記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

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月に墜ちる

ルンデルハウスと話した翌日。

まだ出発までは時間があるので、宿の部屋で惰眠を貪っている僕。

その部屋の扉が叩かれる。

「ミス・チノモリちゃん!」

「ルデ公…どないした?」

「〈鋼鉄飛竜(ワイヴァーン)〉の群れが街に進行中だ!ミス・ミノリたちは既に向かっている!」

その硬い声で、意識が一気に覚醒する。

「わかった!数は?方角は――――いや、ええ、そっちの準備を急いでくれ!」

自分の感覚を信じた方が早い。そう決めて、脳裏のメニューから戦闘装束にスタイルチェンジしつつ窓へ駆け寄る。

「承知した、急いでくれよ!」

「そっちもな!」

窓を開けるや足をかけ宙へダイブ。そのまま空戦機動(エアレイド)へ移行し、天を仰いで視界に入った鋼鉄飛竜(ワイヴァーン)の群れへ突撃する。

「トウヤん、ミノリん!そっちの状況は!?」

『街外れで〈オデュッセイア騎士団〉が迎撃中です』

応えたのはミノリだ。PTチャット先の声は、震えていた。

「…どした?」

『……チノモリちゃんも、見ればわかるよ』

絞り出すようなトウヤの声。

「わかった急ぐ」

視界に映る鋼鉄飛竜(ワイヴァーン)の群れがぐんぐん近くなる。それに挑みかかるオデュッセイア騎士団も見えてくる。

―――これは、酷い。無秩序な突撃、振り撒かれる死。あれじゃ亜人と大差ないじゃないか。

務めて眼下へ視線を向けないようにしていると、そちらからバキリ、と何かが壊れる音がした。

 

 

何が?そう視線を向けて、僕は心の底から後悔した。

見えたのは、破壊された〈北風(ボアレス)の移動神殿〉と、それに群がる―――きっと壊したのもコイツらなのだろう―――〈闇精霊の従僕(ナイトシェイド・サーバント)〉たち。

そして。

破壊された神殿から覗く()と、眼が合った。

 

あ。

これは、不味い。

 

『チノモリちゃん、どうかしましたか?』

駆け付けたのに空中で静止したのを訝しんだのか、セララが心配そうなチャットを飛ばしてくる。

「セララん。みんな」

手足の感覚が消えていく。神殿から溢れ、飛び掛かってくる昏い何か―――多分、ロエ2の言うところの〈共感子(エンパシオム)〉、僕の知るところのフォトン―――に飲まれながら、僕は辛うじて口を動かす。

「―――逃げろ。僕から」

視界が暗くなり、世界が回る。

反転した世界の中、僕は空に向かって墜ち始めた。

 

 

 

『逃げろ、僕から』

「―――チノモリちゃん?」

ミノリは天を仰いだ。トウヤとセララはもう駆けていってしまった。

隣のロエ2も同様に天を仰ぎ、そこに浮かぶ少女に目を細める。

「…感が良すぎるのも考え物だな」

「え?」

「気を付けたまえ、ミノリ。アレはもう、私たちの知る彼女ではない」

視線の先の身体が、黒い玉に包まれる。酷く耳障りな音が響いて、ミノリは思わず耳を塞いだ。

黒い玉から闇が解けた後、そこに佇んでいたのは―――

 

オメガ・マスカレーダ レベル100

 

「モン、スター………?」

しかも、ただのモンスターではない。〈レイド〉ランクの―――本来、こんなところに出現するはずのないモンスター。

しかも、アレは、チノモリちゃんがいた場所から顕れたのだ。

「あれも彼女が内包していた可能性の一つ…なのかな?どうやら、あの機構が留保していた〈共感子(エンパシオム)〉に侵された結果、表出したようだ」

冷静な分析の間にも、未知のモンスター―――オメガ・マスカレーダは着地すると、その手の剣を振るい、破壊をまき散らしていく。

鋼鉄飛竜(ワイヴァーン)も。闇精霊の従僕(ナイトシェイド・サーバント)も。オデュッセイア騎士団たちも。

総てが等しく、蹂躙されていく。レベル100、しかも〈レイド〉ランクのモンスターともなると、そんな無法も罷り通るらしい。

「いいのかい?行かなくて」

「……」

無言のまま、頷く。そしてミノリは、目の前の女性に向き合うのだった。

 




話の最中だがダークファルスだ!
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