる。
だから、問題はこの後――
『――共鳴』
今回僕が貫いたのは脳無の右脇腹。
つまり、僕の右脇腹に――
「――!!」
穴が空いた。
個性をすでに発動させている。
個性鎮静によって痛覚を眠らせている。
だから僕はもう、痛みに怯まない。
生体維持と遅延再生で穴の空いた部位の修復を始めさせている。
最低限でいい、最低限血管さえ繋がれば……
その間血液操作で身体の血液を巡らせる。
そして、幻惑で穴の空いた身体を隠す。
あれに意志があるのならば、弱みを見せては行けない。
「ダケド……、トッタ……ゾ」
『やっぱり、便利だね、これ。
――コミックの魔王みたいだ』
――。
もしかして――こいつは、ニセモノじゃ、ない……?
いいや違うはずだ。
確かに本体は捕まっている。
だから偽物、意識を持っている……というのも違う。
最初は反応がなかった。
そうだ、二度目の個性奪取の時どこからか信号がこの脳無に向かっていた。
ならば……外部からのアクセス、だ。
意識だけを、この脳無に飛ばしているということなのか……!?
なら、受信に関係する個性があるはずだ。
僕は最低限共鳴か……仮称受信を奪わなくては行けない。
――違う、そうじゃない。
僕はこいつをここで消すんだ。
全てを奪い尽くすくらいの気概を持て――置換隷。
今回奪った個性はなんだ――?
……浮遊……?
いや、いい……相手が空を飛ぶ可能性を潰せた。
もうこれ以上個性が増えても僕が制御できるとは思えない。
そもそも他人の個性を使うこと自体リスクがあることだ。
幻惑は直感で操作できて且つ、リスクが少ないから使っただけ。
浮遊はリスクが高すぎる。
飛べる硬さは数ミリかもしれないしどこまでも飛ぶかもしれない。
あくまで僕のこの奪取方法は個性のバグみたいなものだ。
AFOと違い本来の仕様ではない。
あったものを無理やり奪うからどこかに欠損が生じて劣化する。
だから、今あるもので……戦う。
欠損部位は二箇所、胸部と右脇腹。
どちらも内臓は避けており血管及び筋肉のみの負傷。
血管は遅延再生で徐々に再生しつつある。
その間血管から血管へ血液操作で血液を循環させており実質的な負傷は筋肉のと言える。
しかし、これ以上の負傷は後に響く。
つまり、致命傷を与えないように相手の身体を貫き個性を奪取しなくては行けない。
それも……自分が力尽きないように。
いくら血液操作で体外に溢れる血液量が少ないとはいえ……空気に触れており……少しずつ血液は酸化し劣化していく。
手に力を込める。
まだいける。
ここには誰もいないから誰に迷惑をかけることもない。
『さぁ、脳無。
奪おうか――』
その声に反応した脳無が僕に近づく。
一歩一歩ゆっくりと。
僕は手に力を入れて指を……爪を鋭利に尖らせる。
毎回貫く必要はない、はずだ。
最低限僕の肉体が相手の体内に入っていればいいはず。
つまり、指先だけを差し込み個性を引き抜く。
そうすれば、共鳴によるダメージの押し付けも身体に穴が開くだけで済む。
当然胴体に穴が開くより負担が少ない。
脳無の拳が僕に迫った――
――殴られたら痛いだろ?
だったら拳は逸らせばいいんだ。
誰かの声が脳裏によぎった。
その声の主はもう思い出せない。
だけど、確かに僕はその人に技を教えてもらった――
記憶はなくとも身体に染みついた動きは忘れない。
だから僕の身体は無意識に反応してその脳無の拳を逸らしていた。
そして、僕ではなく地面を殴りつけた脳無の腕に五指を刺す。
観測発動。
個性を視認、接触で個性に形を与え、
鬼の膂力で引きちぎる――
――できた。
奪えた、これなら――
腕に衝撃が走る。
痛みはなくとも衝撃は感じる。
わずかに指先が動きにくくなっている。
『――おや、まだ生きてのか……
早く終わろう、僕はやる事がまだあるんだ』
僕の身体を重力が襲った。
「――――!!!!」
重力操作……!!
今まで個性を使わなかったのは意識がなかったからか――!!!
今までの脳無はオートで、今の脳無はAFOによるマニュアル操作ってことか――!
身体は……動けない――!
だけどこの重量は何に対してかかっている……?
一定範囲なのか、僕だけなのか……
それによってまだやれる……
脳無がまた近づいてくる。
血液操作の、血管の代替作業解除。
血液を血液のみで運用。
体外に、排出……。
地面を伝い……
――。
意識が、……いいや、まだだ。
血液が急激に体外へ出たことによる意識障害。
……問題はない。
僕の身体は特別性だ。
血液は脳無の足を伝い身体を登る。
気づいてない。
まだ、もう少し……
そう、仮に僕の一部が相手の体内に入ればいいのだとするなら。
その血液だって――僕の一部だ。
――入った。
脳無の口に僕の血液が侵入。
個性同時発動。
観測、接触、体液変換。
観測で個性を視認、接触で形を与え、体液変換で体内に入った血液を猛毒に。
いくら脳無とはいえ、毒の排出は……
「――!!」
そう、吐き出さざるを得ない。
再生しても毒は残る。
であれば排出するしかそれを消す方法はない。
そしてその毒は個性と紐付いている。
ならば、吐き出すと同時に個性も吐き出される――!
どうだ……?
やれるか、やれないか……
無理なら死ぬだけ……
だから僕はここに賭けるしかない。
――来た……重力が解けた――!
そんな喜びも束の間、血液が足りず視界が歪む。
僕の身体に空いた穴から血が溢れる。
痛みはない、だけど僕の身体は地面に這いつくばったままだ。
……動けない。
いいや……動けはする。
……でも身体が震える。
……寒い……?
目の前には僕が動かした血の道がまっすぐ伸びていた。
血……?
どこか、だれかそんな技を使っていたような。
この世界、だったかな。
違うかな。
――あぁ
違う、オリジナルが見ていたあの作品だ。
東堂葵の登場した、アレ。
赤血操術……だっけ。
あんまり、覚えてないけど……
確か、手を重ねて……
その隙間からウォーターカッターみたいに血液を噴出させる。
手を重ねるのは圧力と噴出口を絞るため……
そして、その血液を体液変換で毒化させれば――
僕の手から発射されたそれが、
脳無の顔を横切った。
わずかに遅れてスライドするその顔。
『共――』
パリンという音が聞こえた気がした。
目の前の脳無に宿っていた個性が減っている。
脳無に向かっていた信号が消えている……?
今ので、個性を散らせた――?
なんで……
あぁ、でもいい。
これなら、やれる。
『――』
あ、れ。
視界がズレる。
なん、で――?
なん……で……
頭は二つに分たれたはずなのに、
“思考”がまだここにある。
外が消えた。
でも、思考は潰れていない。
だけど僕の意識は何かに押しつぶされるように消えた。
『……あぁ、この個性は面白かったんだけど……
仕方ない、じゃあメインプランを進めよう――』
『脳無、最後の命令だ。
これを殺して死柄木に個性を引き継ぎぐんだ』
♦︎♦︎♦︎
意識が少しずつ覚醒する。
「おい、隷。
いつまで寝てるつもりだよ」
……鬼、人……?
生きて――
「いいや、これは俺じゃねぇ。
お前の中の俺の認識が形を成しただけだ」
「で、お前は救えたのか……?」
救う……?
「あぁ、あの人を助けるから頑張ってたんだろ?」
…………でも、僕は……死んだんでしょ……?
「はぁ……ったく。
いつまでもうだうだと……」
「――前やったろ?
あいつの共鳴、それが押し付けられる物があればいい」
……?
「だから、死んだのはお前じゃねぇ。
――鬼の個性だ」
……どういう……
「……お前さ。
着ぐるみ着て殴られてたって気づいてたか?
頭斬られた気がしただろ?
でもな――」
「そこに、お前の頭はなかった。
つまり、あの時氷層に出てたのは鬼の個性でありお前じゃない」
「なら、共鳴が押し付ける対象だって変わる。
あそこで頭が切断されて脳みそぶち撒けてるのはお前じゃねぇよ。
――鬼の個性が形成した身体だ」
――僕は……いき、てる……?
「あぁ、生きてるぜ。
――助けるんだろ?」
――うん。
「じゃ、あとはもういいな……俺はもう退場だ。
この世界に俺はいない。
今の俺はお前の記憶による再現であり、個性の残滓ってだけ」
――待ってよ!!
もっと、もう少し、話したい――
「いいや、言ったろ?
これはお前の記憶の再現だって、本当の俺はもう死んでるさ。
だから引きずるな、お前はお前の道を行け」
……最後まで、ごめんね鬼人。
――ありがとう。
「わりぃな、あいつらからそう言えって言われてんだ。
それに……いいんだよ、親友。
好きな女助けてやれ、
その結果が…………っつーのは……あんまいいもんじゃねぇけどな」
♦︎♦︎♦︎
身体が重い。
……いいや、これは僕の身体に何かが纏わりついているような、身体の上に何かが乗っているような。
そんな感じだ。
ドスン、ドスンと大きな足音が近づく。
視界が霞む……それでも僕は戻ってきた。
個性マルチタスク起動。
思考を巡らせる。
残存個性把握開始。
ヴィランから強奪した個性。
マルチタスク、血液操作、体液変換、浮遊、幻惑、
肉体維持、鎮静、意識隔離、遅延再生の個性確認完了。
カイ二人に託された個性。
接触、観測……確認完了。
鬼人に託された個性――
――消失。
……ない、か。
代わりに肉体はおおよそ復活している。
親友の置き土産、かな……。
つまり、肉体強度に頼った戦いはもう出来ない。
代わりに……複合個性の使い方を見つけた。
さっきの鬼の個性消失直前に掴んだ感覚。
マルチタスク×血液操作×体液変換×肉体維持×鎮静×鬼。
これにより赤血操術もどきが出来る。
鬼の個性はないから今後使った場合は……
良くて――皮膚がボロボロになり、最悪腕が吹き飛ぶ。
目の前の敵が動き出した。
動きは追える。
でも――
目の前の敵は腕を引き僕めがけて大きく振りかぶった。
――はや――――――――
拳が、身体に――
何か対応出来る方法は……
――個性確認マルチタスク起動。
思考が並列につながり時間の感覚が広がっていく。
幻惑……使えない。
肉体維持……これもダメ。
鎮静……使用済み。
意識隔離……無駄だ。
遅延再生……これも今はいらない。
観測も接触も今は意味がない。
血液操作、体液変換……?
赤血操術には確か肉体を補強するものがあったはずだ。
体液を硬度の高いものに変更し肉体を擬似的に補強する。
……血管が傷つくことになるだろうけど……やらないよりマシだ。
でもそれだけじゃ足りない。
後、使える個性は……浮遊。
浮く、つまりそれはインパクトの瞬間そこだけは軽減できるのではないか……?
時間はない。
迷うな、迷えば死ぬ。
……これしか……ない。
――個性浮遊発動。
地面から浮きインパクトの瞬間背後に軽く飛ぶ――
それでも勢いよく僕は吹き飛ばされる。
まるでジェットコースターが落下するときのように。
景色が高速で流れる。
そして終着点へ。
地面という凶器に僕は叩きつけられようとしている。
――わかっている。
だから、血液操作及び体液変換で僕の身体を保護する――!
「――――ぐっ……がっ――!!!」
左腕が、逝った。
胴体を守るため相手の拳を遮るために左腕をかざしたが……動かそうとしてもピクリとも動かない。
敵の攻撃をダイレクトに受けたからかな……
……仕方ない。
右腕がある、まだやれる。
そもそも忘れていた、そうだ……
……僕は戦えない。
――そもそも、僕は戦う人じゃない。
戦場をコントロールする、サポーターだ。
さぁ、どうする……?
十一個ある個性の組み合わせは二千通り以上。
僕はこれだけの選択肢があり、これだけの殺傷方法がある。
敵はすでに本体から切り離された。
それはつまり個性収集の機械も同然。
肉体強化、再生、強奪、共鳴の個性しか使えないと見ていいだろう。
考えろ、思考を回せ。
今の僕にはその
一人でダメならマルチタスクで増やせばいい。
――そう、だ。
罠を設置すればいい。
血液操作は体内から離れても動かせる。
幻惑で血痕を覆い隠せば視認は不可能。
観測接触の組み合わせで個性の奪取も不可能ではない。
最初に地面・壁・空間に自分の血を置き、幻惑でそれを認識できなくする。
そして、相手が踏む・触る・吸う何れかを行うことで接触条件成立。
そこから、毒化、神経阻害、“個性"の奪取と選択肢は多岐にわたる。
そうだ、これが僕の戦い方だ。
血液そのものをニトロに変えてもいい。
そうすれば爆弾の完成だ。
――でも……もし使えば共鳴によってその爆破の威力が僕にぶつけられることになる。
だからこれは使えない。
血を媒介にして個性を奪う、これはいい気づきだ。
だけど、もう僕は負傷している。
遅延再生でゆっくりと直りはするが血の総量は減っていくし罠の設置でも消費する。
時間は味方ではなく敵だ。
さっきの防御で五百ミリは使って衝撃で吹き飛んだ血液を抜き今使えるのは三百五十ミリの血液。
一滴たりとも無駄にはできない。
今ある血の残量で敵が来るまでに罠を仕掛ける。
この場所を――僕の領域にする。
この戦いで終わりじゃない。
――僕はまだやることがある。
あの人を、助けるんだから――