翌晩。
大事を取って―――僕的にはとっととアイツらのいる街からオサラバしたかったのだが、五十鈴のライブの予約もあるとなると押しきれなかった―――もう一泊すると決めたその日の夜。
五十鈴のライブは最高だった。ロエ2に尋ねられるままにあれこれ答えたりするのはちょっと疲れたが。
裏口の扉が鳴る。その五十鈴を連れ出していたルンデルハウスが、戻ってきたのだ。
「ルデ公、おかえり?一人か?」
「あぁ…」
後ろ髪をひかれるように裏口を見返している。
「どしたん。まさか泣かしたんか?」
「……驚いた。流石はミス・チノモリちゃんだな」
「当たりかよ………」
完全に冗談だったのに。
「
「あー、なるほど?」
情報源はレイネシアである。お茶会がカラオケ大会に変貌したときに聞いた話だ。
「ルデ公は悪うないよ」
「しかし」
「鈴っちゃんは真面目やから。大丈夫。必要な涙や、それは」
プロじゃない。才能なんてない。逃げ道のように彼女が繰り返していた言葉だ。
ルンデルハウスはきっと、
「それは、どういう?」
「あんな、ルデ公」
ぐるりと宿を見回す。夜も更けているのに、五十鈴のライブの余韻は未だ残ったままの喧噪だ。
「
「そうなのか」
「応。望んだモンに懸命に手ぇ伸ばして、掴み取るっていうんは、誰にでもできることやないからな」
手を上に伸ばして―――うん、やっぱ短いな―――ぎゅっと握る。そこには何もない。
「大丈夫。鈴っちゃんはそれができる子や」
「ミス・チノモリちゃんはどうなのだ?」
「僕?残念ながら」
首を横に振ると、ルンデルハウスは残念そうに顔を歪めた。
「そう卑下するものではないぞ、ミス・チノモリちゃん」
「生憎僕ぁ、とっくに諦めた身でね。諦めたなりに見えるもんがあるってわけで」
精々反面教師にしぃや、と笑うと、ルンデルハウスはますますその端正な顔を歪めた。イケメンが台無しやぞ。鈴っちゃんと一緒におると割と高頻度で台無しになっとるけど。
「ま、僕のことよりあの子のことや。復活したら最前席で聞いて差し上げろ」
ニヤッと揶揄ってやると、ルンデルハウスは真面目な顔で頷いた。揶揄い甲斐のない奴である。