「婚約ゥ~?」
マジか、と言いたげな声でオウム返しにするヒバリを、トバリは横目で見た。
「えぇ、アカツキさんにはもうお話したんですけど」
「…もしかして、パイセンがちょっとギルマスのこと気にしてたんそれかぁ?大方、
「……ヒバリ様、時々あの方のように心を読まれますわよね?」
「二人が分かりやすすぎるだけやわ」
ぽんぽんと軽口を叩きながらも、ヒバリの瞳は鋭い光を湛えている。
アレは裏で思考が回っているな、とトバリは無言で茶を啜る。
「で、態々アキバくんだりにおるシア嬢に手ぇ出しに来たんはどこのどいつよ」
「……斎宮家トウリ様、と」
少しの逡巡の後、口元を指で押さえながらレイネシアはその名を出した。
「……さよか」
返答は短く、消え入るように小さかった。
「…ヒバリ様?」
レイネシアが心配そうに覗き込むのを、トバリはスッと手をかざして止めた。
「邪魔してやってくれるな」
「どういうことですか?」
「私たちなりに考えている、ということだ」
二人分の視線を受けながら、少女は思考に沈んでいる。
……思えば、こうしてレイネシアと二人で話すのは初めてかもしれない。トバリはふとそう思い当たった。
「お前は、どうするつもりだ?」
「どうする、ですか?」
「婚約を受けるのか、否か。或いは別の道を探るか。そういう話だろう、これは」
虚を突かれたように瞬きをするレイネシアに、トバリは眉を顰めた。
「私は貴族ですから。結婚は家が決めるものです。アカツキさんにもそう言ったのですが…冒険者の常識とは、やはり違いますよね」
悲し気に眉を下げるレイネシアから、トバリは静かに視線を外した。
「…そういうものか」
「……ええ、そういうものなのです」
静寂が広がる。
その中で、漸く思考の浮かび上がってきた少女が顔を上げ、周囲を見回して首を傾げた。
「何この空気」
「…気にするな。それで、どうするんだ?」
「とりあえず、向こうの陣容を知りたいなぁ。ギルマスでも把握しきれてへんやろうし」
「陣容、ですか?」
何故そんな話になるのか。首を傾げたレイネシアにヒバリは無邪気そうな顔を向けた。
「だってこれ、
「……さっきの話。どういうことなんだ?」
水楓の館を辞去して、トバリは小声で相棒に問うた。
「どういうもこういうも、そのまんまやねんけど…」
うーん、と顎に手を当ててから、ヒバリは指を宙で回す。
「ギルマスから聞いたけど、アインスはんがアキバ公爵とやらになったやろ?」
「ああ」
「で、今度はシア嬢を引っ張り出そうとしとる」
「……その二つは同列なのか?」
「そらせやろ。公爵言うたら貴族のてっぺんやぞ?セルジアット公と同列やぞ?そんなもんできるんは…」
「……斎宮家、ということか」
ある程度ヤマトの歴史については学んでいる―――と言ってもヒバリはほとんど物語として楽しんでいる風だったが―――からこその結論に、トバリは息を吐く。
「で、どう見るんだ、お前は」
「お手上げ」
「はぁ?」
あっさりと結論を放棄した相棒に、トバリは呆気にとられた。
「やから、お手上げ。打つ手なし」
「……嘘だろ」
からから笑いながら言われても説得力がない。
「いや、割と真面目な話でなぁコレ…」
頬を掻きながらヒバリは言う。
「まずこれな。ターゲット
「…大地人、か?」
「そそ。多分、首謀者も同じくやと思う。身分と威光が前面に出とる時点でまぁ間違いないけどな」
頷いた後、ヒバリは困ったように笑って続けた。
「で、そないなると僕らにできること…あるか?」
「………」
思いつかずに口ごもると、ヒバリは肩をすくめた。
「ま、間違いなく言えるのは―――個人じゃどないもならん、円卓に上げるべきことってこっちゃな」
「……シロエがまた頭を抱えそうだな」
「或いは、既に頭抱えとったりして」
否定できない未来に、トバリは相棒をジト目で見る他なかった。