東方烈風録~Phantasm Storm Savior~ 作:フウ@東方二次創作
翌朝…
今日も剣城は太陽の畑の周りを走っていた。
それを見る幽香。
「はあ…」
幽香は普段、"一人"を好む。
孤独など苦にもならず、一人で静かにしているのが好き。
―だが、彼を追い出そうという気持ちなど、不思議と湧いてこない。
彼女の中で、「初めて」の種類の人間に興味が湧いている。
「…はあ…。」
風原剣城が、分からない。
自分自身が、分からない。
幽香は苛立ちをため息に出す。
―やがて、彼女は決断した。
「アイツの身体に、聞いてみましょうかね。」
―――――
その午後。
二人はいつもの特訓場場である開けた場所に立っていた。
「さて…午後の特訓だけど…。」
「…どうした?」
―午後、これまでの態度とは打って変わって真剣な表情で幽香は言い放った。
「剣城、私と一度戦って貰うわ。」
「…えっ…!?」
余りにも突然の、幽香の宣言。
「おいおい…急にどうしたんだ?」
「あなたが強くなりたいと言って数日経ったけど…果たして今のあなたはどこまで出来るのか…とね。」
「腕試しって事か…分かった!」
「…腕試しね…貴方にとってはそうかもしれないわね?」
不敵な笑みを浮かべる幽香。
「…どういう事だ…?」
「そうね…私にとっては…"虐め"よ。」
幽香が剣城を睨む。
―瞬間、幽香から数メートル先の距離に居る剣城に凄まじい威圧感が発せられる。
「…"虐め"…どういう意味だ!?」
「だってそうでしょう?私は"妖怪"よ。アンタの価値観で"どういう意味だ"と叫ばれても心外よ。もしそれが嫌なら出てゆくことをお勧めするわ。」
「…幽香の価値観にケチをつけるつもりじゃねえ。だが…!」
剣城は、幽香から発せられる威圧感に敗けず彼女を睨み返し、能力で生み出した剣を構えた。
「…俺は全力で、お前と戦う。それだけだ。」
「…いい度胸ね。面白い…屈服させてあげるわ!」
幽香はサディスティックな笑みを浮かべ彼女の得物である傘を構えた。
「行くぜ!幽香!」
走り出す剣城。
剣城の初めての戦いが始まった。
「へえ、いきなり詰めて来るのね。」
「オラアアアアアア!」
幽香の傘に剣城の剣が打ち付けられ金属音が響く。
剣城はそこから連続攻撃に展開。幽香はその傘でこれを悉く防いでいく。
「中々のスピードね。」
「その傘何なんだよ…!オラッ!」
剣城は剣を振り上げ幽香の頭上に向かって振り下ろす。
「甘いわよ!」
幽香は素早く傘を開き剣城の剣を受け止める。
「はああああああああああっ!」
そのまま力を籠めて押そうとする剣城。
だが、ビクともしない。
「どうしたの?その程度のパワーで勝てるとでも?」
―確かに幽香の方が力は上。人間と妖怪とではパワーが違い過ぎる。
「まだだぁ!」
幽香の懐へと飛び込む剣城。
―がその瞬間、剣城の腹部に凄まじい衝撃が走った。
「うぐっ…」
「甘すぎるわ…」
幽香の膝蹴りが剣城に直撃し、よろめく剣城。
「まだまだ!」
よろめく剣城の背中に幽香はすかさず回し蹴りを叩き込んだ。
「うがぁっ…!」
剣城の身体が宙に舞い、地面に叩き付けられる。
「はぁ…はぁ…」
「あら、まだ動けるというの?」
何とか立ち上がろうとする剣城の目の前に立ち、顔を覗き込む幽香。
「ふう…」
大きく息を吸い、吐きだし立ち上がる剣城。
「咄嗟に身体強化入れてて助かったぜ…」
「あら、教えた防御の方法も使えているようね。」
幽香は傘を地面に突き刺す。―そして…
「花符「
幽香を中心とし、弾幕が花のように広がった。
「幻想郷の勝敗は、この『弾幕』で決まるものよ。」
「おいおい…!」
「さあ、始めましょう!」
次の瞬間、剣城の目の前に大量の弾幕が飛んできた。
「ぐっ…!」
剣城は必死の思いで弾幕をかわしていく。
―その間も、弾幕は止むことはない。
「まだまだ!」
弾幕の間から新たな弾が飛んできて来る。
「くそっ…!」
剣城は盾を取り出し避け切れない弾幕を防いでいく。
「ふふ…そう避けているだけでは何もならないわよ?」
「何の!」
「これならどうだ!くらえ!」
連射。緑色の高エネルギービームが幽香へと迫る。
しかし…
「甘いわよ。」
幽香はそのビームを悉く躱した。
「くそっ…これもダメか!」
「貴方、それは弾幕とは言えないわ。もっと弾幕らしい弾幕を出してみなさい。」
「く…!」
ドキリと胸が鳴る感覚を感じる。
―そう、剣城は弾幕を創り出すのが苦手だった。
そもそも、剣城が見ていたアニメに弾幕という概念は無く、強いて言えばガンダムやドラゴンボールくらいの弾幕しか知らなかった。
だが、それは余りにも素直で直線的な弾幕。
対して幽香の弾幕は鮮やかで色とりどりの美しく、それでいて殺意の高い弾幕。
勝てる筈も無かった。
「…ぐぅっ…!」
「…そろそろ観念したら?」
幽香のスペルカードに苦戦する剣城。
―が、ふと剣城の脳内に一つの考えが浮かんだ。
―――――――
そもそも並の人間が戦っても高が知れている。
博麗霊夢、霧雨魔理沙…幻想郷で名を馳せている猛者たちは、"才能"と"努力"があって"猛者"として居ることが出来る。
―だが、今の剣城はどうか。
鍛錬を始めて未だ数日。才能の片鱗はあれど霊夢のような"天性の才能"は無い。
ましてや、まともな弾幕を放てないのなら話にならない。
剣城は並みの妖怪ならば問題無く撃破することが出来るが…、太陽の畑を襲う妖怪には幻想郷の中でも強力なものが揃っている。
力を付けたと勘違いした"並みの人間"では…。
「うおおおおおおおお!」
―幽香がそんな思考に耽っていると、剣城が突然の行動に出た。
何と、剣城がライフルと盾を捨て、剣に持ち替えたのである。
「な…何をしているの!?」
幽香と剣城の間には数十メートルの距離がある。
間合いが足りなさすぎる―そう思った矢先、剣城が動いた。
「霊力を剣に溜めて…これだぁああ!」
瞬間、剣城の持っていた剣が伸びた―否、霊力の刃が創り出されたのである。
「なっ…!」
「斬撃『
巨大な斬撃が、幽香の弾幕を薙ぎ払った。
そしてそのまま、幽香へと突っ込む。
「へえ…だけどこれはどうかしら?幻想『
幽香の前方の地面から弾幕が湧き出し、剣城へと襲い掛かる。
その弾幕に対し、剣城は剣を持って真っ直ぐ突っ込んで行った。
「真っ直ぐ突っ込んで行くつもり!?」
「行くぜ!斬撃『
剣城は脚、剣に霊力をチャージ。
そして、弾幕を切り裂きながら幽香へと向かって進撃していった。
「なっ…!斬られた!?」
少しの被弾も気にせず弾幕を切り裂きながら前へと進んでいく剣城。
人間のこのような行動は、今まで見たことが無かった。
「でも…少し遅いわ!」
幽香は傘を剣城に向け魔力をチャージする。
幽香の切り札の一つ―『マスタースパーク』の体勢に入った。
「チャンス…!」
それを見た剣城は右足に霊力をチャージし、そして―
真っ直ぐ跳んだ。
「!?速…」
「斬撃『烈風一閃』!!!」
超速の突貫。
さしもの幽香もマスタースパークの体勢を解いた。
ガキイイイイイイイイイイイイン
幽香の傘と剣城の剣が衝突し、甲高い音が鳴り響く。
「やる…」
「まだまだぁあああっ!!!」
超速の連撃へと展開していく剣城。
―しかし…
「くっ…」
幽香は冷静に受け続け、徐々に剣城の動きを制限していく。
「もう…!」
「そろそろ諦めたら?その程度で私に勝てるとでも思ったの?」
剣城の動きを制限し、余裕の表情を浮かべる幽香。
しかし…。
「ここだ!」
剣城は振るわれた幽香の傘を弾き返す。
ガードが開いた。
(恐らく次に来るのはビームか前蹴り…)
幽香が冷静に剣城の次の動きを読む―が、
「思い付きの…我流『
拳を突き出す剣城。そこから幾つものエネルギーが放たれた。
「…何っ…!」
予想外の動きに反応出来ず、まともに受けてしまった幽香。
「くう…やるじゃない…だけど…!」
―ここまでよと言おうとした矢先、剣城は剣を捨てて幽香の懐に入り込んだ。
「格闘『ライジングストーム』!!」
腕に鉄の籠手を生成した剣城の霊力を纏ったアッパーカット。
ガードの上から幽香を上空へと吹き飛ばした。
「(あそこから格闘!?だけど、運の尽きよ!)」
幽香は傘を真下に構え魔力をチャージする。
―が、次に幽香の眼に映ったのは、ビームライフルを真上に向けて構えている剣城の姿だった。
「!?」
「射撃『ラスト・シューティング』!!」
剣城の放った渾身のビームライフル。
ライフルから放たれた光線は幽香の左腕にクリーンヒットした。
「く…!まだ…!『マスタースパーク』!」
幽香は不完全ながらも反撃のマスタースパークを放つ。
幽香の傘から放たれる極光はビームライフルを天高く掲げる剣城に降り注ぎ、爆発を起こした―。
――
「…はあ…はあ…はあ…やった…?」
煙の中から、幽香が現れる。
左腕は焼かれ、身体中にダメージを負っていた。
「………」
一方、剣城は地面に伏していた。
全身を焼かれ、満身創痍の状態だが生きていた。
「はあ…はあ…」
勝った。
―勝ちはした。
だが、剣城の恐ろしい程の爆発力に、幽香はあわやと言う所まで追い詰められた。
「…全く…貴方は何者?」
幽香は倒れたまま動かない剣城の傍へと歩み寄った。
―――
「ご馳走様!」
夕ご飯前にはすっかり元気を取り戻した剣城は、食べ終わりの挨拶をした。
「…剣城。」
「どうした?」
幽香が口を開く。
「一つ聞かせてほしいわ。どうしてあなたは強くなりたいと思ったの?」
「え?」
「剣城のあの時の表情…。最初は戯言をと思ったけど、どうやら本気の様ね。」
「まあな。」
「…何故?あなたをそこまでさせる動機は一体何なの?」
うーんと考える剣城。
―やがて、剣城が口を開いた。
「―多分、この場所が好きだから…かな?」
「…え…?」
「この太陽の畑は幽香が作った場所なんだろ?一人でこんな風景を作れるのって、本当にすごいと思うぜ。」
「だからそれは能力で…」
「それでも、こんな景色が作れるのは幽香だけだと思う。」
「剣城…。」
幽香にはそんな言葉がたまらなくうれしく思えた。
「俺はここが好きになった。幽香の居るこの太陽の畑が好きになったんだ。」
「だから、ここを守る為に強くなりたい…と?」
「それもあるんだが…もう一つ理由はあるんだ。」
首を傾げる幽香。
そんな幽香に剣城は目を合わせ…。
「幽香に、感謝してるんだ。」
「…どういう事?」
「だって幽香…落ちて来た俺を助けてくれたり、ここで暮らせるようにしてくれたりしてくれて…本当に優しくしてくれて、嬉しかったんだ。」
―剣城の声が心なしか揺れ始める。
「だから、この場所を一緒に守らせてほしい。俺は…」
「…もう良いわ。」
幽香は立ち上がり皿を片付け始める。
「…気持ちだけは受け取っておくけど、あなたはこの世界に幻想入りしたての人間。今の剣城が戦っても足手纏いなだけよ。」
そう冷たく告げた幽香は、風呂場へと入っていった。
―――――
「―はあ…私、何をやっているのでしょうね。」
風呂に浸かりながら幽香は独り言を呟いていた。
―自分の感情に戸惑っていたのだ。
―だが、それでも…
「剣城は人間よ…。妖怪が相手では勝てないわ。」
幽香は、自分の感情に疑問を抱いていた。
「どうして…こんなに…」
剣城を心配している自分が居る。
剣城を守りたいと思っている自分が居る。
―だが、そんな自分を許せていない。
何故なら…
「…私は、人間を…」
―人間が嫌いだから。
花だけが自分の生きがい、それを傷付け、踏みつける人間は敵―それが妖怪である自分の生き方だった。
「それなのに…。」
―――
「俺はここが好きになった。幽香の居るこの太陽の畑が好きになったんだ。」
―――
「…はあ。」
結局の所、自分は剣城の事をどう思っているのか。
人間なのに、何故自分はこんなにも彼を気に入っているのか?
分からないまま、夜は更けていった。
―そして明日、大いなる試練が二人を待ち受けるのだった。