ごぼり、と音が鳴る。それが自分の吐きだした息だと気づくのに数秒かかった。
身体が重い。身をよじれば、黒い
『帰りたい』『どうしてこんなことに』『もう嫌だ』
そんなことを、僕に言われても、困る。
抗議を吐きだすことすら許されず、口を開けば無意味に息が漏れるだけ。
息が詰まる。視線を動かせば、頭上の遥か彼方にセルデシアの大地が視えた。
必死に手を伸ばしても、届かなくて、僕の身体は宙に墜ちていく。
一体どれだけの時間を、そうして藻掻いていただろう。
ふわり、と視界に映った手が纏わりつく重い水を払った。
「ありが―――」
ようやく一息ついて、礼を述べようとして―――見えた姿に絶句する。
「ギル、マス?」
問いかけると、首を横に振られ、その姿がぼやける。
変わった姿は、アカツキのもの。思わず怪訝な顔を向けると、難しい顔になった彼女(でいいのだろうか?)は再び姿を変え、僕の鏡写しになった。
不定形の存在なのだろうか。まぁ、こんな遭遇の仕方をするのならそうなのかもしれない。
「ここはどこや?アンタは?」
「ここは、月の水底。総ての記憶の還る場所」
その言葉に、視線を巡らせる。海底のようなこの場所には、さっきのオデュッセイア騎士団たちの物のような昏い断末魔が充満しているようであった。
その中に、チラチラと輝くものがある。
「あれは?」
「…払われた、記憶の欠片。キラキラしてるのは、珍しい」
その言葉で、ようやく思い出す。確か、アカツキが殺人鬼に殺されたとき、月でシロエと会ったと話していた。
ここが、そうなのか。
「じゃあ、僕は死んだんか?」
「…多分、違う。この水底に落ちてきたのは、初めてのことだから」
ふるふるとツインテールを振った僕の写し身は、青と金の瞳をこちらに向けた。
「私は、ずっと前からここにいる者。はじめまして。あなたは、だぁれ?」
無邪気に小首を傾げられるままに、僕は色々な話をした。
最初に街の外に繰り出した時のこと。合宿での苦労話。チョウシの街の防衛戦。水楓のみんなとの共同作戦。
そして、今僕たちが直面している事態のこと。
「……そう」
「うん。ごめん。やから、あんまり長居はできひん」
そう言いながら結構長々と語ってしまったのは、多分―――
その結論を出す前に、歌が聞こえた。
「この声は?」
「鈴っちゃんか」
聞いたことのない歌だ。僕も、彼女も、そしてきっと、誰にも。
彼女はどうやら乗り越えたらしい。それどころではないのに、不思議と笑みが零れた。
「行くんだな」
「うん」
立ち上がる。もう猶予はない。あちらの争乱を、暴れているであろう僕自身を、止めにいかなければならない。
その決意が、僕を浮かばせる水流となる。
「そう」
短く呟いた、水底の少女が微笑む。
「さようなら」
別れの言葉を残して、月が遠ざかっていく―――
その、直前。
僕は確かに、その手を取ることができた。
オリキャラ追加、一丁上がり!