記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

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笛の音が聞こえるか

「ねぇ、君初心者かい?」

そう声をかけられたのは、PKから逃げ帰って数日後。朝の賑わう広場でのことだった。

「……せやけど、あんたは?」

「おっと失礼。僕はハーメルンってギルドの者さ。今はこうやって初心者を助けるために街を回ってるってわけ」

「はぁ、さいですか」

うさんくせぇ、と僕はげんなりした。

「で、どうかな。よかったら、この後―――」

「あーいや、別にギルドとか興味ないんで。じゃ」

それより新しい装備とか見に行きたい。と踵を返すと、男が慌てて回り込んでくる。

「ま、待ってくれ!僕たちのギルドなら優しい先輩がたくさんいるぞ!?この世界のことも手取り足取り―――」

「もうその段階過ぎてるんで結構です」

「…チッ、黙って従えばいいものを」

おいコラ、流石にその舌打ち聞こえてるからな、と顔を顰める。

先日PK連中と遭遇した時と同じ、何かもやもやした感じの正体を掴んだ気がした。

「話はこんだけですね」

とっとと脇をすり抜ける。掴もうとしてくる手をステップの無敵判定ですり抜け、そのまま雑踏へ潜り込んだ。

しばらく走って距離を取り、大きく息を吐く。

「……あんなんもおるんやなぁ…」

気を付けないといけないかもしれない、と頭を掻いて、僕はフィールドへ足を向けた。

 

 

 

――――そんなことがあった数時間後に。

なんでそのギルドの狩り部隊に遭遇せにゃならんのだ、と木の上で頭を抱えた。

人数は1パーティー(6人)。20レベル前後の中に一人だけ、やたらとレベルが高い横柄な召喚士(サモナー)がいた。

……多分、朝勧誘してきた男は『そちら側』で、残りは僕と同じ初心者なんやろなー。

やっぱとっとと逃げといてよかった。そう改めて実感しつつ、視線でパーティーを追う。

…向かう狩場はレベル25推奨の場所だ。あの召喚士(サモナー)にとっては楽な場所なはずだが、それ以外のメンバーにはキツいだろう。

「…って、現状レベル16の僕が言えた義理とちゃうんやけど」

ため息をついて、木の上から飛び降りる。

そのまま他所に行こうとして…ふと、足が止まる。

少し悩んで、結局さっきのパーティーの方へ足を向けた。

 

 

 

 

目に飛び込んで来たのは、戦いなんてものではなかった。

召喚士(サモナー)が無差別に攻撃し、反応してきた敵に袋叩きにされている状態だ。

「…それにしても、魔法職だけあって射程も範囲も広いなぁ」

身を潜めつつ様子を窺う。

先頭に(サムライ)の少年が必死に囮役を務めようとするが、その努力も召喚士(サモナー)の無遠慮な攻撃で水泡と帰す。

アレはあの男が下手だ、とため息が漏れた。このゲームのパーティープレイをろくすっぽ知らない僕にもわかる。

「ちくしょう、使えねぇ…撤退だ、逃げるぞ!」

言うや我先に逃げ出す召喚士(サモナー)の男。逃げ足だけは速いようで、と悪態が漏れた。

初心者たちも逃げ出そうとするが、敵の攻撃に晒されてHPが尽きたのか一人が倒れた。

ヒーラーらしき一人が慌てて蘇生しようとするが、その詠唱を見た魔物がそちらに視線を向ける。

「やらせるかっ!」

(サムライ)の少年が割って入る。だが、彼のHPも半分を切っている。

魔物の牙を刀で受け止め、鍔ぜり合い。当然、レベル差もあって押し込まれ、弾かれて―――

 

 

その瞬間。

少年の視線と僕の視線が交差した。

否、こちらは暗がりにいる。きっと向こうには見えてはいないのだろう。

その瞳に浮かぶのは、焦燥、責任感、そして―――絶望と、無力感。

「―――あぁ、もう!」

そんな眼で見られたら。そんな瞳を見てしまったら。

「マグ、ファッション変更『耐寒装備』!」

―――手を出さずに終えるなんて択、取れるわけがないやろが!




三話目にしてよーやく原作キャラとニアミスというか絡みが出てきました。
本格的に関わるのはもうちょい先ですが。
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