記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

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暗雲

数日後―――第1回遠征の最終日の深夜、僕は眠れなくてふらりとキャンプを出た。

「どうした、ちびっ子。眠れないのか?」

そこに、不寝番をしてきたらしい直継―――引率の一人の守護騎士(ガーディアン)だ―――が声をかけてきた。

「ん、なんや胸騒ぎが収まらんくてな…」

「胸騒ぎ、ですかにゃ?」

夜食だろうか、軽食を持ったにゃん太もこちらに気付く。

「うん。言葉にするのは難しいんやけど…なんかイヤーな感じが、向こうからしてきよるねん」

僕が指さしたのは、西の方角。

「…イヤーな感じって…わかるか?班長」

「我が輩は何も感じませんにゃ…」

二人して西の空を見上げる引率組。

「…まぁ、あんま気にせんといてぇな。僕自身よぉわかっとらんし」

「…わかった。とりあえず、明日に響かないように早く寝ろよ」

「よければ、こちらをどうぞですにゃ」

「わ、ありがとうございます」

にゃん太から差し出されたホットミルクを飲んで、その日はどうにか眠りについた。

 

翌日。

結局胸騒ぎは収まらず、西の方の嫌な感じは強まるばかりだった。

テントを片付け、女子組(と括っていいのかはともかく)のものを引率組のもとへ持っていく。

彼らは重量軽減バッグなるマジックアイテムを持っているからだ。それを言ったら僕も標準搭載しているが。

「……って、何難しい顔して話し合ってますん?」

「お、ちびっ子か。どうだ、気分は」

「全然。寧ろ昨晩より近うなっとる感じが………」

言葉が途中で切れたのは、直継が『やっぱりか』という顔をしたからだ。

「…何や心当たりでも出てきたんです?」

「…今朝から何度か、〈緑小鬼(ゴブリン)〉とエンカウントしてるだろ?」

少しの逡巡の後、彼は身をかがめてヒソヒソ声で話し始めた。

「うん、それでさっき猫の先生が偵察行ってましたな」

「ここらは〈緑小鬼(ゴブリン)〉のエンカウント率、こんなに高くなかったはずなんだよ。きなくせぇだろ?」

「たかが〈緑小鬼(ゴブリン)〉じゃないですか」

3人目の引率組である施療神官(クレリック)の男性が何を大げさな、と苦笑する。

「だが、今回は新人たち(こいつら)もいる。何かあったら大事になりそうな気はするんだよな…」

クイっと指差されて「面倒おかけしますぅ」と肩を竦めつつ、僕は考える。

…この第六感に近い感覚が、フォトン感応に拠るモノだとするなら。

その〈緑小鬼(ゴブリン)〉がその源であるとするのなら。

「…なぁ、もしかして…」

ガサリ、と音がして茂みが動く。

猫の先生、もといにゃん太が厳しい顔で戻ってきたところだった。

「おう、班長。どうした?」

「それが…」

報告しようと口を開いたにゃん太が、僕の姿に気付いて躊躇うように口を閉じる。

―――なら。

「なぁ、猫の先生」

「なんですかにゃ?」

「偵察行ったら、〈緑小鬼(ゴブリン)〉の大軍めっけたんとちゃいます?」

猫人らしい細い眼が、限界まで見開かれたのを僕は初めて見た。

―――どうやら、図星だったらしい。そう悟ったのもつかの間―――

「じゃあ、わたしたちがさっきまで遭遇していたのは、先行偵察小隊なんですね?」

帰りが遅いのを心配したらしい仲間たち(パーティー)が、後ろに勢ぞろいしていた。

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