記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

38 / 63
ままならぬも喜び

「チノモリちゃんも、お料理できたんですね」

「野外料理は昔取った何とやら、って奴やけどな」

鼻歌混じりにシチューを混ぜながら、隣で野菜を切るセララに応える。

「まぁ、ギルドでは時々猫の先生の手伝いしてたから」

「それで…」

声に若干の羨望が混じった隣の少女へ視線を向ける。

「嫉妬かぁ~?かわええやっちゃなぁ」

「そ、そんなのでは!?」

「包丁持って目ぇ離したら危ないで」

元凶が何を、と責める視線を華麗にスルーしつつ、火加減を調節する。

ついでに汁をいくらか捨てておく。

「捨てちゃうんですか?」

「あんまり多すぎてもしゃばしゃばになるからな」

言いつつセララを促し、野菜を投入させる。

あ、焼もち焼き(うちでは端が切れていない食材をそう呼んでいた)だ。…まぁいいか。

適度におたまでほぐしつつ、星空を仰いだ。

「…しっかし、初日から中々ハードな旅やなぁ」

「あはは…」

馬には逃げられ(召喚の時間切れである。誰も管理していなかったのが原因だ)、人里は近くになく、こうして野営を余儀なくされている。

まぁ、それも一つの味、というやつだろう。

「おーい!テントできたぜー!」

「ほーい、お疲れ………」

振り向いて笑ってしまったのは悪くないと思う。なんならトウヤ自身含め、全員笑っていた。

テントは目で見てわかる程度には傾いでいて、不格好だった。それでいて、トウヤ以下各員の努力が垣間見える出来だったのだ。

「とりあえずおつかれさん。こっちももうちょいやから用意して待ってなー」

「了解!」

びしっと親指を立てたトウヤから視線を外し、鍋の中に戻す。

…ちょっと焦げ付いたかもしれん。

 

「おお、これは美味だ。流石だな、ミス・セララ。ミス・チノモリちゃんも」

「どーもぉ」

ルンデルハウスはそう言っているが、普段食べているにゃん太の料理とは雲泥の差だ。

比較対象が悪い、と自分を納得させながらシチューを口に運ぶ。

「いやマジで美味いって痛ぇっ!?」

身を乗り出して主張したトウヤが、何か踏んづけたのか悲鳴を上げた。シチューが零れたのを全員がサッと躱す。

「もう、トウヤ!」

「ごめんごめん」

叱るミノリを、全員が宥める。

「で、ちょっとモノは相談なんやけど」

「む?」

真面目な声音で問いかけた僕に全員の視線が向く。

「馬車に女子、テントに男子、やろ?」

「…あぁ」

大体全員が察した声を上げる。僕の処遇である。

「トウヤとルディがよければ男子側、でいいと思うだけど…」

「むぅ…しかしだな…」

難色を示したのはルンデルハウスだ。紳士として姿形が女性な人物と寝所を同じくするのは…ということだろう。

「チノモリちゃんは異論ないのか?」

「別に気にせぇへんからな、僕はその辺」

「むぅ。ミス・チノモリちゃんが気にしないなら…」

しぶしぶ、と声音が言いながらルンデルハウスが首肯する。

とりあえず、野営の難題は一つクリアされたのだった。

 

 

――――で。

そんな渋々だった男子2人に僕はジト目で見られている。

何故なら。

「「ズルい」」

「そんなこと言われても」

寝袋に入りながら、ごつごつした地面を嫌って浮かんだらこの言いようである。

でも嫌なもんは嫌なのである。醍醐味とかそういうのはあるんだろうけど。

「ほら、僕のトコ敷く予定やったのは使ってええから」

「しかし、眠ってる間は大丈夫なのか?」

「今までも何回かやったけど、落ちたことはないよ」

「やったことあるのか…」

トウヤに呆れられた気がする。

水楓の館(シア譲のとこ)で何回か」

ついでに浮いたまま寝ているところを押したりもされたと聞いた。何やってんだと言いたいが、言ったら言い返されるから言わない。

「まぁ、とりあえず僕のことは心配いらんから、そっちはそっちで頑張って」

「はーい」

トウヤがクッションを引っ張って敷き始める。

ルンデルハウスも手伝い始めたのを見届けて、僕は寝袋に頭まで包まるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。