記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

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始まり

パチパチと、松明が放つ火の間を、一人の少女が駆け抜けていく。

その後ろを追う足音。この洞窟に住まう魔物たちのものだ。

およそ一人の冒険者が対処する数ではないそれを引き連れて、少女は足を止めずに走り続ける。

少女が足を向けた先は、行き止まりの小部屋。

迫る壁を見て、魔物たちの鳴き声に嘲笑が混ざった―――ような気がした。

 

「―――ま、計画通りなんやけどな」

小部屋の壁に向かって、少女が跳躍する。

そのまま、宙を蹴って一度。壁を蹴って三度、天井に頭をぶつけそうなほど跳躍した少女が、漸く武器を取り出す。

PA(フォトンアーツ)、ホーミングダート。マルチロック開始!」

隣に浮く支援メカ(マグ)の助けで、少女の視界に映る魔物たちに次々にマーカーが合わさる。

視線を奥へ動かし、全ての魔物に着いたのを確認して―――

「―――発射(ファイア)ー!」

引き金を引くと同時に身を翻す。銃口から発射された幾多の弾丸が宙を舞い、魔物たちへ一斉に襲い掛かる。

およそ世界観に似つかわしくない光の銃弾を受け、次々に地へ伏せる魔物たちの中心に、少女が華麗に着地を決める。

「これでレベル16、と。先は長いなーホンマ」

その視界に映し出されたレベルアップの表示を流し、少女はため息を吐いた。

 

それは、ほんの出来心。

たまたまアップデートの宣伝が流れてきた、ジャンル黎明期から続く老舗MMORPG『エルダーテイル』の初心者無料キャンペーン。

偶にはこういう懐かしいのもいいか…とダウンロードしたのが間違いだったのだろう。

メインクラスを決定し、いざキャラメイク―――となったその瞬間で、記憶は途切れている。

 

「人生何が起こるかわからん、一寸先は闇とはゆーけどやな…」

魔物から素材を剥ぎ取りながら、少女はぼやく。

魔物の気配も周辺から失せ、他の冒険者(プレイヤー)もいない現在、少女のぼやきを邪魔する存在はいなかった。

「ゲームや思たら異世界招待券やし、そもそも身体はこのゲームのモンちゃうし、性別も変わるし。散々や…まぁ、悪いことばっかやないけど」

粗方剥ぎ取りを終えた少女は、天井を仰いで息を吐く。

 

キャラクターネーム、チノモリちゃん。

メインクラス、暗殺者(アサシン)レベル16。

サブクラスーーーARKS(アークス)、レベル100。

それが今の、自分を表すステータス。

 

 

――――これは、異世界となったゲームの世界に。

『別のゲーム』から迷い込んでしまった一人の冒険者の話。

 

 

 

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