東方烈風録~Phantasm Storm Savior~ 作:フウ@東方二次創作
翌朝、目を覚ました幽香。
(剣城…良かったわ。あれからゆっくり眠れたようね。)
昨晩から今日にかけての剣城の様子を思い返す幽香。
(冷静に考えると、こんな人間と一緒に寝ていたって事が、前の私からしたら信じられないわね…)
そう考えながら、幽香はベッドから立ち上がり、リビングへと向かった。
※ ※ ※
―数分後、剣城が目を覚ました。
…幽香が、居ない。
「当たり前か、あんなの夢に決まってんだよな…」
昨晩のあの出来事は夢だったと思い込む剣城。
「…。」
だが、何か違和感のようなものを感じる。
(…夢…夢なら何であんな夢を…。)
…その違和感の正体は分からず、剣城はリビングへと向かった。
リビングには、いつも通り幽香が居た。
「お…おはよう。」
「あら、おはよう。」
たどたどしく朝の挨拶をする剣城。
「朝ごはん、もうできてるわよ。」
「ああ…サンキュー…。」
何時もの通りご飯を食べ始める幽香と剣城。
―妙な静けさが、二人に襲い掛かる。
「…なあ、幽香。昨日…」
妙な静寂に耐えかねた剣城が口を開く。
(…やっぱ夢…だよな?)
しかし、その疑問は直ぐに消え去った。
「…昨夜はよく眠れたかしら?」
「…。」
幽香が、昨晩の事を確認してきたのだ。
「…まあ、そうだな。」
(…どういう事だ…?)
生まれる新たな疑問。
混乱している剣城だが、それを悟られまいと平静を保っている。
(…でも、なんでだろ…。)
そして再び疑問に思った。
(…この感覚は何なんだ?)
―あたたかいような…そんな感覚。
ここに来てから7日間、同じ屋根の下ご飯を食べて、一緒に特訓をして、一緒に遊んで…。
そんな感覚を感じながら、剣城はご飯を食べ終えた。
「…ごちそうさま。」
「お粗末様。」
剣城は立ち上がり食器を洗おうとすると―
「ねえ剣城…。」
幽香が、口を開いた。
「…何だ?」
「…私は…剣城の事が知りたい。」
―幽香は、真剣な眼で剣城を見ていた。
「幻想郷に来る前までの剣城を…貴方に何があったのかを知りたい。知って、それを受け止めたいわ。」
その眼に迷いはない。まっすぐで真剣な瞳が剣城を射抜く。
(つまり…俺の過去を…?)
それは、自分のトラウマを暴かれる事に等しく、気付けば首を振っていた。
(…怖い…)
だが、それでも彼女は真剣だった。
(…何でだよ!何でそこまで俺の事…!)
そう考えるものの、答えは出ない。
そして、口に出た。
「何で…。」
「え…?」
幽香はキョトンとした表情を浮かべる。
「何でそこまで俺を…俺は…」
思わず立ち上がる剣城。
―その時、幽香が口を開いた。
「私はただ、貴方の事が知りたいだけだもの。」
「……」
剣城は、何をいう事も無くただ立ち尽くしていた。
「私は、貴方の事を信じてるのよ。」
幽香のその言葉を聞いても、何も言えずただ立ち尽くすのみ。
「…剣城は優しい。この一週間で、私はそう確信した。だって…妖怪の私にこんなに優しくしてくれるじゃない。」
(…優しくなんか無い…!俺は…俺は…!)
その言葉に何かを感じたが、それを振り払う剣城。
「…貴方に何があったのかはわからない…だけど、貴方が過去に何があったとしても、私は貴方を信じてる。」
(…本当に…なのか…?)
心の中で、そんな感情が、芽生えていた。
―そして…
「…私は貴方を信じてる。私にたくさんの初めてをくれた、貴方を。」
(…信じ…てる…?)
彼女の言葉が心に届く。
…その言葉とその表情は、まるで暖かい光のように、剣城を照らしていた。
―そして、剣城は目から溢れそうになっていた涙を拭い、意を決したかのように口を開いた。
「…俺…俺は…居場所が無かったんだ…。」
「……」
―そして、その話を始めたのだった。
母親との関係、高校での陰口―。そして、家から逃げ出して幻想郷に来た事…その全てを。
(…初めてだ…誰かに話したら…こんなに…心が軽くなるなんて…。でもっ…!!)
話す事で、重荷が下りて行くように、だがそれと同時に重い罪悪感をその胸に感じる剣城。
それは初めての感覚で―そして、自分の思いを口に出すのだった。
「…俺は…もう一人では生きて行けない…!だから…!」
―だが、次の言葉を発する事は出来なかった。
(…言えない…!)
そんな思いが頭をよぎる剣城。
(…だってそんなの…俺らしくないだろ…。情けないだろ…!!)
「…悪い…こんなこと話して…。」
そう言って剣城は、逃げるように部屋に戻ろうとした―
-と、幽香は剣城の進行方向を塞ぐように立ち、そして-
-抱きしめた。
「…っ!?」
突然の事に頭が真っ白になる剣城。
「…こんなに優しい人間が…現世では相当、苦しんでいたみたいね…。」
「幽香…?でも…」
「大丈夫。強くて優しいあなたが嘘をついていないと言う事は、知っているわ。」
幽香は語り掛けるような優しい口調で続けた。
「辛かったでしょう?今まで。居場所が無いという事の辛さは、痛いほど伝わっているわ。」
「…俺は…だから…」
「良いのよ。貴方が強いと言う事は分かっている…だから、貴方の弱い所も、私に見せてちょうだい。」
その言葉を聞き、何かが外れるような音がした―
「…俺は…」
そして―涙を流しながら懇願した―否、してしまった。
「…俺は、一人じゃ生きていけない…!だから…!だから…一緒に…居て…ください…!」
涙が止まらなかった。
(…情けない…。)
泣きながら懇願してしまった事に後悔する剣城―
だが、そんな情けない自分を許してくれる者が居た。
「剣城…。」
剣城を抱きしめ、頭を撫でる幽香。
剣城はその温かい感触に身を任せた。
(…温かい…。)
―この感触が、欲しかったんだ。
(…俺が本当に欲しかったのって…これだったんだ…。)
…そして、涙を流しながら笑った。
「剣城…。」
幽香も、彼の名前を口にしながら頭を撫で続けている。
「…現世には、戻りたくない?」
「…うん。」
「…元の家族は、嫌かしら?」
「…うん。」
「…なら…私が、あなたの家族に…姉になってあげるわ。」
…幽香のその言葉を聞いた瞬間、剣城は心からの笑みを浮かべていた。
…そして、二人はしばらく抱き合っていたのだった…。
※ ※ ※
「気は、済んだかしら?」
「ああ…悪いな…こんな情けない所を見せて…。」
「良いのよ。自分の心に正直になってくれて、本当に良かったわ。」
剣城と幽香は、リビングのソファに座りながら会話をしていた。
「…ありがとう…幽香。」
「…私も、あなたといられて良かったわ。」
そして、幽香が剣城に問いかけてきた。
「…それで?これからはどうしたいのかしら?」
「…そうだな。」
剣城は、決意を込めて答えたのだった。
(俺は…もう決めたんだ!)
剣城は覚悟を決めた目で、幽香の目を見た。
(…俺は…!)
「…俺は…この幻想郷を守りたい。そう思っている。」
「…その理由は?」
幽香は剣城の眼を見て問いかける。
「…俺は、この幻想郷が好きになった。この世界に来て…幽香に出逢えた。俺はこの世界に…幽香に救われたんだ。だから…」
拳を握り締める剣城。
「俺は、この世界が大好きだ。その世界を、俺は護りたいんだ!」
そして、その決意を言葉にした。
一通り剣城の想いを聞いた幽香は、
「…なら、明日から修行の時間が増えるわよ?良いの?」
悪戯っぽく笑い言うのであった。
「…ああ、もちろんだ…」
剣城は笑顔で言った。
―直後、幽香の言った言葉の違和感に気付き―
「…えっ、明日から?」
「そうよ。今日はゆっくりしてもらうわ。」
「え…でも!」
「ふふ…今日は…。」
と、幽香は突然剣城を押し倒した。
「えっ…一体何を…!」
「…今日は泣いた分、思い切り羽根を伸ばしてもらうわよ。」
「え…どういう…!」
「どういうって…つまり…」
幽香は剣城の頭の方に回る―
―これは…"膝枕"の体勢だ。
「こういう事よ。」
幽香は棒を取り出す。
それは先端に返しが付いていて…もう片方の先端に綿が付いていて…
それはまるで…
「み…耳かき!?」
「そうよ。これで貴方の耳を掻いてあげるわ。」
「きゅ…急にどうして…」
戸惑いながら言う剣城―その時、幽香の顔を見て気付いた。
―なんか…嬉しそう…?
「ふふ…義理とはいえあなたを弟に持てて嬉しかったのでしょうね…。今私は…貴方を虐めたくて仕方ないのよ…」
「虐めって…これが!?」
「ふふ…そうよ。妖怪にとってはそれが日常よ。」
「耳かきで!?」
「そうよ。ふふ…今日は優しく優しく虐めてあげるから…」
サディスティックで…何所か優しげ笑みを浮かべながら剣城を見つめる幽香。
―こんな幽香、見たことが無い。そう思ったのも束の間。
(ああ…でも…こういうのも…悪くは…)
―次の瞬間、剣城の耳の中に竹で出来た棒が入っていくのであった。
※ ※ ※
(ふふ…幸せそうな顔ね…)
幸せそうな剣城の顔に思わず笑みがこぼれる幽香。
―もっと、剣城の事を知りたい。これから義弟となるような人間を知りたい。
知ったうえで、共に歩んで行きたい―そう思った。
(生まれて初めてね…こんな感情。)
幽香が感じた初めての感情…恋心とは違えど、確かな暖かみを感じる感情―
今は、この感情を、そして、そんな"初めて"をくれる存在を手放したくない…そう思いながら、慣れない手つきで耳かきを施す幽香であった。
夜―幽香の部屋…
「今日一日ありがとな幽香…おかげでだいぶ休めたぜ。」
「結局アンタは走りに行っちゃったけどね。」
「仕方ねえだろ…一日でも休むと体訛っちゃうんだから…」
時刻は23時。幽香と一緒に遊び、ご飯を食べ…今までで一番ゆっくりできた一日だった。
「それじゃあ…お休み…」
剣城は自分のベッドに入ろうとすると…
「待って。」
「…どうしたんだ幽香?」
―と、次の瞬間幽香はとんでもない事を言い出したのである。
「今日は、私の隣で眠って貰うわ。」
「…ええええええ!?」
ビックリして声を上げる剣城。
「ちょっと待って…色々とマズいんじゃねえのか!?幽香の隣で寝るって…!」
「へえ…何がマズいというの?言ってみなさい。」
「えっと…それは…」
ここまで言いかけて顔を赤らめる剣城。
「遠慮してるの?良いのよ、私はあなたの姉…この私が言っているんだから、さっさと来なさい。」
「…分かった…。」
顔を赤らめながら幽香のベッドに入る剣城…
やがて二人は向かい合うような体勢となった。
「そうそう…変な所触ったら分かってるわね?」
「き…気を付けます…」
布団に入る前、幽香にそう言ってギロリと睨まれ思わず震え上がる剣城。
「なーんて、冗談よ。」
すぐ優しい笑顔になる幽香。
―その笑顔が、とにかく美しくて―。
(やっぱりちょっと…恥ずかしいかも…)
思わず顔が赤くなっていく剣城であった。
「ふふ…それじゃあ、おやすみなさい。」
「…おやすみ…。」
部屋の明かりが消える。
―今日は、本当に充実した一日だった。
明日からは色々と忙しくなる。
「…強く…ならないとな…。」
―と、
突然、幽香が剣城の頭を触ってきた。
「…え…?」
―そして…抱きしめられた。
(…えええええええええええええええ!?)
顔が一気に熱くなっていくのを感じる。
幽香の柔らかなものが剣城に触れていて…
(ああ…柔らかい…)
顔が一気に熱くなっていくのを感じる。
幽香の柔らかなものが、自分の体に当たっている。
(あ…あああ…!)
―顔が、耳まで真っ赤に染まっていく。
(ちょ…ちょっとこれは…やばい…!)
心臓の音が聞こえてきそうなほどバクバクと鼓動が鳴っている。
(どうしよう…!)
パニックに陥る剣城―
だが、頭を撫でつけられながら彼女の柔らかな感触を感じているうちに―
剣城は、安心感を感じ始めていた。
(やばい…無茶苦茶温かい…)
目の前の大きな女性は、師であり姉でもある存在―
幽香は―自分の事を義弟と―家族と思ってくれている。
それが、余りにも嬉しくて―
「幽香…」
―気が付けば、剣城は幽香の抱きしめを受け入れていた。
幽香は剣城を優しく抱きしめながら頭を撫でている。
剣城は幽香の抱きしめを受け入れながら、段々と意識が朦朧とし始める。
(ああ…眠くなって来た…。)
ぼやけ始めた目で幽香の顔を見る剣城―
幽香は安らかな微笑みを浮かべていた。
(…幸せ…明日から…頑張れそうだな…)
そう思いながら、剣城は夢の世界へと旅立ったのであった。
「おやすみ…剣城…。」
一ヶ月後…
「うおおおおおおおっ!」
幽香の放った弾幕を斬り裂きながら前へと進む剣城。
(…本当に強くなったわね…剣城!)
そう思いながら、放つ弾幕の密度を上げていく。
剣城は弾幕の動きを読み、避け、斬り裂き、進む。
動きも、回避能力も、攻撃力も一か月前とは段違いだ。
そんな剣城の成長を幽香は、不敵な笑みで見つめていた。
「楽しみね。貴方が何所まで強くなっていくのか…。」
幽香が呟いた直後―剣城は輝く緑色の翼を背に生み出し、弾幕の間を縫い飛び上がった。
―強くなるために、
「まあ私も…置いて行かれる気は何一つないわ。来なさい!剣城!」
幽香は目の前の義弟へと傘を向け
そして、義姉であり師である幽香を超える為に。
剣城は、全力全開の斬撃を幽香へと放った。
「斬撃『烈風破斬』!!!」