記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

19 / 63
為すべきを為す

「…………ルデ公、死んだんか?」

歩み寄りながら問うと、泣きじゃくりながらセララが首肯する。

「…はい。蘇生呪文も、効果がなくて…ルンデルハウスさんは……」

「―――〈大地人〉、やろ?」

気丈にも状況を説明するミノリの言葉の先を引き取ると、少女は一瞬目を開いて、そして頷いた。

 

大地人。

それはこの世界におけるNPC"だった"者たちの名だ。

そして元よりこの世界の住人であるが故に、彼らは冒険者(よそもの)のように蘇生できない。

―――知識としては、そう、知っている。

 

―――だから、無駄だ。これからやる行為は。

そうわかっていながら、僕は身を横たえるルンデルハウスの傍に膝をついた。

「チノモリちゃん…?」

「『リバーサーフィールド』!」

僕が持つ唯一の蘇生スキル。リキャスト600秒という、あまりの長さゆえにほとんど実用性はないとされたスキル。

周囲に淡い光が広がり、円形のフィールドを形作る。その内側にいるHP0のキャラクターは、蘇生される―――

はずだが、やはり効果はない。ため息をついて、僕は立ち上がる。

「チノモリちゃん、今のは…?」

「…僕が持つ、蘇生スキルや。ごめんな、やっぱり無駄―――」

「あっ……」

微かに漏れた声が、僕の言葉を切った。セララだ。

「…セララん?どした?」

「わかりません。脈拍はもう止まりかけているのに、さっき…少しだけ、反応がある気がして…」

―――全くの無駄、とも言い切れないらしい、だが、HPは0のまま動いていない。

数字というものは時に残酷だ。それを告げようと口を開いた僕より先に―――

「まだです」

光明を見出したような、強い声が響く。

「……助けてください。お願いです。()()()()()()()()()()ですっ」

 

ミノリが念話の相手―――恐らく、シロエと呼んだ人―――へ状況を説明している。

シロエ、という名は知っている。ミノリたちが所属するギルド、記録の地平線(ログ・ホライズン)のギルドマスター。

そして、現在アキバの街の統治機構として機能している円卓会議の設立者であり、ミノリたちが被害に遭った悪質ギルド〈ハーメルン〉を潰した恩人。

だが―――仮に頼ったとして、この死を―――世界の摂理を覆すほどの人物とは思えない。

「シロエ兄ぃ、ルディのやつを助けてくれよっ」

ミノリのすぐ近くで、トウヤが叫ぶ。

それを皮切りに、五十鈴も、セララも、口々に助けを求める。

藁にも縋る、とはこのことか。脳裏の冷静な部分にそう浮かべた僕の耳に、鋭い音が響く。

セララが仕掛けた〈泣きキノコの絶叫(シェリーカーエコー)〉はまだ生きていたらしい。反射的に立ち上がるトウヤを僕は押しとどめた。

「トウヤんはここおったり」

「でも…」

「女子3人、夜道に残しとくわけにもいかんやろ。あっちは僕に任して」

まだ迷いの残る少年の顔から視線を外し、ミノリへ顔を近づける。

「―――シロエはん、やったっけ。…ルデ公と、ミノリんらを頼んます。僕も、」

僕に、できる事をやるんで。

それだけ決意表明のように告げて、立ち上がって踵を返す。

「ま、待てよ!流石に一人じゃ―――」

「大丈夫。もう、()()()()()()()()()()()()

片手を上げる。目を閉じ、脳裏にイメージを描き出す。

「来い、M.A.R.S.(マルス)!」

天から、突き刺さるように光が降りる。

描き出されるように現れるのは―――この世界には、似つかわしくない機構。

巨大な鎌の形をした武装を「頼むで」と叩いた後、ふわりと浮かび上がって装着する。

「―――ほな、行ってくるわ」

振り返ってそう告げ、スラスターを吹かしてその場を後にする。

―――向かうのは、〈泣きキノコの絶叫(シェリーカーエコー)〉の音がした方より少し町側。レーダーが捉えた敵の群れを視認すると、〈緑小鬼(ゴブリン)〉だけでなく、〈鉄軀緑鬼(ホブゴブリン)〉がダイヤウルフまで引き連れている。

「…ルデ公をやったのもこの編成か」

5人では手が余る。僕がいれば多少はマシだっただろうか、と脳裏に浮かんだ思考を振り払う。

今は、今できることだけを考えるべきだ。

M.A.R.S.(マルス)の鎌―――ニズヘッグを大きく振り上げ、上空から振り下ろす。

着地と同時に大きな衝撃波が走り、前を走っていた〈緑小鬼(ゴブリン)〉を吹き飛ばし、後ろの〈鉄軀緑鬼(ホブゴブリン)〉にさえたたらを踏ませる。

敵の数は合計7体。一体どこにこんな編成を隠してやがったと舌打ちしながら、鎌を構えなおす。

出し惜しみはしないと大見得を切ったのだ。容赦するつもりは毛頭ない。

「マグ、ファッション変更。『超軽装』」

二度とはやるまいと思っていたN-ビハインドザダスク[Ba]のみという痴女スタイル。だが、これからの戦闘を考えれば使えるPPは増やしておいた方がいい。

突進してくるダイヤウルフを通常攻撃のGPで弾き返す。続く2段目で〈緑小鬼(ゴブリン)〉を強襲し、ワールウィンドを連打して切り刻む。

フォトン感応度250%の補正で大幅に増えたPPに飽かせた連続攻撃に、〈緑小鬼(ゴブリン)〉はあっという間に塵になる。

だが、元よりHPの高いダイヤウルフや、鎧でダメージが通りづらい〈鉄軀緑鬼(ホブゴブリン)〉は話が別だ。10回くらい喰らわせたのにまだ生きている。

それでも、巻き込んだ奴は半分以上削り取っているが。

「―――まだまだぁっ!」

メイン兵装を裏のスカイラに切り替え、通常攻撃の突進で一時離脱。

怒り心頭でこちらに振り返る魔物たちをニズヘッグに戻して再び通常攻撃のコンボを繋ぐ。

【まもなく活動限界です】

「うっさいっ!」

COMボイスをぶった切り、大きく振りかぶって『ニズヘッグエクスキューション』。マーカーが起爆され、ようやく〈鉄軀緑鬼(ホブゴブリン)〉たちがHPを失って倒れる。

「次っ!」

運よく巻き込まれずに様子を窺っていたダイヤウルフへ斬りかかる。冴え渡る感覚が、遠くから町へ襲撃しようとする小隊の存在を告げる。

だから―――

「お前に手間かけとる場合とちゃうんじゃっ!」

剥かれる牙も振るわれる爪も意に介さず、鎌を振るいに振るってゴリ押して地に伏せさせる。

すぐさま機体を駆って急行する。この防衛線―――線というより点だが―――を突破させるわけにはいかない。

少女と機体は、夜の空を駆けていく。

 

―――この時は、必死過ぎて気づかなかった。

M.A.R.S.(マルス)の活動限界はとっくに過ぎているはずなのに、未だ少女は機体を操っている。

その代償に、MPをじりじりと削りながら。

――――それが世界の摂理(システム)を超えた行いであることに。




人間、臨界を超えると何しでかすかわからんもんですからね。
と、いうわけで―――

New skill acquired

『スキルゲージMPサブスティテュード』
クラススキルなどのゲージをMPで代用する。
強引な効果時間の延長もこれに含まれる。
消費するMP量はスキルごとに異なる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。