記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

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深淵の叫声

ロエ2を名乗る自称冒険者を仲間に加え、彼女の〈蒼褪めた馬(ベイルホース)〉を馬車馬にした一行は、とりあえず今は順調に進んでいた。

彼女、マジで純ネクロだった。召喚された〈死霊蝙蝠(ゾンビバット)〉に泣かされたセララの涙分はシロエに文句を言ってやろう、と心にメモしながら、僕は馬車に揺られる。

「……ん?」

「どうした?」

「いや、なんかトラブルの予感」

「…勘が良すぎるのも考え物だな?」

「そこは同意する」

トウヤたちが口にする、前方に立ち往生する馬車。

恐らくはその中の一つの気配、それになんとなく嫌な予感がして、僕は息を吐いた。

 

 

「旅の物書き、ダリエラと申します」

()()。この旅3度目である。流行ってんのか?

ステータスは何度見ても偽りなく、ダリエラという名の大地人女性でしかない。

だが、僕の勘が告げている。違う、と。

それはあの精霊たちのようであり、内にルグリウスとやらの狂気を孕んだあの殺人鬼とも似て非なる感覚。

若干げんなりとしながら、トウヤたちが受けたという商人の荷物を運ぶ依頼をこなす。

なんせ僕は飛べる。運ぶ速度が他のみんなとは違う。

「すごいですね、〈冒険者〉の方はそのようなことができるのですか」

「…まぁ、はい」

ダリエラがニコニコと言うので適当にあしらって背を向ける。

笑顔の奥に、黒い感情が見えた気がした。

気分がいいものでは、なかった。だが、気づかれているとバレる方が厄介だ。

…尤も、既にバレているかもしれないが。隠し事は苦手なのだ。

「…勘が良すぎるのも考え物だな」

「二度も言うな、二度も」

ロエ2に囁かれ、首を横に振る。頼むから刺激しないでくれ。

 

 

 

どうにか荷を下ろし、道幅が比較的広い場所まで立ち往生していた馬車を動かし、ついでに昼食を摂る。

「このスープは何のスープだ?」

「なんか芋と人参の味噌汁やな」

「この長いのは…」

「ネギやなぁ。僕のも食う?」

隣に座るロエ2にさりげなく押し付けると、反対側のセララから視線が刺さる。

わかってます。苦手だからって人に押し付けるなって。

それを務めてスルーしながら、向かいで座る双子の会話に耳を傾ける。

トウヤの様子が少し妙なのはミノリも気づいていたようだ。流石は双子である。

まぁ原因は思い当たらなくもないが…彼も何か気づいたんだろうか?

視線を向け、第六感を働かせようとして―――

「…どうした?」

隣のロエ2の声が遠く感じる。己の鼓動の音がうるさい。

息が浅くなる。途轍もなく、嫌な―――吐き気とか、怖気とか、そういったものが全てごっちゃになって煮詰まったような―――そして、それらが全身を覆いつくし苛むような感覚。

視界の中、ルンデルハウスがトウヤと共に前に立つのが見える。それがどこか他人事のように色あせて見える。

それどころじゃない。嫌な感覚は強くなり、全身が圧し潰されそうな幻覚さえしてきた。

そして―――“それ”は、僕の目の前に顕れる。

 

 

“それ”は、西洋風の装飾をされた神輿のように見えた。

“それ”は、冒険者たちによって運ばれていた。

そして―――“それ”は、その内側で蠢いていた。

どこか滲んだ―――涙が出てきたのだろうか?―――視界の中、名状しがたい“それ”だけが、はっきり視える。

同時に。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、僕の脳裏で警鐘が鳴る。

「〈北風(ボアレス)の移動神殿〉ですね」

「なんだそれは?」

ダリエラとロエ2の声が遠い。水底から地上の音を聞いているようだ。

速く、早く、去ってくれ――――祈るような思いだけが反芻される、無限のような時間が過ぎていく――――

 

 

 

「っ!!!!」

「おっと」

がばっと起き上がると、ベッドの脇に座っていたロエ2が驚きの声を上げた。いや、たいして驚いてもないような。

「…ロエの姐さん?」

「ああ、そうだとも。君たちのお姉さん、ロエ2だ」

ふふん、と無駄にデカい―――シロエの趣味だろうか―――胸を逸らす自称姉。

「ここは?今は?あれからどんくらい……」

「落ち着きたまえ、妹よ。どうどう」

詰め寄ると、額を抑えられた。

「ここはサフィールの街だ。君が倒れてから、強行軍で夜中まで歩いてここまで辿り着いたのさ」

「さよですか…」

窓の外を見れば、深夜と言ったところか。随分心配をかけてしまったことだろう。

「ずっと見ててくれたんか?」

「いや?運んだのはトウヤさ。その後、弟妹たちが交代で診ていたんだがね。夜も遅いから私が変わったのさ。ほら、私はお姉ちゃんだからね」

「……ありがと」

なんやかんや、残念な部分もあるがちゃんと『お姉ちゃん』を遂行してくれたのだろう。素直に礼の言葉が口から出た。

「当然のことさ。それで……」

悪戯っぽい、得意げな顔を真剣なものに変え、ロエ2がこちらの目を覗く。

「あの時、何を『視た』んだい?」

「…………」

思い出しただけでぶるりと身体が震える。

うつむくと、ぽん、と肩に手が置かれる。それを皮切りに、口が動き出す。

「…何か、って言われても明確に断言することはできひん。アレが何かは僕()知らへんから」

チラ、と視線を向ける。ロエ2は優しい視線で続きを促した。

「ただ、あそこにあったのは…澱んで、腐り果てた何か…関わり合いになりとうないような代物やった」

言いながら、両腕が己の身を掻き抱くのを止められなかった。脳髄がシンと冷えた気さえしてくる。

 

 

しばらくの沈黙。

「なるほど、なるほど……」

ゆっくりとそれを破ったのはロエ2だった。

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