東方烈風録~Phantasm Storm Savior~ 作:フウ@東方二次創作
"穴"に落ちてから暫くして、剣城は地面へと激突する感触をおぼえた。
剣城の意識が段々と闇に落とされていく。
(ああ…ここで…死ぬのかな…俺…。)
剣城の意識が完全に闇に落ちる前に見たものは空。そして向日葵の花。そして…背の高い女性であった…。
-目を覚ますと、その眼に映ったのは木の天井であった。
次の瞬間、彼はベッドで眠っている事に気が付いた。
「な…何だ…?」
「あら、目が覚めたかしら?」
剣城の右側から女性の声がする。
その方向を向くと、剣城の眠っていたベッドの右側に、背の高い女性が佇んでいた。
「は…はい…。」
「フフフ…良かったわ。」
幽香は「さて…」と言った後に、
「私は、風見幽香。幽香で良いわよ。」
「えーっと、風原剣城だ。よろしくな。」
「…風原剣城…。剣城はどうして私の畑で倒れていたのかしら?」
幽香は真剣な表情で剣城に尋ねる。
「えっと…ごめん…良く分かんないんだ…。」
「へぇ…。」
幽香はこちらを品定めするような目で剣城を見つめる。
-そして、
「…どうやら嘘はついていないようね。」
「あ…ああ…。」
「そしてその見慣れない服装…つまりあなた…『外来人』ね。」
「が…『外来人』?」
「どうやら、自分の状況をイマイチ理解できていないようね。」
やれやれといったような感じで首を横に振る幽香。
「まず私達の今いるこの世界は、あなたの住んでいた世界とはまた別の世界…ここは、『幻想郷』と呼ばれる忘れ去られた者達の楽園よ」
「…別の世界だって…?」
剣城は突拍子のない事を言われて理解が追い付かなかった。
幽香の説明によれば、
まずこの地は“幻想郷”と呼ばれる、忘れ去られた者達が行き着く楽園らしい。
この地には人間や妖怪、神などの空想の存在が普通に暮らしているらしい。
“幻想郷”は、大妖怪であり、賢者である八雲 紫によって管理されているらしい。
そして、幽香もまた妖怪と呼ばれる類であった。
「…なるほどな…。そうか、俺、忘れ去られたのか…。」
「…取りあえず、理解してくれたかしら?」
「ああ。取りあえずOKだ。」
「さて…お茶にでもしましょうか。」
「サンキュー。アイスミルクはあるか?」
「ええ。勿論あるわ。」
幽香はコップに牛乳を注ぎ、剣城は机一つ挟み幽香と向き合って座った。
「そう言えば…ここって幽香の家なのか?外にいっぱい向日葵が咲いてるのが見えたが…。」
「そうね。ここは太陽の畑。さっきあなたはその花畑の道の上で倒れていたのよ。」
「…危なかった…花の上に落ちてこないで…。」
「…そうね…。もし花の上に落ちていたら、あなたの命なんてなかったと思うから。」
「いやこえーよ!?」
剣城は笑顔で言ってみせる幽香にツッコむ。
「…でもこの畑…管理するの大変じゃないのか?」
「そうね。『花を操る程度の能力』があっても大変よ。…でも、私は花を愛しているからね。」
「…能力…?」
「そう言えば説明するのを忘れていたわね。この幻想郷には能力の概念があるわ。
ここではその異能の力の事を“程度”の能力と呼ぶの。“程度”と言うのはそれしか出来ない…という皮肉が込められているわ。」
「そんなものがあるのか…んで幽香は『花を操る程度の能力』があるって事ね。」
「そうよ。」
「…でも…能力であってもすげえなこの風景…。」
「ええ。私のお気に入りの風景よ。」
そう話しているうちに、剣城はアイスミルクを飲み終わった。
「ごちそうさま。」
「お粗末様。ところで…あなたに行く宛てはあるのかしら?」
「いや…特にないな…。そもそも知らない土地だし。」
「一応、現世にも戻れるけど。」
「…それは…。」
―ふと、剣城の顔が暗くなる。
「…嫌…かな…。俺、戻りたくない…。」
彼にも何らか事情があるのだろう。そう思った幽香は―
「―分かったわ。今日からここで暮らしてもらうというのはどう?」
「えっ…?良いのか?」
「ええ、空き部屋もあるし歓迎するわ。ただし、家の手伝いはやってもらうから。」
「勿論だ!ありがとな!」
こうして、剣城と幽香…後にある意味夫婦をも超えた関係になる二人の暮らしが始まった。
リビングにパジャマ姿で入って来た幽香。
どうやら風呂から出た後のようだ。
「お、おかえりー。」
同じくパジャマ姿の剣城。
「ええ…剣城、それは何?」
幽香が剣城が持っているもの…ゲームのコントローラーに指を差す。
「ああ、ゲームだよ。現世から持って来たやつ。
まあ別世界に持って行くことになるとは思わなかったがな…。」
「ふ~ん。まあ、やるのは良いけどやることはやりなさいよ。」
「分かってるって。つっても寝るまで時間はあるが…どうするんだ?」
「そうね…折角だし見ておきましょうか。」
剣城がやっていたのは現世で超有名なレースゲームであった。
「うわぁーここのNISCむっず…未だに成功できてないんだが…。」
「同じ道を通ってる人が居る辺り重要そうねここのショートカット。」
「よっしゃああああああああ!」
「へえ、最下位から良く巻き返したわね。」
「やばいやばいやばい…」
「幾らなんでもぶつかりすぎじゃないの?」
「200CCだとこんなもんだぞ…?」
「何イイイイイイイ!?」
「あらら、あっという間に二桁じゃない。」
「ベビパやっぱりきついって…。」
「あああまた落ちたああああああ!」
「…何をしているの?」
「キノ〇キャニオンだといっつもこうだよ…」
こうして眠るまでの約2時間、剣城はゲームを楽しんだ。
「ふー、楽しかった。」
「私もまあまあ楽しめたわ。」
「それじゃあ…。」
「ええ。そろそろ寝る時間よ。剣城は予備のベッドを使いなさい。」
「オッケー。」
剣城と幽香は別々の布団の中に入った。
「それじゃあ…」
「ええ、おやすみ。」
明かりを消す幽香。
…微睡みの中、剣城は思っていた。
(…まさか家出したら別世界だなんてな…まだ実感がないな。…でも…。)
(もう…戻りたくない…。)
剣城はそんな事を思いながら眠りに落ちた。