推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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少し早いですが更新です。
僕はこの話好きだな、うん。
観てて楽しかった。


96話 血の領域

 

 時間はほぼなかった。

 足音が近づく中、淡々と準備するしかなかった。

 準備が間に合う前にアレがきたら僕は終わっていた。

 ――だけど間に合った。

 

 体外に出ている三百五十ミリに含め一リットルもの血液をこの地下に広めた。

 故にこの地下は僕の領域。

 言わば必中が約束されたようなもの。

 

 だけど代償はあった。

 いくら個性で思考を……個性の制御を代替しているとはいえ範囲が広すぎる。

 

 最初、僕は血液一滴に対して罠が一つそれを全て幻惑で覆い隠し、全てに観測と接触、体液変換の個性を付与しようとしていた。

 でもそれはとてもできることではなかった。

 マルチタスクの個性を持ってしても頭が……思考がついていかなかった。

 だから僕の個性は否を告げた。

 それではいけない……と。

 

 だけど僕は置換を使っていたから……人より世界を三次元的に捉えていたから……

 

 ――捉え方を変えた。

 地面に薄く、薄く、近くできないほど薄く血の膜を張った。

 そしてそれを幻惑で覆い隠す。

 これなら対象は地面という一つの対象でいい。

 

 それでも、個性をフル稼働するのが精一杯で僕の身体は動かなかった。

 思考の全てを個性に全振りしている。

 

 その思考は緩やかで……しかし、なぜか心は落ち着いている。

 それでもわずかに意識が朦朧としている。

 出血量が一リットル……つまり、僕の身体にあるうちの二割を失っている。

 限界ギリギリ、もう少し出血が増えれば……僕は死ぬだろう。

 

 足音が近い。

 僕の死神が近くに来ている。

 だけどアレは気づいていない。

 アレにとっての死神も同時にここにいることを――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 目の前のそれは僕を認識すると勢いよく駆けてきた。

 僕の個性(いのち)をくらいたくて仕方ないと言いたげに……今か今かと涎を垂らし近づいてくる。

 

「――あぁ、よかった。

 やっぱりキミはニセモノだ――」

 

 僕の領域()に足を踏み入れる。

 

 第一段階――幻惑解除、体液変換で触れた血液の酸に。

 アレの皮膚を溶かして僕の血液が中に侵食できるように――

 

 ――成功。

 

 

 第二段階――体液変換。

 血液を酸から鉄分の多い状態へ移行させ、

 足元を鉄の池として固定する。

 

 第三段階――鉄を首に突き刺し鎮静の個性を注入。

 アレの鎮静化を図りつつ遅延再生で相手の再生速度を遅らせる。

 

 第四段階――鎮静された意識を意識隔離で引き離し観測した意識を浮遊で浮かせる。

アレの意識は夢心地のような微睡の中だろう。

 

 最後、終段――

 

 『マルチタスク×幻惑×血液操作×体液変換×鎮静×肉体維持×遅延再生×意識隔離×浮遊×観測×接触……』

 

 僕は僕としては責任を果たさなくてはいけなかった。

 僕が生まれたが故に起きた世界の変化。

 それを僕は……ここに正す。

 

 『個性簒奪結界――血睡世界、発動』

 

 

 それはまるで罪人を磔にする杭のようで、

 あるいは十字架に貼り付けられたキリストのようなそんな有様。

 目の前のアレが黒から赤に彩られていく。

 個性が僕の中に流れ込んでくる。

 

 だけど、流れ込んでくるのは個性だけじゃない。

 それはアレに殺された人間の数多の後悔、自意識、怒り、妬み、嫉み、悲しみ、絶望、ありとあらゆる感情が流れ込む。

 

 僕はこれを飲み込まねばならない。

 

 ――世界を変えるんだ、あの人が死ぬ世界を認めない。

 そのためならどんな怨嗟だって背負ってやる――

 

 でも、闇だけではなかった。

 ほんのわずか、個性がなくなり救われた人がいた。

 当然その人も殺されている。

 でも殺されたことで救われた人がいた。

 

 アレの深層に二つの意識が入り乱れていた。

 一つは目がつぶされたスーツ姿の妙齢の男。

 一人は関西弁を使う小さな少女を形取った女。

 

 その二つは僕の意識を飲み込もうとする。

 だけどそうされるわけにはいかなかった。

 数多の感情を壊れながら受け止めた。

 

 折れそうだった。

 でも、誰かが僕を……支えた。

 見えない少女と尻尾の生えた少年が僕の隣に立った。

 ツノを生やした大男が僕の前に立った。

 双子のような姉妹が僕の肩に手を添えた。

 

 そして――優しい香りの女性が僕を後ろから抱きしめた。

 

 立たなくてはいけない。

 折れるわけがない。

 僕はこんなにも支えられている。

 

 ――今更たった二つの残滓に。

 

 『ただ残っただけの残滓が、僕を奪おうとするな――!!』

 

 ――僕の想いが呑めるわけがない。

 

 二つの残滓は個性と共に溶けて消える。

 少女の方がニヒルに笑い消えた顔のない男を指差した。

 

 『――ざまぁみぃや』

 

 そして、二つの残滓は消えた。

 跡形も残さず、まるで存在さえ嘘だったように。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 目が覚める。

 僕の目の前には血の池と大量の灰が積み重なっていた。

 

 わずかに風が吹いた。

 その灰が風に飛ばされる。

 そこには血に沈んだ黄色のリボンだけが残っていた。

 

『…………』

 

 わずかに残った少女の残滓。

 このリボンは何を示していたのか気になった。

 だからリボンに触れようとした……

 けど……触れられなかった。

 

 ここにはいない知らない少女に僕は頭を下げる。

 

『ごめんね、お墓くらい作ってあげたかったんだけど……

 ……せめて、来世は――』

 

 

 数秒の黙祷。

 

 

 

 

 

 

 

 自分の状態を確認する。

 血の抜けた身体。

 もう重みすら感じない。

 自身の身体がまるで浮遊しているように軽い。

 だけど不思議なことに個性だけは活発だ。

 

 だけどまだ僕はここに在った。

 やる事があったはずだ。

 僕にはまだやり残した事が――ある。

 

 忘れてはいけないこと、僕の命に変えてもやろうとした事。

 

 あぁ……そうだ。

 探すんだ、あの人を、見つけるんだ。

 

『……あの人を……探さなきゃ――』

 

 

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