それから数日間は怒涛の勢いで過ぎていった。
「…まさか僕までレイドメンバーにカウントされてるとは思わんかった…」
アキバの上空を"飛"びながら、僕はぼやいた。
アカツキとレイネシアの要請で、《D.D.D.》の軍師リーゼを筆頭に、茶会に集う女性陣と、《西風の旅団》から《
流石にレベルが足りない僕はカウント外だろうな…と思っていた僕にリーゼはこう言ったのだった。
「何を言っているんです?貴方も戦力ですよ」
「いや、流石にレベルが足りひんやろ」
この世界において数値差―――特にレベルの差というのは絶対的だ。
何言ってんだ、と怪訝な顔になった僕に、あちらも呆れた顔を向ける。
「《D.D.D.》にはサブキャラクター育成用のパワーレベリングマニュアルもあります。《大災害》後に使用するのは初めてですし、アカツキさんへの口伝継承も並行するのでどこまで有効かはわかりませんが」
「いや、並行せにゃならんモンがあるなら猶更、こっちにリソース割く暇はないやろ」
「貴方にはそれだけの価値があります」
はっきり言いますが、と彼女は真剣な顔になって僕に言った。
「あの殺人鬼に単騎で遭遇し、5分以上交戦状態を維持したのは、貴方を除けば《西風の旅団》のソウジロウ氏以外にいないのですよ」
―――とはいえ。
現実には僕の役割と言えば、アキバの街中央上空でソナー担当である。
あの殺人鬼の気配は覚えている。というか忘れられるわけがない。
何気なく最初の作戦会議の時、『アイツは今地下っぽい。パイセンらとの戦いで負った傷が癒えるのを待っとるんちゃうかな』なんてぽろっと言ってしまったのが運の尽きだった。
実際、現状アキバの街全域を索敵範囲内に収められる(と言っていいのかはわからないが)のは僕だけなので、こうなるのも必然だったと言える。
「…動き出した」
『位置は?』
「いや、細かに転移を繰り返しとるから…誰かが
『その方がよさそうですね』
念話の向こうのリーゼも頷く気配がした。本当にこういうスキルツリーばっかり伸びている気がする。
「―――あ」
『どうしましたか?』
「いや、これも運命なんかな…パイセンがエンゲージした」
『…っ、わかりました。貴方は上空50m以上を維持したまま戦況の観測を』
「合点承知」
リーゼがあわただしく各班へ出す指示をBGMに、僕はアキバの夜空を飛翔する。
―――そう、飛翔。
キャラクターを飛行させるスキルなら魔術師系クラスの飛行魔法《フライ》もあるが、あちらは一時的な効果なのに対し、こちらは自由自在である。燃費についても言わずもがな、基本アクションの延長戦なので比べるべくもない。
最初姫様…もといシア譲の前で披露したときの驚きっぷりを思い返しながら、僕は地上を走るアカツキの上に陣取った。
戦況は予断を許さない。
リーゼの指揮の下、動線上の配置についた小隊を次々に乗り越えて、アカツキとマリエールが夜も更けた街を駆ける。
HPこそロクに削れていないが、そもそもそれは作戦目標にない。
それでも、途中までは順調だった。途中までは―――
アカツキが一瞬の内にその武器と、HPの大半を失うまでは。
「っ………!」
マリエールが必死に魔法を唱える。だが回復が遅い。MPの減少が激しいのもそうだし、強力な魔法もリキャスト中なのもあるのだろう。
「主戦小隊危機!緊急で割入る!」
『わかりました、現場の判断を尊重しますわ!』
彼我の距離は50m。下降の勢いと自由落下の加速を合わせても間に合うかどうかは怪しい。
速く。速く。もっと。はやくはやくハヤクハヤクハヤクハヤク―――!
下降中、不意に体を叩く夜風が止む。
それが夜風が止んだのではなく、それを感じる僕の身体が消失したせいだと気づいたのは―――
アカツキの眼前で、振るわれた小太刀を
「チノモリちゃん!」
「受け持つ!」
目の前に立つ男を睨む。冷気が体を叩くが、HPの減りは前回に比べればずっと遅い。
当然だ。
装備品も、《D.D.D.》の倉庫に死蔵されていた型落ち品とはいえ、レイドにも十分通用するものを譲られている。
「また、殺されに来たか」
「残念ながら『また』でもないし、まだ死ぬつもりも毛頭ない!」
右腕を銃剣迷彩『ティシュトリア』に変え、小太刀と切り結ぶ。
切り払い、崩された男が消え、背後に出現する。
だがそれも―――
「視えとるぞ!」
突き出された小太刀は、裏拳に阻まれ跳ね返される。
旧PSO2ナックルPA『
即ち、ガード判定がノーモーションから放たれる裏拳のみに収束してしまったのである。
だが、それで十分だった。そもそもコレはメインの防御手段ではなく、最近主力武器となりつつある銃剣を使用する際、空いた左手を有効活用すべく編み出したサブウェポンだ。
とはいえ、大体の攻撃を裏拳を合わせるだけで相殺(どころかダメージまで与えられる)のはやはり無法だが。
ギリ、と歯噛みする殺人鬼に、僕は油断なく構える。
そもそも僕はピンチヒッター。この作戦の要は別にいる。
殺人鬼も『面倒だ』程度には思っているようだが、その視線はやはり僕の背後に向いている。
『チノモリちゃん、まだ交戦中ですか?』
「おう。何?」
繋ぎっぱなしにしていた念話からリーゼの声が聞こえて、僕は短く応じた。
『
その言葉とほとんど同時、宵闇を切り裂く斬閃が殺人鬼を襲う。
アカツキだ。新たな小太刀を構え、僕の前に出る。
「……もういけるん?」
「ああ。フォローを頼む」
その言葉に意識を向ければ、僕が時間を稼いでいる間にマリエールは離脱したらしい。
殺人鬼が動く。咄嗟にアカツキの前に“転移”し、銃剣を振るって攻撃を弾く。
だが、殺人鬼は更に僕の背後に転移し、アカツキを―――
切り裂こうとして、中空にあった身体を逃した。
「詰めが甘いのはシロエそっくりだよ!」
弾丸のように飛び込んできたナズナと共に、再び夜のアキバを駆けだす。
「助かった」
「なぁに。シロエの後輩ならあたしの後輩みたいなもんでもある。ソウジロウに心配かけないように、こっからは人肌脱ごうか」
そんな会話を交わす二人を眼下に、僕は低空飛行を続ける。
「ナズナはん」
「目的地に着いたら離脱、だろ?タイミングは任せるよ」
そう言って見上げた視線をアカツキに戻した彼女が、「どうしたんだい?」と優しく問うた。
「泣いてるじゃないか」
アカツキの答えはない。だが、言葉はなくともその心中に様々な想いが浮かんでいるのを僕は感じ取った。
「応えよう」
そう言って視線を上げる。次の小隊との遭遇タイミングだ。
「「
ほとんど同時に放たれた警告に従って、アカツキとナズナが空を駆ける。ナズナの口伝〈天足通〉の足場を駆けているのだ。
『チノモリちゃん、ナズナさんと離脱を』
「了解、ナズナはん!」
「わかった、あとは頑張りなよ」
アカツキを送り届けた彼女の手を取って、僕は一気に上空へと飛翔する。
眼下を駆けていく殺人鬼を目で送りながら、ひとまず離脱できたことに息を吐いた。
「お疲れ。随分使い倒されたじゃないか」
「そっちこそ、フォローありがとさん」
如何に感知能力が高かろうと、戦場の視野の広さとは別物だ。それを心に刻みながら、僕は広場の方へと視線を向けた。
宵闇に氷水の奔流が迸る。殺人鬼の放つ吹雪で凍り付いたそれは、当人を閉じ込める棺となった。
転移も今や封じられている。もう大丈夫だ、と小さく息を吐いた。
「終わったんだね」
「応。僕らの、勝ちや」
互いに空いた手を打ち合わせ、ゆっくりと降下する。
その様子に気付いた《
「よ、そっちもお疲れさん」
「はい、皆様も…本当に、ありがとうございました」
目尻に浮いた涙を拭って言うレイネシアに、僕はニヤッと笑いかけた。
「これも姫さんの―――いや、“シア嬢”の日頃の行いの賜物やろ」
「……そう言っていただけると、嬉しいです」
お互いに笑い合いながら、僕たちは作戦の成功を祝した。
怒涛の3個
New skill acquired
空中での機動を発展させ、自由自在に空を飛ぶ口伝。
当然、フォトングライドの発展なので消費などは特になく、半永久的且つ高速で飛び回ることが可能。
実際に見たシロエはまた頭を抱えたとか。
「飛行魔法の立場を考えてよ!?」
所謂瞬間移動。本編ではほとんど本能的に習得している。
NGSにおけるテレポートの他、一部のPAでその片鱗を見せていたそれを切り離し、独立して運用したもの。
詳細は本編の通り。モーションは大体スキップ版『バックハンドストライク』だが、とりあえず裏拳を打てば成立する自由度が売り。
なんなら