ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿) 作:熊さん
現大洗女子学園戦車道チームは、大きく変化した。
皆、少しの時間も惜しんで訓練している。
浦田恵は、朝練の前にはもう学校へ来て、ランニングをしている。
「砲弾を片手で持つためには握力が必要だ」と感じた彼女は、授業中でも小さなゴムまりを絶えず握りしめている。
大森翔子は、訓練の前や学校内を移動する時に、必ずイメージトレーニングをするようになった。
両手で操縦桿を持っている格好をして、前へ後ろへ操作する格好をしながら、その場でくるくると回ったり歩くようになった。
多分、操縦桿の動きと自分の動きを合わせて、思い通りに戦車が動くイメージを作っているのだろう。
浦田かなえは、訓練の時はもちろん、授業中、休み時間、お昼休み、すべての時間を、集中力の向上に全力を傾けている。
授業中は、教科書で隠しながら、10円玉の組み上げに集中している。
崩れても声を出さないようにする事も、集中力アップにつながると考えている。
北川亜希子は、絶えずブツブツと独り言のようなことを言うようになった。
正確に報告する訓練なのだろう。友達の仕草や、行動を目で追っては、絶えず実況をしている。
途中で、予期せぬことが入っても、冷静に対応できるようにする為なのだろう。
遠藤祐子は、時間を惜しんでひたすら『西住流』戦車道教本を読みまくっている。
それこそ何度も何度も繰り返し読んでいる。
教本は3冊しかないので、時間を決めて交代して読んでいる。
読んでいない時は、目を閉じて、頭の中で絶えず、試合のシュミレーションをしている。
自分が参加した試合、隊長になってから負け続けた5試合、何度も何度も頭の中で試合をしている。
次の日曜日は、西住みほ以外の4人の先輩達が訓練指導に来てくれた。
4人は「戦車」を使っての実地指導という形で指導訓練をした。
4人とも『現戦車道チーム』の、この一週間の上達に目を細めた。
そして、より実戦的な戦車の動かし方、連携、砲撃方法などを指導してくれた。
『現戦車道チーム』は、みるみる上達していく自分達の技術にびっくりしながらも、それに甘えることはなく、さらに向上させようと、一人一人が目標を持って訓練に励んだ。
そしていよいよ『初代あんこうチーム』からの訓練指導が最後になる、次の日曜日がやってきた。
戦車倉庫の更衣室で着替えをしながら『3代目あんこうチーム』は、話をしている。
「いよいよ、先輩達の指導訓練も最後になったね」
遠藤祐子が、メンバー全員にむかって聞いた。
「西住先輩は、今の私達をみてどう思うのかな?」
「まだまだ……って思うかな?」
浦田かなえと恵の姉妹が、遠藤祐子にむかって言った。
すると北川亜希子が、冷静に今の自分達のことを評価した
「うん……実際、どうなんだろうね? どれくらい上達したのかな?」
「先輩達と試合できればいいんだけどなぁ……」
大森翔子が何気なく言った言葉に、遠藤祐子は飛びつくように反応した。
「そうだわ! それよ!」
突然大声を出されて、大森翔子と浦田かなえはびっくりして聞き返した。
「なんだよ! いきなり大きな声で……びっくりした」
「祐子、どうしたのよ? 『それだよ』って何?」
すると北川亜希子だけが、遠藤祐子の言った意味がわかったらしい。
「私、祐子ちゃんの考えた事わかったけど……。祐子ちゃん、それはまだ早い気がするの。もしかしたら、私達みんなが、やっと作りかけた自信をまた壊しちゃうかもしれない」
遠藤祐子は、北川亜希子の意見を聞いた上で、静かに反論した。
「……確かに『怖い』と思う。みんなが無くしかけた自信を、先輩達の力を借りて、やっと取り戻せてきたところだものね。……でも、今日が最後なんだよ。『初代あんこうチーム』が全員揃うのは……」
大森翔子、浦田かなえ、恵、北川亜希子の4人は、遠藤祐子の話をジッと聞いている。
「澤隊長も言っていたじゃない! 『先輩達が、安心して訓練指導が終われるように努力すること』って。確かに、私達はまだまだかもしれないけど……。先輩達に報告する義務があると思うの! 『もう、先輩達に心配はかけません』って。『自分の足でこれからちゃんと歩いていきます』って」
そう言った遠藤祐子は、最後に4人を見渡して、自分の考えを言った。
「だから、私、先輩達に訓練指導の『卒業試合』を頼んでみる。……みんな、どうかな?」
遠藤祐子は熱い口調で、他のメンバーに自分の気持ちを伝えた。
他のメンバーは、その遠藤祐子の態度が、とてつもなく頼りになる。
北川亜希子は少しうつむいて、自分の弱気な心を恥じて言った。
「……ごめん、私、弱気になってた。私達だって、もう大丈夫だよね」
その言葉に遠藤祐子は「ううん」と首を左右に振りながら言った。
「ううん、亜希子ちゃんの気持ちもよくわかるの。だから、私達『3代目あんこうチーム』だけで挑戦しようと思うの。他のチームには迷惑かけられない!」
「1対1でやるの?」
浦田かなえが聞いた。
それに対して、彼女を見ながら笑顔で遠藤祐子は言った。
「そう。もしボコボコにやられても、私達なら、気持ちがもう折れることはないから……」
「そうだな。確かに祐子の言うとおりだ」
大森翔子が賛成すると、他の3人も同じく同意した。
「そうね、西住先輩達を安心させなきゃ……そうだよね? かなえちゃん」
「うん、いっちょ、先輩達に一泡吹かせますか?」
「……かなえちゃん……」
北川亜希子は大きくため息をついたのだが、遠藤祐子が逆に助け舟を出した。
「亜希子ちゃん! それぐらいの気持ちでいこうよ。私達の挑戦だよ!」
「祐子ちゃん……そうね。よし、先輩達に目にもの見せてやるわ」
「……亜希子が凄んでも、あんまり怖くないな」
大森翔子が笑いながらそう言うと、北川亜希子は顔が真っ赤になった。
さあ、みんなの気持ちは固まった。
もう絶対にできない、伝説の『初代あんこうチーム』との1対1のタイマン勝負。
例え、ボコボコにされようとも悔いのない試合を絶対にするんだ。
そんな、決意に満ちた5人の表情である。
「それでね、今度は私からみんなに話があるんだけど……」
遠藤祐子が、さっきと違って、なんだかモジモジしながら、大森翔子らに聞いてきた。
「なんだ?」
「私ね、西住先輩のサインをもらおうと思っているんだけど……みんな、いいかな?」
「……いいも、悪いもなぁ……なあ、みんな?」
「ねえ……」
大森翔子は「なんだよ、そんな事か」と言った感じで、他の3人の方を向いた。他の3人も同じように笑っている。
「せいのーで、ジャン!」
そう言うと、遠藤祐子以外の4人は、自分のカバンの中から、それぞれサイン色紙台をだした。
「えへへ、私は、冷泉先輩のサインをもらうんだ」
「私は、五十鈴華先輩のサイン!」
「私は、秋山先輩のよ!」
「私は、武部先輩!」
みんな、考えることは一緒である。
厳しいけど、とても優しい先輩達。
みんなの心を救ってくれた先輩達。
5人全員、サイン色紙台を抱えて、顔を見合いながらニッコリと笑った。
笑いながら遠藤祐子は、みんなに「耳を貸して」と言ってヒソヒソと話をした。
「それでね、もし皆がよかったら、もらったサインをね……」
「うん、それ、いいアイデア!」
浦田かなえがいの一番に賛成すると、浦田恵も別の提案をした。
「そしたら、祐子ちゃん、写真も欲しいよね」
「じゃぁ、みんなでお願いしてみようぜ」
大森翔子がみんなに聞くと、北川亜希子も賛成した。
「そうね! 『Ⅳ号中戦車』をバックにお願いしてみようね」
「じゃあ、それで、みんないい?」
『異議なし!』
遠藤祐子の確認に、4人全員が揃って返事をしたのである。
午前10時から始まった、最後の指導訓練。
西住みほは、他の4人とともにブリーフィング広場の高台から、遠藤祐子達の現戦車道チームの基本訓練から見学をしていた。
「信じられないくらい上達してる……」
「ほんと、上手なったよね」
西住みほの感想に、武部沙織もニコニコ顔である。
冷泉麻子も満足そうに言った。
「……集団走行も、全然ぶれていないな」
「皆さん、なんだか自信が出てきている感じですね。隊列変更も、ほんとにスムーズに変わっています」
秋山優花里がそう言うと、五十鈴華も同意した。
「みなさんの気持ちが伝わってきますね」
2週間前に見た走行訓練は、なんだかビクビクしたように「上手にしなきゃ」という感じで、不安気な走行訓練だった。
ところが、今見ているチームは本当に同じチームだったのか。
そんな気がするくらい、全くの別チームみたいな印象なのである。
走行訓練に続いて、今度は射撃訓練に移った。
見事なくらい、正確に射撃を行っている。
装填速度も見違えるぐらい早い。
同じ訓練時間でも、あれなら射撃訓練の密度は相当濃いものとなる。
五十鈴華と秋山優花里は揃って、後輩達の進歩を褒めた。
「本当にすばらしい集中力ですわ」
「装填手の皆さんも、ずいぶん装填速度が早くなりました」
武部沙織が、傍にいた冷泉麻子と西住みほに聞いてみた。
「この分だと、次の試合は勝てそうかな?」
「……うん、試合はまた別物ではあるけどな。期待は出来ると思う」
「うん、そうだね。麻子さんの言うとおりだね」
基本訓練は、一通り終わった。
ブリーフィング広場に集合した『現戦車道チーム』を前に、見学していた『初代あんこうチーム』を代表して西住みほが、見学した感想を話始めた。
「皆さん! 私はとても驚いています。そして感動もしています。2週間前、皆さんには『上手なだけでは試合に勝てない』と私は言いましたね。そこに『「強さ」が加わらないといけない』と私は言いました」
そう言った西住みほは、とても嬉しそうに笑顔で、後輩達全員を見て言ったのである。
「皆さん、今日、私は確信しました。皆さんは『強く』なりました! ……その『強さ』は、技術も精神もです。ここにいる沙織さん、優花里さん、華さん、麻子さんも同じ感想です。これからも頑張って一層努力してください!」
『ハイっ!』
『現大洗女子戦車道チーム』全員が、胸を張って返事をした。
その光景を見て、澤梓は少し涙が溢れてきた。
遠藤祐子が「助けてください」と相談してきてから、ついにここまできたのである。
……とその時、遠藤祐子がいきなり一礼をして、西住みほの前に移動し直立した。
それと同時に、大森翔子、浦田かなえ、浦田恵、北川亜希子の4人も、遠藤祐子の後ろに移動し横一列で並び、直立したのである。
「初代あんこうチーム」のメンバーは全員、この遠藤祐子たちの行動にびっくりして、この5人を見つめた。
「西住先輩、武部先輩、五十鈴先輩、秋山先輩、冷泉先輩にお願いがあります!」
いきなり遠藤祐子にお願いされて『初代あんこうチーム』のメンバーは、目をぱちくりしている。
「是非! 私達『3代目あんこうチーム』と試合をしてください! ……どうかお願いします!」
遠藤祐子がそう言った直後、大森翔子、浦田かなえ、浦田恵、北川亜希子の4人も同時に『お願いします!』と頭を下げた。
遠藤祐子は、真っ直ぐに西住みほの目を見て真剣に訴えた。
「私達はまだ、先輩達の足元にも及ばないかもしれませんが……『現戦車道チーム』を代表して、先輩達に私達の努力の結果を見ていただきたいのです。先輩達にもう心配をかけません。自分達の力で進んでいきたいと思います。……それができるのか、先輩達に確かめてもらいたいのです」
遠藤祐子はそこまで言うと、あらためて姿勢をただし、45度のお辞儀をしながら言った。
「私達と試合をしてください! 宜しくお願いします!」
『宜しくお願いします!』
他の4人のメンバーも同じように声を揃えて、もう一度頭を下げた。
その様子を見ていた澤梓は、にっこりと笑って、戸惑っている西住みほの方を見て同じくお願いをしたのである。
「西住隊長……。私からもお願いします。是非、彼女達と試合をしてやってください」
西住みほは『初代あんこうチーム』の仲間の顔を見た。
メンバー全員、みんなが笑顔で首を縦に振った。
決まりだ……。
西住みほは5人の顔を見渡して笑顔で、しかし試合をお願いされた側としての威厳に満ちた口調で言った。
「遠藤隊長やメンバー皆さんの気持ちはわかりました。……やりましょう。1対1の一騎打ちです。やるからには私達は遠慮はいたしません。『初代あんこうチーム』の実力を見せてあげます」
そう言うと、澤梓と遠藤祐子にむかって続けて言った。
「試合は、お昼休憩のあとの1時30分から行いましょう。私達も準備がありますから……いいですか?」
「ハイっ! 宜しくお願いします!」
ついに決まった!
『3代目あんこうチーム』の最初で最後の『初代あんこうチーム』への挑戦である。
皆、目標とした先輩に自分の全部をみせてやる。
決意のこもった顔で、メンバー全員お辞儀をしたのである。
昼食も終わり、お昼休憩の間『3代目あんこうチーム』は、皆、押し黙って食事をしていた。
他のチームの仲間が続々と励ましに来てくれたのだが、返事もそぞろだった。
遠藤祐子は食事を終えてからは、ずっと目を閉じている。
誰もが話をしないまま、お昼休憩は残り20分となった。
ぼそりと、遠藤祐子が話をはじめた。
「……もうすぐお昼休憩終わるね」
それにつられるように、浦田かなえが話した。
「私、こんなにドキドキするのは、生まれて初めてかもしれない」
「かなえちゃんもなの? ……私も心臓がドッキンドッキンいってるの」
妹の恵も顔を赤くし、興奮している。
大森翔子は地面をジッと見ながらポツリと言った。そして同じく北川亜希子もポツリと言ったのである。
「……こんなに時間が早く感じるのは初めてだよ」
「……先輩達はどうなのかな?」
さっきから皆が聞きたいと思っていた事を、大森翔子がついに口にした。
「ところで祐子? 作戦はどうするんだ?」
「うん、そうだよ……さっきから祐子ちゃん、ずっと目を閉じたままだったから気になってた」
浦田恵が遠藤祐子の顔を見て言った。
それに対して、遠藤祐子は視線を少し落として言った。
「うん、……実はさっきから、何度も頭の中で先輩達と試合していたの。……でもダメなの。どうしても勝てないの……」
「1人で考えてダメなら、みんなで考えようよ!」
「そうだよ、思いもよらない作戦が浮かぶかもしれないよ!」
北川亜希子と浦田かなえが、遠藤裕子を励ますように言った。
「みんな、ありがとう……。ひとつだけなんだけど、頭の中で先輩達と引き分けに持ち込めた作戦があるの……」
遠藤祐子は、ポツリと言ったのである。