東方烈風録~Phantasm Storm Savior~ 作:フウ@東方二次創作
ゼノラスが山奥に消えて数時間後、博麗神社―
「幽香と同居中…それ本当なの…?」
霊夢が信じられないと言ったような表情で剣城を見る。
「ああ本当だ。幽香が霊力の使い方とか、応用方法とか色々教えてくれて…昨日なんて戦いの相手にもなってくれたしな。」
「戦いの相手って…どうなったんだ?」
恐る恐ると言った様子で訊く魔理沙。
剣城はそれに笑顔で答えた。
「あんまり歯が立たなかったぜ…一撃入れるので精一杯だった。」
驚いたような顔をする霊夢たち。幽香に対して一撃入れるだけでも大金星である。
さながらなろう系のような空気感である。
「因みにですが…"武器を創造して操る程度の能力"でしたっけ…?あれで剣を創り出したのは分かるんですけど…剣技はどこで学んだのでしょうか…?」
「あれは…ガチの我流だな。能力で補正は掛かっているとは思うが…」
妖夢は愕然とした。
妖夢から見れば、剣城の剣は無駄が多すぎる粗削りな剣。
霊力による身体強化により剣をとにかく素早く振っているだけ。
だがそれでも、素人があれほどの動きを出来るのは凄いことである。
「…とにかく今回の件、協力感謝するわ。」
霊夢はペコリと頭を下げお礼を言った。
「どういたしまして。それじゃあ…またな!」
幽香と剣城は帰路に着いて行った。
「風原剣城…おもしれ―奴だな。」
「カッコ良かったですね…あの時の剣城さん。」
「剣城さんのあの強さ…一体どこから…。」
「…厄介なものですね。」
思い思いの感想を発する4人。
そんな中、霊夢は別の事を考えていた。
(風原剣城も気になるけど…あの巨大な妖怪…一体何が目的なのかしら…。)
そんな霊夢の思考の答えは、暫く出そうになかった。
―――――
「…剣城…その…。」
「うん?」
幽香の家…二人で夕食を食べている中、幽香が口を開いた。
「その…ありがとう…。」
ぎこちなく感謝の言葉を口にする幽香。
剣城はコップの水を飲み込んで言った。
「幽香こそ、ありがとな。」
「…え…?」
「…俺、家から出る前に、思ったんだ。何で幽香があんなこと言ったろうって…。んで、分かったんだ。」
剣城は、幽香の眼をまっすぐ見つめて言った。
「幽香の言う通り、俺はまだここに来て一週間も経ってない。この前幽香と戦った時も完敗だったし…。だからさ…幽香は言いたかったんだろ?力の使い方とか、使う意味もまだあまり分かっていない人間が来るなって…。」
「…え…?」
―どうやら剣城は真面目に勘違いをしているようだった。
思わぬすれ違いに内心焦る幽香。
「俺は幽香を…ここを守りたくて行ったんだ。そしてその思いは、これからも変わらないつもりでいる。だから幽香…。これからも、一緒に戦わせてくれ。」
至って真剣に話す剣城。
―幽香はこの状況を受け入れ、
「…分かったわ。」
「ありがとう!」
立ち上がり頭を下げる剣城。
そのまま剣城は、ご飯の続きを食べ始めた。
――――――――――
「…寝てる。」
幽香は、眠れなかった。
ぐっすりと眠っている剣城の事が、どうしても気になったから。
「…剣城…。」
幽香は考えていた。どうして彼は、どうしてそこまで「守る」と言う事に執着しているのか。
剣城と出会って一週間経たず…分からない事はまだいっぱいある。
剣城を知りたい―幽香がそんな事を想っていると…
「う…ううう…!」
―剣城から、苦しむような声が発せられた。
魘されている、そう幽香が理解するのに時間はかからなかった。
―でも、どうして?そう思っていると―ふと思い出した。
――――――――――
「そうか、俺、忘れ去られたのか…。」
「…嫌…かな…。俺、戻りたくない…。」
――――――――――
―そんな事を、剣城が暗い顔で言っていたのを。
(…もしかして…。)
―気付けば幽香は、剣城の傍に座り込み頭を撫で始めていた。
(…剣城…。アンタも色々、苦労していたようね。)
暫く剣城の頭を撫でる幽香。
「…私は剣城の身に何が起きたかを知らない…。そして、それを話す義務は剣城には無い…。
だから…私に出来ることは、こうして頭を撫でてやる事だけ…。」
―でも、知りたい。知って受け止めたい。
―段々と、瞼が重くなってきた。
やがて幽香は、剣城に寄り添い、抱きしめるような体勢で眠りに落ちた。
―――――――――――――――
家族からの関心は、全く向けられなかった。
父親がブラック会社を辞めた事で、母親は離婚―それによるストレスからか、シングルマザーとなった母親は、剣城に当たる事が多くなった。
母親は男を嫌悪するようになり、SNSに毒を吐くようになり、剣城に強く当たる事が日常となった。
過酷なバイトを強制され、稼いだお金は奪われてこき使われた。
学校でもそれは同じ―先輩からはパワハラを受け、友達は居ない。
だが、高校二年生の彼には好きな子が居た。
美しくて元気で、表裏の無い―そんな子だった。
「ええ風原?アイツダメダメ。イマドキガラケーなんて時代遅れにも程があるし、アイツバイトしてるんでしょ?デートもまともに出来ないし無理無理。ってか好きなものゲームとアニメって…だから友達居ないんでしょ?マジキモい。私に相応しい男ってのはね…」
―そんな陰口を聞いて、絶望するまでは。
だがそんな状況でも剣城は折れなかった。
親に隠れてアニメや特撮を見ていた。カッコ良い主人公に憧れた。自分の中の推しも見つけた。
こっそり貯めたお金で中古のゲーム機を買いプレイした。
奨学金を貰って大学へ行き一人暮らしをする―そんな生活を夢見ていた。
「ふざけたこと言わないで!お前は高校を卒業して働け!今すぐにでもだ!」
―心が、折れた。
その言葉を聞いた夜―彼は、家を出た。
彼の好きなゲーム、キャリーケース、食料、お金を持って。眼には、光が灯っていないかった。
―その過去を、剣城は夢の中で追体験していた。
苦しい…辛い…
悪夢に魘される剣城―
…そしてその光景は、突如として終わりを迎えた。
―いつの間にか自分の真後ろに居る、幽香によって。
「ゆ…幽香…。」
幽香から発せられるのは寝息だけ。
「寝てる…でも何で…」
幽香が隣に居るという状況が信じられない剣城。
「…。」
…だが、剣城は少し安堵しているような感覚を覚えていた。
(…いや、何で安心してるんだよ!)
そう心の中で突っ込む剣城―
(…何でだろ…。)
何故こんなにも落ち着けるのかがわからない剣城。
本来ならば、顔を赤くするだとか…そんな反応をするのが普通なのだろう。
だが、今の剣城は、"心から安心していた"。
そう考えながら、剣城は幽香に布団をかぶせ、静かに目を瞑った。
―その日は、ぐっすりと眠ることが出来た。