記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

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天秤祭 中編

天秤祭、二日目。

朝からヘンリエッタさんに拉致された僕とアカツキの2人は、彼女のコーディネートした服装に身を包んでいた。

三日月同盟で手作りされたそれらの服は、現代社会のそれと―――そしてその影響を受けた僕の衣装レパートリーからすれば、とても素朴なものだ。

だが、それが魅力でもある。事実、和風美人(美少女、の方が近いのは言わないが)のアカツキにはよく合っている。

「パイセン、似合うとるで」

「チノモリちゃんは…少し、素材の主張が激しいな」

「そこが難しいところですわねぇ」

頬に手を当て、少し首を傾げるヘンリエッタ。

まぁ、紫の髪にオッドアイに角まであるとかそりゃどうしても主張が激しくなるわな。

「アカツキちゃんと足して二で割るとちょうどいい感じになりそうなんですがねぇ」

「その評価、喜べばええんかどうなんかわからんわ」

「というか、チノモリちゃんは小悪魔属性が強すぎますわ。日頃のファッションもそうですが、特にその角と角のような髪飾りが」

いつも着けているノクターナルバレッタのことだろう。今日は外しているが。

「まぁ、そういうコンセプトやしなぁ僕」

「理解はしますが、今日は小悪魔は休業していただきますわ」

ぽす、とまんまるな帽子を被せられ、僕は鏡を見る。なるほど、元々サイズの小さい角はそのほとんどがクロッシェの鍔に隠れて目立たなくなっている。

「ほへぇ、工夫次第で変わるもんやなぁ」

「何事もやりよう、ですわ。帽子は商品にはありませんが、特別に作ってもらいました」

「えぇ…なんや悪いなぁ」

「そもそもチノモリちゃんは体格のせいで服も専用ですから今更ですわ」

「………なんで僕に手伝いさせたん…?」

費用対効果が見込めないのでは。そう思ってヘンリエッタを見やる。

「セララから相談されたのですよ。チノモリちゃんの服のレパートリーがなさすぎると」

「……なんかすんません……」

「あとは午前のステージに、マリエと一緒に出てもらうためですわ」

「呼んだー?」

ひょっこりと顔を出したマリエールに「ええ、呼びました」と澄まして答えるヘンリエッタ。

「というわけで、マリエの事をよろしくお願いしますね」

「えぇー…言うてステージって何したらええん?僕ファッションショーとか無理やで?」

「構いませんわ。午前はどちらかというと、各所の宣伝が中心ですから。この即売会の宣伝、お願いしますね?」

そう伝えると、ヘンリエッタはアカツキに化粧を施しにかかる。

僕は元々メイクつきのアバターなので無用。というわけでパーテーションから外に出ると、ちょうど来たらしいシロエとばったり会った。

「あ、ギルマス。来たんや」

「チノモリちゃんか。着替えはもう終わったの?」

「せやで。なんか専用で作ってもらったらしいし、後で値段ちゃんと聞いて買うわ、これ」

くるっと一回転してみせると、「いつもは小悪魔って感じだけど、そうして見るとお忍びの魔族のお姫様みたいだね」と評された。どういう評価なんだろうか。

「アカツキは?」

「中で最後の仕上げ。僕も一緒やったし、もう入ってええはずやで」

「そっか、じゃあ見てくるよ」

―――その後、「なんで言ってくれなかった」とアカツキに責められることになった。まぁ、いたずら心も入っていたので甘んじて受けておくことにする。

 

 

――――開店から数時間。ステージの時間が来て、僕はマリエールと一緒にステージに上がった。

広場に設営されたステージからは、囲むように建っている屋台とそこに並ぶ客たち、暇つぶしにこちらに視線を投げる人たちがよく見えた。

チリ、と昨日も感じた嫌な感じ―――ちょうど黒板を爪で引っ搔いたあの感覚に似ている―――を飲み下しながら、僕は隣のマリエールの言葉を待った。

「えーと、天秤祭をお楽しみのみなさーん!こんにちはー!《三日月同盟》のマリエールでーす!」

やはり流石の顔の広さか、或いは円卓11席の一角を占めるだけはあると言うべきか―――恐らく前者だろう―――彼女の言葉に、立ち止まる人や興味を示す人が多い。

そんな人々に笑顔で手を振ったマリエールが「えっと、」と呟いてからこちらを見た。

「…何言えばええんやったっけ?」

「そっからかい!?」

思わずツッコむと何故かそれだけで周囲に笑いが沸く。見世物じゃない、と言いたくなるが立派な見世物だった。

「何しに来たか覚えとる?マリエはん」

「えっと…せやせや!宣伝に来たんやったな!」

ぽん、と手を打ち合わせる彼女にほっと息を吐いたのもつかの間。

「えっと、うっとこでやってた《軽食販売クレセントムーン》が、天秤祭の期間限定で復活中やでー!みんなよかったら来てなー!」

「そっちちゃうわーーーーっ!」

またしても間髪入れずにツッコむ羽目になった僕に、どっと周囲が沸く。これじゃ宣伝じゃなくてコントだ。

「えー、…あ、そっか!衣装即売会の宣伝せなあかんのやったな!」

「せやで!僕ら今回そっちの代表としてここ立っとるんやから!さっきの完全に職権乱用やわ!」

「あーん!みんな堪忍なーー!」

拝むように周囲に謝り倒すマリエールに「いいっていいってー!」「どっちも行くから大丈夫だよ!」と優しいんだか何だかなヤジが飛ぶ。

「えー、っちゅーわけで!屋内衣装即売会!みんなよろしゅうな!」

「うんうん!うっとこだけやないで、腕利きの《裁縫師》の人たちが腕振るった衣装が目白押しやから!」

どうやら軌道修正は上手く行ったらしい。僕はほっと胸をなでおろした。

 

「チノモリちゃん、ちょっとよろしいですか?」

「どしたんヘンリエッタはん」

「クレセントムーンの方を任せたセララから、ヘルプコールが来ているのですが…何か知りません?」

「………マリエはんに訊いてくださいや」

午後に戻ってからそんな会話があったのは、また別の話である。

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