記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

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変わったこと 変わらないこと

「トバリ、そっち行った!」

「見えてる」

上から声をかけた僕に呼応して、トバリが大剣―――コートエッジDを構える。

片手で。

ブォン、と空を切りながら、身長以上の刀身を片手でぶん回す絵面は中々インパクトがある。僕でさえ両手だったんだぞ。ハンターのモーションだったからな。

重さを苦にした様子もなく、振るい、突き立て、ついでに敵ごとぶん回していく。

アキバから少し離れたこのエリアは、レベル50より少し上、といった具合の敵が闊歩している。シロエ曰く『大災害直後の練度ならレベル90でも油断できない相手だった』とのことなのだが。

「とてもそうは見えへんよなぁ」

トバリの戦闘スタイルは大剣を右手に、空の左手から気弾や魔法(テクニック)を放つハイブリットスタイルであるようだ。PSO2にある職の中ではヒーローが近い。

ただ、よく見ていると『闇剣爆斬(N-フォメルギオン)』を大剣に乗せたりしているし、割と自由にやっているようだ。

「自由度高いなぁ…」

「お前もやろうと思えばできると思うが。というかやってるだろ」

まぁ、現在進行形で空戦機動(エアレイド)は便利に使っている。それに、基となるモーションからの逸脱という意味で言うなら双・裏拳閃(バックハンドインパクト)が顕著だし。

それでも。

「今ならギルマスが頭抱えた理由がよくわかる」

「増えてるしな、頭を抱える理由ばかり」

肩をすくめているトバリに、お前も元凶なんやぞーと腕を絡ませる。

そう。

僕とトバリは同一キャラクター扱いなのは継続で、それはすなわち〈冒険者〉二人分以上の戦力をパーティーの枠一つ分に収められるということと同義となる。

その代わりと言うべきなんだろうか、僕らは二人ともMPの表示がなくなっているわけなのだが。

「そこんとこどーなんですか相棒」

「桁の表示がおかしくなるような量でそう減りようのない資源(リソース)を表示する意味があると?」

曰く。

〈冒険者〉の記憶は、どうでもよくなるようなごく微量でさえ、彼らの蘇生を保証する価値がある。

それを文字通りすべて捧げた結果、余剰分が溢れて尽きることない泉が如き状態なのだそうだ。

「えぇ………」

「あのロエ2の手紙にもあったが、共感子(エンパシオム)はそれそのものから生産可能だ。そして私たちはその要件を―――原理は不明だが―――満たしたようだ」

「そっかぁー」

原理は不明。その言葉を改めて反芻する。

自分のことなのに、わからないことが増えるばかりだ。

理解でき(わから)なくてもいいさ」

「ナチュラルに心読まんといて?」

「相棒、なんだろ」

抗議をスルーされて僕は肩をすくめた。まぁ、トバリが把握してくれている部分の方が多いし。

任せられるところは任せた方が話が早い。

「あと」

「何?」

「どうせ使いこなせないしな、あれだけの量となると」

「言ったなァ?いずれ十全に使いこなしたるからな?」

「期待しておく」

真顔で返されて、こいつぅと頬をぐりぐりする。

皮肉でもなんでもないんだから質が悪い。

 

 

「ただいまー」

「お帰り」

ログ・ホライズン、拠点ホールではアカツキがミノリと机を拭いていた。

「ってことは、そろそろ晩飯?」

「いえ、今日は買い出しデーなので。もう少しかかりますよ」

「ほな、先に風呂入ってくるわ。行こ、トバリ」

頷く彼女を促していると、背中に感じる視線。

「…何?」

「いえ、ヒバリちゃんになってから変わったなぁって」

「どゆこと?」

自覚がなくて首を傾げる。

「前なら一人で入っていただろう」

「あー………」

確かにそうかもしれない。

「同室の件についてもそうだ。自覚がなかったのか?」

「なかった、全然。今気づいたわ」

同室の件、というのはトバリの部屋割りのことだ。

本人の強い希望で、僕と同じ部屋を使っているのだ。

男性時代(むこう)の記憶が丸っと飛んだからなぁ…そのせいなんかね?」

「それは私に聞かれても困る」

トバリを向いて首を傾げると、横に振って返された。まぁ、確かに無茶振りだろうと思う。

「っていうか、ええと…」

ミノリが難しい顔で口を噤む。

「実際、記憶全部失くしたらどんな感じなんか、ってとこ?」

「……はい」

先読みしたらドンピシャだった。

「自覚はあんまりないんやけど…まず、知識は残っとる。〈エルダー・テイル〉とかも分かるし、ゲームのこととか、向こうの常識やら教育で身に付いたこととかは全部わかる」

ただ、と首を傾けながら続ける。

「それがどこで得た知識なんか―――本で読んだのかとか、誰かに聞いたんかとかは、全滅。言うてて自分で気持ち悪くなってきた」

顔を歪めると、戻ってきたトバリが頭を撫でてくる。

「歪、なのだな」

「うん、歪。人格形成には過去の記憶もだいぶ比重置かれるはずやから、変わってるのは間違いないんやろうけどなー」

「………すまない」

後ろの呟きには肘で突いて応える。気にするな、の意味を込めて。

「ま、気にしすぎてもアカンやろってことで一つ」

「……そうですね」

ミノリは曖昧な笑みで応えた。

そりゃ怖いだろう。冒険者は遅かれ早かれ、同様になるリスクを常に抱えている。

そうなったとき、自分は本当に〈冒険者〉と呼べるのか?

ちゃんと地球(あちら)へ、帰ろうと思えるのか?

 

 

その答えを持つ者は、まだ、いない。

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