ダンジョン攻略開始から数日。
「晩飯もろてきたでー」
鍋を運んできたチノモリちゃんに、各々時間を潰していたパーティーが集う。
手早く注がれていくスープを、自然と列を作って受け取ると、食事が始まった。
攻略は行き詰っていた。
消耗が激しすぎるのだ。
奥へ進もうと何度か戦っている内に、疲労が溜まって帰らざるを得なくなる。
まるで自分たちの限界を突き付けられているようだ、と五十鈴は思った。
向かいでパンを千切るルンデルハウスも表情が険しい。
致命的な失敗はなかった、と思う。だが、最奥に進むには“何か”が足りない。
その“何か”がわからなくて、みんな沈んでいた。
「…なんで進めないんだ」
ぽつり、と決壊したような言葉が、ルンデルハウスから零れる。
「ボクは24レベルになった。敵のレベルは17から21というところだ。それでいて、なんでこんなにも消耗させられる?おかしいじゃないかっ」
誰も、何も言わない。シンと静まり返ったテーブルに、青年の声だけが響く。
「……修行を繰り返すしか……ないのか……」
「……その思考は危険やで、ルデ公」
初めて答えを返したのは、チノモリちゃんだった。
「危険?どういう意味だ、ミス・チノモリちゃん」
「いやまぁ、これはちょっと前に僕がこの目で見た光景やねんけどな」
千切ったパンでスープを掬いながらチノモリちゃんが言葉を続ける。
「大体、25レべぐらいの敵やったかな?を相手しとったパーティーがおってん。大体レベル20くらいの連中の中に、一人だけ40オーバーの
「レベル40?そんなレベル差があったら、楽勝ではないか?」
「そう思うやろ?結果は潰走や」
どこかで聞いたことがあるような、と五十鈴は首を傾げる。同感らしく、斜め前でトウヤも首をかしげていた。
「多分その
魔法職の脆さは実感しとるやろ?と言われ、不承不承ながらルンデルハウスが頷く。
「で、まぁその
「…なら、ボクたちには何が足りないって言うんだ、ミス・チノモリちゃん」
「それが具体的に解れば苦労はせぇへんねんけどな。ちゅーわけで」
くいっと少女の視線が動く。釣られて動かした先には、びっくりして固まったミノリの顔があった。
「ミノリん、何やと思うー?」
「えっと、そんな事急に言われても……」
「まぁ、せやろな。僕も急に振られたら困るわ」
そう言って笑うチノモリちゃんに、もうっとミノリが膨れる。本気で怒ってるわけではないらしいが、ちょっとかわいいなと五十鈴は思ってしまった。
「とにかくや。この数日の挑戦で、何やわからんけど“何か”足りひんっちゅーんはみんなわかったとは思っとる。やったら、その“何か”を探るのが次の段階や思うんよ僕」
「でも、探るったってどうやって?明日またダンジョンに潜って探るのか?」
「それも一案やけどなー。ぶっちゃけ、ダンジョンで戦り合っとる時の僕ら、そんな余裕ないやろ?」
「そうですね、考えることも多いですし……」
セララもうつむき気味に呟く。
「…『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』」
悩みながら、ぽつりと溢したのは、やっぱりチノモリちゃんだった。
「なんだそれ?」
「トウヤんは知らんかぁ。孫子とかいう昔の兵法家…つまり戦いのノウハウを教える人の言葉でな。敵を知って、自分らの事もよぉ知っとったら、100回戦っても大丈夫…みたいな意味やと思う」
「どうして、いきなりそんな言葉を?」
「いやなんとなくふっと。ちゅーか、これに当てはめたらさ。僕ら、敵の事はある程度知ったけど、自分らの事は…自分以外のこと、よぉわかっとらんのちゃう?」
む、と全員が口ごもる。
「正直言うて、僕ルデ公の使う魔法の特性とか知らへんし、ミノリんの魔法のシールドがどのくらい保つかとか解らんし、トウヤんの技のリキャストがどのくらいで回るのかも解らへん。逆にトウヤんも僕らの攻撃がどのくらい
もっと簡単に言うたら、と少女は言葉を続ける。
「要は『どう動いたら他のみんなが動きやすいか』ちゅーのが解らへんのよ。多分、解らへんなりにやっとるんが今の限界なんちゃうかな」
異論はない。出しようがない。みんな『解らないなり』にしかやっていなかったのだから。
「言いたいことはわかった。しかし、どうすればいい?」
「いっぺん、作戦会議が必要なんちゃうかな」
自分で言っておいて、うへぇめんどくせぇ、みたいな顔になる少女。
「お互いのスキルの射程やら動作時間やらリキャストやら、その辺お互いに知らんと話始まらんっぽいしなぁ……昔のゲームってほんまめんどくさいで」
まぁ、やらにゃしゃーないけどや、と少女が真面目な顔に戻る。
「ちゅーわけで、明日は朝っぱらから作戦会議としよやないの。異論あらへんな?」
全員が―――納得度合いの差こそあれ―――頷きを返す。
ちょうどご飯も食べ終わる頃合いで、ルンデルハウスを皮切りにお皿を洗うために立ち上がっていく。
「…すみませんチノモリちゃん、ほとんど全部言っていただく形になって」
「ええねんええねん、貧乏くじは大人に引かしとき。子供は甘えんのも仕事やから」
………どうやら、ミノリは早くからこの“何か”に気付いていたらしい。やっぱり凄い子だな、と思いながら五十鈴も席を立った。