ガールズ&パンツァー 女神達のメッセージ(再投稿) 作:熊さん
遠藤祐子が考えた「引き分け」が精一杯の『作戦』。
しかし、それはメンバー全員を勇気づけたのである。
「なんだ、祐子! その作戦というのは? 『引き分け』にまで持ち込めるなら『もしかしたら……』って思うぞ!」
「確かに、あの先輩達と互角に勝負出来た作戦ならチャンスがあるのかも」
「教えて、祐子ちゃん!」
大森翔子、浦田かなえ、北川亜希子が興奮したように聞いてきた。
そして、遠藤祐子は口を開いた。
「うん、それはね……」
遠藤祐子の考えた作戦は、このようなものであった。
『Ⅳ号中戦車』と『ティガーⅠ』。
能力的には全て『ティガーⅠ』が上回る。
しかし、先輩達が乗るから『Ⅳ号中戦車』は『鬼神』になってしまうのである。
それでは、どうすればよいのか……。
それは先輩達の能力が発揮できない場所へ移動して、少しでも先輩達との差を縮めるしかないと考えたのである。
そこで考えたのが、あの『吊り橋のある場所』である。
吊り橋を中心に周りは、森になっている。
動ける範囲も極端に狭い。
こちら側にすると、もしもの時も森の中に逃げ込めばチャンスもあるし、いざとなれば、打って出ても『Ⅳ号』の背後に谷底があるから、先輩達と格闘戦となる。
格闘戦になれば、防御力も攻撃力も高い『ティガーⅠ』に勝機も生まれるはず、というのだ。
大森翔子は腕組みをしながら「うーん」と呟いて言った。
「確かに、祐子に言われたら、それしか方法がなさそうだな」
「でも、動ける範囲が少ないのは、こちら側も同じだよ」
北川亜希子が冷静に問題点を指摘すると、遠藤祐子も頷いた。
「うん、そうなんだよ。それに、まず問題なのが、その時は先輩達がこっちの作戦を見破っている可能性があるから、吊り橋を挟んでの砲撃戦になる可能性があるの」
「そうなると、五十鈴先輩、秋山先輩のコンビに、私達がどれだけ立ち向かえるかってことだね」
「うん、かなえちゃんと私のコンビネーションが重要になるね」
浦田かなえと恵の姉妹は、お互いを見て力強く頷いた。
しかし、北川亜希子はまだ問題があると指摘した。
「それに、もう1つあるよ。あの吊り橋を渡る時は、私達全くの無防備になっちゃうよ。後進で渡るわけにもいかないから、エンジンルーム狙われる可能性があるし……」
「それじゃ、まずは『Ⅳ号』を誘いながらも、吊り橋を渡る時間分の距離はあけておかなければいけないってことなのか」
大森翔子がそう言うと、あらためて、北川亜希子はこの作戦の難しさを感じていた。
「なんか、厳しい条件だね」
すると、今度は遠藤祐子が、この作戦の良いところを皆に説明した。
「でもね、みんな! 渡りきれたらね、チャンスが広がるの。……あの吊り橋しか道がないから、先輩達もうかつには攻めて来られない。しかも、渡った先の吊り橋に向かう道が、こちらから行ったら右にカーブしているから、隠れながら砲撃ができるのよ。……だから、先輩達との差を少しでも縮められると思う」
メンバー全員が、この遠藤祐子の説明に顔を明るくして納得したようだった。
「でも、祐子? どうして引き分けなんだ。勝てそうな気がしてきたけど」
「私も渡りきれたら、なんとかなりそうな気がしてきた」
「それはね……」
大森翔子と浦田かなえの疑問に対して、遠藤祐子が考える引き分けの根拠。
それは、うまく渡れる時間が稼げない方が大きくて、せまい森の道を逃げながらの応戦になるため、圧倒的にこちら側が不利であること。
仮に渡れたとしても、先輩達との射撃の練度が違うため、隠れながらの砲撃も時間が経つほどに読まれて撃破される可能性が高い。
……というものであった。
遠藤祐子はそこまで話すと、再びうつむいてしまった。
「ゴメンネ、みんな……でもね、この方法しか頭の中では先輩達と『引き分け』に持ち込めなかった……」
隊長として立てた作戦が「引き分けにするのが精一杯」という事に、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいの遠藤祐子であったが、他のメンバーは一様に喜んでくれたのである。
「……ううん、祐子ちゃん。本当によく考えてくれたわよ」
「そうだよ。私らじゃ、絶対浮かばなかったぞ」
北川亜希子と大森翔子が、遠藤祐子の肩を叩いて言ってくれた。
「とにかくみんなの力であの吊り橋を渡り切ること、だね」
「うん、条件は厳しいけど絶対渡ってみせようよ」
浦田かなえ、恵が、みんなの顔を見渡して言った。
遠藤祐子は大森翔子の顔を見て、この『作戦のキーポイント』を聞いた。
「翔子ちゃん、あの吊り橋を渡り切るまで、どれくらいかかりそう?」
「うーん、そうだなあ。……30秒は欲しいなあ」
それを聞いた浦田恵は、考えながら発言した。
「そうしたら、その30秒と吊り橋前の広場までの距離から、大体1分ってとこなのかな」
「そうだね……。あんまり離れると先輩達、別の方法取るかもしれない」
浦田かなえが同意すると、北川亜希子が全員の意思をまとめた。
「なんにせよ、祐子ちゃんが立てたこの『作戦』で先輩達に勝負してみようよ!」
「そうだな。まずは先輩達を引き付けつつ、吊り橋を渡り切る事!」
「うん! 目標がわかりやすくていいしね」
大森翔子と浦田恵が揃って言った。
その言葉を聞いた遠藤祐子は、メンバー全員に聞いた。
「……それじゃ、みんな、この『作戦』でいい?」
『異議なし!』
メンバー全員は声を揃えて賛成した。
すると、大森翔子が付け加えるように言った。
「『作戦名』をつけようぜ!」
「『鬼さんこちら、手のなる方へ作戦』っていうのはどう?」
北川亜希子が言うと、浦田かなえが軽くツッコミを入れた。
「亜希子、それ長いよ! でも意味はよくわかるけどね!」
「じゃあ、縮めて『鬼さんこちら作戦』でどう?」
遠藤祐子が言い方をかえて提案すると、メンバー全員が笑顔で答えた。
『異議なし!』
『作戦』はついに決まった。
あとは、全力で作戦を成し遂げるだけである。
長いようで短い、お昼休憩は終わった。
『現戦車道チーム』は、ブリーフィング広場の高台に再び集まった。
『初代あんこうチーム』も少し遅れてやってきた。
時間は、1時5分である。
『初代あんこうチーム』と『3代目あんこうチーム』。
5人と5人が対峙して並んでいる。
その間に澤梓が立つと、試合のレギュレーションを説明した。
「それでは定刻通り、1時30分より、『初代あんこうチーム』対『3代目あんこうチーム』の1対1の試合を行います! 試合範囲は、訓練場及びそれに隣接する森林地帯で行います」
そう言った澤梓は、両チームの隊長に言い聞かせるように、顔を交互に見て言った。
「今回は試合時間の制限をします。時間は『1時間』です。終了時間、2時30分になったら、無線でこちらから連絡します。両隊長共、よろしいですか?」
『了解です!』
澤梓の確認に、西住みほ、遠藤祐子が揃って返事をした。
「それでは両チームともスタート地点に移動をお願いします。……一同、礼!」
『宜しくお願いします!』
両チーム共、試合前の挨拶をお互いに行なった。
挨拶のあと西住みほは、遠藤祐子に話しかけてきた。
「遠藤隊長! 本気で行くからね」
「西住先輩! こちらこそ、がんばります!」
他の「初代あんこうチーム」のメンバーも担当していた後輩達へ、次々に話しかけている。
「亜希子ちゃん。『通信手の役目』忘れちゃダメよ!」
「はい。全力で『レーダー』になります!」
武部沙織が笑って、北川亜希子に話している。
隣では五十鈴華が笑顔で、浦田かなえを励ましている。
「かなえさん! 集中、集中ですよ」
「はい。五十鈴先輩! 集中、集中です!」
その傍で、秋山優花里が浦田恵に対して激励をしている。
「浦田殿、お姉さんとのコンビネーション見せていただきますよ」
「はい! 秋山先輩のスピードを超えてみせます」
冷泉麻子は、自分より大きな大森翔子の肩をポンと叩いて言った。
「……大森! どれだけ戦車と一体になれるか見させてもらうぞ……」
「冷泉先輩! 見ててください。私の「度胸」と「感性」で『ティガーⅠ』を操ってみせます」
大森翔子は力を込めて、冷泉麻子にむかって言った。
やはり『初代あんこうチーム』の先輩達は、本当にやさしい。
試合前の敵チームなのだが、可愛い後輩達の緊張をほぐそうとしてくれている。
澤梓と他の戦車道チームも、このやりとりに目を細めた。
今『Ⅳ号中戦車』に「初代あんこうチーム」が乗り込み『ティガーⅠ』に「3代目あんこうチーム」が乗車した。
ガタガタと2台の戦車が、お互い少しずつ離れながら移動していく。
そして、訓練場の中央に1000mの車間で、相対するように向かい合った。
試合開始まで、あと15分である。
『Ⅳ号中戦車』の車内で「初代あんこうチーム」は、今は見えない『ティガーⅠ』を想像しながら話をはじめた。
「まさか、祐子ちゃんたちから、あんな挑戦状をもらうなんてね」
武部沙織が振り向きながら、笑ってみんなに言った。
すると冷泉麻子も嬉しそうに言ったのである。
「……私は、正直うれしかった」
「自分も、冷泉殿と同じであります。みんな、真剣に私たちに挑戦してきてくれました」
「……私は、なんだか不思議な気持ちです。よく分からないんですけど」
秋山優花里と五十鈴華はお互いを見て笑っている。
そんな仲間の様子を見ながら、西住みほは顔は笑顔だが、口調は真剣に言ったのである。
「みんな……、遠藤隊長達の気持ちに、全力で応えてあげようね」
『了解!』
こちらは「3代目あんこうチーム」が乗る『ティガーⅠ』の車中である。
メンバー全員が『ティガーⅠ』の各担当する部分の細部の点検をしながら話をしている。
「いよいよだな……」
操縦桿を握りしめて大森翔子が呟くと、照準器を覗きながら浦田かなえが言った。
「くわぁ……。緊張の極致だ……」
「……でも先輩達、私達を励ましてくれたよね」
「うん。励ましてくれた……」
浦田恵は装填用手袋を手にはめ直しながら、北川亜希子はうつむいて思い出すように言った。
遠藤祐子は、少し大きめの声で、みんなの気持ちを高めるように激を飛ばした。
「……みんな、全力でいくよ!」
『了解!』
「3代目あんこうチーム」全員、気合を込めて返事をしたのである。
しばらくして、澤梓の声が無線から聞こえてきた。
カウントダウンである。
「試合開始まで、あと10秒・9・8・7・6・5・4・3・2・1・試合開始!」
『パンツァー・フォー!』
両チームの隊長が揃って「戦車前進!」を合図して、両戦車が動き出した。
ついに「3代目あんこうチーム」、最大の挑戦が始まった。
2輌の戦車は、お互いに向かって猛烈なスピードで突進していく。
車長席から遠藤祐子は、全員に聞こえるように覚悟を呼びかけた。
「みんな! 吊り橋までの最短ルートは、今の『Ⅳ号』の裏側の道からになるから、一度、先輩達と交戦しなくちゃいけない。覚悟はいい?」
「任せろ! 冷泉先輩直伝の操縦術を駆使して、絶対突破してやる!」
操縦桿を細かく動かし、クルッペから前方を睨みながら大森翔子が叫ぶ!
同じく北川亜希子が、通信手席から大森翔子にむかって叫んだ。
「『Ⅳ号』の砲身の動きは、正確に報告するからね。翔子ちゃん!」
浦田かなえ、恵の姉妹もお互いを見合いながら叫んでいる。
「恵! 装填時間のアップ頼むよ。先輩達の射撃精度を下げるためにも、連射して『Ⅳ号』のバランスを崩さなきゃ!」
「かなえちゃん、任せて! かなえちゃんこそ、集中よ、集中!」
ここで、キューポラから身を乗り出した遠藤祐子は、前方に土煙と響くエンジン音を確認して全員に報告した。
「……前方『Ⅳ号中戦車』急速接近中! 距離約800!」
その声を聞いた浦田恵が、主砲の発射準備を完了させた。
「装填完了! 発射準備良し!」
「照準合わせ中! ……照準良し!」
浦田恵に続いて、浦田かなえからも報告が飛ぶ!
大森翔子が全員に聞こえるように大声で叫んだ!
「みんな! 真正面から突っ込む! ……行くぞ!」
「敵戦車砲塔、こちらへ移行中!」
北川亜希子が冷静に敵戦車の砲塔の動きを皆に報告する。
そして、遠藤祐子が命令を下した!
「私達から行くよ!……撃て!」
轟音と共に『ティガーⅠ』の砲身が火を噴いた。
むかってくる『Ⅳ号中戦車』の方へ、真っ直ぐに徹甲弾が飛んでいく!
しかし『Ⅳ号中戦車』は軽やかに左に動き、砲弾を外した。
今度は『Ⅳ号中戦車』の砲身が『ティガーⅠ』に固定された。
「敵砲塔、移行完了! 翔子ちゃん来るよ!」
「了解! 右!」
北川亜希子の報告に、大森翔子は操縦桿レバーを動かした。
《ドッガーン!》
動かしたと同時に、今度は『Ⅳ号中戦車』から徹甲弾が発射された。
徹甲弾は、右に回避行動を起こした『ティガーⅠ』の左側部をかすめて外れた。
遠藤祐子は、続けざまに報告を叫ぶ!
「『Ⅳ号』距離500に接近!」
「照準合わせ中……」
「装填完了! 発射準備良し!」
「敵砲塔移行中!」
浦田かなえ、恵、北川亜希子が、順に報告をしていく!
「照準良し!」
浦田かなえが叫んだ!
それを聞いた遠藤祐子が再び命令した!
「撃て!」
《ドゥガーン!》
『ティガーⅠ』から、2射目が発射された。
『Ⅳ号中戦車』は、今度は大きく右に回避運動をして砲弾を避けた。
こんなに早く2射目が発射できるとは、思っていなかったようだ。
『Ⅳ号中戦車』は、右側に迂回し始めた。
遠藤祐子は『Ⅳ号中戦車』の動きを睨みながら報告する。
「『Ⅳ号』右側部へ移動中、距離400!」
「敵砲塔移行中……えっ、あの角度は……」
北川亜希子が、不自然な角度で動いている砲身を見て、驚きながら叫んだ!
「祐子ちゃん! こっちの履帯を狙ってる!」
それを聞いた遠藤祐子は、即座に大森翔子に聞いた。
「翔子ちゃん! 回避できる?」
「任せろ! ……そりゃあ! 『ミニドリフト』!」
なんと『Ⅳ号中戦車』の照準が履帯に合わせようと動いている、その正面へ向かって『ティガーⅠ』が履帯を隠すように「戦車ドリフト」を起こしたのである。
しかし、それはとても小さい横滑りだったのだが、間違いなく「戦車ドリフト」だった。
その勢いのまま『ティガーⅠ』は砲身から逃げるように離脱していく。
『Ⅳ号中戦車』は照準が狂ったのか、そのまま、発射せずに『ティガーⅠ』の前を横切っていった。
遠藤祐子達は、この大森翔子がやってみせた「戦車ドリフト」に唖然となった。
「……すごい! 翔子ちゃん!」
「今のって『戦車ドリフト』だよね……」
遠藤祐子と北川亜希子が、2人揃って感嘆の声を上げた。
それに対して、ベリーショートの髪をかきながら大森翔子が言ったのである。
「えへへ……。まだ、小さくしかできないんだけどな!」
「だから『ミニドリフト』なんだ! ……かなえちゃん! こっちも負けていられないよ!」
浦田恵がそう言うと、今度は浦田かなえが両腕を抱きかかえるようにして叫んだ!
「くわぁ……燃えてきた! 絶対『Ⅳ号』に当ててみせるぞ!」
遠藤祐子は仲間の気持ちが最高潮になったこの時に、作戦開始を叫んだのである!
「それじゃあ、みんな行くよ! 『鬼さんこちら作戦』開始します!」
『「鬼さんこちら作戦」! 了解!』
「3代目あんこうチーム」全員の気持ちがこもった返事である。
『ティガーⅠ』は、砲塔を『Ⅳ号中戦車』に向けながら、真っ直ぐに吊り橋への道へ向かいだしたのである。