ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿)   作:熊さん

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麻子の訓練指導

  

 操縦手の担当である冷泉麻子は、大森翔子を初め現戦車道チームの『操縦手』のメンバーを、戦車駐車場に止めてある隊長車である『ティガーⅠ』の傍に集めた

 

 一列に並んだ後輩達を見渡して、冷泉麻子は話を始めた。

 相変わらずのぶっきらぼうな言い方である。

 

「……操縦手はこれで全員なのか?」

「はいっ! これで全員です!」

 

 大森翔子が代表して返事をした。

 それを聞いた冷泉麻子は、最初の一発目に全員に気合を入れたのである。

 

「……私は他の仲間達のように優しく物事を教えることはできない。だから、皆気を引き締めて訓練を受けて欲しい」

『ハイっ!』

 

 大森翔子は、小さな体の冷泉麻子から出される気合みたいなオーラに圧倒されていた。

 

「……まず最初に、私がお前達の操縦を見て気づいた率直な意見を言いたいと思う」

 

 大森翔子はさらに緊張した。

 あの天才的操縦技術を持った先輩なのである。

 天才の意見はどんなものなんだろうか?

 しかし、冷泉麻子の口調が少しトーンダウンしたのである。

 

「……お前達は全員、戦車の操縦手としての根本がわかっていないと思う。技術うんぬんよりも『操縦手としての心構え』というものだ」

 

 そこまで話した冷泉麻子は、操縦手メンバーの最前列に立つ大森翔子を見て言った。

 

「……君は、たしか『隊長車の操縦手』だろう。名前はなんという?」

「はいっ! 『大森翔子』です」

「……では大森に聞こう。『戦車における操縦手の役目』とはなんだと思う?」

 

 まるで、禅問答である。

 大森翔子は、心臓がドキドキしている。

 こんなに頭の切れる先輩と話をするのは初めてなのである。

 

「……はい、当たり前のことかもしれませんが、戦車を操縦することです」

 

 その答えを聞いた冷泉麻子は、さらに口調がトーンダウンした。

 

「……だから試合に負けるんだぞ」

 

 大森翔子をはじめ操縦手のメンバーは、全員びっくりしたのである。

 冷泉麻子は、いったい何を言いたいのだろうか?

 冷泉麻子は、操縦手メンバー全員を見渡しながら『自分の戦車道』を教えたのである。

 

「いいか、よく聞いて欲しい。……戦車の操縦手の役目というのは、私は『戦車に乗っている仲間全員を守ること。そして勝つためのチャンスをつくるもの』だと思っている。……いくら装甲が厚くても、敵の砲弾が当たれば、もしかしたら一発で行動不能になるかもしれない。当たり所が悪ければ仲間を怪我させるかもしれない」

 

 そして大森翔子の方をむいて、冷泉麻子は話を続けた。

 

「特に隊長車の操縦手はチームの隊長が乗っている。……隊長車がやられたら誰がチームの指揮をとるんだ? ……そして、逆に装甲がどんなに薄くても、砲弾にあたりさえしなければ、試合を続けることができる。試合に参加できれば勝つチャンスが生まれる」

 

 ここでまた操縦手メンバー全体にむかって、冷泉麻子は話した。

 

「……いいか。戦車の操縦手は『攻防の要』の役割なんだ。仲間を守り続けチャンスを作り続ける事。……私は操縦手というものは、それが役目だと思っている。……ここにいる操縦手全員その事を肝に銘じて欲しい」

「ハイっ!」

 

 

 大森翔子は、冷泉麻子の小さな体の中に、これほどの強い信念があるとは思わなかった。

 冷泉麻子の天才的操縦技術は、この信念の上に生み出されたものなのだ。

 

 

 皆の返事を聞いた冷泉麻子は、続けて訓練開始を告げた。

 

「……それでは今から具体的な訓練指導に入りたいと思う」

「ハイっ」

「具体的に言うと、お前達には決定的に2つのものが足りない。……戦車を動かす『度胸』と『感性』だ。……まず『度胸』を鍛えることにする」

 

 

 冷泉麻子はそう言うと、訓練場の中心に2両の『ティーガーⅡ』を並行に並ばせた。

 そして、その間は『ティガーⅠ』がギリギリ通れるぐらいに開けさせたのである。

 準備が出来たことを確認した冷泉麻子は、操縦手全員にむかってとんでもないことを言ったのである。

 

 

「……まず『M4』を使ってあの『ティガーⅡ』の間を全速力ですり抜けるんだ」

 

 当然大森翔子達、操縦手全員は一斉にざわめいた。

 

(えっ……そんなことやったことがないわ)

(もし、ぶつかったらどうなるの?)

 

 そんな気持ちが、操縦手メンバー全員の体を硬直させた。

 しかし、冷泉麻子は、そんな操縦手全員の反応には一切構わなかった。

 

「まずは私が見本を見せるから、よく見ていて欲しい」

 

 

 そう言うと冷泉麻子は、1年生のメンバーに『M4中戦車』の操縦マニュアルを持ってこさせた。

 パラパラとそれを見終わった冷泉麻子は『M4中戦車』へむかって歩き出したのである。

 

 大森翔子は、冷泉麻子の一連の行動に疑問を持ち、彼女に聞いた。

 

「あの……冷泉先輩! 『M4中戦車』は操縦したことはあるんですか?」

 

 冷泉麻子は、その質問にその場で立ち止まり振り向いて言ったのである。

 

「……あるわけないだろう」

「えっ……操縦したことないんですか?」

 

 操縦手全員が、大森翔子の驚きと同じ気持ちだったが、冷泉麻子は「そんなの問題ない」といった口調で続けて言った。

 

「……戦車を動かすだけなら、マニュアルを見ればわかる」

 

 そういって『M4中戦車』に乗り込んだ。

 

 唖然とする後輩達の前で『M4中戦車』のエンジンが、小さくうなりだした。

 そうしているうちに、またいきなりエンジンが、甲高く吠えた。

 見るからに最高速で走り出した『M4中戦車』は真っ直ぐに『ティガーⅡ』の間を目指して突進していく。

 そして、見事にすり抜けて行った。

 戻ってきた『M4中戦車』から下りた冷泉麻子は、操縦手全員を見渡して言った。

 

「見ていたか? 今の要領だ。……これができないようなら、私からもう教えることはない」

 

 冷泉麻子は、その場にいる全員を見て言った。

 大森翔子は馬鹿にされたようでカチンときた。

 男の子っぽい性格の彼女は、小馬鹿にされるのが一番嫌いなのである。

 

「冷泉先輩! 私が一番に行きます」

「……わかった、行ってみろ」

 

 大森翔子は『M4中戦車』の操縦席に座り、クルッペを覗き込んだ。

 目標の『ティガーⅡ』の車間は、とてつもなく小さく見えた。

 

(私にできるんだろうか。怖い……)

 

 その気持ちが、どうしても消えてくれない。

 

(くっそー、怖い、怖すぎるぞ。ええい、……もう、どうにでもなれだ)

 

 大森翔子は覚悟を決めて、アクセルを踏み込んだ。

 『M4中戦車』のエンジンが、唸りを上げると一気に加速していった。

 どんどん目の前に『ティガーⅡ』の車間が近づいてくる。

 

 そこで、大森翔子はある事に気づいたのである。

 

(あれ、……冷泉先輩が走った履帯の跡がくっきりと残っているぞ。……そうか、冷泉先輩は、この履帯痕を残すために見本をみせてくれたんだ。この上を走れば、私にもできる。……冷泉先輩は、最初から無茶なことを言っていたんじゃないんだ)

 

 大森翔子は、冷静に履帯痕を睨みながら『M4中戦車』を走らせていく。

 そして、冷泉麻子に続いて見事に間をすり抜けて行った。

 大森翔子の挑戦を見ていた他の操縦手の仲間達は、一斉に歓声を上げた。

 

 『M4中戦車』から降りてきた大森翔子は、冷泉麻子に駆け寄り感謝の言葉を言った。

 

「冷泉先輩。ありがとうございました」

「……大森は気がついたのか」

「はいっ! 冷泉先輩の履帯痕がはっきりと付いていました!」

「そうだ。……まずは、あの上を走って行って、敵戦車に向かって行く為の『度胸』と『感覚』を覚えるといい」

「はいっ!」

 

 大森翔子は、待っている他の操縦手の仲間に冷泉麻子が残した履帯痕の事を説明した。

 そして、他の操縦手たちも何度も繰り返しその上を走り『度胸』と『感覚』を覚えていった。

 そうしているうちに、気づけば「怖い」という感覚がなくなっていったのである。

 

 冷泉麻子は繰り返し何度も挑戦する後輩達を頼もしげに見ていた。

 一通り皆が全速力ですり抜けられるようになった事を確認した冷泉麻子は、再びメンバーを集めた。

 

「よし。……一応なんとかだが、全速力ですり抜けられるようになったようだな」

「ハイっ!」

「それでは次の訓練段階に入ろうと思う。この中で1年生は前へ一歩出なさい」

 

 操縦手担当の中の1年生は、冷泉麻子に呼び出され「ビクッ」と体をさせたが、「ハイッ!」と、大きな声で返事をして、一歩前へ出た。

 一歩前へ出た1年生の人数を、目で確認した冷泉麻子は、次の指示を出した。

 

「1年生同士でジャンケンをして、負けたものから2名、さらに前へ出なさい。2名が決まったら止まっている『ティガーⅡ』の砲手の席に入るように……」

 

 

 冷泉麻子は、何をしようというのだろうか。

 負けた2名の1年生が並んでいる『ティガーⅡ』の砲手席にそれぞれ乗り込む前に、冷泉麻子は指示を出した。

 

「砲身の動かし方ぐらいは知っているな。……お前達は『ティガーⅡ』に向かってくる『M4』を見ながら、砲身を合わせるんだ。……大森や残りの者達は、逆に砲身が自分の方向に向いたら左右に避け、そして、戦車の間をすり抜けてみろ」

 

 冷泉麻子の訓練はいきなり難度が上がった。

 

「……もちろん全速力で、だ」

 

 今回も冷泉麻子が見本を見せた。

 『ティガーⅡ』の砲身が向いたと思った瞬間左に動き、次に右へ動き、アッという間にすり抜けて行ったのである。

 大森翔子が再び一番手で挑戦した。

 しかし、砲身を左右にかわす動きはできたが、すり抜けられず『ティガーⅡ』の外側を走り抜けてしまった。

 今度は他のメンバー達も残念そうな声を上げた。

 挑戦に失敗してしまった大森翔子が戻ってきて、冷泉麻子の前に立った。

 冷泉麻子は、目の前の大森翔子に声をかけた。

 

「どうだった? 砲身が動いているのといないのとでは全く別物だろう」

「はい、先輩! 撃たれないと分かっていても、やっぱり怖いです」

 

 この感想を聞いた冷泉麻子は「その通り」と言った風に頷いた。

 

「……いいか、大森。他のみんなもよく聞いて欲しい。自分の戦車が相手戦車に近づいていけば行くほど的が大きくなる。……的が大きくなればなるほど、主砲の威力も増し砲手の助けになるんだ。……もちろん、それは相手からしても同じなんだ」

 

 そこでいったん間を置いた冷泉麻子は、再び話を続けた。

 

「砲塔が回転している間は、ほぼ間違いなく撃ってこない。……しかし、砲身が動き出し止まったら危ない。そこを避け、なおかつ、砲撃のしやすい体勢をつくる為の訓練なんだ。……皆、この訓練の意味をよく考えて欲しい!」

「ハイっ!」

 

 冷泉麻子の説明に、全員が納得し大きな声で返事をした。

 満足そうな顔になった冷泉麻子は、ニッコリと笑って言った。

 

「……よし、わかったなら、次、行きなさい」

 

 冷泉麻子の鬼のような訓練指導は続いている……。

 ずいぶん時間がかかったが、この訓練もなんとか操縦手メンバー全員ができるようになった。

 気がつけば4時を回ってしまった。

 冷泉麻子は、再び操縦手のメンバー全員を集めた。

 冷泉麻子はぶっきらぼうにだが、嬉しそうにメンバーの顔を見て、皆を褒めたのである。

 

「……正直、お前達がここまでできるようになるとは意外だった。……今日は、よくがんばったな」

 

 冷泉麻子から褒められて、大森翔子は他の操縦手のメンバーと顔を見合わせ、嬉しそうに笑った。

 厳しい口調の先輩だが、ひとつひとつの訓練の意味を理解させてくれるから、自分達も目標を持ちやすいし、やりやすい。

 

(桂利奈先輩が尊敬していたわけだ……)

 

 大森翔子は、いつの間にか尊敬の眼差しで冷泉麻子を見るようになっていた。

 

「この訓練は、実際の戦闘の時にも十分に役に立つものなんだ。……今後とも、必ず続けていくようにしなさい」

「ハイッ!」

 

 返事を聞いた冷泉麻子は満足して、次の指示を出した。

 

「今日はもう時間がないので、今から図式で説明する。……1年生。すまないが、誰かメモを持ってきて今から書く図を書き写して欲しい」

 

 冷泉麻子の指示を受けて、一年生のひとりがメモを準備してきた。

 冷泉麻子は地面に木の枝を使って、ひとつの図を書き始めた。

 

「……これは、次の段階で行う設計図なんだ」

「冷泉先輩、これは何の設計図なんですか?」

「……梓たちが『Ⅳ号ダンス』と呼んでいる戦車操縦練習の設計図だ」

 

 図を書きながら、冷泉麻子はボソリと言ったのである。

 大森翔子達操縦手のメンバーは、この冷泉麻子の発言に全員が目を輝かせて図を覗き込んだ。

 

(あの『Ⅳ号ダンス』のやり方……)

 

 大きな四角でまず枠が書いてある。

 次に枠内の左下から、右にむかって矢印が書いてある。

 矢印の下には「前進」とあり数字が書いてある。

 どうも距離と速度のようである。

 そのあと直角に上に向かって矢印が伸びて、矢印のそばに「後進」という文字と同じように数字が書いてある。

 矢印と「前進」「後進」の文字と数字が、枠内を上下左右に行ったり来たりしながら、またスタート地点の矢印と重なった。

 メモを取っている1年生は、必死に間違わないように書き写している。

 書き終えた冷泉麻子は、覗き込む操縦手のメンバー達がよく見えるように体をずらして説明した。

 

「皆はわかるとは思うが、矢印は方向で『前進』なのか、『後進』なのか、数字は目安となる移動距離と必要スピードだ。これが完璧に、また短時間でできるようになれば……」

 

 そこまで話した冷泉麻子は、皆が驚くべきことを言った。

 

 

「……多分『戦車ドリフト』ができる為の入口に皆が立てると思う」

 

 

「冷泉先輩! それは本当ですか?」

 

 いの一番に反応したのは、もちろん大森翔子である。

 しかし「冷静になれ」というように冷泉麻子は言った。

 

「……大森、勘違いをするんじゃないぞ。あくまで『出来るかもしれない』ということだぞ」

「いえ、冷泉先輩! 『かもしれない』でいいんです。『あんこうチームの操縦手』として、私は必ずその入口まで行ってみせます」

「……いい心掛けだ。大森、がんばるんだぞ」

「はいっ!」

 

 書き終えた冷泉麻子は、その設計図を中心に操縦手の全員を座らせると、自分も輪に加わって話はじめた。

 

「『戦車ドリフト』が難しいのはなぜだと思う? ……それは、できないうちはどうしても履帯を切ってしまうからなんだ。……お前達も戦車が勝手に横滑りを起こした経験はあると思う。『戦車ドリフト』はそれを『意識して起こすこと』にあるんだ……無理に横滑りを起こすから履帯に負担がかかって切れてしまう。履帯が切れてしまうと修理しなくてはならない。だから、練習時間が思っている以上にいるんだ」

 

 冷泉麻子は、思い出すように話を続けた。

 

「……『心構え』とか『操縦技術』は口などで教えることはできる。しかし『戦車ドリフト』だけは自分の体でしか覚えられない。路面や戦車の状態で1回1回違うからな。……お前達に操縦技術の基礎を教えた桂利奈も、私に『「戦車ドリフト」を教えて欲しい』と言ってきた。……彼女にも今のやり方で教えた。彼女も一生懸命に何度も何度も練習していた。だが結局、私が卒業するまでにマスターできなかった。……その後は、お前達がよく知っているだろう」

 

 大森翔子達、操縦手の2年生メンバーは、うつむいてしまった。

 

(そうだ、桂利奈先輩は、私達当時の1年生操縦手を指導する為につきっきりだった。自分の練習時間を割いてくれていたんだ……)

 

 冷泉麻子は、再び皆の顔を見て話を続けた。

 

「桂利奈だってそうだったんだ。……同じ戦車に乗る大切な仲間を守りたかったんだ。お前達も仲間を守る為にある『戦車ドリフト』は、自分自身の体で覚えることだ。」

 

 操縦手のメンバー全員、冷泉麻子の最後の「仲間を守りたかった」という言葉に、改めて操縦手としての『心構え』を教えてもらった気がした。

 大森翔子は、絶対『戦車ドリフト』をマスターしてみせると心に誓うのであった。

 

 

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