ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿)   作:熊さん

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後輩の皆に伝えておきたい

 

 時間は少し逆上る。

 

 後輩達の基本訓練を見学した西住みほ達は、澤梓を含めた6人で学校内にある大食堂で昼食をとっていた。

 西住みほが乗ってきた「小型トラック」に澤梓が運転をして助手席に西住みほ、荷台にメンバー4人が乗ってきた。

 普段、日曜日は大食堂は空いていないのだが、理事長が生徒会長に連絡をして大食堂を開けさせるように伝えていた。

 

 大食堂の食事係のおばちゃんは、西住みほ達がやってくることを聞いて喜んで食事の準備をしていた。

 

「あら、みほちゃん! ひさしぶりね。こんなに綺麗になって……。おばちゃんビックリしたわよ」

「おばさん、お久しぶりです。今日は無理言ってすみません」

「いいのよ。久しぶりにおばちゃんの食事、お腹いっぱい食べていってね」

「ありがとうございます」

「沙織ちゃん達も、いっぱい食べてってね」

「おばさん、ありがとうございます」

 

 『初代あんこうチーム』の5人と澤梓は、高校時代に戻った感じでウキウキしていた。

 

「ルンルン、ミポリン! ルンルン、ミポリン!」

「 ……おい、沙織。嬉しいのはわかるが、ちょっとはしゃぎすぎだと思うぞ」

 

 鼻歌を歌い西住みほの傍にべったりの武部沙織にむかって、冷泉麻子が冷静になるようたしなめた。

 しかし、武部沙織は気にしない。

 

「だって、本当に久しぶりなんだよ。それに熊本って遊びに行こうって思っても行ける距離じゃないんだよ。……麻子だって嬉しいくせに!」

「嬉しいのは沙織と一緒だが、隊長の迷惑も考えたほうがいい」

「麻子さんいいんです。私だって歌いたい気持ちですから……」

 

 西住みほは冷泉麻子の気持ちをありがたく思った。

 そんなやりとりを傍で見ていた秋山優花里と五十鈴華もニッコリと笑い、顔を見合っている。

 

「ホント、武部殿の言う通りです。私も武部殿みたいに歌いたい気分です」

「卒業以来ですものね。こうしてみんなでおしゃべりするのも……」

「みんなぁ……本当にみんなに会えてうれしい」

 

 大食堂のテーブルにおばちゃん特製定食を並べて、各々笑いながらお昼を食べる。

 高校時代はいつもそうしてきたのである。

 西住みほは、心の底から笑えるのは久しぶりだと思った。

 大切な友達が、今、目の前で楽しそうにおしゃべりしている。

 それを見ているだけで、心から嬉しさがこみ上げてくる。

 笑顔になってくる。

 

「先輩達、改めて今日集まっていただいた事、本当にありがとうございます」

 

 澤梓は心から感謝の気持ちを告げ、同じテーブルに座ったままであったがその場でお辞儀をした。

 それに対して西住みほが顔の前で手を左右に振りながら言った。

 

「梓ちゃんいいのよ。気にしないで……。それに私もちょっといろいろあったから、みんなと会って話をしたかったの」

 

 武部沙織は、西住みほの話にみんなを見渡して胸を張った。

 

「やっぱり……。ほら、私の言ってたとおりでしょ!」

「さすが武部殿です。『恋愛の達人』は伊達ではありませんね」

「優花里……それは微妙に違うと思うぞ」

 

 冷泉麻子が笑いながら秋山優花里に突っ込んだ。

 そして、五十鈴華は武部沙織を見て言った。

 

「でも、沙織さんの『ミポリン奪還作戦』は見事成功ですね」

「……『ミポリン奪還作戦』?」

 

 西住みほは不思議そうな顔で武部沙織の方を見た。

 武部沙織は、西住みほを見て言った。

 

「うん、実はね、私、ユカリンから『戦車道マガジン』に載ったミポリンの顔を見せてもらったのよ。……その顔を見た瞬間、ピンときたんだ! 『今のミポリンは絶対悩み事がある』って思ったの。だってね、昔『勝たなきゃダメなんだよね』っ言っていたミポリンの顔と一緒だったんだもん」

 

 そして、秋山優花里が続いて話しだした。

 

「私は武部殿からそれを聞いて初めて気づいたんですよ。……西住殿の雰囲気が違っていることにです」

「それでね、華と麻子が訓練を手伝ってくれることが決まったら、絶対にミポリンを呼ばなきゃ……って、ユカリンに言ったの」

 

 武部沙織がそう言うと、すぐに秋山優花里が補足した。

 

「西住殿なら、多分澤殿や遠藤殿がお願いしたら全員揃わなくても来てくれるとは思っていました。……でも、それじゃ意味がないんですよ。私達はいつも5人でいろんなことを乗り越えてきたんですから……」

 

 秋山優花里のこの発言に、武部沙織も、五十鈴華も、冷泉麻子も頷いた。

 

 西住みほは、自分の事を心配してくれる皆の優しさに思わず泣き出しそうになった。

 『西住流』の家名を背負い、最年少日本代表として先輩代表達との軋轢に悩み、誰にも相談できず自分を押し殺しながら進んでいる今の自分の戦車道。

 しかし、みんなはわかってくれていた。

 たった一枚の写真から私の気持ちを察してくれた。

 西住みほは、本当に彼女達と友達になれてよかったと思った。

 

 

「ミポリン。だから悩みがあるなら、相談してよ」

「……隊長。私達で解決できるのなら、喜んで協力する」

「もちろん、私も協力致しますわ!」

「西住殿……」

 

 武部沙織、冷泉麻子、五十鈴華、秋山優花理がそれぞれに、西住みほに話してきたのである。

 

 西住みほは今にも流れ落ちそうになる涙を手の甲で拭いながら言った。

 

「みんな、ありがとう。私……私ね、本当にみんなと友達になれてよかった! ……私ね『自分の戦車道』っていったいなんなのか、またわからなくなっていたの。日本代表の先輩達や『西住流』のお母さんやお姉ちゃんとまた過ごすようになって……。でもね、みんなに会えて思い出したことがあるの。『華さんと沙織さんが言ってくれた言葉』をね」

 

 西住みほからそう言われた武部沙織と五十鈴華は、お互いを見合って首をかしげた。

 

「えっ……私、何か言ったかな?」

「なんでしょうか。覚えてないです」

 

 それに対して西住みほは笑って答えた。

 

「うん。『私の戦車道の支えになってくれた言葉』なの」

「私、そんな重大なこといったかな?」

 

 武部沙織は再び首をかしげたが、それに対して秋山優花里が言った。

 

「武部殿、人の支えになる言葉っていうのは案外自分では覚えていないんじゃないでしょうか」

 

 そこに意外な人物が話に加わったのである。

 

「……私は、多分あの『言葉』じゃないかと思う」

「えっ……、麻子さんは覚えているんですか?」

 

 五十鈴華が驚いて、冷泉麻子に聞き返した。

 そして、それに対して冷泉麻子は、皆に逆に聞き返したのである。

 

「……みんな覚えているか? 初優勝した時の2回戦アンツィオ高校戦の前に、戦車倉庫で戦車と一緒に皆でお昼を食べた事を……」

「うーんと……はい、はい、ありましたね」

 

 秋山優花里が思い出したように相槌を打った。

 冷泉麻子はそれを見て話を続けた。

 

「あの時も隊長は写真に写った顔と同じ顔をしていた。……『勝たなきゃダメなんだよね』って思いつめたように言っていた」

 

 西住みほは冷泉麻子の話に「その通り」といった感じに、にっこりと笑った。

 そう、あの時も、勝たなきゃダメ。

 勝たなきゃ意味がなくなる。

 そう思い込んでいた自分がいたのだ。

 冷泉麻子は西住みほの方をむいて、間違っていないか確かめた。

 

「西住隊長……多分、その時に2人が言った『あの言葉』なんだろう?」

「うん、そう! その『言葉』が私の気持ちを楽にしてくれたんです」

 

 あいかわらず武部沙織と五十鈴華は思い出せずにいる。

 

「うーん、思い出せない……」

「……私もです」

「……なぜ、私が覚えているかというのは、その2人の言葉で私も本当の覚悟ができたからなんだ。戦車道を本気でやる覚悟ができたんだ」

 

 冷泉麻子が初めて話す自分の戦車道についてのことだった。

 澤梓は初めて聞く話だった。

 姿勢を正しながらこの話を聞いている。

 もちろん、他のメンバーも同じである。

 

「華さんと沙織さんが言ってくれた言葉は……『戦車道の道はひとつじゃない』って、華さんが言ってくれました。『私たちが歩いた道が戦車道になるんだよ』って、沙織さんが言ってくれました。……みんなが、私の気持ちを救ってくれたんです」

 

 西住みほに続いて、冷泉麻子も話を続けた。

 

「……私は、その時まで自分の単位が取れるかどうかだけが問題だった。朝もあいかわらず苦手で、沙織に起こしてもらっていたしな。……でも、2人が言ったなにげない言葉で隊長の顔が優しく変わったんだ。……2人の隊長を思う暖かい言葉が隊長の役に立ったんだ。……私も、その時真剣にみんなの役に立ちたいって思った。……だから、私は覚えていたんだ」

「そういえば麻子、確かにその頃からだよね、朝ずいぶん早く起きれるようになったのは」

 

 武部沙織はその頃のことを思い出すように言った。

 秋山優花里は少しビックリしたように冷泉麻子にむかって話した。

 

「冷泉殿がそんな風に思っていたなんて、全く知りませんでした」

「麻子は自分のことは滅多に話さないもんね」

 

 武部沙織は笑いながら言った。

 そして、西住みほはメンバーを見ながら続けて言ったのである。

 

「麻子さんが思ったように、私も梓ちゃんや遠藤隊長の役に立ちたいんです」

 

 皆から戻ってきた返事はもちろん一緒である。

 

「自分も、であります」

「私も、です」

「私だって、そうだもん」

「もちろん、私もだ」

 

 傍で一連のやりとりを聞いていた澤梓は、後輩たちは幸せ者だと感じていた。

 こんなに、真剣になって思ってくれる先輩達を持ったのだから……。

 

 お昼ご飯も終わり、みんなで午前中に見た基本訓練の感想を話しだした。

 西住みほが口火を切った。

 

「まずは走行訓練からだったけど、麻子さん何か気づいたことはあった?」

「うん……うまくまとまってはいたと思う」

「うん『上手だな』って、私は思ったよ、ミポリン!」

「でもなんか『引っかかるもの』を私は感じました。うまく表現できませんが……」

 

 武部沙織と五十鈴華が冷泉麻子に続いて意見を言った。そして最後に秋山優花里が感想を言った。

 

「自分は、なんとなくなんですが『上手にしなくちゃ』って感じを受けました」

「私もそう。なんだか『上手に、上手に』って感じを受けた」

 

 皆の意見を聞いた上で西住みほは自分の感想を言ったのである。

 それに対して、さらに冷泉麻子が具体的に分析をした。

 

「……多分『操縦手』が周りの戦車に合わせようとして、細かく戦車を動かしすぎているからだ、と思う。……自分の感覚でちゃんと覚えていれば問題ないはずなんだが」

 

 さすが、天才と言われた操縦手である。

 そこで、西住みほはさらに冷泉麻子に聞いた。

 

「麻子さん、ほかには何かある?」

「これは、逆に隊長に提案なんだが……」

「えっ、麻子さん、どんなこと?」

「『鬼ごっこ』で『操縦手の技術』を見てみたいと思うんだがどうだろうか」

「『鬼ごっこ』で……?」

 

 西住みほが聞き返すと、その提案に同意する他のメンバー達であった。

 

「みほさん、私も麻子さんの提案に賛成です。さっき優花里さんやみほさんが言ったとおり、砲撃訓練も『上手に、上手に』って感じでした。『鬼ごっこ』なら実際のチームの実力がそばで見て取れます」

 

 五十鈴華の砲手としての意見である。

 さらに、秋山優花里と武部沙織も賛同した。

 

「装填手の実力も見れますしね」

「戦車無線で傍受もできるから、どんな交信をしているか私にもわかるしね」

 

 皆の意見が一致したのを確認すると、西住みほは意見のまとめをした。

 

「うん、確かにそうだね。彼女達の足りないものを見つけるには、彼女達と戦ってみるのが一番よね。それじゃあ、午後からの訓練は最初に『鬼ごっこ』しましょう」

 

 そこで、訓練実施にあたっての問題点の提起を秋山優花里がおこなった。

 

「でも、西住殿……、全部となると時間が足りなくなってしまいます」

「……主力戦車の6輌と一度にやるのはどうだ」

 

 また冷泉麻子からの逆提案である。

 少し驚いて秋山優花里と武部沙織が、聞き返した。

 

「『ティガー』と『M4』と、ですか?」

「麻子、大丈夫? 操縦は久しぶりなんだから……」

 

 もっともな意見だが冷泉麻子は「心配いらない」というような口調で言った。

 

「……それは大丈夫だ。さっきの練習で操縦感覚はもどった」

「時間はどうする?」

 

 武部沙織の質問である。

 これには秋山優花里と五十鈴華が提案した。

 

「自分は『装填手の体力』が知りたいです。時間が長ければ長いほど実力がわかります」

「私も『砲手の集中力』も知ることができます」

 

 2人の提案を聞いた西住みほは、冷泉麻子の方を見て心配そうに言った。

 

「麻子さんに負担がかかりますね」

「……それは気にしなくていい。それに操縦手としてやはり戦車の操縦は楽しい。皆、20分くらいでどうだろうか?」

「はい、それで十分です」

「私も、それで結構です」

「……それじゃ隊長。主力6輌との『鬼ごっこ』で時間は20分でいいだろうか?」

 

 冷泉麻子の時間の提案に秋山優花里と五十鈴華が納得して、再度『鬼ごっこ』訓練の具体的内容が西住みほに提案された。

 

「わかりました。では、それでいきます。そして『鬼ごっこ』中に各人が気になるところを見つけ出して、『鬼ごっこ』が終わってから担当係ごとに分かれて指導訓練しましょうか?」

 

 西住みほが訓練後の各メンバーの確認を取った。

 

「はい、西住殿、了解です」

「うん、ミポリン、わかったよ」

「はい。みほさん、わかりましたわ」

「……了解、隊長」

 

 一応、午後からの指導訓練の方向が決まったのだが、それを含めてなのであろう、西住みほがまた提案をした。

 

「それでね、みんな。これは私からの提案なんだけど……私達の『アレ』を後輩の皆に伝えておきたいの」

 

 秋山優花里が、西住みほに、逆に聞き返した。

 

「『アレ』って『アレ』をですか?」

「うん、もう5人揃って戦車道を教えることはもしかしたらできなくなるかも知れないし、……結局、梓ちゃんたちにも教えることができなかったし、試合でも使うことがなかったから……」

 

 五十鈴華が頷きながら同意した。

 

「確かにそうでしたわね」

「でも、今の後輩ちゃん達じゃ絶対無理だよ」

 

 武部沙織が否定的な意見を出したが、これに冷泉麻子が前向きに意見した。

 

「……ということは、隊長。その基礎になるものも一緒に教えるってことなのか」

「うん、きっと彼女達の役に立つと思うから」

 

 そこで、武部沙織が思い出したようにメンバーに言った。

 

「そういえば、確か『アレ』にはちゃんとした名前つけてなかったよね」

「『アレ』で私達はわかりますから、名前は必要なかったですし……」

 

 秋山優花里は言った。

 それに対して、また武部沙織は言った。

 

「……『名前』ちゃんと決めておけばよかったね。……今、決めちゃおうか『アレ』の名前」

「それじゃあ『アレの命名権』を後輩の皆さんにプレゼントしたらどうですか? 私達はもう使えないんだし、後輩の皆さんがすることで初めて活かしてもらうことができますよ」

 

 秋山優花里から皆に提案がされて、冷泉麻子が賛成をした。

 

「……確かにそうだな。後輩達が繋げていく事に意味があると思う」

「みんな、それでいいかな?」

 

 西住みほが皆を見渡して確認をした。

 もちろん反対意見はない。

 

「いいよ」

「異議ありません!」

「……私もいいぞ」

「私も、ですわ」

「じゃあ、みんな、訓練指導の事、よろしくね」

 

 西住みほはニッコリ笑いながら、メンバーにお願いしたのである。

 

 澤梓は、傍で黙って先輩達の指導訓練までの感想を聞いていた。

 さすが先輩達である。

 的確にチームの現状を見抜こうとしている。

 そして、最後の「西住みほの提案」である。

 

(私たちにも教えられなかったもの……いったいなんの事だろう……)

 

 澤梓は気になって仕方がなかったのであるが、黙っていることにした。

 

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