ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿) 作:熊さん
『3代目戦車道チーム』のみんなが『初代あんこうチーム』の実力に唖然としている頃……
遠藤祐子は1人、戦車倉庫の中で備品の片付けをしていた。
入口にむかって背を向けて作業をしていた事と道具棚で入口が隠れてしまっていたため、彼女に声を掛けられるまで全然気がつかなかった。
「……あのう、すみません。戦車道の方、どなたかいらっしゃいますか?」
「……はいっ。今行きますので、ちょっと待ってて下さ……」
とても可愛らしい声で呼びかけられた遠藤祐子は、てっきり学校の生徒だと勘違いをした。
道具棚の物陰から立ち上がり、戦車倉庫入口に顔を向けた
そして、声をかけた人物を見た彼女は驚いて直立不動の体勢になった。
そこに立っていたのは、戦車道マガジンの写真でみた「あの人物」だったのである。
「に……西住先輩ですか?」
西住みほは緊張した遠藤祐子の声が伝染ったのか、体をビクンと震わせて、同じように返事をした。
「あっ……はっ、はいっ。西住です」
「は……はじめまして、私、た……隊長をさせてもらっています。遠藤祐子です」
直立不動で緊張しながら自己紹介をした遠藤祐子に、西住みほは納得したように笑いながら挨拶をした。
「あーっ、あなたが遠藤隊長さんですね。……はじめまして、西住みほです」
「こ、……この度は、ご、……ご無理を聞いてくださって、あ、……ありがとうございます」
遠藤祐子は、伝説の初代隊長がこんなに可愛い小さな女性だとは想像していなかったらしい。
まだ緊張しながら西住みほにお礼を言った。
「あのう、遠藤隊長、そう緊張しなくていいから……。私も後輩の皆さんに会うのを楽しみにしていました」
西住みほは、遠藤祐子の緊張をほぐすように微笑むとさらに話を続けた。
「沙織さん達が来ているはずなんだけど……。どこにいるのかな?」
「他の先輩達は『少し練習がしたい』と言われて、先に訓練場に行かれました」
「そうなんだぁ」
西住みほは納得したように言った。
遠藤祐子は、さらに秋山優花里からの伝言を西住みほに伝えた。
「先輩達から西住先輩が来られたら、訓練場に案内するように言われております」
「そうかぁ、じゃあ、遠藤隊長、宜しくお願いするね」
「はい。……西住先輩、しばらくお待ちください。車を持ってきます」
「じゃあ、その間に私、着替えをしてくるね」
そう言って、西住みほは更衣室へと向かった。
遠藤祐子は、ちょっとしたパニックになってしまっていた。
(あーもう……自分のバカ! よりによって、ちょっと入口から目を離したすきに西住先輩が来ちゃうなんて……)
遠藤祐子は、携帯電話で澤梓を呼び出しながら「小型トラック」のところに走った。
双眼鏡で『初代あんこうチーム』の練習を見ていた澤梓の携帯が鳴った。
「はい……もしもし、祐子ちゃん?」
「澤隊長ですか? い……今、西住先輩が到着されました!」
「分かりました。祐子ちゃんは先輩と一緒にブリーフィング広場に来てね」
「はい、了解です!」
携帯電話を切った澤梓は、もう嬉しさのあまりその場で飛び上がってしまった。
遠藤祐子は、戦車倉庫近くの駐車場に止めてある「小型トラック」のハンドルを握ると、急いで戻ってきて戦車倉庫入口に横付けした。
少し時間が経った……。
すると戦車倉庫の入口が開いて「パンツァージャケット」に着替えた、西住みほが出てきた。
先ほど先輩達が着ていた背中に「あんこう」マークのプリント入りジャケットである。
助手席に乗り込んだ西住みほは、ニッコリと笑って話しかけた。
「お待たせしました。遠藤隊長、宜しくお願いします」
遠藤祐子は「出発します」と告げて「小型トラック」を発進させた。
「小型トラック」の車窓から見える懐かしい風景を楽しみながら、西住みほは呟いた。
「……このあたりの風景。懐かしいなぁ……。ところで、遠藤隊長?」
「は……はいっ!」
いきなり声をかけられて、またびっくりした遠藤祐子は、上ずった声で返事をした。
それを聞いて、また西住みほは笑いながら優しく諌めた。
「遠藤隊長、ほんとそんなに緊張しなくってもいいって……。あのね、手紙には『梓ちゃんに相談した』って書いてあったけど、今日、梓ちゃんも来てるのかな?」
「はい、先輩。今は澤隊長と一緒に訓練スケジュールを決めて実行してます。今日も澤隊長はいらっしゃっています」
「そうなの、梓ちゃんも来ているの……」
西住みほは、澤梓の面影を思い出すように答えた。
澤梓は、遠藤祐子からの連絡を受けてすぐに無線で「西住みほの到着」を『初代あんこうチーム』に告げた。
無線から武部沙織の声で「了解。すぐに戻ります」と報告があり、やがて『Ⅳ号中戦車』がブリーフィング広場に向かって走ってきた。
ちょうど小型トラックと『Ⅳ号中戦車』が同時にブリーフィング広場に着いた。
西住みほは助手席から下りると、目の前に止まった『Ⅳ号中戦車』を見た。
「うわぁ……『Ⅳ号』だ。懐かしいなあ……」
感慨深げに、いつも一緒に戦ってきた『Ⅳ号中戦車』を見上げている。
すると『Ⅳ号中戦車』の各ハッチが開き、次々と懐かしい顔が現れた。
通信手席上のハッチから明るい元気な声がした。武部沙織である。
「おーい、ミポリーン!」
装填手席上のハッチからは独特の呼び方で声がする。秋山優花里である。
「に……西住殿!」
砲手席上のハッチからは気品のある、優しい物腰の声がした。五十鈴華である。
「……みほさん!」
そして最後にぶっきらぼうだが、知的で落ち着いた声がする。冷泉麻子である。
「……西住隊長」
『Ⅳ号中戦車』から、武部沙織、秋山優花里、五十鈴華、冷泉麻子の4人が急いで飛び降りてきて、西住みほの廻りに集まった。
メンバー全員、皆が手を取り合っている。
卒業以来、実に2年ぶりの「初代あんこうチーム」全員の再会である。
メンバーみんなが、はちきれんばかりの笑顔である。
そして一番声が大きく、そしてとても嬉しそうだったのが西住みほであった。
「みんな。みんなぁ……。元気だった?……私ね、ずっとみんなに会いたかった」
それに応えるかのように、次々に西住みほへ、メンバーが声をかけた。
「私もですよ。西住殿! ……ずっとお会いしたかったであります」
「ミポリン、ミポリンがいるよ。……やったぁ、やっと会えたよ」
「みほさん、本当にご無沙汰しております……」
「……西住隊長、私も会いたかった」
今『初代あんこうチーム』の5人が、ついに揃った。
澤梓は高台の上から、再会を喜び合う先輩達を見ながら、感無量になっていた。
あの5人が揃って目の前にいるのだ。
皆が揃った事で、武部沙織はメンバー全員を見渡して言った。
「さぁ、ミポリンも来たし、可愛い後輩ちゃん達に会いに行こっか」
「そうですね。行きましょう!」
秋山優花里が賛成をした。
そして、それに続くように西住みほが言った。
「どんな後輩さん達なのかな?」
「遠藤隊長さんを見る限り、メンバーの皆さんに『悪い子』はいないようですけど……」
五十鈴華の感想に対して、冷泉麻子は笑いながら注意をした。
「華……。『悪い子』って、後輩達は小さい子供じゃないぞ」
「ウフフ、そうですわね麻子さん。私の失言でしたわ」
「じゃあ祐子ちゃん! 後輩ちゃん達までの案内お願いしまーす!」
「はい、了解しました。こちらへどうぞ!」
武部沙織は、傍で待っている遠藤祐子に、道案内をお願いした。
遠藤祐子が先頭に立って、今『初代あんこうチーム』のメンバーが順に高台に登ってくる。
『パンツァージャケット』の背中の「あんこう」マークが、太陽の光を受けて輝いている。
整列をして待機している『3代目戦車道チーム』のメンバーは、緊張の極限にいた。
自分達にとって神業と思える技術を持った『幻の先輩達』が、今近づいてくるのだ。
大森翔子、浦田かなえ、浦田恵、北川亜希子は、通学途中と更衣室で聞いた遠藤祐子の言葉『凄すぎて怖い』の意味を知った。
そして改めてその『言葉』の意味を実感していたのである。
今『初代あんこうチーム』の5人が、2年ぶりに全員揃って『現大洗女子学園戦車道チーム』の前に立っている。
遠藤祐子は、先輩達が並び終えるのを確認すると『3代目あんこうチーム』の先頭に移動して、直立不動で整列した。
澤梓は『初代あんこうチーム』の傍に移動をし『現戦車道チーム』全員に命令口調で話を始めた。
「戦車道チーム。全員注目! 今日、朝から報告した通り『初代あんこうチーム』の先輩方が来てくださいました。皆さん初めてお会いすると思うので、改めて紹介させてもらいます!」
そう言うと『初代あんこうチーム』の方を見て、並んでいる順を再度確認してから紹介を始めた。
「私から一番遠い、向かって左側から、操縦手の『冷泉麻子』先輩です」
「……冷泉です。よろしく」
大森翔子はイメージしていた冷泉麻子と全然違う事に驚きを隠せなかった。
(小さな先輩だなぁ……。桂利奈先輩と同じくらいだ。でもあの操縦技術……信じられない)
「次に、砲手の『五十鈴華』先輩です」
「五十鈴華です。みなさん、はじめまして!」
浦田かなえも全く想像と違う砲手の五十鈴華にびっくりしている。
(あんなに優しそうな先輩が、なんで砲手っていうか、戦車道やっていたんだろ……)
「次に、装填手の『秋山優花里』先輩です」
「秋山優花里であります! 皆さん宜しくお願いします!」
浦田恵も同じようにイメージが違ったようだ。
(あの重い砲弾を次々に装填していくから、もっと大きな人かと思ったのに……)
「次に、通信手の『武部沙織』先輩です」
「武部沙織です! 皆さんよろしくね!」
北川亜希子は、武部沙織を見て、なぜか少しライバル心を持った。
(なんだか軽そうな先輩だなぁ……。この人が国家資格を持っているなんて信じられない)
「そして最後が車長で、初代戦車道チーム隊長の『西住みほ』先輩です」
「西住みほです。皆さん宜しくお願いします」
この西住みほの紹介は『現戦車道チーム』全員が意外だったのである。
(なんて可愛らしい先輩なんだろう……。この先輩が学校を救ってくれた隊長なの?)
先輩達に対しての感じ方はそれぞれ違うようだが『3代目戦車道チーム』は、先輩の紹介ごとに一斉に声を揃えて「宜しくお願いします。」と返事をした。
「皆さん! 先ほど見たように、先輩達の技術はすごいものがあります……。時間は限られていますが、皆さん気を緩めずに、先輩達の訓練指導を受けてください。いいですね!」
澤梓は、もう一度気を引き締めるよう戦車道チーム全員に注意した。
それに応えるように、再び『現戦車道チーム』は一斉に声を揃えて「ハイっ。宜しくお願いします」と告げた。
それに応じるように、西住みほ達『初代あんこうチーム』全員もお辞儀をした。
全員の紹介が終わったところで、澤梓は西住みほの方を向き、直立不動で質問をした。
『現戦車道チーム』のメンバー全員が驚いている。
2代目隊長、澤梓の声が緊張しているのである。
「にっ、西住隊長! 訓練は何から始めましょうか?」
それに対して、西住みほは、少し命令口調で答えた。
「梓ちゃん……。私達は、皆さんの実力をまだよく知らないので、最初は基本訓練の様子を1時間ほど見学させてください。そして昼食、休憩のあと1時から本格的に指導訓練をしましょう」
西住みほの提案に対し、ビシッと背筋を伸ばした澤梓は、緊張した声で返答した。
「はい、西住隊長、了解しました。では、遠藤隊長、指示をよろしく」
「はいっ。澤隊長、了解しました。……では、最初に走行訓練から行います。全員、戦車に乗り込んでください」
「ハイっ!」
キビキビと動きながら、戦車道チームは戦車に乗り込んでいった。
基本訓練も一通り終了し、お昼休憩に入った。
遠藤祐子、大森翔子、浦田かなえ、浦田恵、北川亜希子の5人は、ブリーフィング広場に近い木陰の下で昼食を取ったあと、思い思いの体勢で体を休めていた。
みんな、基本訓練だけで疲れたのか一言も喋らない。
いや、疲れているわけではなそうである。
遠藤祐子は、みんなの態度が少しおかしいことに気づいた。
「ねえ、みんな……、なんだか元気がないようだけど、どうかしたの?」
大森翔子がうつむいていた顔を上げて、遠藤祐子の方を見て言った。
「……祐子は見ていないんだよな。先輩達の練習を……」
その言葉に浦田かなえ、恵の姉妹も、次々に心情を言った。
「……私、ついていけるかな? 先輩達の訓練指導……」
「かなえちゃん……私ね、逃げ出したくなっちゃった」
北川亜希子は、さっき湧いたライバル心が結局嫉妬みたいなものだと感じていた。
「他の先輩達の実力があれなら、通信手の先輩もものすごいんだろうなぁ」
遠藤祐子は、自分が今まで知っている彼女達ではない弱気な発言に驚きながら、また彼女たちを励ますように話を続けた。
「どうしたの? みんな……。みんならしくないよ、あれだけ今日のために訓練してきたじゃない」
しかし、あの男の子まさりの大森翔子がポツンと言うのである。
「祐子。『Ⅳ号ダンス』って知っているか? 戦車がダンスしちゃうんだぜ……」
続くように、浦田かなえ、恵の姉妹も、遠藤祐子にむかって言った。
「祐子ちゃん! 『サジタリウス』って「神の矢」って意味だよね。絶対外さないって言う……」
「祐子ちゃんは見ていないから言えるのよ。なんなの! あの装填スピード! 75mm砲徹甲弾だよ! 重いんだよ。あれって」
北川亜希子も、大森翔子と同じようにポツリと話しだした。
「……祐子ちゃんが言っていたでしょ。『「凄すぎて怖い」っていうのは、先輩達に会ってみればわかる』って。私ね、しみじみ思ったの。本当に怖い……」
そして大森翔子がさらに話をつなげた。
「あの先輩達の乗る戦車の車長なんだぜ。西住先輩って……」
「……怖すぎるよ」
浦田恵が、身を震わせながら言った。
今度は浦田かなえが、いつもと違うしんみりとしながら話した。
「……私、もっとちゃんと戦車道続けていればよかった……」
私もそう。……私達の基本訓練を見て、先輩達どう思ったのかなぁ?」
北川亜希子が、遠藤祐子も除いた、全員の気持ちを言葉にした。
遠藤祐子は本当に驚いた。
こんなに弱気なメンバーを見るのは初めてだからである。
あの、いつも男の子みたいに豪快な大森翔子が弱音を吐いているのである。
しかし、隊長として皆の前で弱音は吐けない。
「みんな、元気出していこうよ。先輩達の技術を盗んじゃおうよ!」
しかし、それでもまだダメである。
「祐子……。見てない者の強みだな」
「ホント。あれは盗めるような代物じゃないよ」
「根本的に私達とは違う何か別のものみたい」
大森翔子と浦田かなえ、恵姉妹は、同時にため息をつきながら言った。
そんな風にみんなが弱気な会話をしているところへ、澤梓がやってきた。
「みんな……昼食は済んだ?」
「はい、済みました」
遠藤祐子が代表して、澤梓に返答した。
そのあと、浦田かなえが澤梓の方を見て質問をした。
「あのう……澤隊長に聞きたいことがあるんですけど」
「なあに? かなえちゃん」
「西住先輩達は、私たちの基本訓練を見学されて何か言ってらっしゃいましたか?」
大森翔子も、浦田かなえに続くように補足した。
「そうです、基本訓練終了後も、なにも言わずに解散になっちゃって……。澤隊長は、ずっと西住先輩達のそばにいらっしゃったんですよね」
矢継ぎ早に出てくる質問に、少し驚いた澤梓だったが、笑いながら聞き返した。
「なあに、みんなどうしたの? 揃って貴方たちらしくないよ」
「……私達、心配なんです。先輩達にどう思われたのか? 先輩達の目には、私達ってどう映っているのか」
北川亜希子が、しょんぼりした風に答えた。
皆が、一様に澤梓の方を見つめている。
心配なのだ。
今まで真剣に戦車道をやってきていたとしても『初代あんこうチーム』のメンバーと比べたとき、どうしても卑屈になってしまう。
特に、浦田かなえ、浦田恵、北川亜希子は、途中で戦車道を辞めてしまっている。
みんなの不安な思いを感じ取ったのか、澤梓は静かに口を開いた。