記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

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襲来

「ヒバリちゃんは今頃マイハマでしたっけ」

「ああ」

ミノリがのんびりと言うのに、トバリは頷いた。

「レイネシア姫と一緒でしょ?すごいよねー」

「そういうものか?」

続く五十鈴にトバリは首を傾げる。

「そうだよー。レイネシア姫って美少女だし、ヒバリちゃんってよく物怖じせず軽く話せるなーって」

「そういうものか…」

人の美醜に関する感覚は未だ理解しづらい。単なる光学情報に重きを置くのは、と一度ヒバリに言ったことがあるが、「それ言いだしたら、五感全部が無意味になるからやめとき」と言われてぐうの音も出なくなった。

それはそれとして、レイネシアという人物に関してトバリの印象はさほど良くない。

お茶会では大体、周囲に流されているようにしか見えないのだから。

「トバリちゃん?」

そんなことを考えていると、ミノリが覗き込んでいた。

「なんでもない」

「ほほーう?」

五十鈴も面白そうに覗き込んでくる。

「もしかしてー」

「もしかして?」

「ヒバリちゃんと一緒にいれなくて、嫉妬しちゃってる?」

「そういうものか?」

軽く首を傾げて応える。彼女がレイネシアの従者をやってるのは知っているし、そうなれば行事に同行するのは当然の責務なのも理解している。

そこに感情の入る余地はないのでは?と訥々と語ると、五十鈴は呆れたように、ミノリは困ったように苦笑いした。

「理屈と感情は別物だよ、トバリちゃん」

「ですねー…」

「そういうものか………」

応えてから、ふと窓を見る。

月が陰るように―――否、影がよぎったように見えた。

「トバリちゃん?」「どうしました?」

「…ミノリ。シロエを呼びに行け」

小さく息を吐き、窓を開いて足をかける。

行儀悪いよー、と忠告する五十鈴は一旦置いて、続ける。

「―――敵襲だ」

 

 

 

同時刻、マイハマの城にて。

「マジで?」

「マジに決まってんだろ」

アイザックが抱えていたイセルス―――レイネシアの弟だ―――を降ろす。

ついさっき、襲撃してきた暗殺者たちを撃退したところだというのに、次は空から魔物の襲撃。

「一難去ってまた一難、か…そいつら遥か上空から来とるん?」

「そう言ったろ。〈黒剣騎士団〉(俺たち)は隊列組んで迎撃する」

「わかりました、イセルス様はお任せくださいませ」

そんな会話の間にも、レザリック―――いつぞやの合宿で世話になった、アイザック旗下の〈治癒術師(クレリック)〉だ―――が矢継ぎ早に部下に指示を出している。

「名前は〈常蛾〉、レベルは80から90、〈ノーマル〉ランクだ」

「それだけ聞くとそこまでの脅威には聞こえませんが……」

リーゼが難しい顔で見回す。

今回は防衛戦だ。アキバの街の殺人鬼の時は、〈円卓会議〉に掛け合って外出禁止を取り付けることができた。

今回は違う。このお祭り騒ぎの中から一転、逃げ惑うだろう〈大地人〉たちを護りながらの戦闘になるだろう。

〈大地人〉(我らの民)のことは、〈大地人〉(我ら)に任せてもらおう」

作戦会議に割って入ってきた声は、セルジアット公の声だ。

「どういうこったよ、爺さん」

「〈グラス・グリーヴズ〉に民たちを先導させる。何、彼らも嫌とは言うまいよ。寧ろ、この事態で何もせず何のための騎士団か、という話だ」

振り返ったセルジアット公に、騎士団が一糸乱れぬ敬礼で応えた。

へぇ、と面白そうにアイザックが笑う。

「じゃ、俺たちは迎撃に専念させてもらうぜ」

「ああ、感謝する」

「お爺様…」

心配そうなレイネシアに微笑みかけ、セルジアット公が支持を飛ばしながら歩き去っていった。

それを見送って、僕はレイネシアに声をかける。

「シア譲」

「はい、何でしょう?」

「従者として来た身で悪いけど、僕、行かな」

言って夜空を見上げれば、凡そ察したようにレイネシア―――と、ついでにリーゼも首を振って溜息をついた。

「上空へ単騎で突撃、威力偵察と遅滞戦闘、といったところですか?」

「そんな感じ」

「確かに貴方の配置としては最適でしょうが…気を付けてくださいね」

リーゼが真面目な顔になる。

「私が覚えている限り、〈常蛾〉という名前のモンスターは聞いたことがありません。アイザックさんもそうですよね?」

「あー?まぁ、聞いたことねぇな。レザはどうだ?」

「私も寡聞にして聞きませんねぇ」

指示の合間に答える声。僕は二人と顔を見合わせて、溜息をついた。

「了解。とりあえず気ぃつけて行ってきますわ」

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