天秤祭以来、僕は正式に―――と言ってもギルマスからこっそり頼まれただけだが―――レイネシア姫の相談役としての地位を確立した。
休みの日に訪れていた水楓の館も、今では週1でちゃんと専用の日が与えられている。なんなら手土産に持ち込むお茶菓子も、ちゃんと申請さえすれば予算から出してくれる厚遇っぷりである。
「ぷぷぅ?」
「なんやマルメロ。お前も欲しいんか?」
ちょうど洋菓子店のショーケースを覗き込んだタイミングで、ふよふよ浮いていたマルメロが鳴いた。
天秤祭の
食事については必要不要の問題ではないのである。美味しい食事は心の栄養、というのはこの世界に来てからのあの味気ない日々が教訓として教えてくれていた。
いくつかのカットケーキを購入し、水楓の館へ向かう。
エリッサさんに通してもらった応接室には、先週まではなかった姿が増えていた。
「珍しいなパイセン、こんなところで会うなんて」
こんなところでとは酷い言い草だが、本心だ。
訪問が固定化されて以来、レイネシア姫の予定にもちゃんと入るようになったため、他の客とのブッキングはないように配慮されていたはずなのだ。
「チノモリちゃんか。…そういえば、今日は訪問日だったな」
気づいたアカツキに会釈で応じ、僕はレイネシア姫の正面に腰を下ろす。
その日は無言のアカツキを隣に、普段通りあれこれ相談に乗るだけで終わった。
だが、その日からあの応接室は変わっていった。
「やーん、チノモリちゃんやん!」
そんな風に言って抱き着こうとしてくるマリエールを筆頭に、女子会と呼んで差し支えないようなメンツが入れ替わり立ち代わり訪れるようになっていったのだ。
正直、中身が男の身としては場違い甚だしい感が否めない。
着せ替え人形にされているレイネシアを見れば、こちらも疲れ気味ながら諦観の面持ちである。さもありなんというか、こればかりはマリエールの押しの強さが悪い。
エリッサさんに頼んでパーテーションを立ててもらっておいてよかった。目の前で開催されたらひたすら目を閉じて無心になる他なかった。
そんな益体のないことを考えていると…
「チノモリちゃんの分もありますわよ♪」
そんな弾んだ声のヘンリエッタに肩を叩かれる。
一応、僕、仕事なんやけど――――という抗議は言わぬが花だろう。
どうせ僕が逃げたとして、次の被害者はアカツキであることは想像に難くない。
それに、可愛い服は別に嫌いではないのである。
「…今日はどんなん持ってきたん?」
溜息と共に、流される方を選ぶのだった。
入れ替わり立ち代わり、と言えば。
ここで縁ができて仲良くなれた人もいる。
菓子職人のミカカゲがそれで、マルメロが彼女の持ってきたお菓子に興味を示したのが発端だ。
「見たことないコだね。君の?」
爆速ですっ飛んでいった
彼女も
なんだかんだ、お茶会で顔を合わせるたびに話せる間柄にはなったのである。
「今回のはどう?」
「ぷっぷぅ!♪」
「今回のは一際好みやったみたいやなぁ…」
そして大体試食係にされるマルメロである。役得と言えばそうだが羨ましい。
「僕もミカカゲはんのお菓子食いたいんやけどー」
「ちゃんとあるから、ほら」
そうやって配られるお菓子は今日も好評で、彼女の腕の良さを伺わせる。
「こないして持ってくる度に思うんやけど、よぉあれこれ新作出せるよなぁ」
「みんなが喜んでくれるからだよ」
そりゃそうだ、と納得した。モチベーションというのは大事なものなのだ。
「もうすぐチーズも作られるかもしれないから、その時はまた新しいの作ってくるよ」
「お、楽しみにしと「ぷっぷぷぅ!」……」
大興奮のマルメロには苦笑するしかない。
そういやコイツ、いつ頃からこんな感情表現するようになったんだったか。
当然、遡れば天秤祭の辺りに収束するわけだが…
まぁ悪い変化ではないしいいか。とお気楽に脇に置いておくのであった。