記録の地平線~記された器~   作:Chirumori

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開戦の狼煙

レイドダンジョンと化した放送局の通路を飛翔する。

僕の後ろに群がるのは〈常蛾〉を始めとしたこのダンジョンの魔物たちだ。

どのくらいトレインできてる?と一度振り返って後悔した。

雲霞の如くとはかく云うものだ。もう僕が飛んだ通路が完全に見えなくなっていた。

気分は割と最悪である。

 

 

〈呼び声の砦〉の攻略難度を上げていたのは、建築物の特性から来る寸断された生息状況が一因にある。

少数勢力との会敵が高頻度となるために、特にタンクやヒーラーの負担が増大していたのだ。

いちいちヘイトを買ってタンクを支援して、を繰り返すんだからさもありなんである。

じゃあ、どうするか。

纏めて相手をすればいい。

そのための引きつれ(トレイン)役を指名されたわけである。

「せっかくトバリが対策してくれたのにぃぃぃぃぃぃ!!!」

横の通路から飛び出してきた兎―――〈月兎〉とかいう名前だったそれを足蹴にし、上空から舞い降りて来た蛾をバレルロールで躱してなおも空を駆ける。

「ギルマスぅ!まだぁ!?」

『あと5分で集結するから、それまでよろしく』

「無慈悲ぃ!」

そういやこの人、シア譲にあのクソミニスカ鎧を着せた張本人だった。容赦ねぇ。

鋭角で切り返し、MP(フォトン)をまき散らしながら一瞬だけ空を仰ぐ。

―――相棒は上手くやっているだろうか?

 

 

時は少し、遡る。

「お互い、随分変わり果てたものだな」

〈呼び声の砦〉屋上。そこに立つ放送塔に陣取るレイドボス―――〈召喚の典災(ジーニアス)タリクタン〉を見上げ、トバリが呟く。

「何か言ったかい?」

「なんでもない。タゲは取る、情報収集と支援を頼む」

「はいはい」

ヒバリが事前に言っていた、『なんか怪しい発言あっても優しくスルーしたって』という言葉を思い出す。

なるほど、この少女はぶっきらぼうな態度とは裏腹に相当純粋なようだ。

「なぜだ。なゼじゃまをする」

ぎょろり。巨大な老爺のようなモンスターの視線が紫髪の剣士を捉えた瞬間、激しい戦闘が始まる。

振るわれる杖を宙を舞いながら躱して、小さな体躯に似合わぬ大剣を叩きつけるトバリ。

「わからないだろうな。それでいい」

淡々と応じる声はどこか寂し気にさえ聞こえる―――尤も、屋上の風と魔物の振るう杖の音にかき消され、その子を聞いた者はいなかったが。

「なんか知り合いっぽいよねぇ」

「言ってないで僕たちも行きますよ!」

隣を駆け抜けるソウジロウの道を作りながら、ナズナは息を吐いた。

トバリが高所を取った理由は明白だ。通常攻撃の余波を最大限逸らす為の措置だろう。

同時に、ダメージの通りやすい頭部を狙いやすくなる効果もある。

「一人で無理するんじゃないよ、初心者(ニュービー)!」

「頼るべきは頼る」

ギィン、と甲高い音と共に杖と剣が激突する。

レベル100の膂力に飽かせた相殺は、確かにレイドボスを抑え込んでいるようだった。

いや、多分レベル差だけの話ではないのだろうが。

「しかし、こうも振り向いてもらえないとはっ!」

さきほどから攻撃を加えているソウジロウが複雑そうな顔をする。

「気にするな。魔物の本能(行動パターン)採集者(なかみ)が抑え込んでいるだけだ」

っと、と息を漏らした少女が防御姿勢を取る。タリクタンが杖を持たぬ腕を振るったのだ。

防御しながらでも吹き飛んだ体が、空中で回転して姿勢を取り戻す。

ナズナはHPバーを見やった。障壁越しとはいえそれなりに削れている。

「続けられるかい!?」

「問題ない。それより、そっちの心配をした方がいい」

何を。そう問いかけて答えを悟る。

紫の電光が視界を染める。それは中空のトバリ、ナズナの眼前のソウジロウを貫き、更に後方へと跳ねていく。

「ちっ……!」

ソウジロウのHPが激減しているのを見て舌打ちし、続いてトバリを見上げる。

無効化に成功したのか、そのHPは微動だにしていない。それを確認して、即座に回復行動(ヒールワーク)に移る。

「カウント!」

「やってます!」

打てば響く仲間に感謝しながら、ナズナは呪文を紡ぐ。

「落ちるなよ!拾いには行けないからね!」

「問題ない」

憎らしいほどに冷静な少女は、再び空を駆ける。

ボス戦はまだ、始まったばかり。

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