ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿) 作:熊さん
『現大洗女子学園戦車道チーム』の装填手メンバーを指導訓練する秋山優花里は、装填手のメンバー全員を訓練場入口に集めた。
独特の話し方で秋山優花里は、装填手メンバー全員に話を始めた。
「これで、装填手の係の皆さんは全員でありますか?」
「ハイっ」
全員が口を揃えて返事をした。
「それでは、今から訓練指導を始めたいと思います。……では最初に、皆さんに伺います。装填手とは『戦車の中でどんな役割を持っている』と思いますか?」
この質問に、浦田恵が答えた。
「はい。砲身に砲弾を詰める役目です」
しかし、秋山優花里はを左右に振って言った。
「それじゃ『当たり前』過ぎます。他の事です」
この秋山優花里の一言に浦田恵を初め、装填手の全員が黙ってしまった。
それを見た秋山優花里は「やはり分かっていなかったか」という感じで話をした。
「そうですか……。では、自分が考える装填手の役割というのは『敵戦車を倒す為の行動の全ての始まりである』という事であります」
この秋山優花里の表現は、ちょっと難しかったようである。
装填手メンバー全員がまだ黙ったままである。
秋山優花里は少し残念そうな顔になったが、再び気を取り直して言った。
「ちょっと例えが違うかもしれませんが、ピストル一丁と二丁では、どちらが相手を倒す確率が高いですか?」
この問いには、また浦田恵が答えた。
「はいっ! 二丁のピストルの方です」
「そうです。当たり前ですね。でも、装填手の役割というのはここにあるんです。『一門の砲身』を『二門』にする役割です。砲身は当然増やせません。ならどうするか? つまり『連射』ができれば、砲身が増えたのと同じになるのです!」
ここで、秋山優花里は間を置いた。
そして、呼吸を整えてまた話を続けた。
「いくら優秀な砲手がいても砲弾は外れるものです。でも連射ができるなら砲手も安心して砲弾が撃てます。……砲弾が撃てれば当たる確率が上がります。確率が上がれば勝利する確率も上がるのです」
秋山優花里は、装填手メンバー全員を見渡して言った。
「わかりますか。『相手戦車を倒す全ての始まりにいるのが我々装填手』なのです。皆さんはその事を自覚してください」
「ハイっ!」
そこまで言った秋山優花里は、少し口調が厳しくなった。
「それでは具体的に訓練を始めます。……まず『鬼ごっこ』訓練で、私は皆さんの体力を見ていました。……結論から言うと、皆さんたちは体力が無さすぎます!」
秋山優花里は、装填手メンバーに対してビシッと決めつけたのである。
なおも秋山優花里の話は続く。
「各砲弾の重さは大体5kgぐらいでしょう。……全弾発射するためには5kgのものを何回砲身まで持ち上げなくてはいけませんか? 『80発』なら『80回』ですよね。……もちろん戦車は動き回っています。自分のバランスを保ちながらです。たかだか20分ぐらいの行進間射撃で最後の方は装填速度が20秒以上かかっていました。……全くお話にならないと思います!」
秋山優花里の厳しい指摘に、浦田恵をはじめ装填手のメンバー全員が下を向いた。
しかし、しかしである。
そのあと秋山優花里は笑顔でメンバー全員に優しく告げたのである。
「皆さんどうされたんですか? 顔を上げてください。……逆に考えてみてください。他のメンバーと違ってあなた達の弱点ははっきりしているんですよ。ズバリ『体力強化』なんです。……いいじゃないですか。簡単でわかりやすくて」
秋山優花里はそこまで話すと、装填手メンバー全員にむかって訓練開始を告げた。
「では、まずは軽くランニングから始めましょうか? ……私のあとについてきてください」
秋山優花里はそう言うと、先頭に立って走り始めたのである。
浦田恵達、装填手のメンバーも後を追って必死に走りはじめた。
しかし、秋山優花里は速い。……かなりのハイペースである。
しかも、訓練場の中だから大きく起伏があるのだ。
一人、また一人とこのペースについていけずに遅れ始める者がでてきた。
しかし、秋山優花里は遅れている者を待ったりはしない。
励ましたりもしない。
そして、訓練場周辺部分を1周した。
他の装填手メンバーが続々ゴールする中、浦田恵はまだゴールに届いていない。
秋山優花里は自分の身につけている軍用腕時計で時間を見た。
やっと、浦田恵が見えてきた。
なんと、最後尾になっていたのである。
秋山優花里は、浦田恵が苦しそうにゴールしたことを確認して言った。
「だいたい、1周で5kmってとこでしょうか。……装填手の方達は、今日から必ず、このランニングをしてもらいます。目標の時間は25分以内です。遅れてきた人もいますので、タイム内に戻りきれない人がいる場合、全体ペナルティで腕立て伏せを1人に付き10回全員で行います」
秋山優花里は浦田恵ら時間内に戻れなかった者の顔を見て言った。
「今日は3人ですか……じゃあ『30回』ですね。では皆さん腕立て伏せを開始してください!」
そう言うと秋山優花里は、軽々と腕立て伏せを始めた。
まるで『運動部』である。
遅れてしまった浦田恵は、他の装填手メンバーから非難の視線を浴びて小さくなった。
なんとか時間はかかったが30回のペナルティー腕立て伏せは終わった。
なんでもなかったような秋山優花里と対照的に、今にも崩れそうに立つ装填手メンバーである。
その中で秋山優花里は、浦田恵の方に近づいて言った。
「えーっと、今日、最後にゴールした人は確か隊長車のメンバーの方ですよね」
「……はい、浦田恵です」
小さい声でうつむきながら、浦田恵は返事をした。
「浦田殿ですか……。浦田殿や皆さんに言っておきます。今は本当にきつい訓練だと思います。でも、必ず続けていけばどうってことなくなります」
秋山優花里はやっと励ましの一言をかけたのである
そして、再度装填手メンバー全員に向かって『装填手の心構え』を告げたのである。
「もう一度言いますよ。敵の戦車を倒す! 『勝利する為の始まりは、皆さん達「装填手」から始まる』のです。あなた達が音を上げたらもう勝つことができなくなるんです。……がんばってください。自分が言えるのはそれだけです」
「ハイっ!」
苦しい声だが気合のこもった返事に、秋山優花里は満足そうに笑った。
そのあと、秋山優花里は柔軟体操をさせて、坂道ダッシュや、腹筋運動、スクワットを指導した。
その後、秋山優花里はやっと10分間の休憩をみんなに与えた。
装填手メンバーは一様に膝を抱えて休憩している。
秋山優花里は、休憩しているみんなに向かって話をはじめた。
「この訓練指導の内容は、次に進む為のステップなのです。どうしても皆さん達の体力がついてくれないと次のステップがうまくいかないのです。しかし、今日、明日で体力が付くものでもないですし……。皆さん必ず続けてください。体力がつかないと絶対に困りますから」
浦田恵を含め装填手のメンバーは、苦しい声の中で「ハイっ!」と返事をした。
そして、秋山優花里は話を続けるのであった。
「ちなみに『なぜ体力がないといけないか』先に伝えておきましょう」
装填手のメンバーはよろよろと立ち上がって、秋山優花里の傍に集まった。
「次のステップでやる訓練は、体力が基礎になりそれにバランスが加わる訓練なんです。1年生の方で誰か88mm徹甲弾を2本持ってきてください」
秋山優花里に言われて、88mm徹甲弾を1年生が持ってきた。
秋山優花里は1年生が持ってくるその間、近くにある森の中に姿を消した
秋山優花里が戻ってきたとき、片手に一本の太い木の棒を持っていた。
「皆さん、よく見ていてください」
そう言うと秋山優花里は、1本の砲弾を地面の上に横に置いた。
そして、横になって不安定に転がりそうになっている砲弾の上に持ってきた木の棒をのせたのである。
装填手メンバー全員が注目している中、秋山優花里はその木の棒の上に「ヒョイ」とのった。
秋山優花里がのった瞬間、砲弾はゴロゴロと動き出そうとして木の棒もグラグラと揺れた。
だが、秋山優花里はこの木の棒の上にうまくバランスを取ってのっている。
「ここからが訓練です」
そう言った秋山優花里は前かがみになり、もう1つの砲弾を右手一本で持ち上げた、
そして右手で砲弾を10回、左手で10回上げ下げして、今度は左側に左手で、前かがみになって砲弾を置いた。
その間、木の棒からバランスを崩すこともなく、まるで平地でやっているようだったのである。
装填手のメンバーは、まるでサーカスのピエロのような体勢であの重い88mm徹甲砲弾を片手で持ち上げる、きゃしゃな秋山優花里の体が不思議に見えた。
秋山優花里は「よっ!」と声を出して、木の棒から飛び降りた。
「最終的な目標は、このバランス運動を装填手の皆さん全員ができるようにします」
そして、メンバー全員を見渡して全員にむかって尋ねたのである。
「皆さん、わかりますか? この訓練の意味が?」
「はいっ。今、秋山先輩のやった運動は、戦車内でバランスを取りながら砲弾を引き上げ砲身に装填するまでの基礎の運動だと思います」
浦田恵が代表して答えた。
その答えに満足そうな表情で、秋山優花里は頷いたのである。
「浦田殿! その通りです。装填手用の椅子はありますが、あれは、あくまで移動している時の補助と思ってください。装填手である以上試合中は絶えず半身の体勢で砲弾を持って立ち続ける。……それぐらいの覚悟と自分の体力に自信を持てるようにしてください」
「ハイっ!」
「それでは、『体力強化』訓練を続けます」
「ハイっ!」
皆、秋山優花里の出すきつい体力強化メニューに、歯を食いしばって取り組んだ。
秋山優花里は、ひとりひとりの様子を注意深く確認しながら声をかけていく。
「ハア、ハア、ハア……」
「さあもう少し、もう少し頑張ってください」
「は……はいっ……」
「いいですよ、その気持ちです! そのあと一回頑張ることが、明日の自分を楽にしてくれるのです」
秋山優花里はわかっているのだ。
この『体力強化』訓練が、今の装填手メンバーにとってとても辛い訓練であることを。
しかし、装填手は戦車の中で一番体力を使うポジションなのである。
(頑張れ! 皆さん、頑張ってください!)
ひとりひとりの頑張りを目で追いながら、秋山優花里は何度も何度もこの言葉を心の中で繰り返すのであった。
時間がもうすぐ4時になろうかというところで、秋山優花里は練習をやめた。
浦田恵をはじめ、装填手のメンバーはヘタリ込みそうになりながら頑張り、肩で息をしながら秋山優花里の前に集合した。
秋山優花里は、この後輩達の根性に目を細めた。
「今日は、皆さんよくがんばりましたね……実際私は何人か脱落者がでるものと考えていました。皆さん全員が今『本当の装填手』としてのスタートを切りました。あとは続けていくのみです。……皆さん達全員の健闘を祈ります!」
「ハイっ!」
秋山優花里は軍隊式の敬礼をし、それに対して浦田恵を含めて装填手メンバー全員が、直立不動で、大きな声で返事をしたのである。
秋山優花里は敬礼を止めると、皆に「もうちょっとだから」といった感じで話しかけた。
「今からきついでしょうが、クールダウンの運動をして本日の訓練を終了します。このクールダウンは大変重要なんです。この運動は、今、体に溜まった疲れを少しずつ取る為のものです。……なんのことはありません、ゆっくりと歩くだけですから。……私も一緒に歩きます。時間は10分間です」
秋山優花里は、きつそうな顔の後輩達を見つけては、彼女の後ろに回り、背中を押して上げながら歩き出した。
しかし流石に、押されそうになると「大丈夫です」と言ってしゃんとする者ばかりであった。
秋山優花里は、そんな後輩達をみて頼もしく思ったのである。
「秋山先輩に質問があります」
浦田恵がいつの間にか、秋山優花里のとなりに来て質問した。
秋山優花里は、キョトンとした表情で浦田恵の方を見た。
「はい、浦田殿、なんでしょうか?」
「……秋山先輩は、どうして私たち後輩にもそんな丁寧な言葉を使われるんでしょうか?」
浦田恵が行なった質問。
それは、実際みんなが訓練開始から思っていたことである。
先輩後輩の間には、普通、一定の見えない線が引かれているものである。
メンバー全員が一斉に秋山優花里の方をむいた。
「うーん、どうしてなんでしょうね。自分でもよく分からないんですよ。……いや、どうしてかと聞かられたら、多分あの時からかもしれませんね」
「秋山先輩、何か特別なことでもあったんですか?」
「初めて西住殿と『あんこうチーム』のメンバー達に出会った時からかもしれませんね」
秋山優花里は浦田恵と肩を並べ、思い出しながら話し始めた。
「……自分は、小さい頃から『戦車』と名のつくものが大好きでした。他の友達がアイドルや歌手の話をしてきても、いったい誰のことを話しているのか全くわからなかったんですよ。……興味がなかったんですよ。本当に『戦車一筋』でしたね。……おかげで小学校、中学校とあまり友達ができませんでした。……戦車から決別する為に大洗女子学園に入学したんですが、やっぱり自分は戦車が好きだったんですよね。結局、小学校や中学校の時と一緒で、あいかわらず友達と呼べる人はできなかったです」
ここで秋山優花里が満面の笑みで浦田恵の方を見た。
「でもですね、2年生の時『戦車道が復活する』ことを聞いたんです。そして、別のクラスだったんですが西住殿が黒森峰から転校してきたんですよ。……私の気持ちを想像してみてください。本当にうれしかったですね。初めて好きな事の話ができる友達が出来るかもしれない、と思いました」
しかし、そこまで話した秋山優花里は今度は少し寂しそうに笑って話を続けた。
「……でも、自分はずっと友達がいませんでしたから、西住殿に話しかける勇気がなくて、いつも遠くから西住殿を見てましたね。……初めての戦車道チームの全体ブリーフィングの時も、一人離れて参加したんです」
秋山優花里は少し間を置いた。そして、また話を続けた。
「……そして、人数に対して戦車が足りなくて、戦車道の全員で学園艦を捜索することになったんです。西住殿は戦車を探しに武部殿と五十鈴殿と一緒に駐車場に行かれたんですよ。……私は3人のあとを追ってこっそりついて行ったんですよ。……今思うと、まるでストーカーですよね」
秋山優花里はそう言うと照れたように笑った。
「そして、駐車場の傍にあった木に隠れて、3人の様子を見ていたその時に、西住殿が私に声をかけてくれたんですよ。『一緒に探しませんか?』って……。武部殿も五十鈴殿も、私に声をかけてくれました。彼女達は学園でも有名でしたよ。……武部殿は友達が多く、いつも人気者でしたし、五十鈴殿は、家元の娘でお嬢様でしたし。……私は自己紹介をしたんですが、うれし過ぎて緊張しまして3人に敬語で話しかけたんですよ」
そして、そこまで話した秋山優花里は、また浦田恵の方を見た。
「その時からですかね、ずーっと先輩後輩関係なく敬語で話すようになってしまったのは……。結局、私にとっては同じ戦車道をする仲間には先輩後輩がいないんですよ……自分には『誰もが尊敬する仲間』なんでしょうね、きっと」
最後に秋山優花里は照れた顔ではにかみながら、浦田恵の質問に答えたのである。
歩きながら浦田恵は、秋山優花里の最後の言葉「誰もが尊敬する仲間達」に心を打たれた。
そう、みんな大切な仲間なのである。
浦田恵は、秋山優花里のことをいつの間にか本気で尊敬していたのである。