ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿) 作:熊さん
戦車道隊長及び各車長の訓練指導を行う西住みほは、訓練場が見下ろせるブリーフィング広場の高台のところに全員を集めた。
「車長は、これで全員なのかな?」
「はい。全員揃っています」
「わかりました。それじゃ、指導訓練を始めますね」
「ハイっ! 宜しくお願いします!」
遠藤祐子他、各車長は全員直立不動で西住みほに対して45度のお辞儀をした。
同じく返礼をした西住みほは、全員を見渡して質問をした。
「じゃあ、まず車長を担当する皆さんに、私から聞きたいことがあります。チームの隊長や車長というのは『戦車の中で一体どんな役割をすればいい』と思いますか」
この質問に対して遠藤祐子が代表して答えた。
「……戦闘の時の戦闘指揮や、作戦行動中の周囲状況の確認です」
「確かに、それも重要です。……でも、一番大切な『根本』となるものです」
「……『根本』となるものですか?」
遠藤祐子は繰り返して聞き返した。
それに対して西住みほは、笑って言った。
「そうです。2つです」
「……すみません。わかりません」
遠藤祐子はうつむいて答えた。
西住みほはそれを見て、今度は全員に聞いた。
「他の方でわかる人はいますか?」
「……わかりません」
今度は全員がうつむいてしまった。
しかし、西住みほは笑ったままである。
「皆さんは、全員わかっているはずです。ただ気がついていないだけなんです。……私は、遠藤隊長に会ってお話をして、彼女の仕草、行動をみていて『これなら大丈夫だ』と思っています。もちろん、車長の皆さんも遠藤隊長の傍にいるのですから大丈夫だと確信しています」
西住みほはそう断言するのである。
不思議そうな顔をしているのは遠藤祐子他、車長担当のメンバー達である。
「私は、隊長や車長が戦車の中でするべき役割というのは……『戦車に乗る仲間を大切に思う気持ちと、間違いのない行動を選ぶ決断力』だと思っています」
西住みほは、遠藤祐子の方を見ながら話を続けた。
「遠藤隊長は『負け続けているこの戦車道チームで勝ちたい。続けてくれているみんなと一緒に勝利したい。戦車道を辞めてしまった友達の為にも、どうしても勝ちたい』と私に手紙で伝えてきました。車長の皆さんも、遠藤隊長と同じ気持ちだと思います。……そうでなければ、途中で辞めてしまった戦車道の友達を『戻りたいから』と言われてあんなにすんなりと受け入れることはできないと思います」
ここで西住みほは、再び全員の顔を見渡した。
「皆さん達は、やはり隊長や車長の器なのです」
しかし、そこまで言ったあと西住みほは口調を少し厳しく変えた。
「勝負は時の運なのですが……しかし、負け続けている責任もあなた達、隊長や車長が背負っているのです。わかりますね、車長は『戦車の責任者』なのです。……言い訳は一切通じません!『勝利はみんなの力、敗北は車長の責任』なのです」
「ハイッ!」
「これから、一緒にがんばりましょう」
「ハイっ!」
遠藤祐子をはじめ、車長担当のメンバー全員が、西住みほの激に大きな声で返事をした。
西住みほは、最初の指示を出した。
「……では、まず皆さん全員、双眼鏡を出してください。双眼鏡の準備が出来たら、いま同じ戦車道の仲間達が、訓練に励んでいる姿を目に焼き付けてください」
遠藤祐子達は、一斉に双眼鏡を覗き込んだ。
砲手のメンバーは、大食堂へ移動したので直接見ることはできない。
しかし、操縦手のメンバーは交代で「ティガーⅡ」の戦車間をすり抜ける訓練をしている。
装填手のメンバーは、訓練場の外縁をランニングしている。
通信手のメンバーは、大声で伝達訓練をしている。
西住みほは、双眼鏡で覗いているメンバー全員に言った。
「皆さん、わかりますか? みんな、自分の持てる技術をさらに向上させようと頑張っています。それらを『うまく繋いでやること』。それができるのは、戦車の一番高いところに座る車長の皆さん達です。……皆さん、改めて車長の責任を自覚してください」
「ハイっ!」
この返事を聞いた西住みほは、満足気の笑顔で次の指示を出した。
「それでは、私達も移動をします。移動場所は『戦車倉庫』です。全員、駆け足で移動してください」
「ハイっ!」
戦車倉庫に移動した遠藤祐子他、車長担当メンバーは西住みほの方に向いて、直立不動の体勢で待った。
西住みほは持参したカバンから、3冊の分厚い本を取り出した。
「先程も言いましたが、隊長、車長に必要なものの1つが『決断力』です。『決断力』を高める訓練は、簡単ですが非常に難しいです。頭の中に決断する為の根拠となる情報を入れる、より多くの引き出しを作ることが重要なんです。……まずこれから、皆さん達と一緒に、その引き出しを作ることにします」
そう言った西住みほは、取り出した本を皆に見せながら言った。
「この本は『西住流』の車長担当が使う本で、戦車道で行う偵察や集団行動、作戦行動の基礎の知識や古今東西のあらゆる戦車道の試合の情報が書いてあります。……今から、みんなで勉強会です。この本は3冊しかないので3班に分かれてください」
西住みほの言った通りに、メンバーは3班に分かれて本を中心に輪を作った。
「しばらく皆さんで、この本を読んでください。……質問があったら、私を呼んでくださいね」
「ハイっ!」
返事をした3班のメンバー達のそれぞれの輪が小さくなり、本を真剣に読み出した。
西住みほはその様子を黙って見ている。
あちらこちらから「なるほど…」「そういう事からか…」といったつぶやきが聞こえる。
遠藤祐子は、特に熱心に読んでいる。
みんなも遠藤祐子の熱心さにつられて本に指をさしながら、「これって……」「それじゃ、この時は……」など話し合いながら本のページをめくっている。
あらためて西住みほはその様子を見て「自分の目に狂いはない」と確信した。
結局、全部読み終えるのに2時間近くかかってしまった。
もう、あと1時間ぐらいしか時間がない。
しかし、西住みほは、焦ってはいなかった。
遠藤祐子や車長である彼女達を信頼していたからだ。
「皆さん、読み終えましたか?」
「はい、読みました」
西住みほの問いに遠藤祐子が答えた。
「遠藤隊長、なにか感想はありますか?」
「はい、はっきり言って、私達は全く戦車道を知らなかったです。ひとつひとつの事柄にあんなに意味があるなんて知りませんでした」
「他のみなさん達はどうですか?」
「はい! 遠藤隊長と同じ気持ちです」
西住みほは、その答えに満足した。
「よかったです。大夫引き出しが出来たように思います。その本は、しばらく貸すことができるので、何度も読み返してください。その知識は、いざとなった時の判断する基準になってくれるでしょう」
「はい、ありがとうございます!」
次に西住みほは、可愛らしいノートを1冊とノートパソコンを1台取り出した。
その可愛らしいノートには、女の子特有の丸い文字で「作戦ノート」と書いてあった。
西住みほはちょっと恥ずかしそうに、照れた表情で話をはじめた。
「このノートは、私が大洗女子学園戦車道チームの隊長になってからずっとつけてきた『試合用の作戦ノート』です。そして、同じくこのノートパソコンには、その時の実際の試合経過と結果が入っています。……私が作戦を実行する前と途中で考えた事と、実際どうなったのかをこれを見ながら説明していきますね。……多分、みんなには、この方法が一番わかりやすいかなと思ったからです。それでは、まず、わかりやすいものから行きましょう」
遠藤祐子他、車長のメンバーは西住みほの周りに集まった。
西住みほは、まず聖グロリアーナ女学院との親善試合のデータを出した。
パソコンのウィンドウが開いていき、まず戦車の種類が表示された。
そして、各戦車の詳細な性能データが表示された。
「皆さん、この資料は私が最初に指揮した試合の『聖グロリアーナ女学院戦』のデータです。これらの戦車は『聖グロリアーナ女学院』が使用した戦車『チャーチル Mk、Ⅶ』と『マチルダⅡMk、Ⅲ』です。合計5両で、この試合は『殲滅戦』でした……」
そう言ってから、別のウィンドウをクリックした。
次に表示されたのが自軍の戦車達である。
今は1年生達の練習車両となっている『38t軽戦車』『M3中戦車リー』『八九式中戦車甲型』そして、たまに試合に出ることがある『Ⅲ号突撃砲F型』と引退した『Ⅳ号中戦車』。
この戦力を見た各車長のメンバーは「無理だ」「勝てない」と一斉にざわつき始めた。
この発言を聞いた西住みほは、いきなりメンバー全員に一喝したのである。
「みなさん、ダメです! その言葉は、車長として絶対言ってはいけません!」
可愛らしい声だが文字通りの隊長としての威厳がそこにあった。
「その言葉は、戦車内の雰囲気をダメにしてしまいます。今後その言葉を口にすることは固く禁じます。いいですか?」
「ハイっ!」
遠藤祐子は西住みほの『隊長としての責任感の強さ』を、ひしひしと感じた。
澤隊長がいつも言っていた『女神』はこういう人なんだと思ったのである。
続いて、みんなに見せたのが大洗の街の地形図である
赤く枠線が引いてあり、等高線が書いてある。
西住みほはすっと立ち上がると、隊長と車長にむかって指示を出した。
「この地図と自軍の戦車を使って『聖グロリアーナ女学院を殲滅させる作戦』を考えてください」
チラリと自分のつけている腕時計を見た西住みほは、続けて言った。
「時間は30分です。……ちょっと厳しい時間ですが、皆さん頑張ってください」
「ハイっ!」
そう言うと遠藤祐子を中心にして、ノートパソコンの地形図を各車長が見始めた。
遠藤祐子は、じっとモニターを見つめている。
しかし、この戦力差はいかんともしがたい。
どうすればいいのか。
車長の何人かが意見は出すものの、他の車長がその意見を否定していく。
しかし遠藤祐子は、出された意見と否定する意見の中身、両方を考えていた
堂々巡りを繰り返していく中で、あっという間に30分が経ってしまった。
「どうですか? 何かいい作戦ができましたか?」
西住みほは、メンバーに対して意見を求めた。
しかし、各車長からは返事が出なかった。
それを見た西住みほは、遠藤祐子に同じ質問をした。
「遠藤隊長はどうですか?」
「……西住先輩、すみません。浮かばなかったです……」
「……わかりました。それでは、最初の作戦立案から説明しましょう」
西住みほは、そう言うと当時の副隊長「河嶋桃」が立てた『こそこそ作戦』を説明した。
遠藤祐子他、車長のメンバー全員が一度は同じように考えたようで頷くものが多かった。
しかし、遠藤祐子はこの作戦の欠点を見抜いていたのである。
「……しかし、西住先輩。この作戦では『もしこの地点で殲滅できなければ逆に外側から包囲されてしまい、こちらが大ピンチになってしまう』と思います」
「遠藤隊長。よくその欠点に気づきました。……確かに、その通りになってしまったんです。しかも『M3リー』がこの時点で乗員逃亡の後撃破され、『38t』の履帯が外れて一時的に走行不能になってしまいました」
西住みほは遠藤祐子の顔を見ながら話を続けた。
「私は、この時考えたことが2つあります。まず『敵の戦車は足が遅い』という事。そして、もう1つは市街地戦に持ち込めば、『地の利』と『自軍の戦車のスピードが活かせること』でした。……さっき、皆さんが読んだ本の中にも、同じことが書いてあったはずです」
「はい、『勝利への道は、まず敵を知れ。次に己を知れ。そして優位なことを探せ』と書いてありました」
「その通りです。そして、その考え通りに持ち込めたのですが……結局、最後に私の力不足で負けてしまいました。」
少しうつむきながら話した西住みほであったが、もう一度メンバー全員の顔を見渡して言ったのである。
「……ですが、負けたから、みんなの気持ちがひとつになったことも事実なんです。大切なのは『負けても必ず得るものがあることを知ること』です。それを、生かして次の試合に望む事。……それが、隊長と車長の務めなんです。皆さん、分かりましたか?」
「ハイっ!」
西住みほは「作戦ノート」とノートパソコンからUSBメモリーを外すと、遠藤祐子に渡した。
「これとさっきの本を使って、いろんな引き出しを頭に作ってください。遠藤隊長や車長のみんなが、ひとつの作戦の意味を理解し合うこと。それが、試合において土壇場の力になってくれます」
西住みほから渡された「作戦ノート」「USBメモリー」「『西住流』の本」
これらのものを、遠藤祐子は大事に抱えた。
ニッコリと笑顔でみてくれる西住みほを見つめて「本当に女神みたいだ」と思ったのである。
西住みほは、最後にメンバー全員に丸く輪を作らせて座るように指示をした。
そして、同じく自分も輪に入り腰を下ろして、話を始めたのである。
「よく大洗女子学園の戦車道というのは『みんなで勝つ戦車道』と言われるけど、実は私が教えたとは思っていないの」
「えっ……、それってどういう事なんですか?」
遠藤祐子は、突然驚くべき事を話し始めた西住みほに対して質問した。
「うん、確かに戦車道が復活した時に経験者は私だけだったから隊長になったんだけど、この大洗女子学園の戦車道の基礎を作ったのは、私は当時の生徒会チームだった3人の先輩達の「カメさんチーム」だと思っているの」
そこで、西住みほはその時の事を思い出すように話を続けた。
「『カメさんチーム』の3人の先輩達は『38t軽戦車』に乗っていたんだけど、この小さい戦車で他の戦車を守ったり援護したり、本当に身を投げ出して戦っていたの」
そこまで話した西住みほは、自分が黒森峰から転校するきっかけとなった事件を皆に話して聞かせた。
「当時の私は『仲間を助けたいから助けるというのは自分の我儘だ』と思っていたの。でも3人の先輩達が無言で私に教えてくれたの。『皆の為に自分が何ができるのか』って『助けることが仲間の為なら喜んでやりなさい』って事をね……」
遠藤祐子達、車長を担当するメンバーは、黙って西住みほの話を聞いている。
「私はね、3人の先輩達はこう教えてくれたんだと思うの」
ここで、西住みほは全員の顔を見渡して「絶対忘れないで欲しい」という風に言ったのである。
「皆で勝利できるのなら、私達は喜んで土台になってあげる。私達は犠牲になるんじゃない。勝利への道を作る役目なのって……。皆も、自分にできる事はそんなに多くはないよね。でも、皆の為に、今自分には何ができるのかっていうのは分かるはずよね。だから、一人一人その気持ちだけは絶対に忘れないでね」
西住みほの声は最後には震える声のようになっていた。
遠藤祐子達、車長を務めるメンバーは全員、この「大洗女子学園の戦車道」を心に深く刻み込んだ。そして、全員が大きな声で「ハイっ!」と返事をしたのである。
西住みほはその返事を聞いて小さく頷いて満足そうな表情になった。
そして自分の腕時計をチラッと見ると、びっくりして立ち上がった。
「あ-! 時間がなくなっちゃう! みんな、申し訳ないけど全員ブリーフィング広場まで走って移動して!」
「ハイっ!」
全員、返事とともに立ち上がると、順に戦車倉庫から走り出した。
駆け足で移動していく西住みほを後ろからみながら、遠藤祐子はもう一度心の中で「西住隊長、ありがとうございます。」と礼を言ったのだった。
後日、遠藤祐子達は西住みほが貸してくれた試合記録の中で、なぜ西住みほがこの時、震えるような声になったのか理由を知ることになった。
西住みほ達が初優勝した時、フラッグ車だった1回戦の時を除くすべての試合、勝利の為のターニングポイントに、必ずこの『38t軽戦車』が現れるのである。
プラウダ戦の時は、敵の包囲網を突破し仲間の戦車を逃がす為、たった1両でプラウダ高の中戦車群の中に突入して行き、黒森峰戦では、包囲されて攻め込まれている自軍の要塞陣地から仲間達を脱出させる為、これも単独で計17両の戦車群の中に突入し走り回って、黒森峰高を混乱させて突破口を作り、あの超重戦車「マウス」を仕留める為に車体を投げ出して「マウス」の動きを封じ込めた。
全て、あの一番小さな『38t軽戦車』と「カメさんチーム」の功績である。
仲間の為に、獅子奮迅で戦う小さな戦車を思い出して、西住みほは声が震えたのであろう。