ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿)   作:熊さん

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『ちょっと待った』であります

 

 時間は午後4時10分。

 訓練場のブリーフィング広場高台に、それぞれに分かれて訓練指導をしていた『初代あんこうチーム』と『現大洗女子学園戦車道チーム』が戻ってきた。

 

 各担当の訓練指導の間、澤梓はひとりでこの高台から双眼鏡を覗きながら各チームの様子を見ていたのだが、各担当者達が先輩達からの指導訓練を真剣に受けている様子を見てとても満足だった。

 

 『初代あんこうチーム』と『現戦車道チーム』が向かい合わせになるように整列したあと、澤梓は全体の反省ブリーフィングを始めた。

 

「皆さん、お疲れ様でした」

「お疲れ様でした!」

「どうでしたか? 先輩達の指導訓練は受けた感想は……?」

 

 遠藤祐子、大森翔子が目を輝かせて澤梓に報告をした。

 

「はいっ、非常にためになりました」

「私にも、新しい目標ができました」

 

 その報告を聞いた浦田かなえ、恵の姉妹が少しむくれた様に言った。

 

「翔子! それは、私もおなじだよ!」

「私だって、そうだよ!」

 

 この発言に慌てて北川亜希子が2人に注意した。

 

「かなえちゃん、恵ちゃん! 先輩達の前だよ!」

「あっ……ごめんなさい」

 

 小さくなってうつむく浦田かなえ、恵の2人に笑いながら、西住みほが言った。

 

「いいですよ、気にしないでください」

 

 そして武部沙織は、なんだか嬉しそうに『初代あんこうチーム』メンバーに向かって言った。

 

「でも、やっぱり私達って大人に見えるのかな?」

「……沙織は、精神年齢は一緒だと思うぞ」

 

 冷泉麻子の冷静なツッコミに、武部沙織がむくれて言った。

 

「ひど-い、麻子! 私はもう大人の女性だもん!」

「はーい、はいはい。武部殿、冷泉殿そこまでです」

「そうですよ、後輩の皆さん、びっくりしてますよ」

 

 秋山優花里と五十鈴華が2人の会話を強引に止めたのである。

 

 

 確かに、先輩の威厳もへったくれもない会話である。

 遠藤祐子達は、目の前でさっきまで厳しく指導訓練をしていた先輩達がまるで自分達と同じ高校生みたいな感じに見えてしまった。

 

 

 澤梓が少し困った風に「初代あんこうチーム」メンバー全員に聞いた。

 

「えーっと、あの……今後の練習スケジュールなんですが、先輩達はどうなんでしょうか?」

 

 その質問に対して、西住みほが申し訳なさそうに返事をした。

 

「それがね、梓ちゃんやみんなには本当に悪いんだけど……私がここに来られるのは、あと再来週の日曜日の1回だけになりそうなの……」

 

 それに続いて、五十鈴華と冷泉麻子も申し訳なさそうに言った。

 

「私も、来週と再来週の日曜日だけになりそうです」

「……私も、華と同じ、来週と再来週の日曜だけ来れる」

 

 

 3人の報告に、武部沙織と秋山優花里は残念そうに呟いた。

 

「えーっ、そうなの?」

「それでは、5人全員が揃うことができるのは、あと再来週の日曜日の1回だけってことですか?」

 

 西住みほは頭を下げて、澤梓達にむかって言った。

 

「皆さん、本当にごめんなさい!」

 

 

 しかし、澤梓と遠藤祐子は「滅相もない」といった感じで西住みほに言った。

 

「いえ、とんでもありません! ご無理をいって、わざわざ熊本から来てもらっただけでも感謝しています」

「そうです。澤隊長の言う通りです! しかも、あと一回も指導してくれるなんて夢のようです」

 

 遠藤祐子の感謝の言葉に、戦車道チーム全員が頷いた。

 

 澤梓は、現戦車道チーム全員の方に体を向けて、ビシッと訓示を始めた。

 

「みんな、よく聞いてください。……西住隊長が再来週の日曜日に来てくださるその時、先輩達の訓練指導は終わると思ってください。それまでになんとしてでも、今日教えてくださった訓練指導の内容を全員マスターしておく。そして、5人の先輩達が安心して指導訓練が終われるように皆さん全員努力しておくこと。……それが、皆さんたちに与えられた義務です。いいですか?」

「ハイっ!」

「最後に西住隊長や、諸先輩方にお礼を言います」

 

 澤梓はそう言うと、再び『初代あんこうチーム』のメンバー全員の方に向きを変えて、大声で感謝の言葉を言った。

 

「先輩方、本日はありがとうございました!」

『ありがとうございました!』

 

 澤梓を筆頭に現大洗女子学園戦車道チーム全員が『初代あんこうチーム』のメンバーに向かって一斉に頭を下げた。

 西住みほ達も、にっこりと笑いながら同じく頭を下げた。

 

 

 訓練終了後、後輩達の好意で学園内にある大浴場の一番風呂をもらった『初代あんこうチーム』のメンバーは湯船に浸かって汗を流しながら話をはじめた。

 

 大きく背伸びをしながら、武部沙織が満足そうに呟いた。

 

「後輩ちゃん達、皆頑張っていたね」

「はい。私は、絶対音を上げると思っていました」

 

 秋山優花里が嬉しそうに同意をすると、冷泉麻子もニッコリ笑って続けて言った。

 

「……意外と根性があったな」

「みんな、本当によくがんばりましたわ」

「……みんな、本当にがんばっていたよね」

 

 西住みほと五十鈴華が顔を見合わせて、微笑んで感想を言ったのである。

 そのあと、しばらく各担当としてどんな指導訓練を行ったかお互いに報告しあったあと、唐突に武部沙織が西住みほに聞いたのである。

 

「ところでミポリン。今日はこれからどうするの? 熊本に帰るの?」

「……実は、それで沙織さんにお願いがあるんだけど……」

 

 西住みほは、少し顔を赤らめてうつむいて武部沙織にお願いを言った。

 

「なになに? どんなこと?」

「……よかったら、沙織さんの家に泊めてもらえないかな?」

「えーっ。本当! 大歓迎だよ。絶対、泊まっていって!」

「ありがとう! 沙織さんご迷惑をかけます」

「なに言ってるのよ。いつでも泊まりに来てよ!」

 

 武部沙織が嬉しそうに言った直後、それを見ていたあとの3人から、怒りの抗議が入ったのである。

 

「……それ『ちょっと待った!』であります!」

「私も『ちょっと待った』ですわ!」

「……当然、私もだ!」

 

 西住みほと武部沙織はキョトンとした表情になり、武部沙織が皆に理由を聞いた。

 

「なに? みんなどうしたの?」

「武部殿だけが西住殿とピロートークできるというのは、全くもって納得できません!」

「そうです! 優花里さんの言う通りです!」

「……私達にだって、参加する権利があると思うぞ」

 

 3人の怒りの理由がわかると、武部沙織は満面の笑みになり、抗議する3人に聞いたのである。

 

「……じゃあ、みんな私の家に泊まる?」

 

 当然の如く、3人が口を揃えて言った。

 

「当然であります!」

「当たり前です!」

「……右に同じだ!」

「やったぁ! それじゃ、今日みんなで『お泊まり会』だね!」

「ハイっ!」

「そうですね」

「……うん、『お泊まり会』だ」

 

 武部沙織の提案に、秋山優花里、五十鈴華、冷泉麻子は揃って返事をしたのである。

 

 西住みほはこの会話を聞いて、みんな昔のまんまだと思った。

 何をするにしても、いつも5人一緒だった。

 楽しかった高校時代は、実は今も続いていたのだ。

 

 そして、この話に決着がつくと、また武部沙織が話の口火を切った。

 

「それでね、今度は私からみんなに提案があるんだけど……。今日の夕食をね、私のバイト先のマスターが準備してくれているのよ」

「武部殿、それ本当ですか? あの店のマスターは、昔、超一流ホテルの洋食の調理長だったんでしょ?」

「うん。そうらしいね」

「武部殿。知らなかったんですか?」

「マスターは、自分の昔話はしたがらないのよ。でもね、今日、ミポリンがくることを話したら『絶対、連れてこい!』って言うのよ! なんでもミポリンの大ファンなんだって!」

 

 西住みほはびっくりして、武部沙織の方を見た。武部沙織は笑っている……。

 

「……えっ、私のファン?」

「うん、そうなんだって! それで、私がなぜミポリンがここに来るのかを説明したら、マスターは『気に入った。その後輩達も一緒に連れて来い!』って言うのよ……。『連れてこなかったら、バイト、クビだ!』だって、職権乱用もいいとこだよね。だからみんな、私を助けると思って夕食をつきあって。この通り!」

 

 武部沙織は、自分の顔の前で手を合わせた。

 

 食いしん坊のみんなである。

 みんなの返事は決まっているのに……。

 

「沙織さん、もちろん行きます」

「うわぁ。とても楽しみです、武部殿!」

「私、お腹ペコペコですわ」

「……沙織、デザートは出るのか?」

 

 甘いものに目がない冷泉麻子だけが、武部沙織に質問をした。

 武部沙織は「うふふ」と笑いながら冷泉麻子に言ったのである。

 

「マスターは洋食だったらなんでも作れるんだけど、一番の得意料理はね、実は洋食一般じゃなくて『デザート』なのよ。よかったね、麻子!」

 

 武部沙織の言葉に本当は嬉しいのだが、少し照れ隠しの言い方をする冷泉麻子であった。

 

「……沙織のバイトの事はどうでもいいが、招待されたからには行かねばなるまい」

 

 武部沙織はこの冷泉麻子の性格を知っているので、この言い方にも全然気にならない。

 

「マスターの『スイーツ』はめちゃめちゃ美味しいからね。あっ……もちろん他の料理も一緒だよ!」

 

(……ゴクリ)

 

 武部沙織の料理の実力を知っている4人は、その彼女が自信を持って推薦する料理を想像して、思わず全員つばを飲み込んだ。

 武部沙織は4人が来てくれることで、あとは後輩のメンバーに出席の確認を取るだけになった。

 

「……よし、それじゃあ、後で梓ちゃんと祐子ちゃん達に聞いてみようね」

 

 十分に疲れを取った『初代あんこうチーム』の5人は、満足して大浴場から出た。

 お風呂から上がった5人は着替えをしたあと、5人を待っている澤梓のところへ行った。

 武部沙織がマスターの夕食の事を伝えると、澤梓は飛び上がるようにして喜んだ。

 

「先輩達、本当にいいんですか?」

「逆に、私のために、絶対来てもらわなきゃいけないの」

「すみません、それじゃあご一緒させてください!」

「よかったぁ! じゃあ、梓ちゃんは参加だね」

 

 嬉しそうに笑う5人だった。

 そして、思い出したように澤梓は聞いてきた。

 

「武部先輩! ……紗希ちゃんも誘っていいですか?」

「もちろんよ。そういえば『元うさぎさんチーム』で学園艦にいるのは、紗希ちゃんだけだったよね」

「はい。他のみんな、学園艦の外に出ちゃいましたから……。先輩、ちょっと待ってください。連絡してみます……」

 

 そう言って澤梓は、携帯電話で丸山紗希に電話をかけた。

 

 電話はつながったようだが……何やら「ごめん」「だから、わざとじゃない」と澤梓が電話口で謝っている。

 澤梓は大きなため息をついて、電話を切った。

 そして、事の成り行きを見ていた『初代あんこうチーム』の5人の先輩に報告をした。

 

「紗希ちゃん、今旅行に出かけているそうです。……彼女に怒られちゃいました。『なぜ、先輩たちが集まるの黙っていたのか』って……。『他のみんなに言いつけてやる』って、そりゃあもうカンカンです」

 

 言い終わったその途端、澤梓の携帯電話が鳴りだした。

 電話の相手を確認した澤梓は、小さく『うわっ、桂利奈ちゃんからだ!』とつぶやいた。

 澤梓は「もしもし……」と言って携帯電話に出たあとは、ひたすら『ごめん』『ごめん』と電話越しに謝りまくりであった。

 電話を切った澤梓は、再び大きくため息をついて言った。

 

「もう紗希ちゃんったら、さっそく連絡しまくって……」

 

 そう言ったらまたも携帯電話が鳴り出した。

 今度はメールの着信音である。

 澤梓は「今度は、『あや』と『優希』からだ」とつぶやいた。

 携帯のメールを、澤梓は恐る恐る開いた。

 そして、またため息をついた。

 

「優希から『一生恨む』って書かれました……」

 

 たて続けに怒られまくっている澤梓を見て、武部沙織は不思議そうに聞いた。

 

「梓ちゃん、今日の事、皆に黙っていたの?」

「いえっ……別に黙っていたわけでなくて、連絡するのを忘れちゃってて……」

 

 澤梓はうつむいて答えた。

 それに対して秋山優花里が追い討ちをかけた。

 

「でも、もし黙ったままでこの事が別ルートでバレたら……、澤殿、余計にやばかったでしょうね」

「しょうがないです……。連絡しなか……」

 

 話の途中で、また携帯電話が鳴り出した。

 澤梓は着信の相手をみて、また大きくため息をついた。

 

「はあぁ……今度は、あゆみちゃんからか……」

 

 どうやら丸山紗希は、澤梓から連絡があったあと、瞬く間に他の元うさぎさんチームのメンバーに連絡したようである。

 今度も澤梓はひどく叱責されているようである。

 西住みほは澤梓の様子を見ながら、他の4人にむかって話しかけた。

 

「私も、うさぎさんのみんなとも会いたかったな」

「西住殿、こればかりはしょうがないですね」

「……しかし、あの梓さんが連絡し忘れるなんてね」

 

 秋山優花里と五十鈴華が、西住みほに返事をした。

 そして武部沙織は、なんと意外な発言をしたのである。

 

「ほら、なんだったっけ……。そうそう『河童の川流れ』なんだよ」

 

 驚いた他の4人だが、特に冷泉麻子が驚いた。

 

「沙織……沙織の口から、そんな言葉が出るとは意外だぞ」

「えっへん! 私も大人ってことだよ」

 

 胸を張って言う武部沙織だったが、ばっさりと冷泉麻子が切り捨てた。

 

「……沙織、それは関係ないと思うぞ」

 

 澤梓は、ようやく山郷あゆみの怒りを収めることができたようだ。

 ひどく疲れた顔になっている。

 そこに、遠藤祐子、大森翔子、浦田かなえ、浦田恵、北川亜希子の5人がシャワー室から出て、着替えを済ませて出てきた。

 

「祐子ちゃん達、もう帰るの?」

 

 澤梓が代表して「3代目あんこうチーム」に聞いた。

 

「……いえ、ちょっとみんなでご飯食べに行こうかって相談していたんですけど……」

 

 それを聞いた武部沙織が、遠藤祐子の前に出てきて言った。

 

「それは、好都合だねぇ」

「えっ……なんのことでしょうか?」

 

 

 武部沙織は、澤梓と同じくマスターからの夕食のご招待があることを「3代目あんこうチーム」の5人に告げた。

 遠藤祐子たちは、顔を見合わせていたが「デザートが一番得意な元料理長」の肩書きには、やはり勝てなかった。

 

 

 遠藤祐子が代表して、武部沙織に恐る恐る聞いてきた。

 

「先輩達……本当にお邪魔じゃないんでしょうか?」

「そんなことないって……。私、祐子ちゃんや亜希子ちゃん以外の人と、まだおしゃべりしてないし……。ねっ、みんなで『女子会』やろうよ」

 

 この魅力的な武部沙織の提案に、その場にいる全員が賛成したのである。

 

「沙織さん! それいいよね。『女子会』だね!」

「……『女子会』」か」

「うわぁ、私『女子会』って初めてです。楽しみですわ」

「それでは武部殿、決定ですね」

「うん、わかった……じゃあマスターに連絡するね」

 

 武部沙織は、携帯電話を取り出し電話をしている。

 連絡が終わると、みんなの方へ駆け寄りこう言ったのである。

 

「マスターからの伝言だよ。……『料理はもちろんだが、デザート好きが1人いるそうだから、朝から気合を入れて甘いスイーツをたくさん用意したから、一刻も早く来なさい』だって……」

 

 この報告に、即座に冷泉麻子が反応した。

 

「……待たせてはいけない。マスターもスイーツも。ほら沙織! みんな早く行くぞ」

 

 1人でスタスタと歩き出した冷泉麻子を見て、武部沙織は呆れて、だが笑って言った。

 

「もう、麻子ったら……。よーし、それじゃあ、みんなで『パンツァー・フォー』!」

 

 みんな、この掛け声に、全員大笑いをした。

 そして、皆でおしゃべりをしながら武部沙織のバイト先「洋食の店 オムレツ」へと向かったのである。

 

 これから、楽しい『女子会』の始まりである。

 

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