ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿)   作:熊さん

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皆さんは上手に出来ていますよ。

 

「それじゃあ、みんなとちょっとお話をしようか?」

 

 澤梓はそう言うと5人に丸く輪を作るように指示してその輪の中に加わり、腰を下ろした。

 そして5人の顔を見渡すようにしながら、思い出すように話を始めた。

 

「西住隊長の指揮で初めて試合をしたのは、聖グロリアーナ女学院との親善試合だった」

 

 その時の事を思い出して、澤梓は「うふふ」と笑いながら話を続けた。

 

「私達はその時は1年生でね。戦車道というが何かよく分からずにいたの。ほら、今の1年生用の練習車両『M3中戦車リー』の車体をね、1年生の皆でピンク色に塗り替えたのよ」

 

 遠藤祐子は、驚きとも呆れたとも言えぬ声を上げた。

 

「えっ、……『M3リー』を「ピンク」にですか?」

「そっ! 今思うととんでもない事しちゃったんだけどね。でも西住隊長は笑っただけで何にも言わなかったわ」

 

 そして、澤梓はもう一度みんなを見渡して話を続けた。

 

「それでね、実際試合を始めたら訓練通りにいかないのよ。当たり前よね。ちょっと訓練したぐらいで当たるわけないものね。……そうしているうちに、今度は聖グロリアーナ女学院の方からの集中攻撃よ」

 

 そこでまた澤梓は笑いながら、言ったのである。

 

「……もう私達怖くってね。戦車を置いて逃げ出しちゃったの」

 

 

 大森翔子が聞き間違えたかと思い、澤梓の言葉を繰り返した。

 

「……えっ、逃げたって?」

「言った通りよ。戦車を放り出して逃げ出したの。1年生全員」

「えっ、澤隊長! あの桂利奈先輩も、ですか?」

「そう。翔子ちゃんには信じられないわよね。翔子ちゃんの知ってる桂利奈ちゃんは、いつも敵戦車の中に真っ先に突っ込んでいく桂利奈ちゃんだもんね」

 

 大森翔子の質問に笑って澤梓は答えた。

 そして話を続けた。

 

「それでね、それから私達は近くにあった見晴らしのいい木に登って、試合の様子を1年生全員で見てたのよ」

 

 澤梓はそこで、みんなに言い聞かせるように言ったのである。

 

「西住隊長は最後まで諦めなかったの。……隊長車の先輩達だってそうなのよ。先輩達だって私達と同じ時に戦車道始めた、いわゆる新人さんなのよ。……結果は負けちゃったんだけど、私達は恥ずかしかった。試合を投げ出したことも、最後まで戦わなかったことも……。そして、1年生みんなで西住隊長達に謝りに行ったの。西住隊長は怒りもせずにっこり笑ってくれたわ」

 

 澤梓は、もう一度皆の顔を見渡しながら言った。

 

「みんな、わかるかな? 西住隊長は気づかせてくれるのよ。今の自分達に一番必要なものが何かって。その時の私達は『最後まで逃げないこと』だったわ。西住隊長が、訓練指導している中できっと気づかせてくれるはずよ」

 

 そして、澤梓は皆を励ますのであった。

 

「そしてそれに気づいたら、それに向かって乗り越えられるように進めばいいの。その為に隊長車の先輩達がいるの。教えてくれるはずよ。どうすればいいかを……」

 

 そこまで話した澤梓は、すっくと立ち上がると思い出したように言った。

 

「あっ……そうそう、翔子ちゃん、かなえちゃん、恵ちゃん、亜希子ちゃんに言っておくわ。隊長車の先輩達がね、褒めていたわよ。『よく「Ⅳ号中戦車」をあそこまでレストアと調整したね』って」

「ほ……本当ですか?」

「本当よ! だから自信持ちなさい。……そろそろ集合時間ね。遅れないようにね」

 

 澤梓はそう言うと、ブリーフィング広場へ歩いて行った。

 

 遠藤祐子達は、立ち上がりながら話をした。

 

「おい、かなえ、恵、亜希子! 先輩達が褒めてくれたって……」

「うん、澤隊長、そう言ったよね。」

「私、うれしい! うれしいよ!」

「よし、みんな、訓練指導頑張ろうよ!」

 

 皆に元気が戻った。

 遠藤祐子は、自分も励ますように声を上げた。

 

「うん、みんな頑張ろう!」

 

 5人は駆け足でブリーフィング広場に向かった。

 ブリーフィング広場に『現戦車道チーム』全員が揃ったあと『初代あんこうチーム』がやってきた。

 西住みほは、整列して待機している『現戦車道チーム』を前にして言った。

 

「先ほど皆さんの基本訓練の様子を見せていただきました。その後、お昼休憩の間に私達は全員で話し合いをしました。……もう少し皆さん達の力を知りたいと思います」

 

 そう言った西住みほは、全員をグルリと見渡すと指示を出した。

 

「今から私達と『鬼ごっこ』をしてもらいます。……ただし時間がないので、主力戦車の『ティガーⅠ、Ⅱ』の3輌と『M4』の3輌の計6輌とで行います。……時間は20分間です。今から10分後に訓練を開始します!」

 

 そこまで言うと、傍で待機している澤梓の方を向いた。

 

「梓ちゃんは、タイムキーパーをお願いします」

「はい、西住隊長、了解しました」

「それでは、今から準備に入ってください」

 

 

 『鬼ごっこ』訓練。

 大洗女子学園の射撃と走行の複合訓練のひとつ。

 1輌の戦車は逃げ回り、他の戦車が行進間射撃で射撃するというものである。

 通常は1輌と2輌の対戦で行ない、1回の訓練時間は5分間でおこなうのである。

 

 

 ……なので、西住みほのこの提案には『現戦車道チーム』全員が一斉にざわついた。

 

「それじゃあ、スタート地点に行きましょう」

 

 西住みほはそう言って『初代あんこうチーム』のメンバーと一緒に、揃って高台を下りていった。

 遠藤祐子は「ちょっと信じられない」という感じで、澤梓に向かって話しかけた。

 

「澤隊長……、いくらなんでも1対6の『鬼ごっこ』だなんて……」

 

 それに対して、澤梓は厳しい口調で言ったのである。

 

「大丈夫よ、それより、あなた達の方こそ気合を入れないとダメよ。『Ⅳ号』にカスリ傷ぐらいはつけておいで……」

 

 

 スタート地点に『Ⅳ号中戦車』の1輌と『ティガーⅠ・Ⅱ』『M4中戦車』の計6輌が着いた。

 澤梓の合図で、まず『Ⅳ号中戦車』が動き出した。

 そして、また澤梓の合図で「鬼ごっこ」訓練が始まり、遠藤祐子達の戦車群が動き出した。

 高台から澤梓は、残った他の『現戦車道チーム』の面々に告げた。

 

「みんなも、よく見学しておきなさい。」

「はいっ!」

 

 残ったメンバーは、一斉に双眼鏡を準備して覗き込んだ。

 

 訓練場に轟音が響き渡り、土煙があちらこちらで上がっている。

 逃げ回る『Ⅳ号中戦車』を目標に、6輌の戦車が集中砲火を浴びせる。

 しかし……当たらない。当たらないのである。

 当たらないどころか、まるで闘牛士のように『Ⅳ号中戦車』は軽やかに砲撃をかわしていく。

 ブリーフィング広場の高台には、戦車無線の受信機がある。

 聞こえてくる無線の大半が、パニックとなっている遠藤祐子たちの無線会話で、その中に混じり、西住みほの短い指示が聞こえる。

 その短い指示が聞こえた直後には『Ⅳ号中戦車』は動きが変わっているのである。

 

 そして、20分間の『鬼ごっこ』訓練は終了した……。

 

 訓練を終えて戻ってくる車中で、西住みほ達は「鬼ごっこ」訓練の感想を話し合った。

 

「みんな、どうだった? 何か気づいたことはあった?」

 

 西住みほは、各担当席に座るメンバーに聞いてみた。

 西住みほの方に振り向き最初に感想を言ったのが、秋山優花里であった。

 

「西住殿。『なんとなく』で感じていたものが、この『鬼ごっこ』ではっきりしました。みんなの技術はそれぞれいいものを持っていると思います。……はっきり言って上手だと思います。でも、それが上手く繋がっていません。まるでバラバラに感じました」

 

 クルッペから外を見ながら戦車を操縦している冷泉麻子も、この秋山優花里の意見に同意した。

 

「……それは私も思った。クルッペから見ていて、戦車の動きと主砲の動きが一致してない。一致していないから『Ⅳ号』が逃げる為の余裕がある」

「通信も、連絡指示と報告がワンテンポ遅れている気がしたよ」

「砲撃も『最後はただ撃っているだけ』って感じでしたわ」

 

 武部沙織と五十鈴華も、西住みほの方に振り向いて意見を言った。

 皆の意見を聞いて、最後に西住みほが自分の意見を言った。

 

「私もね、みんなと同じ感想」

 

 一旦、西住みほは間を置いたが、あらためて皆の意見と感想をまとめた。

 

「……つまり、戦車の中でお互いの連携ができていないってことなのかな」

 

 冷泉麻子がこのまとめた意見に賛成した。

 

「……そうなんだと思う。お互いの事が分かり合えていないと思う」

「うーん、自分のことだけで精一杯なのかな?」

 

 武部沙織の疑問に、秋山優花里が答えた。

 

「どうなんでしょうね? でも、あれだけ上手なのですから『精一杯』ってわけでもないんじゃないですか?」

「つまり『自分が仲間の為にどんな役割をしなければいけないか』を知らないってことでしょうか?」

 

 五十鈴華のこの意見に対して、秋山優花里が手を打って同意をした。

 

「五十鈴殿。まさにそれだと思います」

「……つまり、仲間に対しての自分の心構えか」

 

 冷泉麻子が簡潔にまとめた。

 そして、武部沙織が再度西住みほに聞いた。

 

「ミポリンはどう思う?」

「私も、みんなと同じ意見……。『お互いを助け合う事。信じ合う心が少し足りない』かな? そうじゃなきゃあんなに戦車の動きがバラバラにならないと思う」

 

 西住みほは、皆を見て力強く言った。

 そして、メンバーは全員が返事をした。

 

「……それじゃ、午後の個別訓練の方針は決まったね!」

「西住殿、そうですね。決まりましたね」

「……そうだな。隊長」

「わかりましたわ。みほさん」

「うん、ミポリン、わかったよ!」

 

 全員の意見が一致したことを確認して、西住みほは決定した。

 

「じゃあ皆さん、それでいきましょう」

 

 

 ブリーフィング広場の高台に戻ってきた『初代あんこうチーム』の5人。

 

「皆さん、お疲れ様でした」

『お疲れ様でした……』

 

 整列して待機している遠藤祐子達『3代目戦車道チーム』全員にむかって、笑顔で西住みほは話しかけた。

 しかし、遠藤祐子達『3代目戦車道チーム』は、残っていたわずかな自信が全て『初代あんこうチーム』により吹き飛ばされてしまったのである。

 まったく話にならないというのは、こういうことなのだろう。

 「鬼ごっこ」に参加したメンバーは、一様にうなだれていた。

 そして西住みほは、うなだれているメンバーを見渡して言った。

 

「私達はみなさんと一緒に訓練して、あなた方が持っている実力がわかりました」

 

 遠藤祐子達は、まるで悪い点数だと解っている解答用紙を返してもらう生徒のようにビクビクしていた。

 しかし、西住みほが告げた言葉はまったく違っていたのである。

 

「皆さん達は上手だと思います! ……基本もしっかりと身につけています。これからの訓練次第でさらに強くなれます!」

 

 笑顔で西住みほは、話を続ける。

 

「もちろん今の段階では気になることはたくさんあります。……でも、みんな克服できるものばかりです。皆さん自信を持って一緒に頑張りましょうね」

 

 遠藤祐子達は、この感想に驚いて『初代あんこうチーム』のメンバーの顔を見直した。

 5人の先輩達全員が笑っているのである。

 呆れている先輩は一人もいなかった。

 あれだけボコボコにされたのに、である。

 

 澤梓はニッコリと微笑むと、皆に向かって言ったのである。

 

「みんな、西住先輩達が褒めているんだよ。よかったね……」

 

 澤梓のこの一言は『現戦車道チーム』メンバーの、それまで貯めていた気持ちを刺激した。

 負け続けることで『3代目戦車道チーム』が無くしていった『自分達への自信』だった。

 しかし、初代隊長チームが『大丈夫よ! 自信を持ちなさい』と言っているのである。

 『3代目戦車道チーム』のあちらこちらですすり泣く声が聞こえてきた。

 しかし、遠藤祐子は3代目隊長である。

 皆と同じように、泣くわけにはいかないのである。

 

「西住先輩。私達は今まで試合に勝ったことがありません。でも先輩は今『上手だ』と言われました。……上手なのに、なぜ勝てないのですか?」

 

 戦車道のみんなは、この遠藤祐子の言葉に、ハッとして顔をあげた。

 なるほど、全くその通りである。

 この疑問は『現戦車道チーム』の全員の疑問だった。

 西住みほはこの質問に対しては、少し口調が変わって答えた。

 

「試合では戦車の扱いが上手なだけでは勝てないんです。上手な部分の上に『強さ』が必要なんです。みんなで『強さってなんだろうか』を考えてみてください」

 

 西住みほから『現戦車道チーム』全員へ謎かけが出された。

 遠藤祐子達は、必死に考えた……

 だが、その答えは彼女達にはまだわからなかったのである。

 

 西住みほは、その後いよいよ訓練指導に入ることを告げた。

 

「それでは今から、訓練指導を行います。まず、担当別に我々が個別に技術指導をします。隊長及び車長は『私』がします。通信手は『武部さん』が行います。同じく、装填手は『秋山さん』が行います。砲手の方は『五十鈴さん』がします。そして、操縦手は『冷泉さん』が行います。……それでは、みなさん、各担当の先輩の前へ移動してください」

 

 「ハイっ」と返事をした『現戦車道チーム』のメンバーは、各々の役割の先輩の前に移動した。

 西住みほ『初代あんこうチーム』のメンバーの方を向いて指示を出した。

 

「じゃあ、みんな、後はよろしくね」

 

 それに対して、各メンバーが返事をした。

 

「ミポリン! わかった。まかせて!」

「西住殿! 了解であります!」

「みほさん、わかりましたわ」

「……了解、隊長」

 

 これからいよいよ、個別での訓練が始まる。

 遠藤祐子、大森翔子、浦田かなえ、浦田恵、北川亜希子は、さっき澤梓が言っていた「自分達に必要なものに気づかせてくれる」を思い出していた。

 

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