東方烈風録~Phantasm Storm Savior~   作:フウ@東方二次創作

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第9話 この世界が、大好きだ―

 翌朝、目を覚ました幽香。

 

(剣城…良かったわ。あれからゆっくり眠れたようね。)

 

 昨晩から今日にかけての剣城の様子を思い返す幽香。

 

(冷静に考えると、こんな人間と一緒に寝ていたって事が、前の私からしたら信じられないわね…)

 

 そう考えながら、幽香はベッドから立ち上がり、リビングへと向かった。

 

※ ※ ※

 

 ―数分後、剣城が目を覚ました。

 …幽香が、居ない。

 

「当たり前か、あんなの夢に決まってんだよな…」

 

 昨晩のあの出来事は夢だったと思い込む剣城。

 

「…。」

 

 だが、何か違和感のようなものを感じる。

 

(…夢…夢なら何であんな夢を…。)

 

 …その違和感の正体は分からず、剣城はリビングへと向かった。

 リビングには、いつも通り幽香が居た。

 

「お…おはよう。」

「あら、おはよう。」

 

 たどたどしく朝の挨拶をする剣城。

 

「朝ごはん、もうできてるわよ。」

「ああ…サンキュー…。」

 

 何時もの通りご飯を食べ始める幽香と剣城。

 ―妙な静けさが、二人に襲い掛かる。

 

「…なあ、幽香。昨日…」

 

 妙な静寂に耐えかねた剣城が口を開く。

 

(…やっぱ夢…だよな?)

 

 しかし、その疑問は直ぐに消え去った。

 

「…昨夜はよく眠れたかしら?」

「…。」

 

 幽香が、昨晩の事を確認してきたのだ。

 

「…まあ、そうだな。」

 

 (…どういう事だ…?)

 

 生まれる新たな疑問。

 混乱している剣城だが、それを悟られまいと平静を保っている。

 

(…でも、なんでだろ…。)

 

 そして再び疑問に思った。

 

(…この感覚は何なんだ?)

 

 ―あたたかいような…そんな感覚。

 ここに来てから7日間、同じ屋根の下ご飯を食べて、一緒に特訓をして、一緒に遊んで…。

 

 そんな感覚を感じながら、剣城はご飯を食べ終えた。

 

「…ごちそうさま。」

「お粗末様。」

 

 剣城は立ち上がり食器を洗おうとすると―

 

「ねえ剣城…。」

 

 幽香が、口を開いた。

 

「…何だ?」

「…私は…剣城の事が知りたい。」

 

 ―幽香は、真剣な眼で剣城を見ていた。

 

「幻想郷に来る前までの剣城を…貴方に何があったのかを知りたい。知って、それを受け止めたいわ。」

 

 その眼に迷いはない。まっすぐで真剣な瞳が剣城を射抜く。

 

(つまり…俺の過去を…?)

 

 それは、自分のトラウマを暴かれる事に等しく、気付けば首を振っていた。

 

(…怖い…)

 

 だが、それでも彼女は真剣だった。

 

(…何でだよ!何でそこまで俺の事…!)

 

 そう考えるものの、答えは出ない。

 そして、口に出た。

 

「何で…。」

「え…?」

 

 幽香はキョトンとした表情を浮かべる。

 

「何でそこまで俺を…俺は…」

 

 思わず立ち上がる剣城。

 ―その時、幽香が口を開いた。

 

「私はただ、貴方の事が知りたいだけだもの。」

「……」

 

 剣城は、何をいう事も無くただ立ち尽くしていた。

 

「私は、貴方の事を信じてるのよ。」

 

 幽香のその言葉を聞いても、何も言えずただ立ち尽くすのみ。

 

「…剣城は優しい。この一週間で、私はそう確信した。だって…妖怪の私にこんなに優しくしてくれるじゃない。」

(…優しくなんか無い…!俺は…俺は…!)

 

 その言葉に何かを感じたが、それを振り払う剣城。

 

「…貴方に何があったのかはわからない…だけど、貴方が過去に何があったとしても、私は貴方を信じてる。」

(…本当に…なのか…?)

 

 心の中で、そんな感情が、芽生えていた。

 ―そして…

 

「…私は貴方を信じてる。私にたくさんの初めてをくれた、貴方を。」

(…信じ…てる…?)

 

 彼女の言葉が心に届く。

 …その言葉とその表情は、まるで暖かい光のように、剣城を照らしていた。

 

 ―そして、剣城は目から溢れそうになっていた涙を拭い、意を決したかのように口を開いた。

 

「…俺…俺は…居場所が無かったんだ…。」

「……」

 

 ―そして、その話を始めたのだった。

 母親との関係、高校での陰口―。そして、家から逃げ出して幻想郷に来た事…その全てを。

 

(…初めてだ…誰かに話したら…こんなに…心が軽くなるなんて…。でもっ…!!)

 

 話す事で、重荷が下りて行くように、だがそれと同時に重い罪悪感をその胸に感じる剣城。

 それは初めての感覚で―そして、自分の思いを口に出すのだった。

 

「…俺は…もう一人では生きて行けない…!だから…!」

 

 ―だが、次の言葉を発する事は出来なかった。

 

(…言えない…!)

 

 そんな思いが頭をよぎる剣城。

 

(…だってそんなの…俺らしくないだろ…。情けないだろ…!!)

「…悪い…こんなこと話して…。」

 

 そう言って剣城は、逃げるように部屋に戻ろうとした―

 -と、幽香は剣城の進行方向を塞ぐように立ち、そして-

 

 -抱きしめた。

 

「…っ!?」

 

 突然の事に頭が真っ白になる剣城。

 

「…こんなに優しい人間が…現世では相当、苦しんでいたみたいね…。」

「幽香…?でも…」

「大丈夫。強くて優しいあなたが嘘をついていないと言う事は、知っているわ。」

 

 幽香は語り掛けるような優しい口調で続けた。

 

「辛かったでしょう?今まで。居場所が無いという事の辛さは、痛いほど伝わっているわ。」

「…俺は…だから…」

「良いのよ。貴方が強いと言う事は分かっている…だから、貴方の弱い所も、私に見せてちょうだい。」

 

 その言葉を聞き、何かが外れるような音がした―

 

「…俺は…」

 

 そして―涙を流しながら懇願した―否、してしまった。

 

「…俺は、一人じゃ生きていけない…!だから…!だから…一緒に…居て…ください…!」

 

 涙が止まらなかった。

 

(…情けない…。)

 

 泣きながら懇願してしまった事に後悔する剣城―

 だが、そんな情けない自分を許してくれる者が居た。

 

「剣城…。」

 

 剣城を抱きしめ、頭を撫でる幽香。

 剣城はその温かい感触に身を任せた。

 

(…温かい…。)

 

 ―この感触が、欲しかったんだ。

 

(…俺が本当に欲しかったのって…これだったんだ…。)

 

 …そして、涙を流しながら笑った。

 

「剣城…。」

 

 幽香も、彼の名前を口にしながら頭を撫で続けている。

 

「…現世には、戻りたくない?」

「…うん。」

「…元の家族は、嫌かしら?」

「…うん。」

「…なら…私が、あなたの家族に…姉になってあげるわ。」

 

 …幽香のその言葉を聞いた瞬間、剣城は心からの笑みを浮かべていた。

 …そして、二人はしばらく抱き合っていたのだった…。

 

※ ※ ※

 

「気は、済んだかしら?」

「ああ…悪いな…こんな情けない所を見せて…。」

「良いのよ。自分の心に正直になってくれて、本当に良かったわ。」

 

 剣城と幽香は、リビングのソファに座りながら会話をしていた。

 

「…ありがとう…幽香。」

「…私も、あなたといられて良かったわ。」

 

 そして、幽香が剣城に問いかけてきた。

 

「…それで?これからはどうしたいのかしら?」

「…そうだな。」

 

 剣城は、決意を込めて答えたのだった。

 

(俺は…もう決めたんだ!)

 

 剣城は覚悟を決めた目で、幽香の目を見た。

 

(…俺は…!)

 

 

 

 

「…俺は…この幻想郷を守りたい。そう思っている。」

「…その理由は?」

 

 幽香は剣城の眼を見て問いかける。

 

「…俺は、この幻想郷が好きになった。この世界に来て…幽香に出逢えた。俺はこの世界に…幽香に救われたんだ。だから…」

 

 拳を握り締める剣城。

 

「俺は、この世界が大好きだ。その世界を、俺は護りたいんだ!」

 

 そして、その決意を言葉にした。

 一通り剣城の想いを聞いた幽香は、

 

「…なら、明日から修行の時間が増えるわよ?良いの?」

 

 悪戯っぽく笑い言うのであった。

 

「…ああ、もちろんだ…」

 

 剣城は笑顔で言った。

 ―直後、幽香の言った言葉の違和感に気付き―

 

「…えっ、明日から?」

「そうよ。今日はゆっくりしてもらうわ。」

「え…でも!」

「ふふ…今日は…。」

 

 と、幽香は突然剣城を押し倒した。

 

「えっ…一体何を…!」

「…今日は泣いた分、思い切り羽根を伸ばしてもらうわよ。」

「え…どういう…!」

「どういうって…つまり…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幽香は剣城の頭の方に回る―

 ―これは…"膝枕"の体勢だ。

 

「こういう事よ。」

 

 幽香は棒を取り出す。

 それは先端に返しが付いていて…もう片方の先端に綿が付いていて…

 それはまるで…

 

「み…耳かき!?」

「そうよ。これで貴方の耳を掻いてあげるわ。」

「きゅ…急にどうして…」

 

 戸惑いながら言う剣城―その時、幽香の顔を見て気付いた。

 ―なんか…嬉しそう…?

 

「ふふ…義理とはいえあなたを弟に持てて嬉しかったのでしょうね…。今私は…貴方を虐めたくて仕方ないのよ…」

「虐めって…これが!?」

「ふふ…そうよ。妖怪にとってはそれが日常よ。」

「耳かきで!?」

「そうよ。ふふ…今日は優しく優しく虐めてあげるから…」

 

 サディスティックで…何所か優しげ笑みを浮かべながら剣城を見つめる幽香。

 ―こんな幽香、見たことが無い。そう思ったのも束の間。

 

(ああ…でも…こういうのも…悪くは…)

 

 ―次の瞬間、剣城の耳の中に竹で出来た棒が入っていくのであった。

 

※ ※ ※

 

(ふふ…幸せそうな顔ね…)

 

 幸せそうな剣城の顔に思わず笑みがこぼれる幽香。

 ―もっと、剣城の事を知りたい。これから義弟となるような人間を知りたい。

 知ったうえで、共に歩んで行きたい―そう思った。

 

(生まれて初めてね…こんな感情。)

 

 幽香が感じた初めての感情…恋心とは違えど、確かな暖かみを感じる感情―

 今は、この感情を、そして、そんな"初めて"をくれる存在を手放したくない…そう思いながら、慣れない手つきで耳かきを施す幽香であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜―幽香の部屋…

 

「今日一日ありがとな幽香…おかげでだいぶ休めたぜ。」

「結局アンタは走りに行っちゃったけどね。」

「仕方ねえだろ…一日でも休むと体訛っちゃうんだから…」

 

 時刻は23時。幽香と一緒に遊び、ご飯を食べ…今までで一番ゆっくりできた一日だった。

 

「それじゃあ…お休み…」

 

 剣城は自分のベッドに入ろうとすると…

 

「待って。」

「…どうしたんだ幽香?」

 

 ―と、次の瞬間幽香はとんでもない事を言い出したのである。

 

「今日は、私の隣で眠って貰うわ。」

「…ええええええ!?」

 

 ビックリして声を上げる剣城。

 

「ちょっと待って…色々とマズいんじゃねえのか!?幽香の隣で寝るって…!」

「へえ…何がマズいというの?言ってみなさい。」

「えっと…それは…」

 

 ここまで言いかけて顔を赤らめる剣城。

 

「遠慮してるの?良いのよ、私はあなたの姉…この私が言っているんだから、さっさと来なさい。」

「…分かった…。」

 

 顔を赤らめながら幽香のベッドに入る剣城…

 やがて二人は向かい合うような体勢となった。

 

「そうそう…変な所触ったら分かってるわね?」

「き…気を付けます…」

 

 布団に入る前、幽香にそう言ってギロリと睨まれ思わず震え上がる剣城。

 

「なーんて、冗談よ。」

 

 すぐ優しい笑顔になる幽香。

 ―その笑顔が、とにかく美しくて―。

 

(やっぱりちょっと…恥ずかしいかも…)

 

 思わず顔が赤くなっていく剣城であった。

 

「ふふ…それじゃあ、おやすみなさい。」

「…おやすみ…。」

 

 部屋の明かりが消える。

 ―今日は、本当に充実した一日だった。

 明日からは色々と忙しくなる。

 

「…強く…ならないとな…。」

 

 ―と、

 突然、幽香が剣城の頭を触ってきた。

 

「…え…?」

 

 ―そして…抱きしめられた。

 

(…えええええええええええええええ!?)

 

 顔が一気に熱くなっていくのを感じる。

 幽香の柔らかなものが剣城に触れていて…

 

(ああ…柔らかい…)

 

 顔が一気に熱くなっていくのを感じる。

 幽香の柔らかなものが、自分の体に当たっている。

 

(あ…あああ…!)

 

 ―顔が、耳まで真っ赤に染まっていく。

 

(ちょ…ちょっとこれは…やばい…!)

 

 心臓の音が聞こえてきそうなほどバクバクと鼓動が鳴っている。

 

(どうしよう…!)

 

 パニックに陥る剣城―

 だが、頭を撫でつけられながら彼女の柔らかな感触を感じているうちに―

 剣城は、安心感を感じ始めていた。

 

(やばい…無茶苦茶温かい…)

 

 目の前の大きな女性は、師であり姉でもある存在―

 幽香は―自分の事を義弟と―家族と思ってくれている。

 それが、余りにも嬉しくて―

 

「幽香…」

 

 ―気が付けば、剣城は幽香の抱きしめを受け入れていた。

 幽香は剣城を優しく抱きしめながら頭を撫でている。

 剣城は幽香の抱きしめを受け入れながら、段々と意識が朦朧とし始める。

 

(ああ…眠くなって来た…。)

 

 ぼやけ始めた目で幽香の顔を見る剣城―

 幽香は安らかな微笑みを浮かべていた。

 

(…幸せ…明日から…頑張れそうだな…)

 

 そう思いながら、剣城は夢の世界へと旅立ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやすみ…剣城…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一ヶ月後…

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおっ!」

 

 幽香の放った弾幕を斬り裂きながら前へと進む剣城。

 

(…本当に強くなったわね…剣城!)

 

 そう思いながら、放つ弾幕の密度を上げていく。

 剣城は弾幕の動きを読み、避け、斬り裂き、進む。

 動きも、回避能力も、攻撃力も一か月前とは段違いだ。

 そんな剣城の成長を幽香は、不敵な笑みで見つめていた。

 

「楽しみね。貴方が何所まで強くなっていくのか…。」

 

 幽香が呟いた直後―剣城は輝く緑色の翼を背に生み出し、弾幕の間を縫い飛び上がった。

 ―強くなるために、幻想郷(この世界)を護るために―。

 

「まあ私も…置いて行かれる気は何一つないわ。来なさい!剣城!」

 

 幽香は目の前の義弟へと傘を向け彼女の代名詞となる技(マスタースパーク)を放たんとする。

 そして、義姉であり師である幽香を超える為に。

 剣城は、全力全開の斬撃を幽香へと放った。

 

 

 

 

 

「斬撃『烈風破斬』!!!」

 

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