記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

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二人の始まり

「僕にどうしろっていうのさ」

目の前でシロエが頭を抱えている。あまりに情報量が多すぎるせいだろう。

ミノリが運んできたロエ2の手紙を読んでからこんな感じである。まぁ、人の問題だけでも頭が痛いところにもっとヤバい情報が飛び込んできたんだからそうもなる。

僕が呼ばれた理由は、ロエ2の手紙で名指しされていたからだろう。

 

―――また、〈採集者(ジーニアス)〉たちにとって、チノモリちゃん―――今は二人に分裂してしまったが。チノモリちゃん両名は、その正体が知れた場合、彼らにとって最優先目標となる可能性が極めて高い。

くれぐれも注意してほしい。

 

 

「僕は先に言われとったけど、トバリもなんか」

「私も近い能力を持っているから…じゃないか」

「そうなん?」

どこか歯切れの悪いトバリに首を傾げていると、シロエが呻きながら再起動した。

「因みにその、狙われる原因になる正体だか能力って…」

「隠せるものではないだろうな。私も、ヒバリも」

「だよね」

再び撃沈。

「補足するなら、ヒバリは既に息をするようにその能力を行使しているし、私の正体もわ…〈採集者(ジーニアス)〉たちから見れば一目瞭然だ」

「そんな自覚は…あんまりないんやけどなぁ」

「重症だな…まぁ、今はいくらかマシだが」

肩をすくめられても困る。

ついでに言えば『いくらかマシ』と言っても、僕のフォトン感応能力が先日のトラウマから機能不全に陥っているだけ。とことんどうしようもない。

「そっちも結構問題だよね」

「そこはヒバリ自身の問題だからな。私にはどうしようもない」

「僕の問題やのに、当たり前にトバリが把握してるのはなんで?」

「私はお前で、お前は私だからな」

そんなに深く繋がってる状態なのか僕ら。

(ファ〇チキください)

「胡乱な思考を飛ばしてくるな」

通じるんだ。

「っていうか詳しいね?」

「……まぁ、あんな場所にいれば多少は詳しくもなる。言語化するのは難しいが」

シロエにツッコまれて、目を逸らしながら言うトバリ。

僕はこっちに視線を向けたシロエと目を併せて、同じことを思った。

この子、嘘が下手だな。

 

 

結局のところ。

はっきり言って彼一人に手に負えない案件なので、一旦保留―――僕ら二人への注意喚起という意味が強かった―――ということになった翌日。

僕はトバリを連れてレイネシアのお茶会にいつものように顔を出し―――

「次はこちらなんてどうでしょう!?」

「ん、わかった」

僕に着せる予定だったらしい服を次から次に着せられているトバリを眺めている。

左隣ではいつも通りマルメロがミカカゲに餌付けされている。

反対側には今日は毒牙から逃れられたレイネシアとアカツキが心配そうにトバリに視線を向けていた。

「えっと、大丈夫なんでしょうか、彼女。ずっと仏頂面ですけど」

「あぁうん、大丈夫。あれで興味津々でノリノリやから」

「とてもそうは見えないが…」

「パイセンに輪ァかけて顔硬いからな、あの子」

「そうか?難しい顔をしている時は主君の表情に似ていると思うが」

アカツキの声にポンと手を打つ。どっかで見たことあるなって思ったらそれか。

「その推測は凡そ正しい。私の行動模範は、アカツキとシロエの影響を多大に受けている」

「えぇー、そこは僕とちゃうん?」

「お前より二人の方が観測が先だった」

そこかぁ、と息を吐くとトバリは首肯した。

「それに、お前が二人に増えてもつまらないだろう」

「それはそう」

「私や主君にはそういう配慮はないのか?」

「こうなる事態を想定していなかった」

肩をすくめながらもトバリのファッションショーは継続中である。器用だなお前。

「っていうかさ」

「なんだ?」

「参考にしたのって、パイセンが死んだときにギルマスと会うたって時やろ?ギルマスと会うたパイセンが仏頂面とhモガモガ」

途中でアカツキに口をふさがれた。

「あくまで影響が大きいだけで、それ以外も色々混ざっているからな…大体、お前があの時飲み込まれたようなのだが」

「あぁ………」

思わず顔が歪む。絶望(アレ)の影響もあるならそりゃ仏頂面がデフォにもなろう。

そんな会話を交わしていたら、いつの間にかトバリがマリエールに抱きしめられていた。

「……ん」

「大変やったんやねぇ、トバリちゃん…」

常々マリエールは大物だと思う。経緯は粗方話したのに、『大変やったんやねぇ』で過不足なく受け止められる包容力がある。

「てかもうお着替えタイムは終わりでええん?」

「ええ、あれが気に入ったそうですわ」

ヘンリエッタが眼鏡をクイッと上げながら言う。大変満足そうで何より。

トバリが選んだのは、髪と同じ紫色を基調としたチューブトップワンピースだ。縁取りに使われている黄色がよく映えて、ミニスカートから覗く素足がまぶしい。

「ええもんもろたなぁ」

ヘンリエッタに頭を下げて感謝を伝えていると、トバリは僕に預けていた漆黒のマントを取って纏い直した。

「あら、勿体ない」

「これがいい」

ぽすんと当然のように僕の隣に腰を落とすトバリ。

ぶっきらぼうな口調だが、本心なのはよくわかる。

僕はヘンリエッタと目を合わせ、苦笑いするのだった。

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