全くの完勝、とはいかなかったようだ。
モヤモヤ連中の悪あがきの光線が、流れ弾となって馬車を引いていた召喚馬たちを穿ったのだ。
特に気に入っていた―――初日の
笛もひびが入ってしまって(ダメージを共有しているのだろうか?)、馬を呼び出すにもリキャスト中、というわけで人力で木こりたちの住む町まで運ぶ流れになった。
それはいい。
宿もスムーズに取れ、風呂がついていると聞いて女性陣が沸き立っていた。ついでに木こりたちからのお礼だと晩御飯も奢ってもらえた。これもいい。ロエ2某がトッピング全かけという暴挙をやっていたのも目をつむろう。僕?素材の味派です。
その後、いつもどおりトウヤが『姉ちゃん』呼びしたせいで『みんなの姉』ロエ2が爆誕し、旅は道連れとばかりに同行者が増えた。これもまぁいい。色々残念さが滲み出てるんだよな…とミノリと顔を見合わせたりしたが。
問題なのは―――
「おや、チノモリちゃん。入らないのか?」
女風呂の前で佇む僕に、ロエ2が声をかける。
「ロエの姐さんか。いや、みんなが出るのを待ってる最中」
「ふむ。宿の風呂は一般的に、君たち4人が同時に入浴するに足る広さがあるはずなんだが…」
「こっちの事情。入るんやったらどうぞ」
「事情?」
はて、と首をかしげるロエ2。
「…僕の中身は男やから」
「……しかし、今の性別は女なのだろう?なら、問題はないんじゃないか?」
「そういうわけにはいかんのよ、僕らは」
皮肉の混じる声音。道中の会話その他に耳をそばだててしまった自分を恨む。
いや、これはちょっと八つ当たりだろう。なにせ初対面で凡そわかっていたことなのだから。恨むべきはこの第六感だ。結局、自業自得に変わりはないか。
「ふむ………よし、ならお姉さんと一緒に入ろう」
「は?」
「なに、問題ない。私はお姉さんだからな」
「いやゴリ押し…ちょま、引っ張んな!?おい!?」
不意打ちされて脱衣所に引きずり込まれる。幸い、すぐに姿勢は立て直したものの、今度はあれやこれやと調度品などに興味を示しだすロエ2を宥めたり説明したり軌道修正したりする間に、いつの間にやら自分も服を脱いで入る段取りになってしまった。
世の中には人を巻き込む流れを作れる人間――――まぁ、人間ということにしておこう―――がいるということを思い知りながら、僕は目を閉じたままロエ2の背中を追った。
幸い、第六感のおかげで人に当たる心配はなく、
「将来か」
ちょうど3人は、姦しく将来の話をしていたところだった。多分恋バナから派生したんだろう。派生した後でよかった。
「君たちは若いのだな」
「そこまで言うと年寄り臭いぞ、ロエの姐さん」
「チノモリちゃん、年寄りはないと思います」
というかなんで、というミノリの視線を感じて、目を閉じたままロエ2を指してから謝罪する。
多分通じた、と思う。目を閉じた状態でここまでやれるようになった自分がちょっと怖い。
「ロエ2さんは…」
「むろん、姉である私は君らより年長なので身体的優位がある」
突然そんなことを言い出すので呆れる。身体的優位って。
「胸も大きい」
「大人げないぞ」
戸惑う3人にそう胸を張りながら(だと思う。目を閉じているので確証はないが、そんな気配を感じた)宣う自称姉の頭をはたく。
それからまた恋バナだったり、地球の話だったりに飛んでいく会話を聞き流しながら、のぼせるのを理由にとりあえず3人を追っ払う。
「―――さて」
それらを全て予見していたかのようにロエ2が言う。
「私と一対一で話がしたかったんだろう?」
「応。まぁ、のぼせたら大変なんは事実やけど」
目を閉じたまま顔を向ける。
「ロエの姐さん」
「何かな?」
「―――アンタ、何モンや?」
「何者か、か。深い話だね」
「わかっとってまぜっかえしてるやろアンタ」
隠す気はないのだろう。実際ボロは出まくっていた。無論、『わかっていて見れば符合する』という類のものだったろう。仮にあれだけで僕の結論に至るなら、僕もきっと気が触れたか何かを心配する。
同時に、こうして水を向けなければ決して核心を口にするつもりも―――尤も、その義理がないのは当然だろうが―――なかったのは明白だ。
「いつからだい?」
「最初から。理由の一つは勘、やな」
「一つは、か。二つ目を聞いてもいいかな?」
「二つ目は名前。ロエ2なんてテキトーなナンバリングの名前は、大抵はサブキャラクターにつけられるモンや。でもって、偶然にも僕はアンタと似たキャラメイク、キャラネーム、ついでにそういう玄人向けなキャラビルドをやりそうな人を知ってる」
ロエ2。ロエ。シ『ロエ』。
なるほどあの人ならやるだろう。ついでに、元祖はゾンビの類だった吸血鬼とかいうサブ職業までセットだ。この気合の入れようなら、無駄に純ネクロビルドでもおかしくない。
そんなことを考えながら、僕は目を開いて目の前の女性を睨んだ。
「ウチのギルマスのサブ垢勝手に使うて、何しようっちゅうんや、アンタ?」
「随分と飛躍した推理だね?」
「飛躍で結構。否定せぇへんのなら、間違ってはおらんのやろ」
九分九厘の確信と共に言うと、彼女は笑いながら頷く。
「それに、こっちは本題やないからな」
「というと?」
「別にガワはどうでもええねん、今更ギルマスかて身体が二つあっても困るやろうしな。僕が最初から気にしてるんはアンタの中身や」
「随分長く入っていましたが、大丈夫ですか?」
「平気平気」
心配してくれるミノリにひらひらと手を振って、僕は宿の部屋―――事情が事情故に個室だ―――に入り、布団に倒れ込んだ。
結局、ロエ2は明確な答えは寄越さなかった。恐らく、都合が悪い、とかではなく、多分、説明しても理解できないとか、そういうニュアンスでの拒絶だったと思う。
僕も無理には問わなかった。あそこまで言ったのに何だが、聞きだすこと自体は重要視していなかったからだ。
どちらかと言えば、危うさの垣間見える自称姉への、妹からのささやかな反逆、そして忠告。そっちが本命だったのだ。
……まぁ、聞ければそれはそれで手っ取り早い話だったのだが。聞けなかった悔しさに心の中で言い訳しながら、ごろりと転がって天井を仰ぐ。
彼女との邂逅は無駄ではなかった。
冒険者。大地人―――に、含めるには少々あれだが、モンスターなどこの世界に元々いた生命。
それが傍観者なのか、はたまた上位者なのかは―――いや、彼女の在り方を見ていると後者はなさそうだが、しかし得てして上位者がポンコツっていうのも定番で―――
そんな思考も、徐々に闇に溶けていく。
考えることが多すぎる。帰ったらギルマスに投げるか、投げられたシロエの困り顔が脳裏に想像して、意識が落ちた。
ARKS能力(から派生したエスパー的な何か)による超絶フライング。
二次創作特有のご都合展開?上等だよ!