記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

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嵐の前の

夜の戦いは終わった。

チョウシの町は、〈緑小鬼(ゴブリン)〉の襲撃から守られたのだ。少なくとも、一夜は。

「よっ、お疲れさん」

「そっちもな。結局メインは任せることんなったし」

手を振ってきた直継に振り返す。数値だけで測るのは危険と言ったのは自分だが、やはり数値という強さは絶対的にあるのだ。

それが少々悔しい。

「そんな顔すんなよ。大事なのは気概だぜ祭り」

「…そんな顔に出てた?」

「出てたぜ。どうした?不安ならお兄さんにドンと話してみろよ」

少し俯いてから、僕は視線を東―――海岸線の方に向けた。

緑小鬼(にし)が終われば次来るんは水棲緑鬼(ひがし)や。今は静かなモンやけど……いつ来るかわからんし、それに…」

守り切れるか、と続く言葉は言わずに切る。

それでも察したのか、直継は腕を組んで頷いた。

「ミノリもそうだが、聡すぎるのも考えもんだなぁ」

「…そういや直はんって、ミノリんらのとこのお人やったっけ」

「おう、俺と班長…お前が猫の先生って呼ぶのは同じギルドの仲間だぜ」

「…ええギルドに拾ってもろたなぁ」

そう呟くと、直継は目を瞬かせた。

「なんだ、お前ら知り合いだったのか?」

「いや、知り合いってほどやないんよ。一回、フィールドで戦ってる時に乱入して逃がしたくらいで」

「……あぁ、なるほど?」

察したらしく頷く直継。

「…今回の戦いは僕一人でどないかできるもんでもない。砂浜はさっき見てきたけど、死ぬほど無防備なアレにこの人数で防衛線張るのは厳しいやろ?その上、ここが騒ぎになったら緑小鬼(西のアイツら)もどうせまた動くやろし…」

これは下見に誘ったミノリとも一致した意見だ。

そもそも、広範囲の大量の敵、というシチュエーションに対応する手段はないわけではない。だが、最も長い範囲を持つ怒涛矢(ミリオンストーム)でもあの砂浜をカバーするのは無謀だ。仮にその制約を全て無視するにしても、暗殺者(アサシン)の魔法火力では導具(タリス)PA『スプレッドフェザー』による広範囲テクニックでは流石に火力不足だし、長銃(アサルトライフル)PA『ホーミングダート』なら散った敵でも狙えるだろうが数が足りない。

それ以前に、ここはPSO2ではなく『エルダーテイル』の世界であり、パーティー間の連携こそが重要な戦闘スタイルである。

仮に1人で好き勝手暴れたとして、それで他の5人のパフォーマンスが落ちたら本末転倒だろう。

「………大丈夫だ」

肩にぽんと手を置かれて、僕は隣を見上げた。

「俺たちもいる。マリエさんだって諦める気は毛頭ない。……大丈夫だ」

「……マリエさんて……あぁ、あのバカンスの姉さんか」

一瞬名前と顔が結びつかずにそう答えると、直継は吹き出しかけて口を押えた。

「ブフッ…そうか、バカンスのかぁ………」

「まぁ、いっちゃん気の毒なんはあん人かもやけどな。バカンス気分でこっち来たらこんな鉄火場叩き込まれてはるし」

やから、と隣の男を見上げる。

「ちゃんとケアしたりや?おにーさん」

「おう、任せとけ祭りだぜ」

ドンと胸を叩く直継に片笑いを向けて、僕は寝床に向かった。

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