記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

36 / 63
半年ぶりの更新ってマジ?


揺らぐ街から

「遠征、ですか?」

「そそ。レッドストーン山地まで、魔法の鞄(マジックバッグ)を作る素材を集めにな」

水楓の館で、僕はレイネシアにそう応えた。

「うちの年少組と一緒にな。あっちもちょうどいいレベルやし」

「そういや、チノモリちゃんはあの時のパワーレベリングでレベル90近くまで来たけど、《大災害》と同時に始めた初心者やったねぇ」

マリエールの言葉に頷き返しつつ、僕は菓子をマルメロの口に押し込んだ。

「ま、いくら〈ARKS〉特権のアイテムバッグがあるとはいえ、鞄はあるに越したことないからな。アレ食べ物入れたら悲惨なことなるし」

「あぁ………」

隣でアカツキが渋い顔になる。以前に一度、検証のために食べたことがあるからだろう。

あの時は珍しく―――本当に珍しく、にゃん太の渋面を見ることができた。だからって二度とやらんが。

「まぁ、そないなわけでしばらく留守にするっちゅーことや。悪いなぁ、色々大変な時期やのに」

割と真面目に申し訳なく思いながら、僕は頭を下げた。

行方不明の妖怪眼鏡(クラスティ)。円卓に走る亀裂。西の動向。

今のアキバは色々不安定だ。そんな中、街を離れるのは不安、というのが正直なところだ。

「わたしなら大丈夫です。お茶会の皆様もいますし」

そう言って微笑んで見せるレイネシア。

強がりなのはわかる。だが、そうとわかっても言わぬが品性というものだろう。

「ほな、土産話を楽しみにしてな」

「気を付けてな~」

手を振るマリエールと、綺麗な礼をするエリッサに見送られながら、僕はアカツキと共に水楓の館を辞した。

 

 

その足で向かうのは三日月同盟だ。

勝手知ったる他所の(ホール)、そこではちょうどヘンリエッタに招かれたリーゼがいた。

彼女もまた、妖怪眼鏡(クラスティ)の行方不明被害者筆頭である。

「よ、ちゃんと休めとる?」

「ええ、はい。ミロードは…?」

「生きとる。だから安心しぃ」

 

通常、別サーバーに存在するキャラクターの安否を確認する方法はない。

だが、エルダー・テイルとPSO2ではサーバーの定義がそもそも違う。

あちらが『地域ごとに別個独立』なのに対し、こちらでは『あくまで同一世界の平行』。

そのためか、この現実と化したセルデシア世界を僕のシステムは一つの巨大サーバーとして認識している。

だが、所在地表示はバグっているのか不明、さらには念話も不可能ときている。生きているのが確認できるだけ御の字、といったところである。

 

「顔を合わせると必ずその話だな、リーゼは」

「すみません…」

「かまへんよ、心配なのは当然やろ。僕らかてギルマスが行方不明ってなったら血相変える自信はある」

まぁうちの場合やと、行方不明より書類の山に潰れる方を心配した方がええか、と肩をすくめる。

ヘンリエッタとアカツキの二人から冷たい視線が刺さる。冗談にしては笑えない…というか現実味がありすぎたのだろう。とりあえず咳払いして空気を戻す。

「まぁ、よぉ頑張ってるよな、リーゼちゃん。あんま気ぃ張りすぎなや?」

「大丈夫です。まだまだへこたれません」

意地を張るように返すリーゼをヘンリエッタが―――いつの間にかアカツキを確保している―――嗜める。

「アカツキさんは二十歳なんですよね?」

「? そうだ」

「ヘンリエッタさんはにじゅうは「こほん」

咳払いついでにこっちまで睨まれて、僕はついっと視線を逸らした。僕は何も聞いてない。

「チノモリちゃんは確か、二十二だったか」

「せやでー」

アカツキに頷く。椅子の上で視線が合うこの少女より、一応年上なのだ。一応。

「…なんだか不思議ですね」

「歳のことか?」

「いえ、元の世界にいたら、きっと友達になんてなれなかったと思って」

「そうかもしれないな」

アカツキは若干上の空…というか、ヘンリエッタの攻勢にいい加減途方にくれてきているようだ。返事に気が入っていない。

しかしその想像はどうだろう。オフはともかく、オンラインでの友人関係くらいならあり得そうだが…という僕の思考を、

「いえ、そんなことありませんわ!可愛いは惹かれ合うと申しますもの、私とアカツキちゃんはどうあっても出会ってました!」

ヘンリエッタの声が全部吹き飛ばした。ブレねぇなコイツ。

相変わらずのじゃれ合いを繰り広げる二人を眺めつつ、僕は苦い顔で紅茶を口に運んだ。今日ばかりはノンシュガーでも文句はない。

「やっぱあの妖怪(クラスティはん)の抜けた穴はデカい?」

「えぇ、そうですね。クラスティ様にずいぶん頼ってたとわかりました」

「そこに関しては僕らも他人のことは言われへんけど」

シロエが彼の不在を嘆いていたのを思い出す。それほどまでに、彼の存在は大きかった。

天性のカリスマ、という奴だろう。円卓会議の発案者はシロエだが、対外に限らずその顔は間違いなく、あのクラスティだったのだ。

「〈円卓会議〉の業務は申し訳ありませんが…」

「いや、別にそこはうちのギルマスも諦めとる思う。ってか、アレの代役おったらリーゼちゃんそんな顔することなかろ」

言いながら顔が険しくなるのを自覚する。多分、こういう扱いは彼自身望んではいなかったろう。

顔を合わせたのは数度―――主に水楓の館への襲撃という形で―――だけだったが、クラスティの人物像は何となく掴めてしまっている。言葉にするのは難しい感覚だが。

「きっと沢山、迷惑かけているし、まだかけてしまいそうです」

そう告げるリーゼに、アカツキとヘンリエッタが笑って励ます。

少し驚いたリーゼに、僕は笑いながら言った。

「ほら、困った時は助け合い、やろ?〈円卓会議〉って、そのための組織なんやしさ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。